不倫慰謝料について、「調停を申し立てれば相手が払ってくれるのか」「裁判よりも調停の方がよいのか」と迷う方は少なくありません。特に、不倫相手に慰謝料を請求したい場合、裁判所を使う手続として民事調停を思い浮かべる方もいるでしょう。
もっとも、不倫相手への慰謝料請求で調停を使うかどうかは、慎重に判断する必要があります。民事調停は、裁判所で行う話し合いの手続であり、相手に慰謝料の支払義務を強制的に認めさせる手続ではありません。相手が出席しない、譲歩しない、不貞や金額を強く争う場合には、調停だけで解決できないことがあります。
この記事では、不倫慰謝料の調停について、不倫相手への民事調停と元配偶者・離婚慰謝料の家事調停の違い、不倫相手への慰謝料調停が実務上向きにくい理由、例外的に使えるケース、調停を申し立てられた側の考え方を整理します。
請求する側にとっては、調停を選ぶことで本当に回収可能性が高まるのか、時間を空費しないかが重要です。請求された側にとっては、裁判所から書類が届いたときに、出席すべきか、反論準備を優先すべきか、調停不成立後に訴訟へ進む可能性があるかを見極める必要があります。
- 不倫相手への慰謝料請求では、民事調停を利用すること自体は可能です。
- ただし、調停は合意を目指す話し合いであり、相手が応じなければ不成立で終わります。
- 弁護士実務では、不倫相手への請求で調停より交渉または訴訟を選ぶことが多いです。
- 元配偶者・離婚慰謝料の家事調停とは、裁判所も手続の入口も異なります。
- 調停を申し立てられた側は、通知を放置せず、不成立後の訴訟準備まで見据えることが重要です。
坂尾陽弁護士
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

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結論:不倫相手への慰謝料調停は「原則向かない」。例外的に使う手続
不倫相手に対する慰謝料請求では、民事調停を申し立てること自体は可能です。調停委員を介して話し合い、金額、支払方法、支払時期などについて合意できれば、調停成立により解決できることもあります。
しかし、結論からいうと、不倫相手への慰謝料調停は、使えるものの、原則として向きにくい手続です。理由はシンプルで、調停は「相手を裁く手続」ではなく、「相手と合意を作る手続」だからです。相手が話し合いに来ない、来ても一切譲歩しない、不貞の事実や慰謝料額を強く争う場合、調停委員が関与しても、最終的には不成立で終わる可能性があります。
不倫慰謝料の場面では、相手が請求を無視している、婚姻関係はすでに破綻していたと争っている、請求額が高すぎると反論している、というケースがよくあります。このような場合、調停で「落としどころ」を探すよりも、証拠に基づいて交渉する、または訴訟で裁判所の判断を求める方が合理的なことがあります。
特に、弁護士が双方に入っている場合は、調停を挟まなくても、内容証明、回答書、証拠の提示、金額交渉、分割払いの条件調整などを代理人間で進められます。相手が支払義務や金額を争う場合には、調停を経由してから訴訟に進むより、最初から訴訟を見据えた方が、時間と手間を抑えられることもあります。
不倫慰謝料の請求では、感情的な納得だけでなく、最終的に相手から回収できるかが問題になります。調停は「裁判所から通知が届く」という心理的な効果を期待できることはありますが、相手が支払意思を持たない場合に、調停だけで差押えまで進めるわけではありません。合意が成立して初めて、支払条件を調停調書に残すことができます。
「調停が向かない」とは、制度として利用できないという意味ではありません。不倫相手への請求という場面では、相手の出席・譲歩・合意が必要になるため、手続選択として慎重に考えるべきという意味です。
一方で、調停がまったく使えないわけではありません。弁護士を依頼せず本人で進めたい、裁判まではしたくない、第三者を介して口頭で話し合いたい、相手に無視される可能性を理解したうえでダメ元で請求したい、という場合には、民事調停を検討する余地があります。
反対に、調停を申し立てられた側から見ると、裁判所から書類が届いたこと自体に強い不安を感じるかもしれません。ただ、民事調停は訴訟とは異なり、欠席しただけで直ちに慰謝料の支払義務が決まる手続ではありません。重要なのは、通知を放置せず、調停で話し合う実益があるか、不成立後に訴訟へ進む可能性があるかを整理することです。
つまり、不倫相手への慰謝料調停は、慰謝料請求の王道ルートではなく、本人で話し合いの場を作りたいときの例外的な選択肢です。裁判・調停・和解の全体像を先に把握したい場合は、不倫慰謝料の裁判・調停の全体像もあわせて確認すると、どの手続を選ぶべきか整理しやすくなります。
まず切り分け:不倫相手への「民事調停」と、元配偶者・離婚慰謝料の「家事調停」は違う
不倫慰謝料の調停で最初に注意すべきなのは、誰に対して慰謝料を請求するのかによって、手続の入口が変わる点です。検索上は「不倫慰謝料 調停」という言葉でまとめて調べられがちですが、不倫相手に請求する場合と、元配偶者に離婚に伴う慰謝料を請求する場合では、利用する裁判所や手続が異なります。
| 請求の相手・場面 | 手続 | 裁判所 | 本記事での扱い |
|---|---|---|---|
| 不倫相手に慰謝料を請求する | 民事調停 | 原則として相手方住所地の簡易裁判所 | メインで扱う |
| 離婚後に元配偶者へ慰謝料を請求する | 慰謝料請求調停(家事調停) | 家庭裁判所 | 入口整理のみ |
| 離婚前に離婚・親権・財産分与等と一緒に慰謝料を話す | 夫婦関係調整調停(離婚)の中で協議 | 家庭裁判所 | 入口整理のみ |
不倫相手への慰謝料請求は、不倫相手という第三者に対する損害賠償請求です。そのため、基本的には民事事件として扱われ、調停を利用する場合は民事調停になります。民事調停の申立先は、原則として相手方の住所地を管轄する簡易裁判所です。
これに対し、配偶者に慰謝料を請求する場合は、家庭裁判所の家事調停を利用できる場面があります。また、離婚、親権、財産分与、養育費などと一緒に、夫婦関係調整調停の中で慰謝料について話し合うことがあります。
この切り分けを誤ると、「不倫慰謝料の調停では家庭裁判所に行けばよい」「離婚調停をしないと不倫相手に慰謝料請求できない」といった誤解につながります。不倫相手だけに慰謝料を請求する場合は、元配偶者との離婚問題とは別に考える必要があります。
本記事では、主に不倫相手に対する慰謝料請求で民事調停を使うべきかを扱います。元配偶者との離婚慰謝料、離婚調停、財産分与、親権などの家事事件の詳細には踏み込みません。ここを分けておくことで、不倫相手への請求で「調停を使うべきか」「裁判に進むべきか」を判断しやすくなります。
不倫相手への慰謝料請求と、配偶者との離婚条件の話し合いは、同じ「不倫慰謝料」という言葉で語られても手続の入口が異なります。相手が不倫相手なのか、元配偶者なのかを先に確認してください。
民事調停とは?示談・訴訟との違い
民事調停とは、裁判所で行う話し合いによる紛争解決手続です。裁判のように勝ち負けを判断するのではなく、裁判官と調停委員が関与しながら、当事者双方の話を聞き、合意による解決を目指します。
不倫慰謝料のトラブルでは、主な解決手段として、示談交渉、民事調停、訴訟があります。どれも「慰謝料問題を終わらせる手段」ではありますが、関与する人、結論の出方、相手が応じない場合の対応が異なります。
- 示談交渉は、裁判所を使わず、合意できるかを当事者または代理人間で詰める方法です。
- 民事調停は、裁判所の調停委員を介して話し合い、合意できれば調停調書を作る方法です。
- 訴訟は、証拠と主張を提出し、判決または裁判上の和解による解決を目指す方法です。
| 手続 | 誰が関与するか | 結論の出方 | 不倫相手への請求での実務感 |
|---|---|---|---|
| 示談交渉 | 当事者または代理人 | 合意できれば示談書を作成する | 弁護士介入時の基本ルート |
| 民事調停 | 裁判所・調停委員 | 合意できれば調停調書、不成立なら終了 | 本人で話し合いたい場合の例外ルート |
| 訴訟 | 裁判所 | 判決または裁判上の和解 | 相手が争う・無視する場合の本筋 |
示談交渉は、裁判所を使わず、当事者同士または弁護士同士で話し合う方法です。不貞の有無、慰謝料額、支払期限、分割払い、接触禁止、口外禁止などを交渉し、合意できれば示談書を作成します。弁護士が入る場合、まずは示談交渉で解決を目指すことが多いです。
民事調停は、裁判所を利用するものの、あくまで話し合いの手続です。調停委員が間に入るため、当事者同士で直接話す必要がないこともありますが、相手が合意しなければ調停は成立しません。調停が不成立になった場合、自動的に訴訟へ移るわけではなく、請求側があらためて訴訟を起こすかどうかを検討することになります。
調停が成立した場合には、支払額、支払期限、分割払い、遅れた場合の扱いなどを調停調書に残すことができます。もっとも、その前提はあくまで合意です。相手が「払わない」「不貞はない」「金額が高すぎる」と争い続ける場合、調停委員が一方的に慰謝料額を決めてくれるわけではありません。
訴訟は、証拠と主張に基づき、裁判所に判断を求める手続です。相手が不貞を否認している、慰謝料額を強く争っている、交渉や調停に応じない、時効が迫っているといった場合には、調停よりも訴訟を見据えた方がよいことがあります。
たとえば、相手が「既婚者とは知らなかった」と主張している場合や、「夫婦関係は不倫前から破綻していた」と主張している場合は、単なる金額調整ではなく、法的な争点そのものが問題になります。このような争点は、調停委員を介して感覚的に折り合いを付けるよりも、証拠を整理して交渉または訴訟で判断する方が向くことがあります。
調停は、示談交渉と訴訟の中間のように見えるため、「裁判より柔らかく、示談より強い手続」と考えられがちです。しかし、不倫相手への慰謝料請求では、調停が常に中間的な最適解になるわけではありません。相手が合意しない限り解決しないという点では、示談交渉と同じ限界があります。
そのため、請求側は「調停を申し立てること」自体を目的にせず、調停が不成立になったときに訴訟へ進むのか、交渉に戻るのか、請求を続けるだけの証拠があるのかを先に検討しておく必要があります。請求された側も、調停だから軽く見てよいというわけではなく、不成立後に訴状が届く可能性を意識して準備することが大切です。
そのため、調停を選ぶかどうかは、「裁判所が関与するから安心」というだけで決めるのではなく、相手が話し合いに来る見込みがあるか、争点が合意で調整できる内容か、不成立になった場合に訴訟へ進む準備があるかを見て判断する必要があります。内容証明、交渉、調停、訴訟までの全体の流れを知りたい場合は、不倫慰謝料の解決までの流れと期間も参考になります。
なぜ弁護士同士では不倫相手への慰謝料調停をほとんど使わないのか
不倫相手への慰謝料請求で民事調停を使えるとしても、弁護士が請求側・請求された側の双方に入っている場合、実務上は調停を積極的に選ばないことが少なくありません。これは、調停という制度に意味がないからではなく、不倫相手への慰謝料請求という場面では、調停を挟むことによる実益が限定的になりやすいからです。
民事調停は、裁判所で行う話し合いの手続です。したがって、相手が話し合いに応じ、一定の譲歩をする余地があり、金額や支払方法について合意できる見込みがある場合には、解決手段になり得ます。しかし、相手が支払義務そのものを否定している場合や、慰謝料額を大きく争っている場合には、調停委員が間に入っても、最終的な合意を作れないことがあります。
弁護士同士で調停をほとんど使わない理由は、大きく整理すると次のとおりです。
- 調停は合意がなければ終わる手続です。調停委員が関与しても、相手に慰謝料の支払いを強制的に認めさせることはできません。
- 相手が来ない・譲歩しないと空振りになりやすいです。期日を重ねても、合意が成立しなければ不成立で終了します。
- 弁護士同士なら書面交渉で争点整理ができます。不貞の有無、責任原因、金額、支払条件は、調停を挟まなくても代理人間で整理できます。
- 争点の対立が鋭い場合は訴訟の方が向きやすいです。証拠評価、婚姻関係破綻、故意・過失、消滅時効などは、話し合いよりも法的判断が必要になることがあります。
- 不成立後に訴訟へ進むなら二度手間になりやすいです。調停で時間を使った後、結局訴訟を起こすのであれば、最初から訴訟を見据えた準備をした方が合理的なことがあります。
たとえば、請求側が不貞の証拠を持っており、相手が「一切払わない」と回答している場合を考えます。この場合、調停を申し立てても、相手が出席しない、または出席しても支払いを拒むだけで終わる可能性があります。調停では相手の預金や給与を差し押さえることはできませんし、調停委員が判決のように慰謝料額を決めるわけでもありません。
また、相手が「既婚者とは知らなかった」「夫婦関係はすでに破綻していた」「不貞行為はない」「請求額が高すぎる」と争っている場合も、調停で感覚的に折り合いを付けるだけでは解決しにくいことがあります。このような争点は、メール、LINE、写真、宿泊記録、時系列、夫婦関係の状況などを整理し、証拠に基づいて主張する必要があります。
弁護士同士の交渉であれば、裁判所の期日を待たずに、主張書面や回答書で争点を整理できます。請求側は、どの証拠から不貞が認められるのか、請求額の根拠は何か、分割払いを認めるかを提示できます。請求された側は、不貞の有無、既婚者と知っていたか、婚姻関係破綻、請求額の過大性、時効、支払可能額などを整理して反論できます。弁護士同士の交渉でどのような点を話すのかは、弁護士同士の交渉で何を話すのかでも整理しています。
さらに、調停を申し立てると、申立書の作成、裁判所への提出、期日の調整、出席、待機、次回期日の調整といった手間が発生します。本人だけで進めるなら、この手間を負担してでも裁判所を使う意味がある場合があります。しかし、弁護士に依頼している場合は、同じ時間と労力を、交渉書面の作成、証拠整理、訴訟準備に使った方が、回収可能性を高められることがあります。
もちろん、弁護士が入っているから絶対に調停を使わない、というわけではありません。相手も支払う意思はあるが、金額や分割回数だけが問題になっている場合、当事者の感情が強く、裁判所を介した方が合意しやすい場合、調停調書に支払条件を残したい場合には、調停を検討する余地があります。
ただ、不倫相手への慰謝料請求では、調停のメリットを過大評価しないことが大切です。裁判所から通知が届くことで相手に心理的な圧力がかかることはありますが、それだけで支払義務が確定するわけではありません。相手が争う場合には、調停で説得しようとするより、交渉で落としどころを探るか、訴訟で証拠に基づく判断を求めるかを早めに見極める必要があります。
したがって、弁護士同士で不倫慰謝料を扱う場合、調停は「当然に通る手続」ではなく、あえて調停を挟むだけの実益があるかを個別に検討する手続です。調停を使うかどうかは、裁判所を利用したいかではなく、相手が出席する見込み、合意できる見込み、不成立後に訴訟へ進む準備があるかを基準に判断します。
例外的に、不倫相手への慰謝料調停が向くケース
不倫相手への慰謝料調停は原則として向きにくい手続ですが、すべてのケースで避けるべきというわけではありません。特に、弁護士を依頼せず本人で請求を進めたい場合には、民事調停が選択肢になることがあります。
調停が向くかどうかは、「裁判より柔らかい手続だから」という抽象的な理由ではなく、具体的な事情で判断します。目安としては、次のような条件がある場合です。
- 弁護士費用をかけず、本人で請求を進めたい
弁護士に依頼せず、裁判所を利用して話し合いの場を作りたい場合です。 - 書面交渉より、第三者を介した口頭の話し合いをしたい
自分で書面を作って交渉するより、調停委員に事情を聞いてもらいながら進めたい場合です。 - 相手が出てこない・無視する可能性を織り込んでいる
空振りになる可能性を理解したうえで、ダメ元で裁判所から通知を送る意味を重視する場合です。 - 争点が白黒ではなく条件調整に近い
不貞の有無より、金額、分割払い、支払期限などの条件調整が中心の場合です。 - 証拠や時系列がある程度整理されている
調停委員に事情を説明できる程度に、不倫の経緯、証拠、請求額の根拠を準備できている場合です。
この中でも特に重要なのは、本人で進めたいこと、口頭の話し合いを想定していること、無視されてもよいと割り切れることです。この3点がない場合、不倫相手への慰謝料請求で調停を使うメリットはかなり小さくなります。
たとえば、請求側が弁護士費用をかけたくないものの、不倫相手に直接連絡するのは精神的に負担が大きい、書面のやり取りにも不安がある、裁判まではしたくないという場合があります。このような場合、調停委員を介して話すことに意味を感じるのであれば、民事調停を検討する余地があります。
また、相手が完全に争っているわけではなく、「払う意思はあるが、金額が高い」「一括では払えない」「支払時期を延ばしたい」といった条件面の調整が中心であれば、調停で合意を作れる可能性があります。調停成立時には、支払額、支払期限、分割回数、遅れた場合の扱いなどを調停調書に残せるため、単なる口約束よりも明確な形で終わらせやすくなります。
もっとも、本人で調停を進める場合でも、準備なしで申し立てればよいわけではありません。不倫相手に何を請求するのか、請求額はいくらか、その金額の根拠は何か、どの証拠で不貞を説明するのか、相手が反論した場合にどう答えるのかを整理する必要があります。調停委員は中立的な立場で話を聞くため、請求側の感情だけを代弁してくれるわけではありません。
調停が向きやすいケースを、もう少し具体的に見ると、次のような場面です。
- 請求額を大きく取りに行くより、一定額で早めに区切りを付けたい場合には、調停で現実的な落としどころを探す余地があります。
- 相手と直接やり取りしたくないが、訴訟までは避けたい場合には、調停委員を介した話し合いが心理的負担を下げることがあります。
- 相手が支払い自体は否定していない場合には、分割払い、支払期限、遅延時の対応など、条件面の合意に集中できます。
- 相手に裁判所からの通知を受け取らせたい場合には、調停申立てが、任意交渉とは違う段階に入ったことを伝えるきっかけになることがあります。
ただし、「相手に裁判所から通知が届けば必ず払うだろう」という期待だけで調停を申し立てるのは危険です。相手が出席しない場合、調停は実質的に進みません。相手が出席しても、支払義務を否定し続ければ、合意は成立しません。調停は、相手を強制的に説得する手続ではなく、合意できる相手との間で条件を整える手続です。
請求側にとって重要なのは、調停が不成立になった場合の次の手を先に決めておくことです。不成立になったら訴訟を起こすのか、証拠が不足しているため請求方針を見直すのか、相手の反応を見るだけでいったん終えるのかを考えておくと、調停を申し立てる意味を冷静に判断できます。
また、調停で合意する場合には、金額だけでなく、支払期限、分割払い、遅れた場合の期限の利益喪失、清算条項、接触禁止、口外禁止、求償権の扱いなども問題になり得ます。ただし、条件を盛り込みすぎると合意が難しくなるため、本人で進める場合は、何を必須条件にするのか、何を譲れるのかを事前に整理しておくことが大切です。
結局のところ、不倫相手への慰謝料調停が向くのは、本人で、低コストで、話し合いの機会を作りたいケースです。強く争われている事件を調停で決着させるというより、一定の譲歩や条件調整を前提に、裁判所を介した話し合いを試す手続として位置づけるのが現実的です。
逆に、調停を使わず交渉・訴訟を検討すべきケース
不倫相手への慰謝料請求では、調停よりも、示談交渉や訴訟を検討した方がよいケースがあります。特に、相手が支払義務や不貞の事実を強く争っている場合には、調停を挟んでも解決が遠回りになることがあります。
調停を使わず、交渉または訴訟を検討すべき典型例は次のとおりです。
- 不貞の有無を全面的に争う必要がある
相手が不貞行為を否定している場合は、証拠に基づく判断が必要になりやすいです。 - 相手が出頭しない見込みが高い
すでに連絡を無視している、請求書に反応しない、支払意思がない場合は、調停が空振りになりやすいです。 - 請求額・支払義務について一切譲歩がない
相手が「1円も払わない」と主張している場合、調停で合意を作る余地が限られます。 - 証拠評価や婚姻関係破綻が争点になっている
既婚者と知っていたか、夫婦関係が破綻していたかなどは、話し合いだけで解決しにくい争点です。 - 時効が迫っている
手続選択に時間を使いすぎると、請求権の行使に支障が出る可能性があります。 - すでに弁護士同士で交渉している
代理人間で争点整理ができている場合、調停を挟む実益が乏しいことがあります。
まず、不貞の有無が争点になっている場合です。慰謝料請求では、不倫相手との肉体関係、既婚者と知っていたかどうか、婚姻関係が破綻していたかどうか、故意・過失の有無などが問題になることがあります。相手がこれらを全面的に争っている場合、調停委員を介した話し合いだけで解決するのは難しくなります。
次に、相手が出頭しない見込みが高い場合です。内容証明を送っても反応がない、電話やメールを無視している、代理人から支払拒否の回答が来ているといった場合、調停を申し立てても、相手が期日に来ない可能性があります。相手が来なければ、金額や支払条件を話し合うこと自体ができません。
また、相手が支払義務を一切認めない場合も、調停の実益は小さくなります。調停は、双方の主張を聞きながら合意点を探る手続です。相手が「支払義務はない」「不貞はない」「請求は不当だ」と一貫している場合、合意による解決よりも、証拠に基づく判断を求める方向に切り替える必要があります。
婚姻関係破綻や時効が争点になる場合も注意が必要です。不倫慰謝料では、不貞行為があっても、不倫開始時点ですでに夫婦関係が破綻していたと評価されるか、消滅時効が完成しているかによって、請求の見通しが大きく変わります。このような法的争点は、調停で感情的に話し合うより、証拠と時系列を整理して交渉・訴訟で判断する方が向くことがあります。
時効が迫っている場合には、特に慎重に対応する必要があります。調停を申し立てることで一定の効果が問題になる場面はありますが、「調停をすれば安心」と単純に考えるのは危険です。時効完成が近い場合には、いつまでに何をする必要があるか、訴訟提起を急ぐべきかを個別に検討する必要があります。
すでに弁護士同士で交渉している場合も、調停を挟む必要性は低くなりやすいです。代理人間で争点が整理され、金額や支払条件の交渉が進んでいるのであれば、調停を申し立てても、同じ争点を裁判所で繰り返すだけになる可能性があります。交渉でまとまらない理由が「金額の開き」ではなく「支払義務の否定」であれば、調停より訴訟を検討する場面です。
請求側から見ると、調停を使わない方がよいケースでは、次の行動を早めに整理することが重要です。
- 証拠を整理する
LINE、メール、写真、宿泊記録、領収書、探偵報告書、時系列表などを確認します。 - 請求額の根拠を整理する
婚姻期間、不倫期間、不貞回数、離婚の有無、夫婦関係への影響などを踏まえます。 - 交渉で譲れる範囲を決める
一括払いか分割払いか、減額を受け入れるか、どこまで条件を付けるかを整理します。 - 訴訟に進む場合の費用・期間を見通す
訴訟提起後の流れ、和解可能性、判決まで進む場合の負担を確認します。
不倫相手への請求で相手が争う・無視する場合には、調停で相手の反応を待つより、訴訟提起を見据えて準備した方がよいことがあります。請求側が訴訟へ進む具体的な手順を確認したい場合は、不倫慰謝料で訴える方法を参考にしてください。
一方、請求された側の立場では、相手が調停ではなく訴訟を選ぶ可能性があることを意識する必要があります。請求側が証拠を持っており、交渉でまとまらない場合、調停を経ずに訴訟を起こされることもあります。裁判で争う場合の見通しやリスクを知りたい場合は、不倫慰謝料裁判で負けた場合のリスクも確認しておくとよいでしょう。
調停を使うかどうかは、「裁判より簡単そうだから」という印象で決めるべきではありません。相手が合意できる状態にあるなら調停は選択肢になりますが、相手が争う、無視する、支払義務を否定する、時効が迫っているといった場合には、交渉または訴訟を軸にした方が、時間を無駄にしにくいです。
調停を避けるべきケースを見極めることは、請求側だけでなく、請求された側にとっても重要です。請求された側は、調停だから軽い手続だと考えるのではなく、相手が調停を使わずに訴訟へ進む可能性、または調停不成立後に訴訟へ進む可能性を踏まえて、証拠と反論方針を早めに整理しておく必要があります。
慰謝料請求された事案の無料法律相談実施中!
- 0円!完全無料の法律相談
- 弁護士による無料の電話相談も対応
- お問合せは24時間365日受付
- 土日・夜間の法律相談も実施
- 全国どこでも対応いたします
調停を申し立てられた側はどう対応するか
不倫慰謝料の民事調停を申し立てられ、簡易裁判所から呼出状や期日通知が届いた場合、まず押さえるべきなのは、調停は訴訟ではないという点です。調停は、裁判所で行う話し合いの手続であり、欠席しただけで訴訟の欠席判決のように慰謝料の支払義務が決まるわけではありません。
もっとも、「調停だから無視してよい」と考えるのも危険です。請求側が調停で解決できないと判断すれば、その後に訴訟を起こす可能性があります。調停で何も決まらなかったとしても、相手の請求内容、証拠、請求額、主張の方向性を知る機会にはなります。
そのため、調停を申し立てられた側は、出席するかどうかだけを急いで決めるのではなく、次の順番で対応を整理することが重要です。
- 裁判所から届いた書類を確認する
申立人、請求額、申立ての理由、期日、裁判所名、同封書類を確認します。 - 請求内容に対する反論を整理する
不貞の有無、既婚者と知っていたか、婚姻関係が破綻していたか、時効、金額の相当性を確認します。 - 出席する実益があるかを考える
話し合いで減額・分割・条件調整ができる余地があるかを見ます。 - 出席しない方針を取る場合も、無断放置にしない
通知を見ないまま放置するのではなく、裁判所への連絡や弁護士への相談を含めて対応を検討します。 - 不成立後の訴訟に備える
調停で終わらない場合、訴状が届く可能性を見据えて証拠と時系列を整理します。
調停に応じるかどうかの判断は、相手の請求が弱いか強いか、証拠がどの程度あるか、話し合いで解決した方がよい事情があるかによって変わります。単に「裁判所から来たから払う」「調停だから放っておく」といった二択で考えないことが大切です。
坂尾陽弁護士
調停を欠席すると慰謝料を払うことになる?
民事調停を欠席しても、それだけで慰謝料の支払義務が認められるわけではありません。調停は、当事者の合意によって解決を目指す手続です。相手が出席せず、話し合いができない場合には、調停が不成立で終了することがあります。
調停の欠席は、訴訟の欠席判決とは別の問題です。民事訴訟では、適切に対応しないと相手の請求を前提に判決が出るリスクがありますが、民事調停は合意がなければ調停成立にはなりません。
ただし、裁判所から正式に呼出しを受けている以上、通知を完全に放置する対応は避けるべきです。法律上、正当な理由なく呼出しを受けて出頭しない場合の過料規定があるため、「どうせ払う義務は決まらないから見なくてよい」と考えるのは適切ではありません。
実務上は、出席して話し合う実益があるか、出席するとかえって不用意な発言をしてしまうリスクがあるか、不成立後に訴訟で争う方針かを整理してから判断します。特に、不貞の有無、既婚者と知っていたか、婚姻関係が破綻していたかなどを争う場合、調停期日で曖昧に事実を認める発言をしないよう注意が必要です。
調停に出席しない方針を取る場合でも、期日通知、申立書、証拠説明、請求額の根拠は必ず確認しておきましょう。相手が何を理由に、いくら請求しているのかを把握しないまま放置すると、後に訴訟へ移ったときに初動が遅れます。
調停不成立になると不利になる?
調停不成立になったこと自体で、慰謝料の支払義務が認められたり、請求された側が直ちに不利になったりするわけではありません。調停不成立とは、調停で合意ができなかったという意味であり、裁判所が「請求側が正しい」と判断したことを意味するものではありません。
もっとも、不成立になれば請求側が次に訴訟を検討する可能性があります。調停では合意できなかったとしても、請求側が不貞の証拠を持っている場合や、請求額を下げても支払いに応じない場合には、訴訟で判決または裁判上の和解を求めてくることがあります。
したがって、請求された側にとって重要なのは、「調停不成立=勝ち」と考えないことです。調停で何も決まらなかったとしても、その後に訴状が届けば、訴訟では答弁書や証拠提出などの対応が必要になります。訴訟の初動を誤ると、反論の準備が不十分なまま手続が進むリスクがあります。
不成立後に訴状が届いた場合の初動については、不倫慰謝料の訴状が届いた場合の対応で詳しく整理しています。調停段階であっても、訴状が届いた場合に備えて、時系列、証拠、反論方針を先にまとめておくと対応しやすくなります。
出席しない方針でも、訴訟準備は始めるべき
不倫慰謝料の民事調停を申し立てられた側が、話し合う実益が乏しいと判断して出席しない方針を取る場合でも、訴訟準備は別問題です。調停に応じないことと、慰謝料請求への反論を準備しないことは同じではありません。
特に、次の事項は早い段階で整理しておく必要があります。
- 不貞行為の有無
肉体関係を争うのか、関係自体は認めるが期間・回数・態様を争うのかを整理します。 - 既婚者と知っていたか
相手が独身だと説明していた、婚姻関係を知らなかったなど、故意・過失に関わる事情を確認します。 - 婚姻関係が破綻していたか
別居時期、夫婦関係の実態、離婚協議の有無など、責任の有無や金額に関わる事情を整理します。 - 時効の可能性
請求の時期、不倫を知った時期、相手が請求できる期間を確認します。 - 慰謝料額を争う事情
婚姻期間、不倫期間、離婚の有無、請求額の相場から見た過大性などを検討します。 - 支払う場合の上限と条件
一括払いが可能か、分割払いにするか、求償権や清算条項をどう扱うかを考えます。
この整理をしておくと、調停に出席しなかった結果、訴訟に移った場合にも対応しやすくなります。逆に、何も準備しないまま期日に出席すると、調停委員からの質問に対して場当たり的に答えてしまい、後から主張を整理しにくくなることがあります。
調停期日で「払います」「不倫を認めます」といった発言をする場合は、どの事実を認め、どの金額・条件に限って応じるのかを明確にしておく必要があります。曖昧な発言は、後の交渉や訴訟で不利に扱われるおそれがあります。
どうしても出席するなら、何を話すべきか
請求された側が調停に出席する場合でも、期日の場で感情的に反論したり、全面的に謝罪したり、支払えるか分からない金額にその場で応じたりするのは避けるべきです。調停は話し合いの手続ですが、話し合いであるからこそ、事前に話す範囲と譲れない条件を決めておく必要があります。
坂尾陽弁護士
出席する場合に整理しておくべきポイントは、次のとおりです。
- 認める事実と争う事実
交際の有無、肉体関係の有無、期間、回数、相手が既婚者であることを知った時期を整理します。 - 慰謝料額を争う理由
請求額が高すぎる理由、離婚に至っていない事情、婚姻関係への影響の程度などを伝えます。 - 抗弁になり得る事情
既婚者と知らなかった、婚姻関係が破綻していた、時効が成立している可能性があるなどの事情を整理します。 - 支払う場合の上限額
早期解決のために一定額を支払うとしても、いくらまでなら応じられるかを先に決めます。 - 分割払い・期限の条件
一括払いが難しい場合は、月額、支払期限、遅れた場合の扱いを具体的に検討します。 - 調停成立時に入れる条項
清算条項、口外禁止、求償権、接触禁止など、後で紛争を残さない条件を確認します。
特に、調停が成立すると調停調書に条件が記載されるため、支払額だけでなく、分割払い、期限の利益喪失、清算条項、求償権、口外禁止などの扱いが重要になります。和解条項・清算条項・求償権の考え方は、裁判上の和解条項で失敗しないための注意点でも整理しています。
調停に出席するかどうかにかかわらず、請求された側が意識すべきなのは、調停の場だけで結論を出そうとしないことです。調停で合意すれば終わる可能性はありますが、合意できなければ訴訟に移る可能性があります。だからこそ、期日対応と訴訟準備を分けて考える必要があります。
民事調停の流れと費用・期間の目安
不倫相手への慰謝料請求で民事調停を使う場合、手続の流れ自体は比較的シンプルです。もっとも、流れがシンプルであることと、実際に解決しやすいことは別です。相手が出席しない、支払義務を争う、金額が大きく隔たっている場合には、調停が不成立で終わることがあります。
請求側が調停を検討する場合は、申し立てて終わりではなく、相手が出席しなかった場合や、不成立になった場合に訴訟へ進むかどうかまで見通しておく必要があります。請求された側も、調停期日だけを見るのではなく、その後の訴訟リスクまで含めて対応を考えるべきです。
民事調停の基本的な流れ
民事調停は、通常、次のような流れで進みます。
- 申立書を提出する
請求側が、原則として相手方住所地を管轄する簡易裁判所に申立書を提出します。 - 裁判所が期日を指定する
裁判所が調停期日を決め、相手方に呼出状や申立書の写しなどを送付します。 - 調停期日に双方の話を聞く
調停委員が双方から事情を聞き、金額や支払条件について合意の可能性を探ります。 - 合意できれば調停成立になる
慰謝料額、支払期限、分割払いなどについて合意できれば、調停調書が作成されます。 - 合意できなければ調停不成立になる
相手が出席しない、支払わない、金額が合わないなどの場合には、不成立で終了します。 - 不成立後に訴訟へ進むか検討する
調停不成立後、自動で訴訟に移るわけではないため、請求側が改めて訴訟提起を検討します。
この流れだけを見ると、調停は本人でも利用しやすい手続に見えます。実際、弁護士費用をかけず本人で話し合いの場を作りたい場合には、調停を検討する余地があります。しかし、不倫慰謝料では、相手が不貞を否認したり、支払義務を争ったり、期日に出てこなかったりすることもあります。
そのため、請求側は、申立書を出す前に、証拠、請求額、相手の反応、不成立後の方針を整理しておく必要があります。請求された側は、呼出状が届いた時点で、調停で話し合うのか、訴訟を見据えて争うのかを検討します。
調停が成立した場合は調停調書が作られる
調停で慰謝料額や支払条件について合意できた場合、調停成立となり、合意内容は調停調書に記載されます。調停調書に支払条項が記載されると、支払いがされない場合に強制執行につながることがあります。
この点は、単なる口約束や任意の話し合いとは異なります。示談書でも内容によっては重要な証拠になりますが、調停調書は裁判所で作成されるため、支払条項を明確にしておくことが特に重要です。
調停調書に入れる条件としては、慰謝料額だけでなく、支払期限、分割払い、振込先、遅れた場合の扱い、清算条項、口外禁止、求償権の扱いなどが問題になります。支払条件を急いで決めると、後から「分割払いが滞った」「別の請求が残っていた」「配偶者への求償で再度揉めた」といった問題が起こることがあります。
したがって、調停を成立させる場合は、「いくら払うか」だけでなく、「その支払いで何が終わるのか」「誰との関係で清算されるのか」「支払いが遅れたときにどうなるのか」まで確認しておく必要があります。
調停にかかる費用の目安
民事調停にかかる裁判所費用は、主に申立手数料としての収入印紙と、連絡・送達のための郵便切手です。請求額によって印紙代は変わり、郵便切手は裁判所や当事者数によって異なります。
不倫慰謝料の民事調停でよく問題になる請求額を前提にすると、印紙代の目安は次のとおりです。
| 請求額の目安 | 民事調停の印紙代目安 |
|---|---|
| 100万円相当 | 5,000円 |
| 300万円相当 | 10,000円 |
| 500万円相当 | 15,000円 |
このほか、郵便切手を予納する必要があります。郵便切手の金額や内訳は、申立先の裁判所、当事者の人数、送付物の内容によって変わるため、実際に申し立てる際は裁判所の案内を確認する必要があります。
弁護士に依頼する場合には、裁判所費用とは別に弁護士費用がかかります。もっとも、本記事で繰り返し説明しているとおり、不倫相手への慰謝料請求で弁護士を入れる場合、調停よりも交渉または訴訟を選ぶ方が合理的なことがあります。費用だけを見て調停を選ぶのではなく、回収可能性や不成立後の対応まで含めて比較することが大切です。
裁判費用・調停費用・弁護士費用の目安を詳しく確認したい場合は、不倫慰謝料の裁判費用・調停費用の目安を参考にしてください。
期間の目安と、長引くケース
民事調停は、訴訟よりも柔軟な話し合いの手続であり、合意できる場合には比較的早く終了することがあります。一般的には、数回の期日を経て、数か月程度で成立または不成立となることが多いと考えられます。
ただし、不倫慰謝料の調停では、次のような事情があると、早期解決が難しくなります。
- 相手が期日に出席しない
話し合いの場が作れず、不成立で終わりやすくなります。 - 不貞の有無を争っている
調停委員を介しても、証拠に基づく判断が必要になりやすいです。 - 請求額の差が大きい
請求側の希望額と相手方の支払可能額・支払意思に大きな隔たりがあると、合意が難しくなります。 - 婚姻関係破綻や既婚者認識が争点になっている
単なる金額調整ではなく、法的責任の有無に関わるため、訴訟向きの争点になりやすいです。 - 分割払い・求償権・口外禁止などの条件で揉める
金額では合意できても、支払条件や清算範囲で調整が長引くことがあります。
調停の期間だけを見れば、訴訟より短く済む可能性はあります。しかし、不成立になってから訴訟を起こす場合には、調停に使った期間がそのまま前段階の時間になります。時効が迫っている場合や、相手が出席しない見込みが高い場合には、調停を挟むことでかえって解決が遅れる可能性もあります。
不倫慰謝料の解決までの全体期間は、内容証明、交渉、調停、訴訟のどこまで進むかによって大きく変わります。調停だけでなく、手続全体の流れを比較したい場合は、不倫慰謝料の解決までの流れと期間も確認しておくとよいでしょう。
調停の流れ・費用・期間は、制度としては比較的分かりやすいものです。しかし、不倫相手への慰謝料請求で本当に重要なのは、手続の使いやすさではなく、相手が合意できる状態にあるか、不成立後に訴訟へ進む準備があるかです。調停を選ぶ場合も、選ばない場合も、最終的にはその見通しを基準に判断する必要があります。
調停不成立後はどうなるか
民事調停で話し合っても合意できない場合、調停は不成立で終了します。ここで大切なのは、調停不成立になっても、自動的に訴訟へ移るわけではないという点です。請求側がその後も慰謝料請求を続けるには、改めて訴訟を起こすか、交渉を続けるか、請求を続けないかを判断する必要があります。
一方、請求された側にとっても、調停不成立は「慰謝料を支払わなくてよいと決まった」という意味ではありません。調停では合意に至らなかっただけであり、請求側が証拠をそろえて訴訟を起こす可能性は残ります。したがって、不成立後は、請求する側も請求された側も、次の手続を見据えて準備を進める必要があります。
請求側は、訴訟に進むかどうかを判断する
請求側が不倫相手への慰謝料を本気で回収したい場合、調停不成立後の中心的な選択肢は訴訟です。不倫相手への慰謝料請求では、元配偶者との離婚・家事事件のように、通常、調停を経なければ訴訟を起こせないという整理にはなりません。そのため、調停を申し立てたものの相手が出席しない、慰謝料額を大きく争う、支払う意思がないという場合には、訴訟提起を検討することになります。
調停不成立後に訴訟を検討する際は、感情的に「裁判に進むかどうか」だけを決めるのではなく、次の点を整理しておくことが重要です。
- 不貞の証拠があるか
写真、メッセージ、宿泊・旅行の記録、探偵報告書など、裁判で提出できる証拠を確認します。 - 請求額の根拠を説明できるか
婚姻期間、不貞期間、発覚後の対応、婚姻関係への影響、離婚の有無など、慰謝料額に関係する事情を整理します。 - 相手の反論を想定できているか
既婚者と知らなかった、婚姻関係が破綻していた、金額が高すぎる、時効であるといった反論が出る可能性を見ます。 - 訴訟にかける時間と費用を許容できるか
調停より時間がかかる可能性があるため、回収見込みと手続負担を比較します。
相手が話し合いに応じない場合、調停を繰り返しても結論は出ません。不成立後に訴訟へ進むかどうかを検討する場合は、不倫慰謝料で訴える方法も参考にしながら、訴状提出までの流れを確認しておくとよいでしょう。
請求された側は、訴状が届く可能性を前提に準備する
請求された側は、調停が不成立になったからといって、すぐに慰謝料の支払義務が確定するわけではありません。調停は話し合いの手続であり、合意しなかった以上、調停の中で慰謝料の支払義務や金額が裁判のように判断されるわけではないからです。
ただし、請求側が調停で解決できないと判断した場合、次に訴訟を起こしてくる可能性があります。特に、請求側が不貞の証拠を持っている場合や、調停で請求額・主張内容をある程度整理している場合には、訴訟への移行を想定しておくべきです。
請求された側が不成立後に準備すべきことは、次のとおりです。
- 時系列を整理する
知り合った時期、交際の有無、相手が既婚者と知った時期、関係が終わった時期などを整理します。 - 反論できる事情を確認する
既婚者と知らなかった、婚姻関係が破綻していた、不貞行為まではない、請求額が過大であるなど、争点を切り分けます。 - 支払可能額を確認する
争う場合でも、和解や分割払いの可能性を検討するため、現実的に支払える金額を把握しておきます。 - 訴状が届いた場合の期限を意識する
訴訟では答弁書提出期限や第1回期日が指定されるため、調停よりも期限管理が重要になります。
調停不成立後に訴状が届いた場合は、調停のときよりも対応期限が厳しくなります。訴状が届いた段階での初動については、不倫慰謝料の訴状が届いた場合の対応で詳しく整理しています。
不成立後に交渉へ戻ることもある
調停不成立後の選択肢は、訴訟だけではありません。調停では合意できなかったものの、相手の主張や支払可能額がある程度見えたため、改めて示談交渉に戻ることもあります。たとえば、調停では金額で折り合わなかったものの、分割払い、支払期限、求償権、口外禁止などの条件を調整すれば、訴訟を避けて解決できる場合があります。
もっとも、交渉に戻る場合でも、訴訟になったときの見通しを持たないまま譲歩するのは避けるべきです。請求側は、証拠と請求額の根拠を踏まえて、どこまで減額に応じるかを決める必要があります。請求された側は、裁判で争った場合にどのようなリスクがあるのか、和解した場合にどの条件まで受け入れるのかを整理する必要があります。裁判で争った場合の見通しを確認したい場合は、不倫慰謝料裁判で負けた場合のリスクも参考になります。
調停不成立は、手続の終わりではなく、次にどの方法で解決を目指すかを決める分岐点です。不倫相手への慰謝料請求では、調停を申し立てる前から、不成立になった場合の訴訟・交渉の方針まで見据えておくことが大切です。
ミニコラム:裁判は判決文が公開されることがあるが、調停は非公開
不倫慰謝料について調べていると、裁判例を参考にして金額や勝ち負けを考えることがあります。訴訟は公開の法廷手続が原則であり、事案によっては判決文が裁判例集やデータベースで紹介されることがあります。そのため、慰謝料額や不貞の有無、婚姻関係破綻などの判断を知る手がかりとして、裁判例が使われることがあります。
これに対して、調停は公開の法廷で勝ち負けを決める手続ではなく、非公開の話し合いによって合意を目指す手続です。調停でどのような話し合いが行われ、どのような条件で合意したかが、一般に公開されるわけではありません。
そのため、「不倫相手への慰謝料調停では過去にどのような判断がされたのか」を裁判例のように探しても、公開情報として見つかりにくいのが通常です。調停で重要なのは、過去の公開事例を探すことよりも、相手が出席する見込みがあるか、争点が話し合いで調整できる内容か、合意できなかった場合に訴訟へ進む準備があるかを判断することです。
裁判例が参考になる場面と、調停の使いどころを考える場面は分けて考える必要があります。不倫相手への慰謝料調停では、公開された判断例を探すよりも、調停という手続の性質と、自分の事案で合意が成立する可能性を見極めることが重要です。
よくある質問
不倫慰謝料は調停で請求できますか?
請求できます。ただし、不倫相手に慰謝料を請求する場合は、通常、簡易裁判所の民事調停として考えます。元配偶者に離婚後の慰謝料を請求する場合や、離婚に伴う慰謝料を話し合う場合は、家庭裁判所の家事調停・離婚調停の中で扱われることがあります。まず、誰に対する請求なのかを切り分けることが重要です。
不倫相手への慰謝料請求では、調停と裁判のどちらがよいですか?
相手が話し合いに応じ、不貞の有無や金額について大きく争っていない場合は、調停で解決できる余地があります。しかし、相手が無視する、不貞を否認する、支払義務を争う場合には、調停では結論が出にくく、訴訟を検討すべきことが多いです。弁護士を入れて本格的に請求する場合は、調停より交渉または訴訟を軸に考えるのが一般的です。
調停を申し立てられたら出席しなければいけませんか?
調停は訴訟ではないため、欠席しただけで欠席判決のように慰謝料の支払義務が決まるわけではありません。もっとも、裁判所からの通知を無断で放置するのは避けるべきです。出席する実益があるか、出席しない方針を取るか、不成立後の訴訟にどう備えるかを、通知の内容を確認したうえで判断しましょう。
調停が不成立になると不利ですか?
調停不成立それ自体で、慰謝料の支払義務が認められるわけではありません。請求側・請求された側のどちらにとっても、不成立は「話し合いでは合意できなかった」という意味です。ただし、請求側が訴訟を起こす可能性があるため、請求された側は訴訟を見据えた準備を始める必要があります。
調停調書には強制力がありますか?
調停が成立し、調停調書に慰謝料の支払条項が記載された場合、その調停調書は確定判決と同じ効力を持つことがあります。支払義務者が約束どおり支払わない場合、内容によっては強制執行につながる可能性があります。そのため、調停を成立させる場合は、金額、支払期限、分割条件、遅れた場合の扱いを明確にしておくことが大切です。
不倫相手への慰謝料請求は、調停を経ずに裁判できますか?
不倫相手への慰謝料請求では、離婚訴訟のような調停前置主義は通常問題にならず、調停を経ずに訴訟を起こすことを検討できます。ただし、元配偶者との離婚・家事事件では手続の考え方が異なるため、不倫相手への民事調停と、元配偶者・離婚慰謝料の家事調停を混同しないよう注意が必要です。
まとめ
不倫慰謝料の調停を検討するときは、「裁判所を使う手続だから有利」と考えるのではなく、不倫相手への慰謝料請求という場面で、調停に実益があるかを見極めることが大切です。
- 不倫相手への慰謝料調停は利用できるものの、実務上は原則として向きにくい手続です。
- 不倫相手への請求は民事調停、元配偶者・離婚慰謝料は家事調停になる場面があり、入口の切り分けが重要です。
- 弁護士同士であれば、調停よりも書面交渉または訴訟を選ぶことが多いです。
- 調停を申し立てられた側は、欠席だけで支払義務が決まるわけではありませんが、通知の放置は避けるべきです。
- 調停不成立後は、自動的に訴訟へ移るわけではないものの、請求側・請求された側の双方が訴訟準備を意識する必要があります。
調停は、相手と合意できる見込みがある場合には、解決手段の一つになります。しかし、不倫相手が出席しない、支払義務を争う、証拠や金額について対立が大きい場合には、調停を挟むことで時間だけがかかることがあります。
請求する側は、調停を申し立てる前に、相手が話し合いに応じる見込み、証拠の有無、調停不成立後に訴訟へ進む意思を確認しておきましょう。請求された側は、調停だから軽い手続だと考えず、出席するかどうかとあわせて、不成立後に訴状が届く可能性を見据えて準備することが重要です。
坂尾陽弁護士
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