不倫慰謝料の請求では、「不倫があったか」だけでなく、不倫が始まった時点で夫婦関係がすでに破綻していたかが大きな争点になることがあります。婚姻関係が客観的に破綻していた場合、不倫相手に対する慰謝料請求は認められない、または大きく減額される可能性があります。
もっとも、破綻は簡単には認められません。「別居していた」「離婚の話が出ていた」「相手から夫婦関係は終わっていると聞かされていた」といった事情があっても、それだけで直ちに婚姻関係の破綻が認められるわけではありません。裁判所は、別居の理由や期間、離婚協議・調停の具体性、夫婦間の連絡、家族行事、生活費の負担、生活実態などを総合して判断します。
この記事では、不倫慰謝料事件を扱う弁護士の視点から、婚姻関係が破綻していた場合の慰謝料の考え方、破綻判断の基準、破綻していたことを示す証拠、破綻していないと反論するための証拠を整理します。
- 不倫開始時点で婚姻関係がすでに破綻していた場合、不倫相手の慰謝料責任は原則として否定され得ます。
- 破綻していたかどうかは、別居の有無だけでなく、別居理由・離婚協議・夫婦間交流・生活費などを総合して判断します。
- 「考慮要素」と「証拠」は別物です。事実関係と、それを裏付ける物・記録を分けて整理することが重要です。
- 破綻を主張された側は、家族行事、生活費負担、夫婦間LINE、帰宅状況などで反論できる場合があります。
- 「破綻していると聞かされていた」だけで慰謝料が当然にゼロになるわけではなく、故意過失や減額事情として慎重に整理します。
坂尾陽弁護士
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

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婚姻関係が破綻していたら不倫慰謝料はどうなるか
婚姻関係が破綻していた場合の不倫慰謝料を考えるときは、まず「なぜ不倫慰謝料が発生するのか」を確認する必要があります。不倫慰謝料は、単に道徳的に許されない行為だから発生するのではなく、法律上は、夫婦共同生活の平和という法的利益が侵害されたことを理由に問題になります。
そのため、不倫が始まった時点ですでに夫婦共同生活が回復困難な状態にあり、保護すべき平和な婚姻共同生活が残っていなかったと評価される場合には、不倫相手に対する不法行為責任が否定されることがあります。これが、いわゆる婚姻関係破綻の問題です。
最高裁平成8年3月26日判決の原則
婚姻関係破綻後の不倫慰謝料について、中心になる裁判例が最高裁平成8年3月26日判決です。この判決は、夫婦の一方と第三者が肉体関係を持った場合でも、その時点で夫婦の婚姻関係がすでに破綻していたときは、特段の事情がない限り、第三者は他方配偶者に対して不法行為責任を負わないという考え方を示しました。
この原則を分かりやすくいうと、次のように整理できます。
- 婚姻関係が破綻する前の不倫は、夫婦共同生活の平和を壊す行為として慰謝料責任が問題になります。
- 婚姻関係が破綻した後の不倫は、すでに守るべき夫婦共同生活の平和が失われているため、原則として不倫相手の責任が否定され得ます。
- 特段の事情がある場合は、破綻後であっても例外的に慰謝料が問題になる余地があります。
ただし、この原則は「夫婦仲が悪ければ慰謝料は発生しない」という意味ではありません。夫婦げんか、性格の不一致、一時的な別居、抽象的な離婚話があるだけでは、婚姻関係が客観的に破綻していたとはいえないことがあります。裁判では、夫婦共同生活が回復できない状態に至っていたかが、具体的な事情から判断されます。
請求された側が「すでに婚姻関係は破綻していた」と主張して支払義務を争う場合の実務的な組み立ては、不倫慰謝料における婚姻関係破たんの抗弁でも詳しく整理しています。
判断基準時は不倫が始まった時点
婚姻関係破綻の主張で特に重要なのは、破綻していた時期と不倫が始まった時期の前後関係です。不倫が始まった後に夫婦関係が悪化した場合や、不倫発覚後に別居・離婚協議が始まった場合には、「不倫前から婚姻関係が破綻していた」とは評価されにくくなります。
たとえば、不倫発覚後に夫婦が別居し、その後に離婚協議が進んだとしても、それは不倫の影響で婚姻関係が悪化したことを示す事情になり得ます。請求された側が「今は別居しているから破綻している」と主張しても、不倫が始まった時点では同居していた、家族行事に参加していた、生活費を負担していたという事情があれば、破綻後の不倫とはいえない可能性があります。
一方で、不倫が始まる何年も前から長期別居が続き、離婚協議や調停が具体的に進んでおり、夫婦としての交流や生活実態が失われていた場合には、不倫開始時点で婚姻関係がすでに破綻していたと主張しやすくなります。
破綻判断では、「現在の夫婦関係」ではなく「不倫が始まった時点の夫婦関係」を確認します。継続的な不倫の場合は、不倫開始時期、関係が継続した時期、別居・調停・離婚意思表示の時期を時系列で並べることが重要です。
「不倫で破綻した」と「破綻後に不倫した」は違う
不倫慰謝料の相談では、「夫婦関係はもともと悪かった」「不倫の前から離婚の話は出ていた」という説明を受けることがあります。しかし、夫婦関係に不満や不和があったことと、婚姻関係が法律上破綻していたことは同じではありません。
特に注意が必要なのは、不倫によって夫婦関係が決定的に壊れた場合です。この場合、不倫前から小さな不満や不仲があったとしても、不倫が夫婦共同生活の平和を侵害したと評価される可能性があります。つまり、「不倫の後に離婚になった」「不倫発覚後に別居になった」という事情を、後から「もともと破綻していた」と言い換えることはできません。
また、不倫相手と同棲を始めた、不倫相手との間に子どもができた、不倫をきっかけに配偶者が離婚を決意したといった事情は、むしろ不倫が婚姻関係を破壊した方向の事情として評価されることがあります。破綻を主張する側は、不倫の前から夫婦共同生活が回復不能な状態だったことを、客観的事情と証拠で説明する必要があります。
不倫発覚後の別居、離婚調停、離婚届の準備だけを根拠に「破綻後の不倫だった」と主張するのは危険です。裁判では、不倫開始時点ですでに破綻していたかが問題になります。
特段の事情は例外として短く考える
最高裁平成8年3月26日判決は、婚姻関係がすでに破綻していた場合でも「特段の事情」があるときは例外的に不倫相手の責任が問題になり得る余地を残しています。ただし、特段の事情は、単に「不倫をしたから許せない」「配偶者を奪われたと感じる」という感情だけで認められるものではありません。
破綻後の不倫で慰謝料が問題になる例外論は、破綻判断の総論とは分けて考える必要があります。破綻後でも請求が問題になる特段の事情については、婚姻関係が破たんした場合に不倫慰謝料の請求が認められる特段の事情で詳しく解説しています。
この記事では、まず原則どおり、不倫開始時点で婚姻関係が破綻していたか、その破綻をどのような事情と証拠で説明するかを中心に整理します。
婚姻関係の破綻は何を見て判断されるか
婚姻関係の破綻は、特定の事情が一つあれば自動的に認められるものではありません。裁判所は、別居期間、別居理由、離婚協議・調停の有無、夫婦間の連絡、家族行事、生活費、家計、修復意思などを総合して、夫婦共同生活が回復困難な状態にあったかを判断します。
したがって、「別居していたから破綻」「離婚の話をしていたから破綻」「家庭内別居だから破綻」と単純に考えるのは危険です。同じ別居でも、離婚を前提にした長期別居なのか、仕事・療養・冷却期間のための一時的別居なのかで評価は変わります。同じ離婚協議でも、感情的な口げんかなのか、親権・財産分与・養育費などの条件協議まで進んでいたのかで重要度は変わります。
考慮要素と証拠の違い
婚姻関係の破綻を整理するときは、考慮要素と証拠を分けて考えることが重要です。この2つを混同すると、主張が抽象的になり、交渉や裁判で説得力を欠きやすくなります。
- 考慮要素とは、裁判所が破綻の有無を判断するために見る事実関係です。たとえば、別居、離婚協議、調停申立て、夫婦間交流、生活費負担、家族行事参加などです。
- 証拠とは、その事実関係を裏付ける物・記録です。たとえば、住民票、賃貸契約書、LINE、メール、録音、調停申立書、期日通知書、写真、チケット、送金記録などです。
たとえば、「離婚協議をしていた」は考慮要素です。これを裏付ける証拠としては、離婚条件を話し合ったLINE、弁護士からの通知書、財産分与や養育費の条件をまとめたメモ、調停申立書などが考えられます。
また、「家族旅行に行っていた」は破綻していない方向の考慮要素です。これを裏付ける証拠としては、旅行写真、予約記録、チケット、旅程表、旅行前後のLINEなどが考えられます。考慮要素と証拠を分けると、自分の主張のどこが強く、どこが弱いかを確認しやすくなります。
別居期間・別居理由
別居は、婚姻関係の破綻判断で非常に重要な要素です。長期間にわたって別居し、夫婦としての交流がなく、生活費や家計も分離し、離婚協議や調停が進んでいる場合には、破綻を基礎づける強い事情になり得ます。
ただし、別居しているだけで破綻と決まるわけではありません。別居理由によって、裁判所の評価は大きく変わります。単身赴任、仕事の都合、介護、療養、子どもの進学、一時的な冷却期間などの理由で別居している場合には、夫婦共同生活を解消する意思があったとはいえないことがあります。
別居を評価するときは、次のような点を確認します。
- 別居の期間:数か月なのか、数年単位なのか。長期になるほど破綻方向の事情になりやすいです。
- 別居の理由:離婚前提の別居なのか、仕事・療養・冷却期間などの一時的な別居なのかを確認します。
- 別居後の交流:帰宅、面会、LINE、電話、家族行事への参加、看病などがあるかを見ます。
- 生活費・家計:生活費の負担、家賃、教育費、保険料、家計管理が続いているかを確認します。
- 離婚手続の進行:離婚条件の協議、弁護士通知、調停申立て、訴訟提起などがあるかを見ます。
別居中の不倫、家庭内別居、別居婚の場合の具体的な判断は、別居中の不倫は慰謝料請求できるかで詳しく解説しています。
離婚協議・調停申立て
離婚協議や離婚調停の有無も、破綻判断では重要です。特に、離婚調停の申立書、期日通知書、調停記録、弁護士からの通知書などは、夫婦関係が離婚に向けて具体的に進んでいたことを示す客観的資料になりやすいです。
もっとも、「離婚したい」と言ったことがある、夫婦げんかの中で離婚という言葉が出た、感情的に別れたいと伝えた、という程度では、破綻を示す事情としては弱い場合があります。重要なのは、離婚の意思が一時的な感情ではなく、具体的な条件協議や手続として現れていたかです。
離婚協議の評価では、次のような点が問題になります。
- 協議の具体性:親権、養育費、財産分与、慰謝料、住居、面会交流などの条件まで話し合っていたか。
- 協議の継続性:一度だけの発言ではなく、複数回・一定期間にわたって協議が続いていたか。
- 客観的資料:LINE、メール、録音、弁護士通知、調停申立書などの記録があるか。
- 協議後の行動:同居継続、家族行事、生活費負担、修復協議など、破綻と反対方向の事情がないか。
離婚調停を申し立てている場合でも、申立ての時期や背景、調停後の夫婦の行動が問題になります。調停申立ては強い資料になり得ますが、申立てだけで機械的に破綻が認められるわけではありません。
夫婦間交流・家族行事・生活費
破綻していないと反論する側にとって重要なのが、夫婦間交流、家族行事、生活費負担です。別居や不仲があっても、夫婦としての交流や経済的共同性が残っている場合には、婚姻関係がまだ回復可能だったと評価されることがあります。
たとえば、次のような事情は、破綻を否定する方向の資料になり得ます。
- 家族行事:子どもの誕生日、入園式・卒業式、運動会、家族旅行、親族行事に夫婦で参加していた。
- 日常的な連絡:LINE、電話、メールで生活相談、子どもの相談、体調確認、家計の相談をしていた。
- 生活費の負担:家賃、住宅ローン、教育費、保険料、生活費の送金が継続していた。
- 帰宅・面会:別居後も自宅に頻繁に戻り、家事・育児・看病などに関わっていた。
- 修復協議:夫婦関係をやり直すための話合い、カウンセリング、両家を交えた協議などがあった。
ただし、家族行事や生活費負担があるからといって、必ず破綻が否定されるわけでもありません。たとえば、子どものためだけに最低限の行事に参加していた、生活費の送金は法律上・生活上の義務として続けていただけ、夫婦としての修復協議は全くなかった、という場合には評価が変わることがあります。
したがって、家族行事や生活費負担を証拠にする場合は、「形式的に参加していたか」ではなく、「夫婦共同生活がなお残っていたことを示す内容か」を具体的に整理する必要があります。
家庭内別居・同居中の不仲
家庭内別居や同居中の不仲も、破綻判断で問題になることがあります。寝室が別、会話がない、食事を別にしている、家計を別にしている、長期間性的関係がないといった事情があれば、夫婦関係の悪化を示す資料にはなります。
しかし、同じ家で生活している以上、外部から見ると夫婦共同生活がなお残っていると評価されやすい面があります。そのため、家庭内別居は、長期別居や離婚調停ほど分かりやすい破綻事情にはなりにくく、単独では弱いことが少なくありません。
家庭内別居を破綻方向の事情として主張する場合は、次のような点を具体的に説明する必要があります。
- 寝室・食事・家計・休日の過ごし方がどの程度分離していたか。
- 夫婦間の会話や連絡が、どの程度なくなっていたか。
- 離婚協議、別居準備、調停申立てなど、関係解消に向けた行動があったか。
- 家族行事、生活費負担、子どもに関する相談など、破綻を否定する事情が残っていないか。
家庭内別居は、主張する側にとっても反論する側にとっても、客観的証拠をそろえにくい論点です。単なる不仲や夫婦げんかではなく、夫婦共同生活が実質的に失われていたといえるかを、生活実態の記録から整理する必要があります。
以上のように、婚姻関係の破綻判断では、別居・離婚協議・調停・夫婦間交流・家族行事・生活費などの考慮要素を一つずつ確認し、それぞれを裏付ける証拠を組み合わせて説明します。
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破綻を主張する側の証拠と、破綻していないと反論する側の証拠
婚姻関係の破綻が争点になるときは、請求された側が「夫婦関係はすでに終わっていた」と主張し、請求する側が「まだ夫婦共同生活は残っていた」と反論する形になることが多いです。そこで重要になるのは、単に証拠を集めることではなく、どの事実を、どの証拠で、どの時点について説明するのかを整理することです。
たとえば、長期別居は破綻を基礎づける強い事情になり得ます。しかし、単身赴任、仕事上の都合、療養、冷却期間としての一時的な別居であれば、同じ「別居」でも評価は変わります。反対に、家族旅行や生活費負担があっても、それが形式的なものにとどまる場合には、必ず破綻否定の決定打になるとは限りません。
以下では、破綻を主張する側の証拠と、破綻していないと反論する側の証拠・事情を、同じ表で整理します。自分に有利な資料だけを見るのではなく、相手方からどのような反論が出るかまで想定しておくことが大切です。
考慮要素×証拠力マトリクス
次の表は、婚姻関係の破綻判断で問題になりやすい事情を、考慮要素・証拠・反証の順に整理したものです。重要度はあくまで一般的な目安であり、最終的には、不倫が始まった時点の夫婦関係を総合して判断します。
| 類型 | 考慮要素としての重要度 | 破綻を主張する側の証拠 | 破綻していないと反論する側の証拠・事情 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 長期別居 | 高い。破綻判断の出発点になりやすい。 | 住民票、賃貸借契約書、別居先の公共料金・郵便物、別居先での生活実態を示す資料、別居開始時期が分かるLINEやメール。 | 単身赴任、仕事都合、療養、冷却期間、頻繁な帰宅、家族行事への参加、生活費負担、修復協議。 | 別居期間だけでなく、別居理由と別居後の交流実態を見る。 |
| 離婚調停・離婚訴訟の申立て | 非常に高い。客観的資料が残りやすい。 | 調停申立書、期日通知書、調停調書、訴状、準備書面、弁護士からの通知書。 | 申立後も同居していた、生活費負担が続いていた、修復に向けた話合いがあった、申立てが一時的な感情によるものだったという事情。 | 申立てがあると強い資料になるが、申立てだけで自動的に破綻と決まるわけではない。 |
| 離婚協議 | 協議の具体性により中〜高。 | 離婚条件を話し合ったLINE・メール、録音、財産分与・親権・養育費に関するメモ、離婚協議書案、弁護士通知。 | 一時的な喧嘩、抽象的な「離婚したい」という発言、具体的条件の協議がないこと、その後の同居継続や修復行動。 | 「離婚の話が出た」だけでは弱く、条件協議の具体性と継続性が重要になる。 |
| 生活実態の分離 | 中〜高。別居と組み合わさると強くなる。 | 家計分離、生活費送金の停止、別口座管理、別世帯としての支出記録、食事・寝室・休日の過ごし方の分離を示す記録。 | 生活費負担の継続、家賃・教育費・保険料の支払い、家計管理の継続、夫婦としての相談や役割分担。 | 経済的共同性や生活上の協力関係が残っているかが問題になる。 |
| 夫婦間交流の減少 | 中。ほかの事情との組み合わせで評価される。 | 連絡がほとんどないことを示す履歴、面会がないことを示す記録、互いの生活への無関心を示すLINEやメール。 | 日常的なLINE、電話、面会、看病、相談、帰宅、記念日や家族予定のやりとり。 | 交流の頻度だけでなく、夫婦としての交流か、子どものための事務連絡かを区別する。 |
| 家族旅行・子どもの行事参加 | 破綻していないと反論する側の重要要素。 | 破綻主張側からは「子どものためだけ」「形式的参加」と位置付けられやすい。 | 写真、チケット、予約記録、学校行事の記録、旅程表、家族でのLINE、行事後のやりとり。 | 破綻否定方向に働きやすいが、参加の目的・頻度・態様まで見る必要がある。 |
| 生活費負担・扶養 | 破綻していないと反論する側の重要要素。 | 破綻主張側からは「義務的な送金」「子どものための支払い」と説明されることがある。 | 通帳、振込履歴、家賃・教育費・保険料・医療費の支払記録、家計管理のやりとり。 | 単なる送金か、夫婦共同生活の経済的実体が残っていたかを分けて考える。 |
| 家庭内別居 | 低。単独では弱いことが多い。 | 寝室分離、会話なし、家計分離、食事別、長期間の不和を示す記録、離婚協議の記録。 | 同居、家計維持、家族行事、日常会話、子どもに関する共同対応、生活費負担。 | 外部から分かりにくいため、生活実態を具体的に示せる資料が必要になる。 |
| 「破綻していると聞かされた」 | 客観的破綻の証拠としては弱い。 | 不倫をした配偶者からのLINE、メール、会話録音、離婚予定や別居予定を示す発言。 | 実際には同居していた、生活費負担があった、家族行事があった、離婚協議が具体化していなかったという事情。 | 客観的破綻そのものではなく、故意・過失や減額事情として整理する余地がある。 |
表のとおり、同じ資料でも、どちらの立場から見るかによって意味が変わることがあります。たとえば、生活費の送金は、請求する側から見れば「夫婦としての経済的つながりが残っていた」という反論になりますが、請求された側から見れば「子どものための最低限の送金にすぎない」という説明になることもあります。
そのため、証拠整理では、証拠を単独で評価するのではなく、時系列上の位置づけを確認します。不倫開始前から別居や離婚協議が続いていたのか、不倫発覚後に別居や離婚協議が始まったのかによって、同じ資料でも意味が大きく変わります。
長期別居を主張された場合の反論
慰謝料を請求された側は、破綻を主張するために「長期間別居していた」と説明することがあります。長期別居はたしかに強い事情になり得ますが、請求する側としては、別居の年数だけであきらめる必要はありません。
反論の中心は、別居が夫婦関係の回復不能を意味するものだったのか、それとも別の理由による一時的・便宜的なものだったのかです。特に、次のような事情がある場合は、破綻していない方向の資料として整理できます。
- 別居理由:単身赴任、仕事上の都合、療養、介護、子どもの学校、冷却期間など、離婚前提ではない理由で別居していた。
- 帰宅・面会:別居後も頻繁に自宅へ戻っていた、宿泊していた、家族で過ごす時間があった。
- 家族行事:子どもの誕生日、入学式、卒業式、旅行、記念日などに家族として参加していた。
- 生活費:家賃、教育費、保険料、生活費などを継続して負担していた。
- 修復協議:夫婦関係を修復する話合い、カウンセリング、親族を交えた話合いがあった。
反対に、請求された側が長期別居を主張する場合は、単に「別居していた」と説明するだけではなく、別居開始時期、別居理由、別居後の交流の減少、生活費や家計の分離、離婚協議の進行状況をセットで示す必要があります。
重要なのは、別居の長さを「年数」で切り取るのではなく、不倫開始時点で夫婦共同生活が実質的に残っていたかを説明することです。長期別居があっても、家族としての交流や修復行動が濃ければ反論の余地があります。他方、交流が子どものための最低限のものにとどまり、夫婦としての修復実態がなければ、破綻方向に評価されやすくなります。
離婚協議を主張された場合の反論
「離婚の話をしていた」という主張も、破綻判断でよく出てきます。しかし、離婚という言葉が出たことと、婚姻関係が回復不能な状態にあったことは同じではありません。夫婦げんかの中で感情的に「離婚したい」と言っただけなのか、財産分与・親権・養育費・面会交流・住居などの具体的条件を継続的に協議していたのかを分けて考える必要があります。
請求する側が反論する場合は、次のような点を確認します。
- 発言の場面:一時的な口論の中の発言か、冷静な話合いの中での発言か。
- 協議の具体性:離婚条件、財産分与、親権、養育費、住居、慰謝料などの具体的な話合いがあったか。
- 協議の継続性:一度だけのやりとりか、一定期間にわたって継続していたか。
- 協議後の行動:同居、家族行事、生活費負担、夫婦間の相談などが続いていたか。
- 不倫発覚との前後関係:不倫前から離婚協議があったのか、不倫発覚後に離婚協議が始まったのか。
請求された側が破綻を主張する場合は、離婚協議の存在を示すLINEやメールだけでなく、その中身がどれほど具体的だったかを整理します。たとえば、「離婚したい」という短いメッセージよりも、親権、養育費、財産分与、別居後の住居などを具体的に話し合っている資料の方が、破綻方向の説明としては使いやすくなります。
ただし、離婚協議の資料がある場合でも、その後に夫婦関係を修復する行動があれば評価は変わります。離婚協議の証拠だけを切り出すのではなく、協議の前後にどのような交流があったかを一緒に確認する必要があります。
調停申立てがある場合の評価
離婚調停や離婚訴訟の申立ては、単なる口頭の離婚話よりも客観性が高く、破綻方向の強い資料になりやすいです。申立書、期日通知書、調停調書、訴状などは、作成時期や内容が明確に残るため、不倫開始時点との前後関係を整理しやすい資料です。
もっとも、調停申立てがあるからといって、その時点で必ず婚姻関係が破綻していたと決まるわけではありません。夫婦関係の修復を目的とする夫婦関係調整調停であったり、申立後も同居や生活費負担、家族行事、修復協議が続いていたりする場合には、なお破綻していないと反論する余地があります。
調停に関する資料を見るときは、次の点を分けて確認します。
- 申立ての種類が、離婚を求めるものか、夫婦関係の調整・修復を求めるものか。
- 申立日が、不倫開始前か、不倫発覚後か。
- 申立書に、別居、生活費、子ども、財産分与などの具体的事情がどの程度書かれているか。
- 調停中または申立後も、夫婦としての交流や生活費負担が続いていたか。
- 調停が不成立になった後、離婚訴訟や別居継続など、関係解消に向けた行動が続いたか。
請求された側は、調停資料を「破綻していた証拠」として出すだけでなく、不倫開始時点より前から離婚に向けた具体的な動きがあったことを示す必要があります。請求する側は、申立ての目的、申立後の行動、夫婦としての交流の有無を整理し、調停申立てだけでは回復不能な破綻とはいえない事情を検討します。
家族旅行・子どもの行事・生活費負担がある場合
婚姻関係が破綻していないと反論する側にとって、家族旅行、子どもの行事参加、生活費負担は重要な資料になりやすいです。これらは、夫婦共同生活の実体や家族としてのつながりがなお残っていたことを示し得るからです。
たとえば、家族旅行の写真、旅行予約の記録、チケット、学校行事の案内、行事当日の写真、夫婦間のLINE、生活費の振込履歴、家賃や教育費の支払記録などは、破綻否定方向の資料として整理できます。特に、不倫開始時点に近い時期の資料であれば、夫婦関係の実態を示す意味が大きくなります。
ただし、これらの資料も万能ではありません。請求された側からは、次のような反論が出ることがあります。
- 子どものために最低限参加しただけで、夫婦としての交流ではなかった。
- 生活費の支払いは、配偶者や子どもへの義務的な送金にすぎなかった。
- 旅行や行事は形式的なもので、夫婦関係の修復を意味しなかった。
- 行事参加の時期は不倫開始後であり、破綻時点の判断には直結しない。
- 写真やLINEは一部だけを切り取ったもので、全体としては別居・不和が続いていた。
そのため、破綻していないと反論する側は、単に写真や振込履歴を出すのではなく、その資料が何を示すのかを説明する必要があります。家族旅行であれば、誰が予約したのか、夫婦間でどのようなやりとりがあったのか、旅行後も家族としての交流が続いていたのかを確認します。生活費であれば、金額、支払頻度、支払目的、家計管理の実態を整理します。
一方、破綻を主張する側は、家族行事や生活費負担がある場合でも、それが夫婦共同生活の維持ではなく、子どものための限定的対応や義務的支払いにとどまることを説明できるかがポイントになります。
このように、破綻をめぐる証拠は「あるかないか」だけでは判断できません。証拠の時期、内容、継続性、前後の行動を時系列で並べ、破綻を基礎づける事情と、破綻していないと反論する事情を同時に見比べることが重要です。
裁判例から見る婚姻関係破綻の判断
ここまで、婚姻関係の破綻を判断するための考慮要素と証拠を整理してきました。もっとも、実際の事件では、別居があるか、離婚の話があるか、家族行事に参加しているかといった事情が一つだけ取り出されて判断されるわけではありません。裁判所は、それぞれの事情がいつ、どのような経緯で生じ、夫婦共同生活の回復可能性とどのように関係するのかを総合して判断します。
そこで、代表的な裁判例を見ておくと、破綻判断で何が重視されるのかが分かりやすくなります。特に重要なのは、不倫が始まった時点で、夫婦共同生活の平和がすでに失われていたかという視点です。別居があっても破綻が否定されることがあり、反対に家族行事への参加があっても、夫婦関係の修復を示す事情としては弱いと評価されることがあります。
最高裁平成8年3月26日判決|破綻後不貞の原則を示した裁判例
婚姻関係が破綻していた場合の不倫慰謝料について、最も重要な裁判例が最高裁平成8年3月26日判決です。この判決は、夫婦の一方と第三者が肉体関係を持った場合でも、その時点で夫婦の婚姻関係がすでに破綻していたときは、特段の事情がない限り、第三者は他方配偶者に対して不法行為責任を負わないと判断しました。
この考え方の根拠は、不倫慰謝料が「夫婦共同生活の平和」という法的利益の侵害を問題にする点にあります。夫婦関係がすでに回復不能な状態にあり、守るべき夫婦共同生活の平和が失われていたと評価される場合には、その後の不倫が、他方配偶者の法的利益を新たに侵害したとはいえないという整理になります。
ただし、最高裁判決を読むときに注意すべきなのは、単に不倫をした配偶者が「妻とは離婚することになっている」と説明していたというだけで責任が否定されたわけではない点です。実際には、夫婦関係の悪化、別居、単独生活などの客観的事情を踏まえて、肉体関係を持った時点で婚姻関係が破綻していたかが判断されています。
この判決から導けるのは、「破綻後の不倫は原則として慰謝料責任が否定され得る」という原則です。しかし、「本人から破綻していると聞いたから責任がない」という単純な結論ではありません。裁判で重視されるのは、発言そのものよりも、不倫開始時点の客観的な夫婦関係です。
そのため、請求された側は、破綻していたという結論だけを主張するのではなく、不倫開始前から別居が続いていたのか、離婚協議や調停が進んでいたのか、夫婦としての交流や生活費負担が残っていなかったのかを、時系列で説明する必要があります。反対に、請求する側は、不倫開始時点でも夫婦共同生活の平和が残っていたことを示す事情を整理することになります。
東京地裁平成23年6月30日判決|5年余りの長期別居から破綻を認めた例
東京地裁平成23年6月30日判決は、長期別居が破綻判断において強い要素になることを示す例です。この事件では、原告と夫は平成16年以降別居していました。その後、夫は平成21年11月ころ、学生時代に交際していた被告と再会し、交際を開始しました。原告は、被告が夫と不貞関係を持ち、夫婦の婚姻関係を破綻させたとして慰謝料を請求しました。
裁判所は、被告と夫の不貞関係の存在自体は認めました。しかし、被告と夫が交際を開始した時点では、原告と夫の別居生活は5年余りの長期に及んでいたと認定しました。そのうえで、被告が夫と不貞関係を持った当時、原告と夫の婚姻関係はすでに破綻していたとして、被告の不法行為責任を否定し、原告の請求を棄却しました。
この判決で特に重要なのは、原告側が「別居後も夫と交流があった」と主張していた点です。裁判所は、別居後の交流が主に子どもや家族行事に関するものにとどまると評価し、それだけでは夫婦関係が修復に向かっていたとはいえないと判断しました。
つまり、家族行事への参加や子どもを通じた連絡があるからといって、常に破綻が否定されるわけではありません。子どものための限定的な交流にとどまるのか、夫婦として生活を再建する方向の交流なのかが問題になります。長期別居が続き、夫婦としての生活再開や修復協議が見られない場合には、子どもを通じた一定の交流があっても、破綻を覆す事情としては弱いと評価されることがあります。
もっとも、この裁判例から「5年別居していれば必ず破綻」と考えるのは危険です。別居期間が長いことは強い事情になり得ますが、別居の理由、夫婦間の交流内容、生活費負担、離婚協議の状況、不倫が始まった時期を示す証拠などを総合して判断する必要があります。
東京地裁平成21年6月4日判決|別居後でも破綻を否定した例
一方、東京地裁平成21年6月4日判決は、別居していても直ちに婚姻関係が破綻していたとはいえないことを示す裁判例です。この事件では、夫婦が平成20年2月5日以降に別居していたため、被告側は、別居後の不貞であり、その時点では婚姻関係が破綻していたと主張しました。
しかし、裁判所は、別居が不貞発覚後の両家協議を経て冷却期間を置くために始まったものであり、離婚を前提にしたものではなかったと評価しました。また、別居開始後も、夫が自宅へ頻繁に戻っていたこと、子どもの誕生会や幼稚園の入園式に出席していたこと、原告の誕生日祝いを兼ねて家族で外出していたことなども重視しました。
その結果、裁判所は、仮に別居後の不貞に限定して考えても、その時点で夫婦の婚姻関係が破綻していたとは認められないと判断しました。そして、被告らに対し、慰謝料300万円、弁護士費用30万円、合計330万円の支払を命じました。
この裁判例から分かるのは、別居の開始理由が非常に重要であるという点です。同じ別居でも、離婚を前提とする別居なのか、冷却期間としての一時的な別居なのか、単身赴任や仕事上の都合による別居なのかで評価は変わります。さらに、別居後に自宅へ頻繁に戻っている、家族行事に参加している、夫婦間で修復可能性を前提としたやりとりがあるといった事情は、破綻を否定する方向に働くことがあります。
この判決は、前記の東京地裁平成23年6月30日判決と対比すると分かりやすいです。平成23年判決では、5年余りの長期別居と限定的な交流から破綻が認められました。これに対し、平成21年判決では、別居が短期間で、冷却期間として始まり、家族としての交流も残っていたため破綻が否定されました。結局、別居の有無だけでなく、別居の理由と別居後の交流の中身を確認する必要があります。
裁判例の比較表
3つの裁判例を、実務上の読み方に引き直すと次のように整理できます。
| 裁判例 | 結論 | 重視された事情 | 実務上の読み方 |
|---|---|---|---|
| 最高裁平成8年3月26日判決 | 破綻後の不貞は、特段の事情がない限り原則として不法行為責任を負わない | 不貞行為時点で婚姻関係が破綻していたか、夫婦共同生活の平和という保護利益が残っていたか | 判断基準時は不倫開始時点。本人の説明だけでなく、客観的な夫婦関係を見る。 |
| 東京地裁平成23年6月30日判決 | 婚姻関係の破綻を認め、請求を棄却 | 5年余りの長期別居、夫婦としての修復に向かったとはいえない交流、不貞開始時期の証拠関係 | 長期別居は強い事情。ただし、年数だけでなく別居後の交流の中身も確認する。 |
| 東京地裁平成21年6月4日判決 | 別居後であっても破綻を否定し、慰謝料等を認容 | 冷却期間としての別居、頻繁な帰宅、子どもの行事参加、家族での外出、離婚意思の時期 | 別居していても、冷却期間や修復可能性がある場合は破綻が否定され得る。 |
裁判例を比較すると、破綻判断では「別居があるか」「離婚の話があるか」といった単独の事情ではなく、複数の事情の組み合わせが重要であることが分かります。請求された側は、破綻を基礎づける事情を時系列で積み上げる必要があります。請求する側は、夫婦としての交流や修復可能性、生活費負担、家族行事など、夫婦共同生活の平和が残っていたことを示す事情を整理する必要があります。
また、いずれの裁判例でも、不倫開始時期が重要です。不倫が始まった時点で破綻していたのか、それとも不倫によって夫婦関係が壊れたのかで、結論は大きく変わります。証拠を集めるときも、単に「別居していた」「家族旅行があった」という事実だけでなく、その時期が不倫開始前なのか後なのかを意識して整理することが重要です。
「破綻していると聞かされていた」だけで慰謝料はゼロになるか
不倫慰謝料の相談では、不倫相手から「夫婦関係はもう破綻している」「妻とは別れる予定だ」「夫とは離婚協議中だ」と聞かされていた、という説明がよく出てきます。請求された側としては、「破綻していると聞いていたのだから慰謝料は払わなくてよい」と考えたくなるかもしれません。
しかし、相手から破綻していると聞かされていたことと、客観的に婚姻関係が破綻していたことは別問題です。裁判所が見るのは、不倫をした配偶者の説明そのものではなく、別居期間、別居理由、離婚協議・調停の有無、生活費、家族行事、夫婦間交流などの客観的事情です。
相手の説明だけでは客観的破綻の証拠になりにくい
既婚者が不倫相手に対して「夫婦関係は終わっている」と説明していたとしても、その説明は一方当事者の発言にすぎません。実際には同居が続いていたり、生活費を負担していたり、家族旅行や子どもの行事に参加していたりする場合には、客観的には夫婦共同生活が残っていたと評価されることがあります。
たとえば、LINEで「妻とは別れるつもり」「もう夫婦としては終わっている」と書かれていた場合、そのLINEは「そのような説明を受けていた」という証拠にはなります。しかし、それだけで「夫婦関係が裁判上破綻していた」という証拠になるわけではありません。実際の同居状況、別居の有無、離婚協議の具体性、調停申立ての有無、家計や家族行事の実態と照らし合わせる必要があります。
- 相手の説明を示す証拠は、故意・過失や減額事情の検討に役立つことがあります。
- 客観的破綻を示す証拠は、別居、調停、離婚協議、生活実態の分離などを裏付ける資料です。
- 両者を混同すると、免責主張が弱くなり、交渉で相手方の反発を招くことがあります。
このように、「聞かされていた」ことは無意味ではありませんが、婚姻関係破綻の証拠としては限界があります。請求された側は、発言の証拠と、夫婦関係そのものを示す証拠を分けて整理する必要があります。
相談実務上よくある「妻とは別れる」「夫婦関係は終わっている」という説明
相談実務では、既婚者側が不倫相手に対し、「配偶者とは別れる予定だ」「夫婦関係はもう終わっている」「離婚の話は進んでいる」と説明していたケースが少なくありません。特に、既婚男性からそのような説明を受けていたという相談はよくあります。
もちろん、本当に離婚協議が進んでいて、別居や調停申立てなどの客観的事情が存在するケースもあります。しかし、実際には、同居が続いていた、生活費を支払っていた、子どもの行事や家族旅行に参加していた、配偶者に離婚意思を明確に伝えていなかったというケースもあります。
一般向けメディアやアンケートでも、「離婚するつもり」という既婚者側の説明が、実際の離婚意思や生活実態と一致しないことがある点はしばしば注意喚起されています。もっとも、法律上の結論は、そうした一般論だけで決まるものではありません。最終的には、個別の事案で、別居や離婚協議、家族行事、生活費、夫婦間連絡などの客観的事情を確認する必要があります。
したがって、請求された側が「相手からそう聞いていた」と説明する場合には、その発言だけを前面に出すのではなく、次のような点を確認することが重要です。
- 相手から破綻していると説明された時期はいつか。
- その時点で別居や離婚協議が実際にあったか。
- 調停申立て、弁護士通知、離婚条件の協議などの客観的資料があるか。
- 同居、生活費負担、家族行事、夫婦間LINEなど、破綻を否定する事情を知り得たか。
- 請求を受けた後に、どのような説明順序で交渉するのが適切か。
この整理をしないまま「破綻していると聞かされていたので責任はない」とだけ主張すると、相手方から「都合のよい言い訳をしている」と受け止められ、話合いが感情的になりやすくなります。
故意過失・減額事情として整理する余地
「破綻していると聞かされていた」という事情は、客観的な婚姻関係破綻そのものを示す証拠としては弱いことが多いです。しかし、請求された側にとって、まったく意味がないわけではありません。事案によっては、故意・過失の程度や、慰謝料額を減額する事情として整理できる余地があります。
たとえば、不倫をした配偶者から、別居している、離婚協議中である、配偶者も離婚を了解している、調停を申し立てる予定であるなどと具体的に説明されており、その説明を裏付けるような資料や状況も一部存在していた場合には、請求された側の認識や過失の程度を検討する余地があります。
一方で、既婚者であることを知っていながら、配偶者に確認せず、同居や家族行事が続いていることを知り得たのに関係を継続した場合には、「聞かされていた」という主張だけで大きく有利になるとは限りません。むしろ、客観的事情を確認しないまま関係を続けた点が問題にされることもあります。
そのため、この論点では、次のように段階を分けて考える必要があります。
- 第1段階:不倫開始時点で、客観的に婚姻関係が破綻していたといえるか。
- 第2段階:客観的破綻が認められないとしても、請求された側がどのような説明を受け、何を信じていたか。
- 第3段階:その認識が、故意・過失の程度や慰謝料額の減額事情として評価できるか。
- 第4段階:免責主張、減額交渉、早期示談のどれを交渉方針にするのが現実的か。
この段階を飛ばして、最初から「破綻していたから払わない」と断言すると、客観的証拠が足りない場合に交渉上不利になることがあります。証拠の強さに応じて、免責を主張するのか、減額を中心に交渉するのかを見極めることが大切です。
ゼロ回答で交渉をこじらせない
慰謝料請求を受けたとき、感情的に「夫婦関係は破綻していたと聞いていたので、一切支払いません」と返答したくなることがあります。しかし、相手方から見れば、不倫をした側が責任を逃れようとしているように受け止められ、交渉が一気にこじれることがあります。
特に、請求する側が、家族旅行の写真、夫婦間のLINE、生活費の支払記録、子どもの行事への参加記録などを持っている場合、こちらがゼロ回答をすると、相手方は「破綻などしていなかった」と強く反論し、訴訟に発展するリスクもあります。
請求された側がまず行うべきなのは、相手方の請求を感情的に否定することではなく、証拠を分類することです。具体的には、「客観的に破綻していたことを示す資料」「破綻していると聞かされていたことを示す資料」「減額事情として使える資料」「相手方から反論されそうな資料」に分けて整理します。
- 客観的破綻が強く主張できる場合は、免責主張を中心に検討する。
- 客観的破綻までは弱い場合は、故意過失や減額事情として整理する。
- 相手方の反証が強い場合は、早期示談や減額交渉を現実的に検討する。
実際の解決事例として、夫婦関係は破綻していると言われて不倫関係を続けたケースでは、事情の整理と交渉により請求額を大きく減額できた例もあります。具体的な交渉のイメージは、夫婦関係は破綻していると言われて不倫した場合の減額事例も参考になります。
「破綻していると聞かされていた」という事情は、使い方を誤ると相手方の反発を招きます。一方で、時期、発言内容、客観的事情、請求された側の認識を丁寧に整理すれば、免責または減額の交渉材料になることがあります。請求を受けた段階では、結論を急がず、まず証拠と時系列を整理することが重要です。
破綻を理由に慰謝料を請求された/請求を拒まれた場合の初動対応
婚姻関係の破綻が争点になる場合、最初の対応で大切なのは、感情的な反論をすることではなく、不倫が始まった時点の夫婦関係を、時系列と証拠で整理することです。
請求された側は「夫婦関係はすでに破綻していた」と主張したくなります。反対に、請求する側は「まだ夫婦としての実体が残っていた」と反論する必要があります。どちらの立場でも、結論だけを先に出すと、相手方の反発を招き、交渉が長期化しやすくなります。
ここでは、請求された側と請求する側に分けて、最初に整理すべき資料と注意点を確認します。
請求された側が整理すべき資料
慰謝料を請求された側が破綻を主張する場合、まず整理すべきなのは「不倫の時点で、夫婦共同生活がすでに回復困難な状態だった」と説明できる事情です。特に、次の資料を時系列で確認します。
- 不倫開始時期に関する資料:交際開始日、肉体関係の開始時期、メッセージ履歴、会うようになった経緯、相手方からの請求書面など。
- 別居に関する資料:住民票、賃貸借契約書、転居日が分かる郵便物、公共料金、別居先での生活実態、別居理由を示すLINEやメールなど。
- 離婚協議・調停に関する資料:離婚条件を話し合ったLINE、メール、録音、内容証明、弁護士からの通知、調停申立書、期日通知書など。
- 生活実態の分離に関する資料:家計分離、生活費の支払状況、別口座管理、家賃や教育費の負担、互いの生活への関与の有無など。
- 「破綻している」と聞かされた経緯:既婚者側から受けた説明、その時期、発言内容、説明を信じた理由、確認できた客観的事情など。
請求された側で注意すべきなのは、証拠の量だけでなく、不倫開始時期より前の事情を中心に整理することです。不倫後に別居が始まった、発覚後に離婚協議が進んだ、発覚後に夫婦関係が悪化したという事情は、「不倫によって破綻した」と評価される可能性があります。
そのため、「現在は夫婦関係が終わっている」という説明だけでは足りません。不倫が始まる前から、別居、離婚協議、生活実態の分離、夫婦間交流の消失などがあったかを確認する必要があります。
請求する側が反論として整理すべき資料
一方で、慰謝料を請求する側が「破綻していなかった」と反論する場合は、夫婦共同生活の実体が残っていたことを示す資料を集めます。破綻を主張されたときに有効になりやすいのは、次のような資料です。
- 家族としての行動を示す資料:家族旅行、子どもの行事、誕生日、入園式・卒業式、外食、帰省などの写真、チケット、予約記録、日程表。
- 夫婦間の連絡を示す資料:日常的なLINE、電話履歴、体調を気遣う連絡、子どもや家計の相談、将来の生活に関するやりとり。
- 経済的共同性を示す資料:生活費の振込、家賃・住宅ローン・教育費・保険料の支払い、家計管理、共通口座の利用状況。
- 修復可能性を示す資料:夫婦での話合い、両家を交えた協議、冷却期間としての別居、カウンセリング、謝罪や再構築に向けた連絡。
- 離婚意思の時期を示す資料:離婚を明確に伝えた時期、調停申立ての時期、弁護士通知の時期、不倫発覚前後の言動。
破綻を否定する側では、「別居していたとしても、その別居は冷却期間だった」「離婚を前提にした別居ではなかった」「別居後も家族行事や生活費負担が続いていた」といった説明が重要になることがあります。
ただし、家族行事や生活費負担がある場合でも、必ず破綻が否定されるわけではありません。長期別居が続き、夫婦としての修復協議がなく、交流が子どものための限定的なものにとどまる場合には、反論として十分でないこともあります。資料を集めるときは、単発の出来事だけでなく、前後の流れもあわせて整理しましょう。
弁護士相談前に時系列表を作る
婚姻関係の破綻をめぐる相談では、資料そのものと同じくらい、時系列の整理が重要です。弁護士に相談する前に、できる範囲で次の順番に出来事を並べておくと、見通しを立てやすくなります。
- 夫婦関係が悪化した時期
- 別居を開始した時期と理由
- 離婚協議や調停が始まった時期
- 不倫相手との交際・肉体関係が始まった時期
- 不倫が発覚した時期
- 離婚意思を明確に示した時期
- 慰謝料請求を受けた時期、または請求した時期
時系列表を作るときは、各出来事の横に「証拠」を書き添えると効果的です。たとえば、「令和○年○月に別居」と書くだけでなく、「住民票」「賃貸借契約書」「転居時のLINE」など、裏付けとなる資料を対応させます。
反対に、証拠がない出来事については、無理に断定しないことも大切です。裁判や交渉では、相手方から「その時期は違う」「その発言はしていない」「別居は一時的なものだった」と反論されることがあります。証拠が弱い部分を把握しておくことで、主張の組み立て方を調整しやすくなります。
「支払いません」と即答しない
請求された側で特に避けたいのは、「婚姻関係は破綻していたので一切支払いません」とすぐに返答してしまうことです。実際には、破綻が認められるかどうかは事案ごとの総合判断であり、証拠が不足している段階で強い拒絶をすると、相手方が訴訟を選択するなど、解決が難しくなることがあります。
破綻の主張が使える可能性がある場合でも、方針は一つではありません。客観的に破綻を立証できるなら免責を主張する余地がありますし、破綻までは認められにくい場合でも、夫婦関係の悪化や「破綻している」と聞かされていた事情を減額材料として整理できることがあります。証拠が弱い場合には、早期解決を優先して金額や支払条件を調整する方が現実的なこともあります。
請求する側も同じです。相手方が「破綻していた」と主張してきた場合に、感情的に否定するだけでは不十分です。家族行事、生活費、夫婦間連絡、冷却期間としての別居、修復協議など、破綻していないことを示す資料を具体的に示すことで、交渉上の説得力が高まります。
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よくある質問
婚姻関係が破綻していた証拠には何がありますか
代表的なものとして、長期別居を示す住民票、賃貸借契約書、公共料金、郵便物、離婚協議のLINEやメール、内容証明、調停申立書、期日通知書、生活費の分離を示す通帳や振込履歴などがあります。
ただし、証拠は単独で評価されるものではありません。たとえば住民票上の別居があっても、頻繁に帰宅していた、生活費を負担していた、家族行事に参加していたといった事情があれば、破綻を否定する方向に働くことがあります。
婚姻関係が破綻していない証拠には何がありますか
家族旅行の写真、子どもの行事への参加記録、夫婦間のLINE、生活費の支払記録、家族での外出記録、看病や相談の履歴、冷却期間として別居していたことを示すやりとりなどが考えられます。
特に、別居後も夫婦としての連絡や家族としての行動が継続していた場合は、破綻を否定する重要な事情になり得ます。ただし、交流が子どものためだけだったのか、夫婦関係の修復に向けたものだったのかによって評価は変わります。
別居何年で婚姻関係は破綻しますか
「何年別居すれば必ず破綻」といえる明確な年数はありません。長期別居は破綻を基礎づける強い事情になり得ますが、別居の理由、夫婦間の交流、生活費の負担、離婚協議の有無、家族行事への参加などを総合して判断します。
たとえば、単身赴任、仕事上の都合、療養、冷却期間としての一時的な別居であれば、別居していても破綻とは評価されにくいことがあります。一方、長期間の別居に加えて、離婚協議や生活実態の分離が進んでいれば、破綻が認められやすくなります。
家庭内別居でも破綻は認められますか
家庭内別居でも、夫婦共同生活が実質的に失われていたといえる場合には、破綻を主張する余地があります。ただし、同じ住居で生活している以上、通常の別居よりも客観的な説明が難しくなることが多いです。
寝室の分離、会話の断絶、家計分離、長期間の不和、離婚協議、生活時間の完全な分離などを示す資料が必要になります。反対に、家計が一体で、家族行事や日常会話があり、夫婦としての生活実態が残っている場合は、破綻が否定されやすくなります。
夫婦関係が破綻していると聞かされて不倫した場合、慰謝料は払わなくてよいですか
不倫をした配偶者から「夫婦関係は破綻している」「離婚する予定だ」と聞かされていたとしても、それだけで当然に慰謝料が不要になるわけではありません。裁判所が重視するのは、発言そのものではなく、別居、離婚協議、調停、生活費、家族行事、夫婦間交流などの客観的事情です。
もっとも、説明を受けた経緯や、実際に別居・離婚協議などの客観的事情があった場合には、故意・過失の程度や慰謝料額の評価に影響することがあります。請求を受けたときは、発言内容だけでなく、発言を信じた理由と客観的事情をあわせて整理することが重要です。
まとめ
婚姻関係の破綻が不倫慰謝料で問題になるときは、「不倫があったかどうか」だけでなく、「不倫が始まった時点で夫婦共同生活の平和が残っていたか」が重要になります。最後に、本記事の要点を整理します。
- 婚姻関係が不倫前にすでに破綻していた場合、原則として不倫相手の慰謝料責任は否定され得ます。
- 破綻判断は、別居期間だけでなく、別居理由、離婚協議、家族行事、生活費、夫婦間交流などを総合して行われます。
- 考慮要素と証拠は別です。事実関係を、住民票、LINE、調停資料、写真、振込履歴などで裏付ける必要があります。
- 破綻していないと反論する側は、家族行事、生活費負担、夫婦間連絡、冷却期間としての別居などを整理します。
- 「破綻していると聞かされていた」だけでゼロとは限らず、故意・過失や減額事情として整理する視点が重要です。
請求された側は、破綻を理由に支払義務を争う余地があるとしても、証拠が不足したまま強い拒絶をすると、交渉がこじれることがあります。請求する側も、相手方の「破綻していた」という主張に対して、感情的に反論するだけでは十分ではありません。
まずは、不倫開始時期、別居開始時期、離婚協議や調停の時期、家族行事、生活費、夫婦間連絡を時系列で整理しましょう。そのうえで、免責を主張するのか、減額交渉をするのか、破綻していなかったことを反論するのかを検討することが大切です。
坂尾陽弁護士
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