婚姻関係が“破綻”していたら慰謝料請求はできない?—破綻の判断基準と請求の可否を徹底解説

「慰謝料請求 破綻」というキーワードで検索する方は、不倫慰謝料を請求する・または請求される場面で「夫婦がすでに破綻していたかどうか」が大きな争点になることを知っているはずです。

不倫における損害賠償(慰謝料)は、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権を根拠としますが、もし夫婦関係がすでに破綻していた場合、慰謝料が認められない、あるいは大幅に減額される可能性があります。

そこで本記事では、「どの時点で破綻とみなされるのか」「破綻していたら本当に慰謝料請求はできないのか」といった疑問に答えるべく、代表的な裁判例や実務上の判断基準を中心に解説していきます。なお、慰謝料を請求された側で破綻の抗弁が認められるかはこちらの記事も参考にしてください。

(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

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なぜ「破綻」が問題になるのか

不倫による慰謝料請求は「夫婦の一方(被害者)の権利や法的利益を侵害した」と判断できるかがカギになります。

そのため最高裁判所の判例によれば、

「夫婦の一方と第三者が肉体関係を持ったとしても、その時点で夫婦が既に破綻していた場合、特段の事情のない限り、第三者に不法行為責任は認められない」(最高裁平成8年3月26日判決 等)

とされています。

つまり、不倫が始まった時点で夫婦の婚姻関係が事実上破綻していた場合、「夫婦の平和な共同生活」という権利・利益が存在しないため、そもそも保護に値しないと判断されるのです。

破綻の判断基準とよくある誤解

「別居している」=「破綻」ではない

別居しているからといって自動的に破綻が認められるわけではありません。別居中も夫婦が連絡を取り合い、修復に向けた努力をしている可能性があるからです。たとえば東京地裁平成21年6月4日判決では、別居を開始していても夫婦が交流を保ち「婚姻関係が完全に壊れたとはいえない」と判断し、慰謝料請求が認めらています。

長期別居や離婚協議の有無が破綻のポイント

一方、東京地裁平成23年6月30日判決では5年以上の別居期間や夫婦関係修復の試みが一切ない等の事実から「すでに破綻していた」と認定され、不倫相手に慰謝料を請求できなかった例があります。
判断要素としては、以下が挙げられます。

  • 別居期間(年単位の長期かどうか)
  • 別居の理由(不倫発覚後の一時的別居か、修復を諦めたのか)
  • 夫婦間の連絡・面会の状況
  • 家族行事(子どもの行事など)への参加
  • 離婚協議や調停の進行状況

既成事実化と破綻

時折、「不倫相手と同棲してしまえば夫婦関係は破綻するだろう」と考えられることがあります。しかし、裁判所は「不倫によって夫婦関係が壊れた」場合は、破綻を招いた原因が不倫行為自体にあるため、不貞慰謝料の責任が発生すると判断する傾向にあります。

最高裁平成8年3月26日判決では「既に夫婦関係が破綻していたか否か」を厳格に見ており、不倫が原因で破綻したなら慰謝料は請求可能と認定する下級審判例も多数です。つまり、不倫関係と婚姻関係の破綻の前後関係がとくに重要となります。

婚姻関係が破綻していると聞かされていた場合

不倫相手が「婚姻関係は破綻している」と聞かされていた場合は、不倫慰謝料を請求するための条件である不倫相手の故意・過失が認められるかがポイントになります。つまり、婚姻関係が破綻していると誤信していた=不貞行為について違法性の認識がないため故意・過失がなかったと判断される可能性です。この点については、近時の裁判例においては婚姻関係が破綻していると誤信した場合でも慰謝料請求が認められると判断することがほとんどです。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

簡単に婚姻関係の破綻が認められるわけではありません

慰謝料を請求できる場合・できない場合

請求できる場合

  1. 夫婦が修復を試みていた
    • 別居後でも定期的に連絡を取り合い、復縁に向けた話し合いをしていた
  2. 別居していない(婚姻関係が継続している)
    • まだ夫婦が同居しており、家計や生活も共同で営んでいる
  3. 不倫が破綻を決定づけた
    • 破綻が不倫によって初めてもたらされた場合、不倫による権利侵害が認められる

請求が難しい場合

  1. 長期間の別居で事実上の離婚状態
    • 数年単位で夫婦としての実態がなく、連絡もほとんど取っていない
  2. 離婚協議・調停が長く継続していた
    • 夫婦ともに離婚の意思が固まっており、夫婦の実質的な交流がない
  3. 特段の事情がない
    • 最高裁の基準では、破綻後の不貞行為は慰謝料責任を負わないとされています。もっとも、特段の事情として具体的にどのような場合が当たるかは議論があるところです。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

婚姻関係の破綻に関する裁判例とポイント

4-1.最高裁平成8年3月26日判決

  • 概要
    夫婦の一方が第三者と肉体関係を持ったとしても、その時点で夫婦関係が既に破綻していた場合、原則として第三者の不法行為責任は否定される。
  • ポイント
    破綻の時期をめぐる主張立証が重要。破綻後に不貞関係になったのであれば慰謝料請求は難しい。

4-2.東京地裁平成23年6月30日判決

  • 概要
    5年以上の別居期間を経ていた夫婦で、再会した元カノと夫が不貞行為。別居が長期にわたり、婚姻関係が実質的に破綻していたと認定。慰謝料請求は棄却された。
  • ポイント
    別居期間や夫婦間の連絡状況が裁判所にとって破綻認定の核心となる。

4-3.東京地裁平成21年6月4日判決

  • 概要
    夫婦が別居していても、夫が頻繁に自宅へ戻り、家族行事にも参加していたため、破綻とはいえないと判断。夫と第三者の不倫が婚姻関係を破綻させたとされ、慰謝料請求を認容。
  • ポイント
    「別居=破綻」ではない。別居期間中の夫婦の態様(連絡・面会など)が重要視される。

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破綻をめぐる証拠・立証のコツ

破綻の有無は、訴訟や示談交渉で熾烈に争われます。立証のコツとしては下記を意識しましょう。

  • 夫婦が同居していたか、別居していたか、別居期間はどのくらいか
  • 離婚協議や調停の開始時期、相手の言動
  • 子どもの行事・日常生活への参加状況
  • メールやSNSでのやりとり(修復の努力の有無)

証拠が乏しいと「破綻」の判断に関し、自分に不利になる恐れがあります。破綻していないことを主張するなら、夫婦が一緒に生活や行事をしている写真やメッセージ履歴をきちんと保管しておくことが重要です。

なお、婚姻関係が破綻していない場合でも、破綻寸前であったとして慰謝料の減額事由になることがあります。

「破綻を理由に慰謝料を払わない」と言われたら

まずは冷静に証拠を確認

相手(不倫をした配偶者、または不倫相手)に「もう夫婦は破綻していた」と主張されても、実際には修復の兆しがあった可能性があります。以下の点をチェックしてみてください。

  • 別居していた? どのくらい?
  • 子どもの学校行事や家族旅行などを一緒にしていた?
  • 夫婦としての家計管理はどうしていた?

弁護士への相談

破綻の有無は、裁判所でも難しい判断を要する論点です。証拠の整理や効果的な主張立証の進め方について、経験豊富な弁護士へ早めに相談することで、スムーズな紛争解決が期待できます。

注意

「破綻していたかどうか」は、請求額が大きく変わる一大争点です。弁護士に相談して慎重に検討しましょう。

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まとめ

  • 破綻とは:夫婦共同生活が事実上継続不可能な状態を指し、別居しているかどうかだけではなく、夫婦の交流状況や離婚意思の有無など総合的に判断される。
  • 慰謝料請求の可否:不倫によって夫婦関係が壊れたなら慰謝料が認められる可能性が高いが、不倫発覚前にすでに夫婦関係が破綻していた場合、慰謝料は認められない場合がある。
  • 証拠収集:破綻していなかったことを主張する側は、夫婦が協力していた事実や連絡のやり取りを証拠に残すことが鍵。
  • 専門家に相談:裁判例を踏まえた正確な見解と戦略が必要なため、早めの弁護士相談がおすすめ。

不倫慰謝料の成否を左右する「破綻」の問題は、個別事情によって結果が大きく変わります。お悩みの方は、証拠や状況を整理した上で、ぜひ専門家に相談してみてください。

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