不倫の違約金は有効?相場・高すぎる場合の無効/減額と請求された時の対応

不倫の示談書や誓約書では、「今後連絡したら1回30万円」「再度不貞行為をしたら1回100万円」「口外したら違約金を支払う」などの条項が定められることがあります。こうした不倫の違約金は、約束を守らせるために有効な手段になり得ますが、金額・違反内容・回数の数え方によっては、全額をそのまま支払う必要があるとは限りません。

特に、接触禁止違反や口外禁止違反では、違反によってどの程度の損害が発生したのかを後から正確に証明することが難しい場合があります。そのため、合理的な範囲で違約金をあらかじめ定めておくことには、違反を抑止し、約束を守らせる意味があります。

もっとも、「違約金」と書いてあればどのような金額でも有効になるわけではありません。裁判例では、接触禁止違反について500万円・1000万円といった高額な違約金が定められていた事案で、150万円を超える部分を無効としたものがあります。一方で、LINEの連絡を1日単位で数え、1日30万円×78日分として2340万円の支払を認めた裁判例や、再度不貞行為1回100万円×6回の600万円を認めた裁判例もあります。

  • 接触禁止違反と再度不貞では、違約金の目安が異なります。
  • 示談書で定める金額と、裁判例で認められる金額は分けて考えます。
  • 高すぎる違約金は、一部無効・権利濫用などが問題になります。
  • LINEやメールの「1回」の数え方で、請求額が大きく変わります。
  • 請求された場合は、支払う前に条項・証拠・金額を確認します。

坂尾陽弁護士

違約金を請求された場合は、金額だけでなく「どの条項に、いつ、何回違反したとされているのか」から確認することが大切です。
(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

不倫慰謝料に詳しい坂尾陽弁護士

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不倫の違約金とは?定めるメリットと示談書・誓約書で使われる場面

不倫問題でいう違約金とは、示談書・誓約書・合意書などで定めた約束に違反した場合に、違反した人が支払う金銭のことです。典型的には、「不貞相手と今後連絡を取らない」「再度不貞行為をしない」「不倫の事実や示談内容を第三者に口外しない」といった約束を守らせるために定められます。

違約金は、慰謝料そのものとは少し役割が違います。慰謝料は、過去の不貞行為によって受けた精神的苦痛を償うための金銭です。これに対し、違約金は、示談後の約束違反に備えて、あらかじめ支払額を定めておくものです。過去の不貞の慰謝料と、示談後に約束を破った場合の違約金を分けて考えることが重要です。

不倫の違約金が問題になる典型場面

違約金は、主に次のような場面で問題になります。

  • 接触禁止条項に違反した場合:LINE・電話・メール・SNS・面会など、相手との接触を禁止する条項に違反した場面です。接触禁止条項の意味や職場での例外は、接触禁止条項について解説した記事で詳しく説明しています。
  • 再度不貞行為をした場合:示談後に再び肉体関係を持った場面です。単なる連絡や面会より重く見られやすく、違約金も高めに定められる傾向があります。
  • 口外禁止条項に違反した場合:不倫の事実、示談内容、慰謝料額などを家族・職場・SNSなどに話した場面です。詳しい考え方は、口外禁止条項について解説した記事で扱います。
  • 慰謝料の分割払いを怠った場合:分割払いの期日に支払わなかった場合に、残額の一括請求や遅延損害金、違約金が問題になることがあります。
  • 公正証書にした合意に違反した場合:強制執行認諾文言付きの公正証書では、支払義務を怠ると強制執行リスクが高くなります。公正証書の詳しい作り方は、不倫慰謝料の公正証書について解説した記事で確認できます。

示談書・合意書・誓約書のどれに違約金条項を入れるかによって、条項の書き方や確認すべき点は変わります。書面全体の作り方を確認したい場合は、不倫示談書・合意書の作成ガイド不倫誓約書の作成ガイドもあわせて確認してください。

不倫示談で違約金を定めるメリット

不倫示談で違約金を定める大きなメリットは、損害額を後から立証しにくい約束違反にも、一定の実効性を持たせやすいことです。

たとえば、示談後に不貞相手と数回LINEをした、短時間だけ会った、示談内容を第三者に話したといったケースでは、「その違反によって精神的苦痛がいくら発生したのか」を後から具体的に証明することは簡単ではありません。そこで、あらかじめ「違反した場合は1回○万円」と定めておくことで、違反後の損害額の争いを減らし、条項を守らせやすくする意味があります。

  • 違反を抑止しやすい:単に「連絡しない」と書くだけでなく、違反時の金額を定めることで、相手に約束を守らせる心理的な効果が期待できます。
  • 損害額の争いを減らしやすい:接触や口外のように損害額が見えにくい違反でも、支払額をあらかじめ定めておくことで、請求時の争点を絞りやすくなります。
  • 請求時の整理がしやすい:違反後は、「どの条項に違反したか」「何回違反したか」「証拠があるか」を中心に請求を組み立てやすくなります。

東京地裁平成25年12月4日判決も、面会・連絡等禁止条項について、不貞関係を断ち切らせ、精神的安定を確保し、婚姻関係を修復するという正当な利益を保護するものとしたうえで、その履行を確保するために違約金を定めること自体は、目的達成のために必要かつ相当な措置と整理しています。

ただし、違約金を定めるメリットがあるからといって、金額をいくらでも高くしてよいわけではありません。違約金額が違反行為の内容や保護される利益と比べて著しく高すぎる場合には、後から無効・一部無効を主張されるリスクがあります。

違約金は損害賠償額の予定として扱われることが多い

法律上、違約金は損害賠償額の予定と推定されます。損害賠償額の予定とは、契約違反があった場合に、実際の損害額を個別に証明しなくても、あらかじめ定めた金額を損害賠償額として扱うという考え方です。

不倫の示談でも、違約金条項は、この損害賠償額の予定として問題になることがあります。そのため、裁判所は、条項の目的、守ろうとした利益、違反行為の内容、金額の合理性、合意に至った経緯などを見て、違約金が有効かどうかを判断します。

たとえば、接触禁止違反について1回10万円から30万円程度を定める場合と、接触しただけで500万円や1000万円を支払うと定める場合では、裁判所の評価が変わり得ます。金額が高いほど、なぜその金額が必要なのか、違反行為との均衡があるのかが問題になりやすくなります。

請求する側と請求された側で見るべきポイントは違う

違約金について考えるときは、請求する側と請求された側で見るべきポイントが異なります。

請求する側は、まず、書面に有効な違約金条項があるか、相手が具体的にどの条項に違反したか、その違反を裏付ける証拠があるかを確認する必要があります。違反回数や請求額を過大に主張すると、相手から公序良俗違反、一部無効、権利濫用などを主張される可能性があります。

請求された側は、署名した書面の種類、禁止された行為、実際の行為、証拠の有無、1回の数え方、業務連絡などの例外、婚姻関係が破綻していたか、サイン過程に問題がなかったかを確認する必要があります。金額だけを見て判断するのではなく、条項・事実・証拠・時期を分けて確認することが重要です。


不倫の違約金の相場・目安|示談で定める金額と裁判例上の金額は分けて考える

不倫の違約金の相場を考えるときは、示談書で最初に定める金額の目安と、裁判例で結果的に認められた金額を分ける必要があります。

示談書で定める金額は、相手に約束を守らせるために合理的な範囲で設定するものです。これに対し、裁判例で認められた金額は、具体的な事案における違反回数、違反態様、婚姻関係への影響、証拠関係などを踏まえて、裁判所が判断した結果です。両者を混同すると、「示談書に最初から高額な違約金を書いてよい」という誤解にも、「高額なら必ず無効になる」という誤解にもつながります。

示談書・誓約書で定める違約金の目安

示談書や誓約書で違約金を定める場合の目安は、違反の種類によって異なります。大まかには、単なる連絡・面会などの接触禁止違反よりも、再度不貞行為の方が高くなりやすいです。

違約金の類型 示談書で定める目安 注意点
連絡・面会などの接触禁止違反 10万円〜30万円程度。50万円はやや高めですが、事案によってはあり得ます。 「1回」の定義、業務連絡、相手から連絡が来た場合の例外を確認します。
再度不貞行為 100万円〜200万円程度までなら一般的な金額といえます。 単なる連絡や面会より重く見られやすく、裁判例でも1回100万円が認められた例があります。
口外禁止条項違反 事案により差があります。この記事では一類型として短く扱います。 誰に、何を、どの範囲で口外したか、証拠があるかが問題になります。
分割払い不履行・公正証書上の違反 支払条件や期限の利益喪失条項と合わせて確認します。 公正証書にしていても、高額な違約金が当然に全額有効になるわけではありません。

上記はあくまで示談条項で定める場合の目安です。同じ「接触禁止違反」でも、短いLINEを1回送っただけなのか、何か月も連絡を続けていたのか、実際に面会や再度不貞に至っているのかによって、適切な金額は変わります。

接触禁止違反の違約金は10万円〜30万円程度を基本に考える

連絡・面会などの接触禁止違反については、示談書で定める目安としては、1回10万円〜30万円程度を基本に考えることが多いです。50万円はやや高めですが、不貞関係を確実に断つ必要性が高い場合や、以前にも約束違反があった場合などには、交渉上定められることもあります。

ただし、接触禁止違反の違約金で重要なのは、金額だけではありません。むしろ、後で大きな争いになりやすいのは、「何をしたら違反なのか」「何を1回と数えるのか」「どのような場合は例外なのか」です。

たとえば、同じLINEでも、1通送っただけなのか、同じ日に何十通もやり取りしたのか、複数日にわたって連絡を続けたのかで評価は変わります。また、職場でどうしても必要な業務連絡をした場合や、相手から一方的に連絡が来た場合まで違約金の対象にするのかは、条項の書き方によって変わります。

接触禁止条項の意味や例外を詳しく確認したい場合は、接触禁止条項について解説した記事も確認してください。

再度不貞の違約金は接触禁止違反より高くなりやすい

再度不貞行為をした場合の違約金は、単なる連絡や面会より高く定められやすいです。示談の目的が「不貞関係を断ち切ること」にある以上、示談後に再び肉体関係を持つことは、約束違反の中でも重い行為と評価されやすいためです。

目安としては、再度不貞行為1回につき100万円程度を定める例があり、事案によっては100万円〜200万円程度まで定められることも少なくありません。ただし、短期間に多数回の違反があると総額が大きくなるため、条項作成時には、1回の定義や上限の有無も検討する必要があります。

東京地裁令和3年10月28日判決は、婚約者との関係が問題となった事案ですが、再度不貞行為に及んだ場合は1回100万円を支払うという合意について、合意後に6回性交渉をしたとして、600万円の支払を認めています。この裁判例は、再度不貞行為が単なる連絡・面会より重く評価され得ることを示すものです。

もっとも、この裁判例があるからといって、どの事案でも「再度不貞1回100万円」が必ず有効になるわけではありません。不貞関係の内容、合意に至った経緯、違反の回数、婚姻関係への影響などを踏まえて判断されます。

裁判例で認められる金額は「示談書で定める相場」とは別に見る

裁判例を見ると、違約金については、一見すると幅のある判断がされています。たとえば、接触禁止違反について500万円や1000万円の違約金が定められていた事案で、150万円を超える部分が無効とされた裁判例があります。他方で、LINEの連絡について1日30万円×78日分として2340万円が認められた裁判例や、再度不貞1回100万円×6回として600万円が認められた裁判例もあります。

ここで注意すべきなのは、これらの金額をそのまま「相場」と読むべきではないという点です。150万円の限度で有効とされた裁判例は、「接触禁止違反の相場が常に150万円」という意味ではありません。また、2340万円が認められた裁判例も、「1回の連絡で2340万円が認められた」という意味ではなく、1日30万円を多数回分積み上げた結果です。

したがって、示談書を作る段階では、まず10万円〜30万円、100万円〜200万円といった現実的な目安から検討し、違反が起きた後に請求・争いになる場面では、具体的な裁判例の考え方を踏まえて、金額の有効性や減額の余地を検討する必要があります。

次に、高すぎる違約金がどのような場合に無効・減額の問題になるのかを整理します。


高すぎる不倫の違約金は無効・減額できる?

不倫の示談書や誓約書に違約金条項がある場合でも、金額が高すぎるときは、全額をそのまま支払う必要があるとは限りません。もっとも、「高いから無効」「高いから支払わなくてよい」と単純に判断できるわけでもありません。

裁判例では、違約金条項そのものを当然に無効とするのではなく、条項の目的、違反行為の内容、損害との均衡、合意に至った経緯、違反時点の夫婦関係などを踏まえて判断されています。つまり、不倫の違約金で重要なのは、金額だけでなく、どの約束に、どのような態様で、いつ違反したのかという点です。

違約金条項は原則として有効である

まず、不倫の示談書・誓約書で違約金を定めること自体は、直ちに無効ではありません。接触禁止、再度不貞の禁止、口外禁止などの約束を守らせるために、違反時の金額をあらかじめ定めることには実務上の意味があります。

特に、接触禁止違反や口外禁止違反では、違反があったとしても、その違反によって具体的にいくらの損害が生じたのかを後から証明しにくいことがあります。そのため、合理的な範囲で違約金を定めておくことは、損害額の争いを減らし、約束の履行を確保する手段になります。

ただし、違約金は損害賠償額の予定として扱われることが多いため、守ろうとした利益や違反行為の内容と比べて、金額が著しく高すぎる場合には、公序良俗違反による無効・一部無効が問題になります。

著しく高すぎる部分は公序良俗違反で無効になることがある

不倫の違約金では、500万円、1000万円といった高額な条項が問題になることがあります。このような金額が書かれている場合でも、裁判所が常に全額を認めるわけではありません。

たとえば、単に連絡した、面会した、引っ越しを手伝ったという接触に対し、1回500万円や1000万円の支払義務を負わせる条項は、違反行為との均衡を欠くとして、一定額を超える部分が無効とされることがあります。

一方で、違約金が高額に見える場合でも、1回あたりの金額が著しく高いのではなく、違反回数が多数に及んだために総額が大きくなっていることもあります。この場合は、「総額が高い」というだけで当然に無効になるとは限りません。

裁判所の処理のされ方 内容 確認すべきポイント
高額部分の一部無効 500万円・1000万円などのうち、一定額を超える部分を無効とする考え方です。 接触禁止違反の内容と金額の均衡を確認します。
違約金部分の全部無効 慰謝料部分は有効でも、別途上乗せされた違約金部分だけが無効とされることがあります。 慰謝料と違約金が二重・過大になっていないかを見ます。
「1回」の数え方の修正 LINE1通ごとではなく、1日単位などで数えることがあります。 条項の文言と、実際の連絡のされ方を確認します。
多数回の積み上げを認める 1回又は1日あたりの金額が過大でない場合、違反回数が多ければ総額が高額になることがあります。 高額な1回単価なのか、多数回の積み上げなのかを分けます。
婚姻破綻後の請求制限 違反時点で夫婦関係が破綻している場合、請求が否定されたり権利濫用とされたりすることがあります。 別居、離婚調停、離婚意思、修復可能性を確認します。
サイン過程の取消し 強迫などにより署名した場合は、違約金額ではなく示談書全体の効力が問題になります。 無理に署名させられた事情があるかを確認します。

「示談書全体の無効」と「違約金条項の一部無効」は分けて考える

高額な違約金を争う場合は、まず、何を争っているのかを分けて考える必要があります。

たとえば、示談書の作成時に強く脅された、内容を読ませてもらえなかった、深夜に複数人で囲まれて署名したという事情がある場合は、違約金額の問題というより、示談書や和解契約全体の無効・取消しが問題になります。

これに対し、任意に署名したこと自体は争わないが、接触しただけで500万円、1000万円という金額は高すぎるという場合は、違約金条項の一部無効や、違約金部分だけの無効が問題になります。

  • 示談書全体の無効・取消しは、サインした経緯の問題です。
  • 違約金条項の一部無効は、金額や算定方法の問題です。
  • 両方が問題になる場合もありますが、検討するポイントは異なります。

強迫・錯誤・心裡留保など、サイン済みの示談書全体を争う場合は、不倫の示談書が無効になる場合について解説した記事で詳しく説明しています。

高額な1回単価と、多数回の積み上げは違う

不倫の違約金では、「高額な1回単価」と「多数回の積み上げ」を分けて考えることが重要です。

たとえば、「接触したら1回1000万円」という条項は、接触行為の内容と比べて1回あたりの金額が著しく高すぎるとして、一部無効が問題になりやすいです。これに対し、「1回30万円」又は「1日30万円」と定められており、実際の違反が何十日にも及んだために総額が数千万円になった場合は、構造が異なります。

後者の場合、裁判所は、1回あたり又は1日あたりの金額、違反期間、違反回数、違反の悪質性、婚姻関係の状況を見て判断します。そのため、請求された側は「総額が高いから無効」とだけ主張するのではなく、単価が高すぎるのか、回数の数え方が不合理なのか、婚姻関係がすでに破綻していたのかを分けて整理する必要があります。

「1回」の数え方で請求額が大きく変わる

接触禁止違反では、「1回」の数え方が請求額を大きく左右します。特に、LINEやメールのように短時間で何通もやり取りできる連絡手段では、1通ごとに1回と数えるのか、1日単位で数えるのか、一連のやり取り全体を1回と見るのかが問題になります。

1通ごとに1回とすると、短時間のやり取りでも違約金が非常に高額になります。反対に、一連のやり取り全体を1回とすると、どこからどこまでを一連と見るのかが曖昧になりやすくなります。そのため、裁判例では、LINEのような連続的なやり取りについて、1日単位で数える考え方が示されたものがあります。

示談書を作る段階では、「1回」の意味をできるだけ明確にしておくべきです。すでに請求されている場合は、相手方が主張する回数が、条項の文言や連絡の実態に照らして合理的かを確認する必要があります。

婚姻関係破綻後・離婚後は請求できないことがある

不倫の違約金は、多くの場合、不貞関係を断ち切らせ、夫婦関係の修復や婚姻共同生活の平和を守ることを目的にしています。そのため、違反時点で夫婦関係がすでに破綻していた場合には、違約金を請求できない、又は請求が権利濫用になる可能性があります。

たとえば、示談時点では夫婦関係が破綻していなかったとしても、その後、別居、離婚調停、離婚訴訟、明確な離婚意思の表明などにより、違反時点では修復可能性が失われていたというケースがあります。

請求された側は、違反したとされる時点で、夫婦が同居していたのか、別居していたのか、離婚調停や離婚訴訟が進んでいたのか、夫婦関係の修復可能性があったのかを確認することが重要です。請求する側も、婚姻関係がすでに破綻している時期の違反まで広く請求すると、権利濫用と判断されるリスクがあります。

強迫・錯誤・心裡留保は示談書全体の無効問題として別に考える

「違約金が高すぎる」という問題とは別に、そもそも示談書や誓約書に署名した過程に問題がある場合もあります。

たとえば、深夜に複数人で囲まれて署名した、勤務先や家族に知らせると強く迫られた、内容を十分に読む時間がなかった、弁護士に相談する余裕がなかったという場合は、強迫や錯誤などにより、示談書全体の効力を争う余地が出てきます。

この問題は、違約金の金額を一部無効にするかどうかとは別の論点です。示談書全体の無効・取消しを検討する場合は、不倫の示談書が無効になる場合の記事も確認してください。


裁判例から見る不倫の違約金の有効性・金額

不倫の違約金については、裁判例を見ても、単純に「いくらまでなら有効」と一律に決まっているわけではありません。接触禁止違反で高額部分が無効とされた例もあれば、再度不貞や多数回の接触により、総額としては高額な支払が認められた例もあります。

ここでは、代表的な裁判例を、金額・違反内容・裁判所の判断に分けて整理します。いずれも個別事案の判断であり、そのまま自分のケースに当てはまるとは限りませんが、請求する側・請求された側のどちらにとっても、検討すべきポイントを把握する手がかりになります。

裁判例比較表|150万円まで認めた例・高額総額を認めた例・婚姻破綻後に否定した例

裁判例 問題になった違約金 裁判所の判断 記事での読み方
東京地裁平成21年1月28日判決 慰謝料500万円に加え、違約時は別途1000万円 慰謝料500万円は有効、違約金1000万円は無効 慰謝料部分と違約金部分を分けた例
東京地裁平成25年12月4日判決 面会・連絡等禁止条項違反につき1000万円 150万円を超える部分は無効 接触禁止違反の150万円ラインを考える中核例
東京地裁平成29年3月15日判決 和解金600万円 強迫取消しを認め、請求棄却 違約金額ではなくサイン過程の問題
東京地裁令和2年6月16日判決 不貞行為1回100万円 婚姻破綻後の不貞について違約金請求不可 違反時点の夫婦関係が重要
東京地裁令和3年10月28日判決 再度不貞1回100万円×6回 600万円を認容 再度不貞は連絡・面会より重く見られ得る
東京地裁令和4年9月22日判決 接触禁止違反1日30万円×78日分 2340万円を認容 LINEの「1回」を1日単位で考えた例
東京地裁令和5年9月11日判決 接触禁止違反500万円 150万円を超える部分は無効 近時の接触禁止違反の判断例

この表から分かるように、裁判所の判断は「高額なら必ず無効」「署名したなら必ず全額有効」という単純なものではありません。金額の高さだけでなく、違反の内容、回数、時期、夫婦関係、合意に至った経緯が重要です。

接触禁止違反で150万円を超える部分が無効とされた裁判例

接触禁止違反の違約金については、150万円を超える部分が無効とされた裁判例が複数あります。

東京地裁平成25年12月4日判決は、配偶者との面会・連絡等を禁止する条項に違反した場合、違約金1000万円を支払う旨の誓約書が問題になった事案です。裁判所は、面会・連絡等禁止条項の目的自体は正当であり、その履行を確保するために違約金を定めることも必要かつ相当としました。

しかし、メールや面会などによる接触にとどまる場合の損害賠償額は、態様が悪質であっても50万円ないし100万円程度と考えられるとし、履行確保目的を最大限考慮しても、150万円を超える部分は著しく合理性を欠き、公序良俗に反し無効と判断しました。

また、東京地裁令和5年9月11日判決でも、接触禁止違反について500万円を支払う旨の誓約書が問題になり、裁判所は、接触だけで500万円もの支払義務を負わせることは過大であり、合理性を有する金額は150万円が相当として、150万円を超える部分を無効としました。

これらの裁判例は、接触禁止違反について500万円や1000万円と書かれていても、裁判所が全額を認めるとは限らないことを示しています。ただし、150万円が常に上限になるという意味ではなく、あくまで具体的事案での判断です。

慰謝料500万円は有効だが、違約金1000万円は無効とされた裁判例

東京地裁平成21年1月28日判決は、不貞相手との和解契約で、慰謝料500万円と、違約時には別途1000万円を支払う旨の条項が定められていた事案です。

裁判所は、不貞行為による精神的苦痛を考えれば、慰謝料500万円の合意自体は格別不合理とまではいえないとしました。一方で、違約があった場合に、慰謝料500万円とは別に1000万円を支払わせ、支払額を1500万円まで高める違約金条項については、不貞行為による損害賠償請求という事案の性質に照らし、社会通念上容認できない不当・不合理な合意として、公序良俗違反により無効としました。

この裁判例からは、示談書全体が無効になるとは限らず、慰謝料部分は有効、違約金部分は無効という分け方があり得ることが分かります。請求された側としては、示談書に署名している場合でも、違約金部分だけが過大ではないかを検討する余地があります。

LINEの「1回」を1通ごとではなく1日単位で数えた裁判例

東京地裁令和4年9月22日判決は、LINEの連絡について「1回」をどう数えるかが大きな問題になった裁判例です。

この事案では、合意書で、不貞相手が配偶者との交際をやめ、正当な権利行使や業務上必要な場合を除いて連絡・接触しないこと、違反した場合は1回30万円を支払うことが定められていました。その後、不貞相手は214日間に合計6464回のLINEメッセージを送信しました。

裁判所は、LINEの1通ごとを「1回」の連絡と見ることは相当ではないとしました。個々のメッセージは、一連性を有するやり取りの断片にすぎないためです。他方で、一連のやり取り全体を1回と見ると、どこまでが一連なのかが明確ではなく、当事者の予測可能性を害するとしました。

そのうえで、LINEメッセージの送信に係る「連絡」については、1回を1日単位で捉えることが明確かつ合理的と判断しました。そして、請求対象とされた78日分について、1日30万円×78日分として2340万円の支払を認めました。

この裁判例で重要なのは、2340万円が「1回の連絡」で認められたわけではないという点です。1日30万円を多数回分積み上げた結果として、総額が2340万円になっています。

LINEやSNSのような連続的なやり取りでは、今後も1通ごとではなく、1日単位で整理する考え方が有力な整理になる可能性があります。ただし、すべてのケースで1日単位になると決まっているわけではないため、条項の文言ややり取りの実態を確認する必要があります。

再度不貞1回100万円×6回が認められた裁判例

東京地裁令和3年10月28日判決は、再度不貞行為1回100万円の違約金が問題になった裁判例です。

この事案では、婚約者との不貞行為が発覚した後、私的接触をした場合は1回10万円、再度不貞行為に及んだ場合は1回100万円を支払う旨の合意が作成されていました。その後、合意に反して合計6回の性交渉があったため、600万円が請求されました。

裁判所は、強迫取消しや公序良俗違反の主張を退け、再度不貞行為1回100万円×6回として、600万円の支払を認めました。合意後も再度不貞行為が繰り返され、妊娠にも至ったという事情が重視されています。

この裁判例は、再度不貞行為が、単なるLINE・電話・面会とは重さの違う約束違反として扱われ得ることを示しています。示談書を作成する場合も、請求された場合も、接触禁止違反と再度不貞行為を同じ金額感で考えないことが重要です。

婚姻破綻後の違約金請求が否定・制限された裁判例

違約金条項に署名していても、違反時点で夫婦関係がすでに破綻していた場合には、違約金請求が否定又は制限されることがあります。

東京地裁令和2年6月16日判決は、不貞相手との示談書で、私的接触は1回30万円、不貞行為は1回100万円と定められていた事案です。裁判所は、示談金507万円の合意自体は有効としましたが、後に不貞行為があった時点では、夫婦が別居し、離婚調停も申し立てられており、婚姻関係が破綻していたと判断しました。そのため、婚姻関係破綻後の不貞行為については、違約金条項に基づく請求はできないとしました。

東京地裁令和4年9月22日判決でも、合意書作成時点では夫婦関係が破綻していたとはいえないとされましたが、その後、配偶者が明確に離婚意思を示し、再度別居した時点以降については、違約金条項に基づく権利行使が権利濫用になると判断されています。

このように、婚姻関係の状態は、示談時点だけでなく、違反時点でも問題になります。請求された側は、違反したとされる時期に夫婦関係がどうなっていたのかを必ず確認すべきです。

強迫による取消しは、金額の問題ではなくサイン過程の問題

東京地裁平成29年3月15日判決は、違約金額の一部無効ではなく、サイン過程の問題が中心になった裁判例です。

この事案では、深夜0時30分頃に、配偶者側の複数人が不貞相手のいるマンションに入り、携帯電話の確認や勤務先への告知・解雇可能性の示唆などがある中で、600万円の和解書が作成されました。裁判所は、和解契約自体の成立は認めましたが、手段が正当な権利行使としての相当性を欠き、不貞相手が恐怖感から和解に応じたとして、強迫による取消しを認め、請求を棄却しました。

この裁判例は、「違約金が高いか低いか」という問題ではなく、そもそも示談書・和解書に署名した過程が適切だったかを示すものです。無理に署名させられた、複数人に囲まれた、帰れない状況で書かされたという場合は、示談書全体の無効・取消しの問題として検討する必要があります。

裁判例から分かる実務上の注意点

以上の裁判例から、不倫の違約金については、次のように整理できます。

  • 接触禁止違反の高額単価は制限されやすい:500万円・1000万円といった金額は、150万円を超える部分が無効とされた例があります。
  • 再度不貞は重く評価されやすい:再度不貞1回100万円が有効とされ、6回分600万円が認められた例があります。
  • LINEの回数は1通ごととは限らない:1日単位で数える考え方が示された例があります。
  • 総額が高いだけで無効とは限らない:1日30万円×78日分として2340万円が認められた例があります。
  • 婚姻破綻後の請求は制限されることがある:違反時点の夫婦関係が重要です。
  • サイン過程に問題がある場合は別問題:強迫・錯誤などがある場合は、示談書全体の効力を検討します。

違約金を請求された場合は、裁判例の金額だけを見て判断するのではなく、自分のケースが「高額な1回単価」なのか、「多数回の積み上げ」なのか、「婚姻破綻後の請求」なのか、「サイン過程の問題」なのかを整理することが重要です。

次に、実際に不倫の違約金を請求されたとき、支払う前に確認すべき具体的なポイントを整理します。


不倫の違約金を請求されたときに確認すべきこと

不倫の違約金を請求された場合、請求書やLINEに書かれた金額だけを見て、すぐに支払うかどうかを決めるのは危険です。違約金条項があるとしても、条項の内容、実際の違反行為、証拠、回数の数え方、違反時点の夫婦関係によって、支払義務の有無や金額が変わることがあります。

特に、接触禁止違反や再度不貞の違約金は、「1回」の意味が曖昧なまま請求額だけが大きくなっていることがあります。請求された側としては、感情的に反論する前に、次の順番で整理することが重要です。

署名した書面の種類を確認する

まず、どの書面に署名したのかを確認してください。不倫の違約金は、示談書、合意書、誓約書、公正証書、念書、和解契約書などに定められていることがあります。

書面の種類によって、請求のされ方やリスクは変わります。たとえば、公正証書で強制執行認諾文言が付いている場合は、通常の示談書よりも強制執行のリスクが高くなります。他方で、公正証書に書かれているからといって、著しく高すぎる違約金が常に全額有効になるわけではありません。

示談書・合意書そのものの作り方や条項例を確認したい場合は、不倫の示談書・合意書の解説を確認してください。誓約書に署名したケースでは、不倫誓約書の作成ガイドも参考になります。

禁止された行為と、実際の行為を照合する

次に、書面で禁止されている行為と、相手が違反だと主張している行為が一致しているかを確認します。

  • LINE・メール・電話などの連絡が禁止されているのか
  • 面会や同席まで禁止されているのか
  • 職場での接触や業務連絡も対象に含まれているのか
  • 再度不貞行為をした場合だけ違約金が発生するのか
  • 不倫の事実や示談内容を第三者に話すことが禁止されているのか
  • 慰謝料の分割払いを怠った場合の違約金なのか

たとえば、「再度不貞をした場合」とだけ書かれているのに、単なるLINEのやり取りを理由に同じ違約金を請求されている場合は、条項の対象になるかを慎重に確認する必要があります。反対に、「電話、メール、LINE、SNSその他一切の方法による連絡を禁止する」と広く書かれている場合は、短いメッセージであっても問題になることがあります。

「1回」の数え方を確認する

違約金を請求されたときに特に重要なのが、「1回」の数え方です。条項には「1回につき30万円」「1回につき100万円」などと書かれていても、何を1回と数えるのかが明確でないことがあります。

LINEやメールの場合、1通ごとに1回と数えるのか、1日単位で数えるのか、一連のやり取り全体を1回と見るのかによって、請求額は大きく変わります。裁判例では、LINEの個々のメッセージを1回と見るのではなく、1日単位で数えたものがあります。そのため、請求書に「LINEを何十通も送ったから何十回分」と書かれていても、そのカウント方法が当然に正しいとは限りません。

もっとも、1日単位で数えられる場合でも、違反が多数日に及ぶと総額は高額になります。したがって、請求された側は、「高すぎるから払わない」と考えるのではなく、どの期間のどの行為が何回分として請求されているのかを具体的に確認する必要があります。

相手方が主張する違反事実の証拠を確認する

違約金を請求する側は、通常、条項違反があったことを証拠により示す必要があります。請求された側としては、相手方がどのような証拠を根拠にしているのかを確認してください。

証拠としては、LINE・メール・SNSのスクリーンショット、通話履歴、写真、動画、探偵調査報告書、相手方の自認メッセージ、第三者の証言などが考えられます。再度不貞が問題になる場合には、単に連絡があっただけでなく、不貞行為まであったことを示す証拠があるかが問題になります。

証拠がある場合でも、その証拠が何を示しているのかは別です。たとえば、同じ場所にいたことは分かっても、条項で禁止された「面会」や「不貞行為」まで認定できるかは、具体的な状況によって変わります。

業務連絡・正当な理由・相手から連絡が来た場合の例外を確認する

接触禁止条項に違反したとして違約金を請求されている場合は、例外規定の有無を確認する必要があります。特に、同じ職場で働いている場合、業務上必要な連絡まで完全に禁止すると、現実に守ることが難しいことがあります。

また、相手から連絡が来た場合に、どのように対応すべきだったのかも問題になります。条項によっては、相手から連絡が来た場合には返信しないこと、又は一定期間内に配偶者側へ報告することが定められていることがあります。

接触禁止条項の意味、拒否・修正、正当な理由、職場での接触、相手から連絡が来た場合の詳しい考え方は、接触禁止条項の解説で整理しています。

違反時点で婚姻関係が破綻していなかったか確認する

不倫の違約金は、配偶者との婚姻関係を守る目的で定められることが多いです。そのため、違反時点で夫婦関係がすでに破綻していた場合や、離婚後の行為である場合には、違約金請求が制限されることがあります。

確認すべき事情としては、別居の有無、離婚調停・離婚訴訟の有無、離婚意思の明確性、夫婦関係修復の可能性、違反時点が示談直後なのか長期間経過後なのか、といった点があります。

ただし、夫婦げんかをしていた、離婚の話が出ていた、別居していたというだけで、直ちに婚姻関係が破綻していたといえるわけではありません。裁判例でも、合意時点では破綻していないとして違約金条項の有効性を認めつつ、その後に婚姻関係が破綻した時点以降の請求を制限したものがあります。

金額が違反内容に比べて高すぎないか確認する

違約金を請求されたら、金額が違反内容に比べて高すぎないかを確認してください。接触1回で500万円、1000万円、LINE数通で数百万円といった請求は、違反行為との均衡を欠くとして争いになる可能性があります。

もっとも、総額だけを見て判断するのは危険です。1回あたりの金額が高すぎるのか、それとも比較的低い単価が多数回積み上がっているのかによって、反論の方向性が変わります。高額な1回単価であれば一部無効が問題になりやすく、多数回の積み上げであれば、回数の数え方や対象期間が重要になります。

サイン過程に問題がある場合は示談書全体の無効・取消しを検討する

違約金の金額だけでなく、そもそも示談書や誓約書にサインした過程に問題がある場合もあります。

たとえば、深夜に複数人で囲まれた、職場や家族にばらすと強く言われた、帰れないような状況で署名した、内容を読む時間がなかった、弁護士に相談する時間がなかった、暴力的・威圧的な言動があったという場合です。

このような事情がある場合は、違約金条項の一部無効ではなく、示談書全体の無効・取消しが問題になることがあります。詳しくは、不倫の示談書が無効になる場合で解説しています。

支払う前・追加書面に署名する前に弁護士へ確認する

違約金を請求された直後は、相手方から強い口調で支払を迫られたり、追加の誓約書に署名するよう求められたりすることがあります。しかし、内容を確認しないまま対応すると、後から不利になることがあります。

  • すぐに全額を支払う
  • 違反を全面的に認めるメッセージを送る
  • 回数や金額を確認せずに分割払いを約束する
  • 追加の示談書・誓約書に署名する
  • 感情的な反論を送って証拠を残す

これらの対応をする前に、書面、条項、証拠、回数、金額、違反時期、サイン過程を整理してください。特に、高額な違約金を請求されている場合や、公正証書がある場合は、早めに弁護士へ確認することが重要です。

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不倫の違約金を請求する側の進め方

不倫の違約金は、請求された側だけでなく、請求する側にとっても重要です。示談書や誓約書で接触禁止、再度不貞の禁止、口外禁止などを定めたにもかかわらず相手が違反した場合、違約金を請求できる可能性があります。

ただし、違約金条項があるからといって、直ちにどのような金額でも請求できるわけではありません。請求する側も、条項の内容、違反事実、証拠、回数、金額の相当性を整理したうえで進める必要があります。

まず違約金条項と違反事実を整理する

請求する側は、まず、違約金条項の内容を確認してください。重要なのは、相手がどの約束に違反したのかを具体的に整理することです。

  • 接触禁止条項に違反して連絡・面会をしたのか
  • 再度不貞行為に及んだのか
  • 口外禁止条項に違反したのか
  • 慰謝料の分割払いを怠ったのか
  • 違反日時や違反回数を具体的に特定できるのか

請求書を作成する際は、「約束に違反したから払ってください」と抽象的に書くのではなく、どの条項に、いつ、どのような行為で違反したのかを整理することが大切です。

証拠を確保してから請求する

違約金を請求するには、相手が条項に違反したことを裏付ける証拠が重要です。証拠が弱いまま高額請求をしても、相手から争われる可能性が高くなります。

証拠としては、LINE・メール・SNS、通話履歴、写真、動画、探偵調査報告書、相手方の自認メッセージなどが考えられます。再度不貞を理由に請求する場合は、単なる連絡や面会ではなく、不貞行為を裏付ける資料があるかを確認します。

また、証拠の取得方法にも注意が必要です。感情的になって無理にスマートフォンを奪う、相手を囲んで署名させる、職場に過度な圧力をかけるといった方法は、別の紛争を生むおそれがあります。

請求額は条項どおりでよいかを検討する

違約金条項に500万円、1000万円と書かれていても、その金額をそのまま請求すればよいとは限りません。高額な請求は交渉上の圧力にはなりますが、裁判になった場合に一部無効と判断される可能性があります。

請求する側としては、条項に書かれた金額、違反行為の内容、回数、婚姻関係への影響、過去の裁判例を踏まえ、請求額をどの程度に設定するかを検討する必要があります。過大な金額を当然のように請求すると、相手方から公序良俗違反、権利濫用、強迫的な請求などを主張され、交渉が長期化することがあります。

特に、LINEやメールの違反回数を数える場合には、1通ごとに機械的にカウントするのではなく、条項の文言ややり取りの実態を踏まえて整理することが重要です。

内容証明・任意交渉・訴訟の流れ

違約金を請求する流れは、一般に、違反事実と証拠の整理、請求額の検討、内容証明郵便などによる請求、任意交渉、合意できない場合の訴訟という順番になります。

請求後に相手が任意に支払う場合は、支払方法、期限、分割払いの可否、再違反時の扱いを再度書面で確認します。反対に、相手が違反事実や金額を争う場合は、裁判でどの程度認められる見込みがあるかを検討する必要があります。

公正証書を作成している場合は、支払条項や強制執行認諾文言の有無によって対応が変わります。公正証書の詳しい作成方法や注意点は、不倫慰謝料の公正証書の解説を確認してください。

高額請求・過大な回数カウントには注意する

請求する側としては、違反された怒りから、できるだけ高額な違約金を請求したいと考えることがあります。しかし、過大な請求は、相手方の反発を強めるだけでなく、裁判で一部無効・権利濫用と判断されるリスクもあります。

特に、接触禁止違反については、単なる連絡・面会と再度不貞を分けて考える必要があります。再度不貞は重く評価されやすい一方、単なる接触に対して500万円・1000万円といった高額単価を請求すると、金額の合理性が問題になりやすいです。

違約金を請求する場合は、条項どおりの金額を主張するか、交渉上現実的な金額に調整するかを含め、事案に応じて方針を立てることが重要です。


サイン前に不倫の違約金条項で確認すべきポイント

不倫の示談書や誓約書にサインする前であれば、違約金条項の内容を調整できる余地があります。いったん署名・押印をすると、後から「高すぎる」「そこまでの意味だと思っていなかった」と主張しても、交渉や裁判で争いになることがあります。

違約金条項は、再発防止や約束の履行確保に役立つ一方で、文言が曖昧なまま高額な金額を入れると、請求する側・請求される側のどちらにとっても紛争の原因になります。サイン前には、少なくとも次の点を確認しておきましょう。

「1回」の定義を明確にする

違約金条項で最も争いになりやすいのが、「1回」の意味です。「1回30万円」と書かれていても、LINE1通ごとなのか、1日単位なのか、面会1回なのか、再度不貞行為1回なのかによって、請求額は大きく変わります。

特に、LINE・メール・SNSのように短時間で何度もやり取りできる連絡手段では、1通ごとに違約金が発生すると読むのか、一連のやり取り又は1日単位で見るのかが問題になります。

  • LINE・メール1通ごとなのか
  • 1日単位で数えるのか
  • 面会1回ごとなのか
  • 再度不貞1回ごとなのか
  • 一連のやり取りをどう扱うのか

サイン前であれば、「1回」の定義を条項内で明確にしておくことが重要です。曖昧なままにしておくと、違反後に請求額が想定以上に膨らむことがあります。

禁止範囲を広げすぎない

接触禁止条項では、「一切連絡しない」「一切接触しない」という広い文言が使われることがあります。しかし、現実には、同じ職場で働いている場合、業務上の最低限の連絡が必要になることがあります。また、偶然会ってしまった場合や、法的手続の連絡が必要になる場合もあります。

禁止範囲を広げすぎると、守る側にとって現実的に守りにくくなるだけでなく、請求する側にとっても、後から条項の合理性を争われるリスクがあります。接触禁止条項の意味や例外、職場での扱いは、接触禁止条項の解説で詳しく確認してください。

正当な理由・業務連絡・相手から連絡が来た場合の例外を入れる

接触禁止違反の違約金を定める場合には、どのような連絡なら違約金の対象外とするのかも検討すべきです。たとえば、業務上必要な連絡、弁護士を通じた連絡、裁判・調停などの法的手続に必要な連絡、相手方から連絡が来た場合の報告などです。

例外を全く入れないと、守る側が過度に萎縮したり、請求する側が形式的な違反だけを理由に高額請求をしたと受け取られたりすることがあります。反対に、例外を広げすぎると、条項の実効性が弱くなります。どこまでを例外にするかは、職場・生活圏・連絡手段・今後の関係性を踏まえて調整します。

再度不貞と単なる連絡・面会を同額にしない

再度不貞行為と、単なるLINE・電話・短時間の面会は、違反の重さが同じではありません。そのため、どちらも同じ金額にしてしまうと、後から金額の合理性が争われやすくなります。

たとえば、単なる連絡・面会については10万円〜30万円程度を基本にし、再度不貞行為についてはそれより高めの金額を定めるなど、違反行為の重さに応じて段階を分ける方が、条項としても説明しやすくなります。

口外禁止条項の違約金は別途確認する

不倫の示談では、接触禁止や再度不貞の禁止だけでなく、口外禁止条項が入ることもあります。口外禁止条項に違反した場合の違約金は、誰に、何を、どの方法で話したのか、SNSに投稿したのか、家族や職場に伝えたのかなどによって問題が変わります。

もっとも、口外禁止条項は、対象となる情報や例外を丁寧に定めないと、範囲が広すぎる条項になりがちです。口外禁止条項の意味、例文、拒否・修正のポイントは、口外禁止条項の解説で確認してください。

金額が高すぎると後で争いになる

違約金は、相手に約束を守らせるために一定の心理的圧力を持たせる意味があります。しかし、抑止力を強めたいからといって、500万円、1000万円といった金額を安易に定めると、違反後に公序良俗違反や一部無効を主張される可能性があります。

請求する側にとっても、条項が後から争われにくい内容になっていることは重要です。違約金条項を作る段階では、違反行為の内容、想定される損害、履行確保の必要性、裁判例の傾向を踏まえ、現実的に説明できる金額にすることが大切です。

接触禁止条項の拒否・修正の落としどころを具体的に知りたい場合は、接触禁止条項の拒否と減額を両立させた解決事例も参考になります。


不倫の違約金に関するよくある質問

ここでは、不倫の違約金についてよくある質問を整理します。具体的な支払義務や減額の見込みは、書面の文言、違反内容、証拠、夫婦関係の状況によって変わります。

不倫の違約金は必ず払わなければいけませんか?

違約金条項がある場合、原則として有効です。ただし、金額が著しく高すぎる場合、違反行為が条項の対象外である場合、違反時点で夫婦関係が破綻していた場合、サイン過程に強迫などの問題がある場合には、支払義務や金額を争える可能性があります。

接触禁止条項に違反した場合の違約金の相場はいくらですか?

示談書や誓約書で定める目安としては、連絡・面会などの接触禁止違反は10万円〜30万円程度を基本に考えることが多いです。50万円はやや高めですが、違反態様や履行確保の必要性によっては定められることがあります。

ただし、裁判例で一定額が認められたからといって、その金額をそのまま示談書の相場と見るべきではありません。示談時の目安と、裁判で争われた後に認められる金額は分けて考える必要があります。

LINEを1通送るたびに違約金が発生しますか?

必ずLINE1通ごとに違約金が発生するとは限りません。裁判例では、LINEメッセージ1通ごとを「1回」と見るのではなく、1日単位で捉えるのが明確かつ合理的と判断したものがあります。

もっとも、1日単位で数えた場合でも、違反日数が多ければ総額は大きくなります。LINEやメールの違反を理由に請求された場合は、1通ごとなのか、1日単位なのか、一連のやり取りなのかを確認することが重要です。

相手から連絡が来た場合でも違約金を払う必要がありますか?

条項の内容によります。相手から連絡が来た場合に、返信しても違約金の対象になるのか、速やかに報告すれば違約金を課さないのか、完全に返信禁止なのかを確認する必要があります。

サイン前であれば、「相手から連絡が来た場合は、返信せずに配偶者又は弁護士へ報告する」など、具体的な対応を条項に入れておくと、後日の争いを減らしやすくなります。

再度不貞をした場合の違約金は1回100万円でも有効ですか?

事案によっては有効とされることがあります。裁判例では、再度不貞行為に及んだ場合は1回100万円を支払うという合意について、6回分の600万円が認められた例があります。

ただし、再度不貞1回100万円が常に有効になるわけではありません。合意に至った経緯、違反回数、夫婦関係への影響、不貞関係の内容などを踏まえて判断されます。

500万円や1000万円の違約金条項は無効になりますか?

500万円や1000万円と書かれているからといって、当然に全部無効になるわけではありません。しかし、接触禁止違反について500万円・1000万円の違約金が定められていた事案で、150万円を超える部分を無効とした裁判例があります。

そのため、高額な違約金を請求された場合は、条項の目的、違反内容、金額の根拠、裁判例との比較を整理し、全額を支払う前に減額・一部無効の余地を検討する必要があります。

離婚後・婚姻関係破綻後でも違約金を請求されますか?

違反時点で夫婦関係がすでに破綻していた場合や、離婚後の行為である場合には、違約金請求が否定されたり、権利濫用とされたりする可能性があります。不倫の違約金は、夫婦関係の平穏や関係修復の利益を前提にすることが多いためです。

もっとも、「別居していた」「離婚の話が出ていた」というだけで直ちに破綻といえるわけではありません。別居の経緯、離婚調停・離婚訴訟の有無、夫婦関係修復の可能性、違反時期を具体的に確認する必要があります。

公正証書にした違約金でも無効・減額を主張できますか?

公正証書にしている場合でも、高額な違約金が当然に全額有効になるわけではありません。公序良俗違反、一部無効、権利濫用、婚姻関係破綻後の請求制限などが問題になる可能性はあります。

ただし、強制執行認諾文言付きの公正証書がある場合は、通常の示談書よりも回収リスクが高くなります。公正証書に基づく請求を受けた場合は、早めに内容を確認してください。

口外禁止条項に違反した場合の違約金も相談できますか?

口外禁止条項に違反した場合の違約金も、相談対象になります。ただし、口外禁止条項では、接触禁止違反とは別に、何を、誰に、どの範囲で話したのか、SNS投稿があるのか、証拠があるのかが重要です。

口外禁止条項の詳しい意味や例外、条項の修正方法は、口外禁止条項の解説で確認してください。

違約金を請求されたら、まず何をすべきですか?

まずは、支払う前に、署名した書面、違約金条項の文言、禁止された行為、実際の行為、証拠、回数の数え方、金額、違反時点の夫婦関係、サイン過程を確認してください。

相手に対して感情的に反論したり、違反を全面的に認めるメッセージを送ったり、追加の誓約書に署名したりすると、後の交渉で不利になることがあります。請求額が大きい場合は、支払前に弁護士へ相談することをおすすめします。


まとめ|違約金を請求されたら支払前に条項・証拠・金額を確認する

不倫の違約金は、接触禁止違反、再度不貞、口外禁止違反、分割払い不履行など、示談後の約束を守らせるために定められることがあります。違約金を定めること自体は有効になり得ますが、金額や違反内容によっては、全額をそのまま支払う必要があるとは限りません。

本記事のポイントを整理すると、次のとおりです。

  • 示談で定める目安と裁判例上の金額は分けて考える
  • 接触禁止違反と再度不貞では金額感が異なる
  • 高すぎる違約金は一部無効・権利濫用が問題になる
  • LINEやメールの「1回」の数え方で請求額が変わる
  • 請求されたら支払前に条項・証拠・時期を確認する

特に、500万円・1000万円といった高額な違約金を請求された場合や、LINEのやり取りを多数回分として高額請求されている場合は、請求額だけを見て判断しないことが重要です。書面にサインしている場合でも、条項の対象外の行為ではないか、金額が過大ではないか、違反時点で夫婦関係が破綻していなかったか、サイン過程に問題がなかったかを確認する必要があります。

また、請求する側にとっても、違約金条項を入れておけば必ず全額回収できるわけではありません。違約金の金額、違反行為の証拠、回数の数え方、請求方法を誤ると、かえって交渉が長期化することがあります。

坂尾陽弁護士

違約金を請求された場合は、金額だけで判断せず、条項・証拠・時期を確認してから対応しましょう。

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