不貞行為の慰謝料相場を判例で解説|離婚あり・なし別の裁判例一覧

不貞行為の慰謝料相場を調べると、「50万円から300万円程度」「離婚しなければ50万円から100万円程度」「離婚すれば200万円から300万円程度」といった説明を見かけることがあります。これらは大まかな目安としては有用ですが、実際の裁判例をみると、同じ不倫・不貞行為でも、認められる金額は事案によってかなり変わります。

たとえば、夫婦関係が続いているケースで50万円にとどまった裁判例もあれば、離婚していなくても発覚後に関係を続けたことなどから300万円が認められた裁判例もあります。反対に、請求額が1000万円であっても、裁判所が認めた慰謝料本体は200万円にとどまった例もあります。つまり、不貞行為の慰謝料相場は「請求額」ではなく「裁判所がどの事情を重視したか」から見る必要があります

この記事では、不貞行為の慰謝料相場を、主要な判例・裁判例から「離婚しなかった場合」「別居・離婚危機に至った場合」「離婚した場合」「一度だけ・短期間の場合」「高額になる特殊事例」「低額・0円になる事情」「探偵費用や弁護士費用」に分けて整理します。相場全体の考え方を先に確認したい方は、不倫慰謝料の相場・金額に関する解説も参考になります。

  • 不貞行為の慰謝料は、50万円から300万円程度に収まる裁判例が多い一方、事案によって0円・30万円程度・400万円以上になることもあります。
  • 裁判例を見るときは、離婚の有無だけでなく、婚姻期間、子どもの有無、不貞期間・回数、発覚後の対応、夫婦関係の悪化、既婚者と知っていたか、既払い金の有無を合わせて見る必要があります。
  • 探偵費用や弁護士費用が認められている裁判例でも、それを慰謝料本体と混ぜて見ると相場を誤解しやすくなります。

坂尾陽弁護士

あなたの事案に応じた不貞行為の慰謝料相場が分かる裁判例を紹介します!
(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

不倫慰謝料に詳しい坂尾陽弁護士

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不貞行為の慰謝料相場を判例で見る前に押さえるポイント

不貞行為の慰謝料相場を判例で調べるときは、金額だけを横並びで見ると誤解しやすくなります。特に、請求された側は、相手から届いた請求書に「300万円」「500万円」などと書かれていると、その金額をそのまま裁判所が認める金額だと受け取ってしまいがちです。しかし、裁判では、請求額・慰謝料本体・探偵費用・弁護士費用・反訴の金額が分けて判断されます。

「判例」と「裁判例」は厳密には違うが、この記事では読みやすさを優先する

厳密には、最高裁判所の判断を「判例」と呼び、地方裁判所や高等裁判所の判断は「裁判例」と呼び分けるのが一般的です。もっとも、検索する方は「不倫慰謝料 判例」「不貞行為 慰謝料 判例」という言葉で、地裁・高裁の金額例まで含めて探していることが多いでしょう。

そこで、この記事では、最高裁判例と下級審裁判例を必要に応じて区別しながらも、読者が探している「判例でみる相場」という意味では、主要な裁判例も含めて解説します。裁判例ごとに、裁判所名、年月日、認められた金額、事案の特徴をできるだけ具体的に示します。

請求額と裁判所が認めた金額は違う

不貞行為の慰謝料裁判では、原告が300万円、500万円、1000万円などを請求していても、裁判所がそのまま全額を認めるとは限りません。たとえば、東京地裁平成24年3月29日判決では、原告が1000万円を請求した事案で、裁判所が認めた慰謝料は200万円でした。

また、東京地裁平成23年12月28日判決では、主文上は本訴で275万円の支払いが命じられていますが、その内訳は、慰謝料本体150万円、調査費用100万円、弁護士費用25万円です。このような裁判例を「慰謝料275万円の例」として読むと、慰謝料相場を高く見積もりすぎることになります。

慰謝料の見通しを立てるときは、不倫慰謝料の計算方法で整理されるような算定要素と、実際の裁判例で認められた慰謝料本体を分けて考えることが重要です。

慰謝料本体と探偵費用・弁護士費用は分けて見る

裁判例の中には、慰謝料に加えて、探偵費用や弁護士費用が損害として認められているものがあります。ただし、探偵費用や弁護士費用は、慰謝料そのものではありません。

たとえば、東京地裁立川支部令和5年10月5日判決では、主文上の認容額は147万円ですが、内訳は、慰謝料120万円、弁護士費用12万円、探偵費用15万円です。東京地裁令和4年6月9日判決でも、慰謝料170万円、探偵調査費用40万円、弁護士費用20万円が認められています。いずれも、慰謝料本体と周辺費用を分けて読まなければなりません。

探偵費用については、全額が当然に認められるわけではありません。裁判例上も、必要性・相当性・不貞行為との因果関係によって、一部だけ認められたり、否定されたりすることがあります。詳しくは、不倫慰謝料と探偵費用の請求で整理しています。

離婚した場合でも、不倫相手に離婚慰謝料まで当然に請求できるわけではない

不貞行為によって離婚に至った場合、慰謝料が高くなりやすいことは確かです。しかし、不倫相手に対して「離婚したこと」まで含めた慰謝料を当然に請求できるわけではありません。

最高裁平成31年2月19日判決は、不貞行為に及んだ第三者に対して離婚に伴う慰謝料を請求できるのは、単に不貞行為に及んだだけでなく、夫婦を離婚させることを意図して婚姻関係に不当な干渉をしたなど、離婚のやむなきに至らしめたと評価できる特段の事情がある場合に限られる、という考え方を示しています。

そのため、離婚している事案でも、裁判所は、不貞行為の態様、離婚との因果関係、夫婦関係の悪化の原因、配偶者側の事情などを総合して金額を判断します。「離婚したから必ず300万円」「離婚していないから必ず低額」と単純にはいえません。

婚姻関係が既に破綻していた場合は、相場以前に0円になることがある

不貞行為の時点で夫婦の婚姻関係が既に破綻していた場合、原則として、不倫相手が慰謝料責任を負わないことがあります。最高裁平成8年3月26日判決は、夫婦の婚姻関係がその時点で既に破綻していたときは、特段の事情がない限り、第三者は他方配偶者に対して不法行為責任を負わないとしました。

ただし、「夫婦仲が悪かった」「別居していた」「離婚の話が出ていた」というだけで、常に破綻が認められるわけではありません。裁判例では、夫婦としての交流、同居・別居の経緯、離婚協議や調停の有無、家計や子どもへの関わりなどを見て判断されています。婚姻関係破綻の考え方は、婚姻関係が破綻していた場合の不倫慰謝料でも詳しく解説しています。

判例からみた不貞行為慰謝料の金額帯早見表

ここでは、この記事で扱う主要な裁判例を、慰謝料本体の金額帯ごとに概観します。なお、この表は網羅的な統計表ではありません。平均額や中央値を示すものではなく、主要な裁判例から、どのような事情で金額帯が変わるのかを把握するための早見表です。

表の金額は、原則として慰謝料本体を中心に整理しています。探偵費用、弁護士費用、反訴で認められた損害は、必要に応じて本文中で別に説明します。

金額帯 近い事案 代表的な裁判例 読み方
0円・請求棄却 婚姻関係が既に破綻していた、既婚者と知らなかったことに過失がない、離婚との因果関係が認められないなど 最高裁平成8年3月26日判決、東京地裁平成24年8月29日判決、東京地裁平成24年5月8日判決 相場以前に、責任が成立するかが問題になります。
30万円から50万円程度 性交渉までは認定できない、夫婦関係が修復している、離婚予定と聞いていた事情があるなど 東京地裁平成24年12月21日判決、東京地裁平成4年12月10日判決、東京地裁平成28年2月8日判決、東京地裁平成24年6月8日判決 低額でも、請求が一部認められることがあります。
95万円から120万円程度 離婚なし・夫婦関係継続、短期間の不貞、別居や同棲に近い事情があるなど 名古屋地裁平成3年8月9日判決、東京地裁令和5年12月19日判決、東京地裁令和4年7月20日判決、東京地裁立川支部令和5年10月5日判決 離婚しなかった場合でも100万円前後になることがあります。
150万円から200万円程度 別居・離婚危機、離婚あり、夫婦関係への重大な影響があるが、他の減額事情もあるなど 東京地裁平成23年12月28日判決、東京地裁令和5年11月13日判決、東京地裁令和4年6月9日判決、東京地裁平成26年12月4日判決、東京地裁平成24年3月29日判決 実務上よく問題になる中核的な金額帯です。
300万円程度 発覚後・制止後も同棲や不貞関係を続けた、訴訟中も関係を継続した、健康被害があるなど 東京地裁平成26年5月19日判決、東京地裁平成26年7月11日判決 通常事案より高額な部類です。発覚後の対応が重視されます。
400万円以上 長期・高頻度、自宅での不貞、旅行、妊娠中絶の可能性、財産的被害、長期二重生活など 東京地裁平成22年9月3日判決、浦和地裁昭和60年1月30日判決、東京地裁平成21年4月8日判決 特殊事情が重なった高額事例であり、通常の相場として一般化しないことが重要です。

この早見表から分かるように、不貞行為の慰謝料は「離婚したかどうか」だけでは決まりません。同じ離婚なしでも50万円から300万円程度まで幅がありますし、離婚ありでも150万円から200万円程度にとどまる裁判例があります。逆に、500万円以上の事例は、単なる不貞行為だけでなく、長期間の二重生活、婚外子、財産的被害、生活費不払い、離婚届偽造など、かなり特殊な事情が重なっていることが多いです。

  • 離婚しなかったか、別居・離婚危機に至ったか、実際に離婚したか
  • 不貞期間・回数がどの程度か。一度だけか、数か月か、数年に及ぶか
  • 発覚後に謝罪・解消したか、内容証明や裁判後も関係を続けたか
  • 不倫相手が既婚者であることを知っていたか、破綻していると信じた事情があるか
  • 配偶者や不倫相手から既に慰謝料・示談金が支払われているか
  • 探偵費用や弁護士費用が、慰謝料本体とは別に問題になっているか

期間や回数の影響を詳しく知りたい場合は、不倫慰謝料の相場と期間・回数の関係も参考になります。500万円や1000万円といった高額請求については、不倫慰謝料の上限・高額請求で詳しく整理しています。

離婚しなかった場合・夫婦関係が続いた場合の裁判例

まず、離婚しなかった場合や、夫婦関係が修復・継続した場合の裁判例を見ます。この類型では、慰謝料が50万円から100万円程度にとどまる例が目立ちます。ただし、離婚していないから必ず低額になるわけではありません。発覚後に関係を続けた、内容証明や訴訟後も不貞関係を解消しなかった、健康被害が生じたといった事情があると、高額化することもあります。

裁判例 慰謝料本体 事案の特徴 読み方
東京地裁平成4年12月10日判決 50万円 第二子妊娠中の妻が夫の不貞を知った事案。最終的には夫婦関係が修復し、不倫相手も退職・帰郷して関係が解消された。 夫婦関係の修復、関係解消、社会的制裁が低額化方向に働いた例です。
東京地裁平成28年2月8日判決 50万円 夫が単身赴任先で継続的な不貞関係を持ったが、夫婦は現在も同居し、関係維持・回復に向けて動いていた。 継続的不貞でも、婚姻関係が維持されている場合は50万円程度にとどまることがあります。
名古屋地裁平成3年8月9日判決 100万円 夫に妻子があることを知りながら、旅行やマンション利用を伴う関係を継続した事案。夫婦は危機に瀕したが同居は続いた。 離婚なしでも、不倫相手の関与態様によって100万円程度になることがあります。
東京地裁平成26年7月11日判決 300万円 既婚であることを知りながら交際し、内容証明や訴訟後も関係を継続。過換気症候群や抑鬱状態も問題になった。 離婚なしでも、発覚後の継続や健康被害などがあると高額化する例外です。

離婚しなかった場合でも慰謝料が0円になるとは限らない

「離婚していないなら慰謝料は発生しない」と考える方がいますが、これは正確ではありません。不貞行為によって婚姻共同生活の平穏が害されたといえる場合、離婚していなくても慰謝料が認められることがあります。

名古屋地裁平成3年8月9日判決では、夫婦が同居を続けていたものの、不倫相手が妻子ある男性と旅行をしたり、夫が借りたマンションを利用したりしていた事情などがあり、100万円が認められました。離婚しなかったことは金額を抑える方向に働きますが、慰謝料そのものを否定する事情とは限りません。

夫婦関係の修復・関係解消は低額化の方向に働きやすい

東京地裁平成4年12月10日判決では、妻が第二子妊娠中に夫の不貞を疑い、出産退院日にも夫が不倫相手と旅行するなど、妻の精神的苦痛は大きい事案でした。それでも、裁判所は慰謝料を50万円にとどめています。

その背景には、夫婦関係が最終的に修復していること、妻が夫に対する慰謝料請求をしていないこと、訴訟目的の中心が不倫関係の解消にあり、その目的が達成されたこと、不倫相手が退職して郷里に戻り、関係が解消されたことなどがありました。

東京地裁平成28年2月8日判決でも、夫が単身赴任先で継続的な不貞関係を持ったにもかかわらず、夫婦が同居を続け、関係維持・回復に向けて動いていたことなどから、慰謝料は50万円にとどまりました。離婚なし・修復方向の事案では、裁判所が「夫婦関係への最終的な影響」を重視していることが分かります。

同居が続いていても100万円程度になることがある

もっとも、夫婦関係が続いているからといって、必ず50万円以下になるわけではありません。名古屋地裁平成3年8月9日判決では、夫婦は同居を続けていましたが、不倫相手が夫に妻子があることを知りながら関係を持ち、旅行やマンション利用などの事情もあったため、100万円が認められました。

このように、離婚しなかった場合でも、不倫相手が既婚者であることを知っていたか、どの程度積極的に関係を続けたか、夫婦関係がどれだけ危機に瀕したかによって、50万円程度にとどまることもあれば、100万円程度まで上がることもあります。

離婚していなくても発覚後に関係を続けると高額化することがある

離婚なしの裁判例の中でも注意すべきなのが、発覚後・制止後も関係を続けたケースです。東京地裁平成26年7月11日判決では、被告が交際開始直後には相手が既婚者であることを知っていたこと、原告からの連絡や内容証明後も関係が続いたこと、過換気症候群や抑鬱状態が不貞行為により生じたと認められたことなどから、慰謝料300万円が認められました。

この裁判例は、離婚なしの一般的な相場を示すものというより、発覚後の対応が悪いと、離婚していなくても高額化し得ることを示す例です。請求する側にとっては、発覚後の継続や制止無視を具体的に主張することが重要になります。請求された側にとっては、発覚後の対応を誤ると、当初の不貞行為そのものよりも金額に影響することがある点に注意が必要です。

離婚しなかった場合の裁判例をまとめると、「離婚なしだから低額」と機械的に決めるのではなく、夫婦関係がどこまで修復しているか、不貞関係が解消されたか、発覚後にどのような対応をしたかを合わせて見る必要があります。

別居・離婚危機に至った場合の裁判例

次に、夫婦が別居した場合、離婚調停や離婚訴訟が問題になった場合、婚姻関係がかなり悪化していた場合の裁判例を見ます。この類型は、離婚しなかった場合と、実際に離婚した場合の中間に位置します。

注意したいのは、別居や離婚の話が出ているからといって、直ちに「既に婚姻関係が破綻していたので慰謝料は0円」となるわけではないことです。他方で、夫婦関係が相当程度悪化していた事情があると、請求額どおり300万円、500万円が認められるとは限りません。裁判例では、破綻の有無だけでなく、不貞開始時点の夫婦関係、不倫相手の認識、別居に至った原因、子どもへの影響、発覚後の対応などが総合的に考慮されています。

裁判例 慰謝料本体 その他の認容額 事案の特徴 読み方
東京地裁平成24年6月8日判決 50万円 なし 不倫相手は、配偶者から「離婚する話がついている」と聞いて関係を持った。故意までは認めにくいが、少なくとも過失があるとされた。 離婚予定・破綻に近い説明を信じた事情が、低額化方向に働いた例です。
東京地裁令和5年12月19日判決 95万円 なし 婚活パーティーで知り合い、当初は独身と聞いていたが、その後、離婚が成立していないことを知りながら同居や子の出生に至った。 当初既婚者と知らなかった事情があっても、知った後の継続で責任が認められ得る例です。
東京地裁立川支部令和5年10月5日判決 120万円 探偵費用15万円、弁護士費用12万円 夫が別居し、不倫相手と同棲した事案。夫婦関係には一定の問題もあったが、婚姻関係が既に破綻していたとはいえないとされた。 別居・同棲があっても、慰謝料本体は120万円にとどまることがあります。
東京地裁平成22年8月25日判決 150万円 弁護士費用15万円 夫婦間にはさまざまな問題があり、不倫相手は婚姻関係が破綻していると信じたと主張したが、過失があるとされた。 夫婦関係に問題があるケースでも、「破綻していた」と軽信すると150万円程度になることがあります。
東京地裁令和5年11月13日判決 160万円 弁護士費用15万円 子どもがいる夫婦で、長期間の交際や別居・離婚危機が問題になった。ただし、不貞以外の事情による夫婦関係悪化も考慮された。 子どもがいる長期不貞でも、夫婦関係悪化などが考慮されると160万円程度にとどまる例です。
東京地裁令和4年6月9日判決 170万円 探偵調査費用40万円、弁護士費用20万円 15年以上続いた婚姻で中学生・小学生の子がいた。継続的不貞をきっかけに、婚姻関係が突然破綻の危機に瀕した。 安定した家庭が離婚危機に至った事情が重視され、170万円が認められた例です。

別居・離婚危機の事案は50万円から170万円程度まで幅がある

別居や離婚危機がある事案では、慰謝料が100万円を超える例が多くなります。ただし、離婚危機に至ったからといって、自動的に300万円以上になるわけではありません。

東京地裁平成24年6月8日判決では、不倫相手が「離婚する話がついている」と聞いていた事情などから、慰謝料は50万円にとどまりました。東京地裁令和5年12月19日判決でも、当初は婚活パーティーで知り合い、独身であるとの説明を信じた事情があり、慰謝料は95万円とされています。

一方で、東京地裁令和5年11月13日判決では、子どもがいる夫婦で長期間の不貞関係や別居・離婚危機が問題になり、慰謝料160万円、弁護士費用15万円が認められました。東京地裁令和4年6月9日判決では、15年以上続いた婚姻関係が突然破綻の危機に瀕したことなどから、慰謝料170万円に加え、探偵調査費用40万円、弁護士費用20万円が認められています。

このように、別居・離婚危機の裁判例は、50万円程度の低額例から170万円程度の中額例まで幅があります。ポイントは、単に別居したかどうかではなく、不貞行為がどの程度、別居や離婚危機に影響したかです。

「離婚する予定」「夫婦関係は破綻している」と聞いていた場合

請求された側からよく出る反論として、「既婚者だとは聞いていたが、もう離婚する予定だと言われていた」「夫婦関係は破綻していると説明されていた」というものがあります。

このような事情は、慰謝料を否定又は減額する方向に働くことがあります。しかし、相手の説明をそのまま信じれば常に責任を免れるわけではありません。東京地裁平成24年6月8日判決では、離婚する話がついているとの説明を信じた事情があったため、故意を認めることは困難とされましたが、少なくとも過失はあるとして50万円が認められました。

東京地裁平成22年8月25日判決でも、夫婦間にさまざまな問題があり、不倫相手が婚姻関係は破綻していると信じたと主張しました。しかし、裁判所は、夫婦関係が実質的に破綻していたとは認められず、不倫相手が破綻を信じたことには過失があるとして、慰謝料150万円と弁護士費用15万円を認めました。

既婚者と知らなかった場合や、破綻していると信じた場合の詳しい判断枠組みは、既婚者と知らなかった場合の不倫慰謝料や、不倫慰謝料請求における故意・過失で整理しています。この記事では、相場を見るうえで、これらの事情が金額に影響し得ることを押さえておけば十分です。

当初は既婚者と知らなくても、知った後に続けると責任が認められやすい

東京地裁令和5年12月19日判決は、当初既婚者と知らなかった事情があっても、その後の行動によって責任が認められることを示す裁判例です。この事案では、不倫相手は婚活パーティーで相手と知り合い、当初は独身であるとの説明を信じていました。

しかし、その後、離婚が成立していないことを知りながら、同居を開始し、子の出生にも至っています。裁判所は、こうした事情を踏まえ、慰謝料95万円を認めました。

したがって、請求された側が「最初は知らなかった」と主張する場合でも、重要なのは、いつ既婚者であることを知ったのか、その後すぐ関係を解消したのか、それとも交際・同居・妊娠・出産などへ進んだのかです。知った後も関係を続けた事情があると、慰謝料が認められる方向に傾きます。

夫婦関係が悪化していても「破綻後」とは限らない

不貞慰謝料では、婚姻関係が既に破綻していたかどうかが重要です。ただし、裁判例上、単なる不仲、夫婦喧嘩、別居、離婚の話し合いだけで、直ちに「破綻後」と認められるわけではありません。

東京地裁令和5年11月13日判決では、夫婦喧嘩や夫婦関係の一定程度の悪化が認められ、配偶者が別居や離婚を求めるに至った背景にも、不貞以外の不満がうかがわれました。それでも、不貞開始時点で婚姻関係が破綻していたとは認められず、不倫相手の責任が認められています。

この裁判例では、婚姻期間、不貞期間・態様、子どもの存在などから精神的苦痛は大きいとしつつ、不貞以外の夫婦関係悪化も考慮して、慰謝料本体は160万円にとどめられました。つまり、夫婦関係の悪化は、責任を完全に否定する事情になることもあれば、金額を抑える事情にとどまることもあります。

婚姻関係破綻が争点になる場合は、婚姻関係が破綻していた場合の不倫慰謝料もあわせて確認すると、どのような事情が破綻の判断に影響するかを理解しやすくなります。

子どもがいる安定した家庭が突然離婚危機に陥ると中額化しやすい

東京地裁令和4年6月9日判決では、原告と配偶者の婚姻関係は15年以上続き、中学生と小学生の子どもも安定して生活していました。そのような状況で、不倫相手が配偶者と継続的に不貞行為に及び、配偶者が離婚の意思を明らかにするに至ったことから、婚姻関係が突然破綻の危機に瀕したと評価されています。

裁判所は、慰謝料170万円、探偵調査費用40万円、弁護士費用20万円を損害として認めました。請求額としては、慰謝料300万円、探偵調査費用383万円余り、弁護士費用68万円余りが請求されていましたが、認められた金額は大幅に絞られています。

この裁判例は、請求する側にとっては、長い婚姻期間、子どもの生活、突然の離婚危機、不貞行為との因果関係を具体的に主張する重要性を示しています。請求された側にとっては、請求書に探偵費用や弁護士費用が大きく上乗せされていても、裁判所が全額を認めるとは限らないことを示す例です。

別居・離婚危機の事案で見るべきポイント

別居・離婚危機の裁判例を見るときは、次の点を確認すると、自分のケースがどの金額帯に近いかを判断しやすくなります。

  • 不貞開始時点で、夫婦が同居していたか、別居していたか
  • 別居の原因が不貞行為なのか、それ以前からの夫婦関係悪化なのか
  • 子どもがいるか、子どもの生活にどの程度影響したか
  • 不倫相手が、既婚者であることや夫婦関係の実情をどこまで知っていたか
  • 「離婚予定」「破綻している」と聞いた事情について、確認できる客観的事情があったか
  • 探偵費用や弁護士費用が、慰謝料本体とは別に請求されているか

とくに請求された側では、夫婦関係の悪化、別居の経緯、既婚者であることを知った時期、発覚後に関係を解消したかどうかが、減額・反論の重要な材料になります。

離婚した場合・離婚に近い重大な影響があった場合の裁判例

不貞行為が原因で離婚した場合、又は離婚に近い重大な影響があった場合は、慰謝料が高くなる方向に働きます。もっとも、「離婚したから必ず300万円」「離婚したから500万円」という単純な判断にはなりません。

裁判例を見ると、離婚ありでも120万円にとどまった例、慰謝料本体150万円の例、200万円の例、300万円まで高額化した例があります。ここでも、請求額ではなく、裁判所が認めた慰謝料本体を見分けることが重要です。

裁判例 慰謝料本体 その他の認容額 事案の特徴 読み方
東京地裁平成19年8月22日判決 120万円 なし 夫婦には3人の子がいて、最終的に調停離婚した。妻が勤務先に押し掛けたこと等も争われたが、反訴は棄却された。 離婚あり・子ありでも、慰謝料が120万円にとどまることがあります。
東京地裁平成23年12月28日判決 150万円 調査費用100万円、弁護士費用25万円、反訴50万円 元上司と妻の不貞が問題になり、夫婦は訴訟中に離婚。調査費用や、原告側のはがき送付による反訴も問題になった。 本訴認容額275万円のうち、慰謝料本体は150万円です。周辺費用を混ぜないことが重要です。
東京地裁平成24年3月29日判決 200万円 なし 長年の婚姻関係が別居・破綻に至り、不貞関係と婚姻関係破綻との因果関係が認められた。請求額は1000万円だった。 離婚・婚姻関係破綻ありの中核的な200万円例として使いやすい裁判例です。
東京地裁平成26年5月19日判決 300万円 なし 妻子の存在を知りながら、単身赴任中の配偶者と同棲し、制止や訴訟提起後も同居を継続した。 制止後・訴訟後の継続、同棲などが重なると300万円まで上がることがあります。

離婚ありでも120万円にとどまることがある

東京地裁平成19年8月22日判決では、夫婦には3人の子どもがいて、最終的に調停離婚に至りました。それでも、不倫相手に対する慰謝料は120万円にとどまっています。

この裁判例は、離婚あり・子ありであっても、裁判所が常に200万円、300万円を認めるわけではないことを示しています。婚姻関係がどの程度不貞行為によって破壊されたのか、不倫相手の行為がどの程度悪質か、夫婦間にも他の問題があったかなどが、個別に評価されます。

また、この事案では、不倫相手が、請求側が勤務先に押し掛けてきたなどとして反訴しましたが、反訴は棄却されています。勤務先への連絡や訪問が常に違法になるわけではありませんが、後で述べるように、やり方を誤ると反訴リスクが大きくなるため注意が必要です。

慰謝料本体150万円と周辺費用は分けて見る

東京地裁平成23年12月28日判決では、本訴で275万円の支払いが命じられています。しかし、この275万円を「慰謝料相場」と見るのは誤りです。内訳は、慰謝料本体150万円、調査費用100万円、弁護士費用25万円です。

この事案では、元上司と妻の不貞行為、勤務先関係、不妊治療、離婚、探偵費用、さらに原告側が送ったはがきによる反訴など、複数の事情が絡んでいました。裁判所は不貞慰謝料として150万円を認める一方で、調査費用100万円も相当因果関係のある損害として認めています。

不貞行為の慰謝料相場を判断するときは、総認容額ではなく、慰謝料本体を確認する必要があります。探偵費用の扱いは事案によって大きく異なるため、詳しくは不倫慰謝料請求で探偵費用を請求できるかも参考になります。

1000万円請求でも200万円にとどまることがある

東京地裁平成24年3月29日判決では、請求額は1000万円でした。しかし、裁判所が認めた慰謝料は200万円です。裁判所は、不貞関係と婚姻関係破綻との因果関係を認めた上で、慰謝料額を200万円と判断しました。

この裁判例は、離婚あり・婚姻関係破綻ありの中核的な金額帯を理解するうえで重要です。離婚に至った場合、離婚なしの事案より高額化しやすい一方で、請求額が1000万円であっても、裁判所が認める慰謝料本体は200万円程度にとどまることがあります。

請求する側は、請求額を高く設定するだけではなく、不貞行為が別居・離婚・精神的苦痛にどのように影響したかを具体的に説明する必要があります。請求された側は、請求額そのものではなく、裁判例上どの程度の金額帯に近いかを冷静に検討することが重要です。

制止後も同棲を続けると300万円になることがある

東京地裁平成26年5月19日判決では、妻子の存在を知りながら、単身赴任中の配偶者と不貞関係に入り、その後も同棲を続けた事情が問題になりました。裁判所は、婚姻関係が破綻していることを示す外形的事情や客観的証拠が見当たらない状況で、妻子の存在を熟知しながら不貞関係に陥った以上、相手からどのような説明を受けていたとしても責任は否定されないと判断しています。

さらに、この事案では、原告からの制止や本訴提起後も同棲を続けていたことが重視され、慰謝料300万円が認められました。300万円は不貞慰謝料の中では高い部類です。離婚・別居だけでなく、発覚後も関係を続けたこと、同棲していたこと、既婚者であることを明確に知っていたことが重なると、高額化しやすくなります。

高額請求や慰謝料の上限について詳しく知りたい場合は、不倫慰謝料の上限・高額請求の解説も参考になります。

離婚したことだけで不倫相手に離婚慰謝料まで請求できるとは限らない

離婚した場合の裁判例を見るときは、不貞慰謝料と離婚慰謝料を混同しないことも重要です。最高裁平成31年2月19日判決は、不倫相手が単に不貞行為に及んだというだけで、当然に「離婚に伴う慰謝料」まで負うわけではないと判断しています。

つまり、不倫相手に対しては、不貞行為によって婚姻共同生活の平穏を侵害したことによる慰謝料が問題になります。離婚に伴う慰謝料まで請求するには、不倫相手が夫婦を離婚させることを意図して不当に干渉したなど、特段の事情が必要になります。

そのため、請求書に「離婚したので慰謝料500万円」「離婚慰謝料として1000万円」と書かれていても、裁判例上、そのまま認められるとは限りません。請求する側は、離婚との因果関係や不倫相手の関与態様を具体的に整理する必要があります。請求された側は、離婚したという結果だけでなく、自分の行為がどの範囲の損害と相当因果関係を持つのかを検討する必要があります。

離婚ありの裁判例で見るべきポイント

離婚ありの裁判例では、次の事情が特に重要です。

  • 不貞行為が、別居や離婚の主な原因といえるか
  • 不倫相手が、既婚者であることや子どもの存在を知っていたか
  • 不貞期間・回数・同棲の有無など、関係の深さがどの程度か
  • 発覚後、謝罪して関係を解消したか、制止後も継続したか
  • 夫婦関係に、不貞行為以外の破綻原因があったか
  • 慰謝料本体と、探偵費用・弁護士費用・反訴認容額が混ざっていないか

まとめると、離婚した場合は慰謝料が高くなりやすいものの、裁判例では120万円、150万円、200万円、300万円と幅があります。大切なのは、「離婚したかどうか」だけでなく、離婚に至るまでの事実関係を、裁判例の金額帯と照らし合わせて見ることです。

慰謝料の計算方法や増減要素を整理したい場合は、不倫慰謝料の計算方法も参考にしてください。

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一度だけ・短期間の不貞行為では慰謝料はいくらになるか

「不貞行為が一度だけなら慰謝料は発生しないのではないか」「短期間なら数十万円で済むのではないか」と考える方は少なくありません。たしかに、不貞期間が短いことや、証拠上認定できる性交渉の機会が一度だけであることは、慰謝料を抑える方向に働きます。

しかし、裁判例を見ると、一度だけ・短期間であっても慰謝料が認められることがあります。金額も、50万円程度にとどまる例もあれば、100万円、180万円程度になる例もあります。大切なのは、回数だけでなく、婚姻期間、子どもの有無、別居や破綻との関係、発覚後の謝罪・対応、既に示談があったかどうかを合わせて見ることです。

裁判例 慰謝料本体 その他の認容額 事案の特徴 読み方
東京地裁平成26年12月24日判決 50万円 なし 2度の示談後に、再度の不貞行為があった事案。示談後の不貞行為は1回で、示談後の交際期間は長くないとされた。 示談後の再発でも、既に評価済みの事情と新たな不貞行為を分けて判断された例です。
東京地裁令和3年11月12日判決 60万円 弁護士費用6万円 不貞行為の有無や夫婦の別居との関係が争われ、裁判所は慰謝料60万円を認めた。 請求額300万円に対し、裁判所が事案全体を見て低額に抑えた例です。
東京地裁令和4年7月20日判決 100万円 弁護士費用10万円 2人で会った期間は1か月弱で、証拠上認定できる性交渉の機会は一度だけ。不貞発覚後、直接謝罪し、慰謝料支払の意思も示していた。 一度だけ・短期間でも、婚姻関係の破綻との関係が認められ、100万円になった例です。
東京地裁平成26年12月4日判決 180万円 弁護士費用18万円 少なくとも別居先アパートに宿泊した日に不貞行為があったとされ、長期・複数回の不貞までは認められなかった。探偵費用は否定された。 一度又は少ない回数でも、婚姻関係への影響が大きいと100万円を超えることがあります。

一度だけでも慰謝料が発生し得る

まず押さえるべきなのは、一度だけの不貞行為でも、慰謝料が発生し得るという点です。不貞行為の慰謝料は、性交渉の回数だけで決まるものではなく、婚姻共同生活の平穏がどの程度侵害されたかを見て判断されます。

東京地裁令和4年7月20日判決では、証拠上認定できる性交渉の機会は一度だけで、2人で会っていた期間も1か月弱と比較的短期間でした。それでも、裁判所は、不貞行為と夫婦関係の破綻との間に相当因果関係があるとし、慰謝料100万円、弁護士費用10万円を認めています。

この裁判例は、「一度だけなら0円」とは言い切れないことを示しています。他方で、短期間・一度だけであること、直接謝罪して慰謝料支払の意思を示したことは、金額を抑える方向にも考慮されています。つまり、一度だけという事情は、責任を当然に否定する事情ではなく、金額を調整する事情として扱われやすいといえます。

短期間・一度だけでも100万円になることがある

東京地裁令和4年7月20日判決で100万円が認められた背景には、不貞行為が夫婦関係に与えた影響があります。この事案では、不貞行為以前に夫婦関係が破綻していたとは認められず、不貞行為を契機として夫婦関係が不安定になり、修復に至らないまま破綻したと評価されています。

したがって、1回だけの不貞行為でも、発覚後に夫婦関係が大きく悪化した、別居に至った、修復が困難になったといった事情があると、数十万円ではなく100万円前後になることがあります。

一方で、請求された側から見ると、短期間であること、性交渉の機会が証拠上1回に限られること、謝罪や解消の意思を示していること、別居や破綻に至った原因が不貞行為だけではないことは、減額の重要な材料になります。期間・回数との関係を詳しく知りたい場合は、不倫慰謝料の相場と期間・回数の関係も参考になります。

少ない回数でも、別居・破綻への影響が大きいと180万円になることがある

東京地裁平成26年12月4日判決では、原告は、長期間・多数回の不貞行為や調査費用も主張しました。しかし、裁判所が認めた不貞行為は、少なくとも配偶者の別居先アパートに宿泊した日に不貞行為があったという範囲であり、それ以上に長期かつ複数回にわたる不貞行為までは認められていません。

それでも、裁判所は、慰謝料180万円、弁護士費用18万円を認めました。理由としては、不貞行為が行われた時点で夫婦の婚姻関係が既に破綻していたとはいえないこと、不貞行為によって婚姻関係を破綻に至らせる状態を招いたこと、婚姻期間や子どもの存在などの事情が考慮されています。

この裁判例からは、回数が少ないから必ず低額になるわけではなく、夫婦関係への影響が大きい場合には100万円を超えることがあると分かります。特に、別居直後の不貞、別居先への宿泊、夫婦関係の修復可能性が失われた事情がある場合は、単純に「一度だけだから低額」とは判断しにくくなります。

示談後の一度だけは「新たな請求」の問題になりやすい

東京地裁平成26年12月24日判決は、2度の示談後に再び不貞行為があった事案です。過去の不貞行為については既に示談で慰謝料が合意されていましたが、その後、原告が配偶者との婚姻関係の維持を期待して同居を再開した矢先に、再度の不貞行為が行われました。

裁判所は、新たな不貞行為について慰謝料を認めましたが、示談後の不貞行為は1回であり、示談後の交際期間は長くないことなどを考慮し、慰謝料50万円にとどめています。

この裁判例は、示談後の接触禁止違反や再発がある場合、過去の不貞行為とは別に新たな請求が問題になり得ることを示しています。ただし、過去の不貞行為について既に高額な示談が成立している場合、同じ事情を二重に評価できるわけではありません。示談後の行為がどこまで新しい損害を生じさせたかが問題になります。

一度だけ・短期間の裁判例で見るべきポイント

一度だけ・短期間の不貞行為では、次の点を確認すると、自分のケースがどの金額帯に近いかを判断しやすくなります。

  • 証拠上認定できる性交渉の機会が本当に1回だけか
  • 1回だけでも、別居や離婚危機のきっかけになったか
  • 不貞行為の前に、夫婦関係がどの程度悪化していたか
  • 婚姻期間が長いか、子どもがいるか
  • 発覚後すぐ謝罪・解消したか、それとも連絡や接触を続けたか
  • 過去に示談や接触禁止の合意があったか
  • 慰謝料本体と、弁護士費用・探偵費用・違約金を分けて考えているか

一度だけの不貞行為に関する実際の解決事例を確認したい場合は、一度だけの不倫慰謝料に関する解決事例も参考になります。ただし、解決事例は交渉・和解の結果であり、裁判例とは性質が異なります。裁判になった場合の見通しは、証拠と事案の具体的事情を分けて検討する必要があります。

慰謝料が300万円以上・500万円以上になる特殊高額事例

不貞行為の慰謝料では、300万円以上、500万円以上、場合によっては1000万円という請求額が出てくることがあります。実際の裁判例でも、300万円、400万円、500万円、800万円が認められた事例はあります。

もっとも、これらは通常の不貞行為の相場として一般化すべきではありません。高額事例では、単なる不貞行為だけでなく、長期間・高頻度の関係、発覚後の継続、同棲、妊娠・中絶の可能性、財産的被害、生活費不払い、離婚届の偽造、婚外子の出生など、かなり特殊な事情が重なっています。

裁判例 慰謝料本体 事案の特徴 読み方
東京地裁平成26年5月19日判決 300万円 妻子の存在を知りながら、単身赴任中の配偶者と同棲。制止や訴訟提起後も同居を継続した。 発覚後・訴訟後の継続、同棲、既婚認識が重なると300万円になり得ます。
東京地裁平成26年7月11日判決 300万円 既婚であることを知りながら交際し、内容証明や訴訟後も関係を継続。過換気症候群や抑鬱状態も問題になった。 離婚していなくても、発覚後の継続や健康被害で高額化した例です。
東京地裁平成22年9月3日判決 400万円 約6年半、週1、2回程度の関係、自宅での肉体関係、旅行、妊娠中絶の可能性などが問題になった。 長期・高頻度・悪質性が重なった特殊高額例です。
浦和地裁昭和60年1月30日判決 500万円 夫があることを知りながら肉体関係を持ち、婚姻関係を破綻させた事案。借金・浪費・財産的被害も問題になった。 財産的被害まで絡む古い特殊事例であり、通常相場として一般化しない方が安全です。
東京地裁平成21年4月8日判決 800万円 長期の二重生活、婚外子の出生、生活費不払い、離婚届の偽造などが重なった事案。 極端な外れ値に近い事案です。通常の不貞慰謝料とは分けて読む必要があります。

300万円は不貞慰謝料の中では高額な部類

裁判例上、300万円は不貞慰謝料の中では高額な部類です。東京地裁平成26年5月19日判決では、不倫相手が、相手に妻子がいることを知りながら、単身赴任中の配偶者と不貞関係に入り、その後も同棲を続けていました。さらに、請求する側からの制止や訴訟提起後も同居を継続していたことが重視され、慰謝料300万円が認められています。

東京地裁平成26年7月11日判決でも、交際開始直後には既婚者であることを知っていたこと、内容証明や訴訟後も関係を続けたこと、請求する側の過換気症候群や抑鬱状態が不貞行為により生じたと評価されたことなどから、慰謝料300万円が認められました。

これらの裁判例から分かるのは、300万円が認められるには、単に不貞行為があっただけでなく、発覚後も継続した、同棲した、健康被害が生じた、既婚者であることを明確に知っていたといった事情が重なりやすいということです。

400万円以上は長期・高頻度・妊娠中絶可能性などの特殊事情が必要になりやすい

東京地裁平成22年9月3日判決では、約6年半という長期間にわたる交際、週1、2回程度の肉体関係、請求する側の自宅での肉体関係、旅行、妊娠中絶の可能性などが問題になりました。裁判所は、これらの事情を総合して、慰謝料400万円を認めています。

400万円級の裁判例は、通常の不貞行為の延長というより、長期・高頻度・悪質性が重なった事案です。特に、自宅での不貞行為、妊娠・中絶の可能性、長期間にわたる裏切りは、慰謝料を押し上げる事情として重視されやすくなります。

請求する側が400万円以上を主張する場合は、単に「不倫された」というだけでなく、期間、頻度、発覚後の対応、家庭への影響、健康被害、妊娠・中絶、同棲や生活費の問題などを具体的に立証する必要があります。請求された側は、そのような特殊事情が本当にあるのか、証拠上どこまで認められるのかを確認することが重要です。

500万円の裁判例は、通常の不貞慰謝料として一般化しない

浦和地裁昭和60年1月30日判決では、500万円の慰謝料が命じられています。しかし、この裁判例は、単に不貞行為があった事案ではありません。相手方との関係のために、多額の借金、浪費、財産的被害、家事放棄などが問題になっており、婚姻関係の破綻だけでなく、財産面への大きな影響も絡んでいます。

そのため、この裁判例を見て「不貞行為なら500万円が相場」と考えるのは危険です。500万円級の裁判例は、通常事案ではなく、かなり特殊な事情が重なった例として位置づけるべきです。

慰謝料500万円や1000万円を請求された場合、請求書の金額だけで判断せず、自分のケースに、500万円級の裁判例で見られるような特殊事情があるのかを確認しましょう。高額請求の考え方は、不倫慰謝料の上限・高額請求で詳しく整理しています。

800万円級は極端な外れ値として読む

東京地裁平成21年4月8日判決では、800万円が認められています。ただし、この事案も通常の不貞慰謝料とは大きく異なります。長期の二重生活、不倫相手との間の子の出生、家を長期間空けて家族を遺棄したこと、生活費不払い、離婚届の偽造など、極めて悪質な事情が重なっていました。

このような裁判例は、高額事例として参考にはなりますが、一般的な不貞行為の相場を示すものではありません。むしろ、通常の不貞慰謝料では、請求額が1000万円であっても、裁判所が認める慰謝料本体は200万円や300万円にとどまることが多いという点と合わせて読むべきです。

高額事例で見るべきポイント

300万円以上・500万円以上の高額事例を検討するときは、次の事情があるかを確認します。

  • 不貞期間が数年に及ぶか
  • 週1、2回など高頻度の肉体関係があったか
  • 配偶者の自宅や夫婦の生活圏で不貞行為があったか
  • 発覚後、内容証明、制止、訴訟提起後も関係を続けたか
  • 同棲、妊娠、中絶、婚外子の出生などがあるか
  • 生活費不払い、借金、浪費、財産的被害などがあるか
  • 離婚届の偽造など、不貞行為以外の違法・悪質な事情があるか

高額事例は、請求する側にとっては、どの事情を具体的に主張・立証すべきかを考える材料になります。請求された側にとっては、相手の請求額が裁判例上の特殊高額事案に本当に近いのかを検討する材料になります。

慰謝料が低額・0円・請求棄却になる裁判例

不貞行為の慰謝料は、常に50万円以上、100万円以上が認められるわけではありません。裁判例では、請求が棄却された例、30万円程度にとどまった例、50万円程度に抑えられた例もあります。

低額・0円になる場面では、相場以前に「そもそも責任が成立するか」「故意・過失があるか」「婚姻関係が既に破綻していたか」「既に損害が填補されているか」「離婚や精神的苦痛との因果関係があるか」が問題になります。

裁判例 結論・慰謝料本体 事案の特徴 読み方
最高裁平成8年3月26日判決 破綻後不貞は原則として責任なし 肉体関係の時点で夫婦の婚姻関係が既に破綻していた場合、特段の事情がない限り、不倫相手は責任を負わないとされた。 相場以前に0円になり得る基礎ルールです。
東京地裁平成24年8月29日判決 請求棄却 交際相手から「婚姻歴はあるが離婚して独身」と聞かされ、勤務形態や生活状況から夫がいないと信じたことに過失がないとされた。 既婚者と知らず、知らなかったことに過失がない場合の0円例です。
東京地裁平成24年5月8日判決 請求棄却 協議離婚後、元夫の死亡後に不貞関係を知ったが、協議離婚と不貞関係との因果関係が認められなかった。 不貞関係があっても、離婚や損害との因果関係が否定されることがあります。
横浜地裁平成3年9月25日判決 請求棄却 夫が離婚時に慰謝料500万円を支払っており、妻の損害は填補されたとして、不倫相手への請求が棄却された。 既払い金によって、追加請求が認められないことがあります。
東京地裁平成24年12月21日判決 30万円 性交渉までは認められないが、情を通じ合うやりとり、接吻、抱擁などが不法行為とされた。 不貞行為そのものではなく、婚姻共同生活の平穏侵害として低額認容された例です。
東京地裁平成24年6月8日判決 50万円 「離婚する話がついている」と聞いていたため故意は認めにくいが、少なくとも過失はあるとされた。 破綻誤信があっても、確認不足があると低額認容され得る例です。

婚姻関係が既に破綻していた場合は0円になり得る

最高裁平成8年3月26日判決は、不貞行為の時点で夫婦の婚姻関係が既に破綻していた場合、特段の事情がない限り、不倫相手は他方配偶者に対して不法行為責任を負わないと判断しました。

これは、慰謝料額が低いというより、そもそも保護されるべき婚姻共同生活の平穏が既に失われているため、相場以前に責任が否定されるという考え方です。

もっとも、裁判例上、「夫婦仲が悪い」「別居している」「離婚の話が出ている」というだけで直ちに破綻が認められるわけではありません。夫婦としての交流、子どもとの生活、家計、別居の経緯、離婚調停・離婚訴訟の経過などを総合して判断されます。婚姻関係破綻の詳しい判断は、婚姻関係が破綻していた場合の不倫慰謝料を確認してください。

既婚者と知らず、知らなかったことに過失がなければ請求棄却になることがある

東京地裁平成24年8月29日判決では、不倫相手が、交際相手から「婚姻歴はあるが離婚し、現在は独身である」という趣旨の説明を受け、そのように信じていたことが信用されました。また、交際相手がホステスとして深夜まで勤務していたこと、深夜に電話で会話していたこと、不倫相手が相手の自宅を訪れたことがなかったことなども考慮されています。

裁判所は、交際相手に夫がいないと信じたことに過失があったとはいえないとして、請求を棄却しました。このように、既婚者と知らなかっただけでなく、知らなかったことについて過失もないといえる場合、慰謝料は0円になり得ます。

ただし、単に「既婚者だとは聞いていなかった」と言えば足りるわけではありません。相手の自宅に行けない、休日や夜間の連絡に不自然さがある、指輪や家族の存在をうかがわせる事情がある、途中で既婚者だと知った後も関係を続けたといった場合には、故意又は過失が認められる方向に働きます。詳しくは、既婚者と知らなかった場合の不倫慰謝料で整理しています。

「離婚する予定」と聞いていても、確認不足があれば50万円程度になることがある

東京地裁平成24年6月8日判決では、不倫相手が、配偶者から「離婚する話がついている」と聞いて関係を持った事情がありました。裁判所は、故意までは認めにくいとしながらも、少なくとも過失があるとして、慰謝料50万円を認めています。

これは、破綻や離婚予定を信じた事情があっても、相手の説明だけを軽信してよいとは限らないことを示しています。請求された側では、相手からどのような説明を受けたのか、その説明を信じるだけの客観的事情があったのか、自分から確認する機会があったのかが問題になります。

故意・過失の考え方を詳しく知りたい場合は、不倫慰謝料請求における故意・過失も参考になります。

死亡後に不貞が発覚しても、離婚との因果関係がなければ請求棄却になることがある

東京地裁平成24年5月8日判決では、協議離婚した元夫の死亡後に、婚姻中の不貞関係を知った元妻が、不倫相手に慰謝料を請求しました。しかし、裁判所は、協議離婚と不貞関係との間に因果関係があるとは認められないなどとして、請求を棄却しました。

この裁判例は、不貞関係が存在したとしても、それだけで慰謝料が当然に認められるわけではないことを示しています。特に、離婚後に不貞が発覚した事案では、離婚の原因が本当に不貞行為だったのか、婚姻中にどのような精神的損害が発生していたのか、いつ損害が顕在化したのかが問題になります。

死亡後発覚のような特殊事案は、相場表に機械的に入れるよりも、0円・請求棄却の例として慎重に読むべきです。関連する解決事例については、不貞が死亡後に発覚したケースの解決事例も参考になります。

既に慰謝料が支払われている場合、追加請求が認められないことがある

不貞行為は、配偶者と不倫相手が共同して損害を生じさせる共同不法行為として問題になることがあります。そのため、配偶者又は不倫相手の一方から既に慰謝料が支払われている場合、残りの相手に対する請求で、既払い金が考慮されることがあります。

横浜地裁平成3年9月25日判決では、夫が離婚時に慰謝料500万円を支払っており、妻の損害は填補されたとして、不倫相手への請求が棄却されました。このように、既に十分な慰謝料が支払われている場合、追加請求が認められないことがあります。

もっとも、配偶者との間で慰謝料を免除した、又は清算条項を入れたからといって、その効果が当然に不倫相手へ及ぶとは限りません。最高裁平成6年11月24日判決は、共同不法行為者が負担する損害賠償債務はいわゆる不真正連帯債務であり、通常の連帯債務に関する免除の規定が当然に適用されるものではないという考え方を示しています。

つまり、既払い金がある場合は「必ず0円」とも「まったく影響しない」ともいえません。いくら支払われたのか、何の名目で支払われたのか、不貞慰謝料として損害がどこまで填補されたのかを確認する必要があります。

性交渉まで認められない場合でも、低額の慰謝料が認められることがある

東京地裁平成24年12月21日判決では、性交渉までは認められないものの、情を通じ合うようなやりとり、接吻、抱擁などがあり、婚姻共同生活の平穏を害する不法行為に当たるとして、慰謝料30万円、弁護士費用3万円が認められました。

この裁判例は、典型的な不貞行為の相場表に入れるには注意が必要です。性交渉が認定されていないため、「一度だけの不貞行為」の例として同列に扱うのは適切ではありません。他方で、性交渉の証拠が不十分でも、婚姻共同生活の平穏を害する行為として低額の慰謝料が認められることがある点では重要です。

また、この事案では、請求側が勤務先へ通知したことなどを理由に、反訴で大きな損害賠償が認められています。勤務先通知や過剰な請求のリスクは、後の章で改めて整理します。

低額・0円の裁判例で見るべきポイント

低額・0円の裁判例を検討するときは、次の点を確認します。

  • 不貞行為の時点で、婚姻関係が既に破綻していたといえるか
  • 不倫相手が既婚者であることを知っていたか
  • 知らなかった場合、知らなかったことに過失がないといえるか
  • 「離婚予定」「破綻している」と聞いた場合、その説明を信じる客観的根拠があったか
  • 不貞行為と別居・離婚・精神的苦痛との因果関係があるか
  • 配偶者や不倫相手から、既に慰謝料・解決金が支払われているか
  • 性交渉まで証拠上認定できるか、それとも接吻・抱擁等にとどまるか
  • 請求する側の通知・交渉方法が、反訴リスクを生じさせていないか

請求する側は、低額・0円の裁判例があるからといって諦める必要はありません。ただし、責任成立や因果関係を裏づける事実を具体的に整理する必要があります。請求された側は、単に「高すぎる」と主張するだけでなく、破綻、既婚不知、既払い金、因果関係、証拠の弱さなど、どの減額・否定事情が自分のケースに当てはまるかを確認することが重要です。

探偵費用・弁護士費用は判例でどこまで認められるか

不貞行為の慰謝料請求では、慰謝料本体のほかに、探偵費用や弁護士費用が問題になることがあります。請求する側は「不倫調査のために支払った費用だから全額請求したい」と考えやすく、請求された側は「慰謝料だけでなく探偵費用まで払う必要があるのか」と不安になりやすいところです。

裁判例を見ると、探偵費用は全額当然に認められるわけではありません。裁判所は、調査の必要性、調査の時期・回数・内容、既に不貞行為を立証できる証拠があったか、調査以外に合理的な方法があったか、調査費用の金額が相当かなどを見て判断しています。

また、弁護士費用についても、実際に支払った弁護士費用がそのまま全額認められるとは限りません。不法行為と相当因果関係のある範囲として、認められた慰謝料や周辺損害の一部、実務上は1割程度が目安になることが多いです。

裁判例 慰謝料本体 探偵費用・調査費用 弁護士費用 読み方
東京地裁平成23年12月28日判決 150万円 157万5000円の調査費用請求のうち100万円 25万円 探偵費用が比較的大きく認められた例ですが、慰謝料本体とは分けて読む必要があります。
東京地裁立川支部令和5年10月5日判決 120万円 80万7004円の調査費用請求のうち15万円 12万円 同棲把握の経過等は考慮されたものの、探偵費用は大幅にカットされました。
東京地裁令和4年6月9日判決 170万円 383万1632円の探偵調査費用請求のうち40万円 20万円 調査の必要性が一定程度認められても、数百万円単位の調査費用が全額認められるとは限りません。
東京地裁令和3年12月16日判決 150万円 167万9846円の調査費用は、独立の損害としては認められず、慰謝料算定の一事情にとどめられた 15万円 探偵費用が慰謝料の判断要素にとどまる例です。
東京地裁令和3年10月29日判決 200万円 76万9062円の調査費用は0円 20万円 証拠収集費用が通常損害とはいえないとして否定された例です。
東京地裁平成26年12月4日判決 180万円 探偵費用は相当因果関係がないとして否定 18万円 慰謝料は認められても、探偵費用は別に否定され得ることを示す例です。

探偵費用が認められても、慰謝料本体とは別に見る

東京地裁平成23年12月28日判決では、主文上は本訴で275万円が認められています。しかし、その内訳は、慰謝料本体150万円、調査費用100万円、弁護士費用25万円です。この裁判例を「慰謝料275万円」と読むと、不貞慰謝料の相場を高く見積もりすぎることになります。

東京地裁令和4年6月9日判決でも、慰謝料170万円のほか、探偵調査費用40万円、弁護士費用20万円が認められています。このように、裁判所が探偵費用を認める場合でも、慰謝料本体とは別の損害として整理されます。

不貞行為の慰謝料相場を判例から見るときは、判決の主文や合計額だけでなく、内訳を確認することが重要です。相手方から「裁判例では275万円が認められている」などと説明された場合でも、それが慰謝料本体なのか、探偵費用や弁護士費用を含む合計額なのかを確認しましょう。

探偵費用は必要性があっても大幅にカットされることがある

東京地裁令和4年6月9日判決では、原告が探偵調査費用として383万1632円を請求しました。裁判所は、調査の必要性が特に高い状況にあったことや、調査以外に有力な証拠・情報を収集する合理的な手段がなかったことなどを考慮し、探偵調査費用を一定範囲で認めました。

しかし、認められたのは40万円に限られています。つまり、探偵費用が損害として認められる事案でも、実際に支払った数百万円がそのまま認められるわけではありません。

東京地裁立川支部令和5年10月5日判決でも、調査費用80万7004円のうち、認められたのは15万円でした。被告らの同棲を知った経過や調査の回数・内容は考慮されたものの、相当因果関係のある損害として認められる範囲は限定されています。

証拠収集のための費用として否定されることもある

東京地裁令和3年10月29日判決では、探偵に行動調査を依頼した費用について、一般に証拠収集のための費用は、不貞行為により通常生ずべき損害とは認められないとして、調査費用は0円とされました。

東京地裁令和3年12月16日判決でも、原告が支出した167万9846円の調査費用について、調査費用それ自体を不貞行為と相当因果関係のある損害とはいえないとし、慰謝料算定の一事情として考慮するにとどめています。

東京地裁平成26年12月4日判決でも、慰謝料180万円と弁護士費用18万円は認められましたが、探偵費用は相当因果関係がないとして否定されています。慰謝料が認められることと、探偵費用が認められることは別問題です。

弁護士費用は認められた損害額の1割前後が目安になりやすい

不貞慰謝料の裁判では、弁護士費用相当額が損害として認められることがあります。ただし、実際に弁護士へ支払った費用が全額認められるわけではなく、不法行為と相当因果関係のある範囲に限られます。

たとえば、東京地裁令和4年6月9日判決では、慰謝料170万円と探偵調査費用40万円に対し、弁護士費用20万円が認められています。東京地裁令和3年10月29日判決では、慰謝料200万円に対して弁護士費用20万円が認められています。東京地裁令和3年12月16日判決では、慰謝料150万円に対して弁護士費用15万円が認められています。

このように、裁判例では、認められた慰謝料や周辺損害の1割前後が弁護士費用相当額として認められることがあります。ただし、これはあくまで裁判上の損害として認められる範囲の話であり、実際の弁護士費用の見積りや報酬体系とは別です。

探偵費用をめぐる実務上の注意点

探偵費用については、請求する側も請求された側も、次の点を分けて検討する必要があります。

  • 不貞行為を立証するために調査が必要だったか
  • 調査前に、既にLINE、写真、宿泊記録、自白などの有力証拠があったか
  • 調査回数・調査期間・調査方法が過大ではないか
  • 調査費用の金額が、事案の規模に照らして相当か
  • 調査結果が実際に不貞行為や同棲の立証に役立ったか
  • 慰謝料本体と探偵費用を混ぜて請求していないか

探偵費用の請求を詳しく検討したい場合は、不倫慰謝料と探偵費用の請求を確認してください。探偵費用が問題になった解決事例としては、探偵費用を含む不倫慰謝料の解決事例も参考になります。

請求する側・請求された側が裁判例を見るときの実務ポイント

ここまで見てきた裁判例は、単に「いくら認められたか」を知るためだけのものではありません。実際には、請求する側がどの事情を主張・立証すべきか、請求された側がどの点を確認して減額・反論すべきかを考える材料になります。

特に、不貞慰謝料の裁判例では、請求額と認容額に大きな差が出ることが珍しくありません。300万円、500万円、1000万円と請求されても、裁判所が認める慰謝料本体は50万円、100万円、150万円、200万円にとどまることがあります。逆に、請求された側が「一度だけ」「離婚していない」「夫婦仲が悪かった」と考えていても、裁判所が100万円以上を認めることもあります。

立場 裁判例を見るときのポイント 特に確認すべき事情
請求する側 自分の事案に近い裁判例を探し、増額事情を具体的に整理する 婚姻期間、子どもの有無、離婚・別居、不貞期間・回数、発覚後の継続、健康被害、探偵費用の必要性
請求された側 請求額をそのまま相場と見ず、減額・否定事情を確認する 婚姻関係の悪化、破綻、既婚不知、故意過失、既払い金、証拠の弱さ、探偵費用の相当性
双方共通 慰謝料本体・探偵費用・弁護士費用・反訴リスクを分けて考える 合計額ではなく内訳、通知方法、勤務先連絡、SNS投稿、過剰請求の有無

請求する側は「自分の事案がどの金額帯に近いか」を整理する

請求する側が裁判例を見るときは、単に高額事例だけを探すのではなく、自分の事案に近い裁判例を探すことが大切です。離婚なしの事案なのに、長期二重生活や離婚届偽造がある800万円級の裁判例を基準にすると、請求額が現実の見通しから離れてしまいます。

請求額を決める際は、まず、離婚しなかったのか、別居・離婚危機に至ったのか、実際に離婚したのかを整理します。そのうえで、不貞期間・回数、子どもの有無、発覚後の対応、相手方の悪質性、健康被害、既払い金、探偵費用などを確認します。

請求する側にとって重要なのは、「精神的につらかった」という結論だけではなく、その苦痛を裏づける具体的な事情を裁判例の判断要素に沿って整理することです。たとえば、内容証明後も関係が続いた、同棲が続いた、子どもの生活に影響が出た、通院を要した、相手が既婚者であることを明確に知っていたなどの事情は、金額判断に影響し得ます。

請求された側は「請求額」と「裁判所が認めそうな金額」を分ける

請求された側が最初に確認すべきなのは、相手方の請求額がそのまま裁判所の認容額になるわけではないという点です。裁判例では、1000万円請求に対して200万円、700万円請求に対して50万円、500万円請求に対して50万円といったように、請求額と認容額が大きく異なることがあります。

請求された側では、次のような事情がないかを確認します。

  • 不貞行為の時点で、夫婦関係が既に相当程度悪化していたか
  • 婚姻関係が既に破綻していたといえる事情があるか
  • 相手が既婚者であることを知らなかった、又は破綻していると信じた事情があるか
  • 不貞行為の期間・回数が短いか
  • 発覚後に謝罪し、関係を解消したか
  • 配偶者や不倫相手から既に慰謝料・解決金が支払われているか
  • 探偵費用が過大ではないか
  • 勤務先通知やSNS投稿など、請求側の対応に問題がないか

婚姻関係の破綻については、婚姻関係破綻の反論も参考になります。既婚者と知らなかった場合は、既婚者と知らなかった場合の慰謝料、故意・過失の考え方は、不倫慰謝料請求における故意・過失で詳しく整理しています。

勤務先通知や過激な連絡は、反訴リスクを生じさせることがある

不貞慰謝料では、感情的になって相手の勤務先へ連絡したり、SNSで投稿したり、家族や職場に知らせたりしたくなることがあります。しかし、裁判例上、そのような対応が反訴リスクを生じさせることがあります。

東京地裁平成24年12月21日判決では、性交渉までは認められないものの、接吻・抱擁等により本訴で33万円が認められました。他方で、請求側が代理人弁護士を通じて勤務先への通知を示唆し、実際に勤務先へ通知したことなどが問題となり、反訴で193万3998円が認められています。

東京地裁平成23年12月26日判決でも、配偶者に対する慰謝料請求で50万円が認められた一方、過激なメールや勤務先への手紙などが問題となり、反訴で100万円が認められています。東京地裁平成23年12月28日判決でも、名誉毀損や脅迫的内容のはがき送付が問題となり、反訴で50万円が認められました。

もちろん、勤務先への連絡が常に違法になるわけではありません。東京地裁平成19年8月22日判決では、勤務先訪問等が問題になりましたが、反訴請求は棄却されています。重要なのは、証拠の有無、通知の必要性、方法、内容、相手のプライバシーへの配慮、退職や名誉毀損につながる危険性です。

不倫相手から嫌がらせを受けている場合や、逆に自分の対応が過剰になっていないか不安な場合は、不倫慰謝料請求と嫌がらせへの対処も確認してください。

裁判例は「単件の結論」ではなく「判断要素」を読む

裁判例を読むときは、「この裁判例では100万円だった」「この裁判例では300万円だった」という結論だけでなく、裁判所が何を重視したのかを読む必要があります。

たとえば、一度だけの不貞行為で100万円が認められた裁判例があるからといって、すべての一度だけのケースが100万円になるわけではありません。逆に、50万円にとどまった裁判例があるからといって、短期間なら必ず50万円で済むわけでもありません。

裁判例は、自分の事案を当てはめるための地図です。金額だけを抜き出すのではなく、婚姻期間、子どもの有無、夫婦関係、不貞期間・回数、証拠、発覚後対応、既払い金、周辺損害を合わせて比較しましょう。

不貞裁判の判決文・体験談を探している方へ

「不貞裁判 判決文」「不貞 裁判 体験談」と検索する方は、裁判所がどのように判断したのかだけでなく、実際に裁判になった場合の流れ、請求額と最終額、和解になったのか判決になったのか、どのような証拠が使われたのかを知りたいことが多いでしょう。

この記事では、裁判例をもとに慰謝料相場を整理しています。ただし、判決文そのものと、実際の相談・交渉・裁判の体験談は性質が違います。裁判例は裁判所が認定した事実と法的判断を示すものですが、体験談や解決事例は、相談から交渉、訴訟、和解、支払いまでの流れを知るためのものです。

判決文は、金額だけでなく認定事実と理由を読む必要がある

不貞裁判の判決文には、請求額、当事者の主張、裁判所が認定した事実、争点、慰謝料額の理由などが書かれています。もっとも、判決文は法律文書であり、同じ金額でも、どの事情がどの程度重視されたのかを読み解くには注意が必要です。

たとえば、主文で230万円が認められていても、その内訳が慰謝料170万円、探偵費用40万円、弁護士費用20万円である場合があります。主文で275万円が認められていても、慰謝料本体は150万円で、調査費用100万円と弁護士費用25万円が加算されている場合があります。

そのため、判決文を見るときは、合計額だけでなく、慰謝料本体、探偵費用、弁護士費用、反訴の金額を分けて読むことが重要です。

体験談や解決事例は、裁判例とは別の目的で見る

体験談や解決事例は、裁判例とは違い、実際の交渉や裁判の進み方を知るために有用です。たとえば、請求額からどのように減額したのか、証拠がどの程度あったのか、裁判になった場合にどの時点で和解したのか、弁護士が介入してどのように対応したのかを知ることができます。

不貞裁判の体験談や解決事例を見たい場合は、不貞慰謝料裁判の解決事例や、不倫慰謝料の解決事例一覧を確認してください。

ただし、解決事例は、交渉上の事情、証拠、当事者の意向、支払能力、早期解決の必要性などによって金額が変わります。裁判例の相場と、交渉・和解での解決金は、完全に同じものではありません。

不貞行為の慰謝料相場と判例に関するFAQ

不貞行為の慰謝料相場は判例ではいくらですか?

裁判例では、50万円から300万円程度に収まる例が多いですが、離婚なし・修復ありなら50万円から100万円程度、別居・離婚危機なら100万円から200万円程度、離婚ありや重大な影響がある場合は150万円から300万円程度になることがあります。ただし、破綻、既婚不知、既払い金などがあれば0円や低額になることもあります。

一度だけの不貞行為でも慰謝料は発生しますか?

発生することがあります。東京地裁令和4年7月20日判決では、証拠上認定できる性交渉の機会が一度だけで、期間も1か月弱とされた事案でも、慰謝料100万円が認められました。他方で、示談後の再不貞について50万円にとどまった裁判例もあります。

500万円や1000万円の慰謝料は認められますか?

通常の不貞行為では高額です。500万円以上の裁判例は、長期・高頻度の関係、妊娠中絶の可能性、財産的被害、長期二重生活、婚外子、生活費不払い、離婚届偽造など、特殊事情が重なった例として読む必要があります。

探偵費用は全額請求できますか?

全額当然に認められるわけではありません。探偵費用が一部認められた裁判例もありますが、数百万円の請求に対して数十万円に限られたり、独立の損害としては認められず慰謝料算定の一事情にとどめられたり、0円とされた例もあります。

既婚者と知らなかった場合も慰謝料を払う必要がありますか?

既婚者と知らず、知らなかったことに過失もない場合は、請求が棄却されることがあります。ただし、相手の説明を軽信した、既婚者だと知った後も関係を続けた、夫婦関係が破綻していると信じる客観的根拠が乏しいといった場合は、慰謝料が認められることがあります。

配偶者や不倫相手が既に慰謝料を払っている場合は減額されますか?

減額又は請求棄却につながることがあります。既に支払われた金額が不貞慰謝料として損害をどこまで填補しているかが問題になります。ただし、配偶者への免除や清算条項の効果が当然に不倫相手へ及ぶとは限らないため、支払いの名目と合意内容を確認する必要があります。

判決文と解決事例・体験談は何が違いますか?

判決文は、裁判所が認定した事実と法的判断を示すものです。解決事例や体験談は、相談、交渉、裁判、和解、支払いまでの流れを知るためのものです。相場判断には裁判例が有用ですが、実際の進め方を知るには解決事例も参考になります。

請求額が300万円なら、裁判でも300万円になりますか?

必ずしもそうではありません。裁判例では、300万円、500万円、1000万円を請求しても、慰謝料本体は50万円、100万円、150万円、200万円にとどまることがあります。請求額ではなく、裁判所がどの事情を認定し、どの損害を慰謝料本体として評価したかを見る必要があります。

まとめ:判例から分かる不貞行為慰謝料相場の見方

不貞行為の慰謝料相場を判例から見るときは、「不倫をしたからいくら」と単純に決めるのではなく、事案ごとの事情を分けて考える必要があります。

  • 離婚なし・夫婦関係修復の場合は、50万円から100万円程度にとどまる裁判例があります。
  • 別居・離婚危機に至った場合は、100万円から200万円程度が問題になりやすいです。
  • 離婚した場合や重大な影響がある場合は、150万円から300万円程度になる裁判例があります。
  • 一度だけ・短期間でも0円とは限らず、100万円前後が認められることがあります。
  • 300万円以上・500万円以上は、発覚後の継続、長期・高頻度、同棲、妊娠、財産的被害などの特殊事情が重なった例として読むべきです。
  • 婚姻関係破綻、既婚者不知、既払い金、因果関係の欠如、証拠の弱さがあると、低額・0円になることがあります。
  • 探偵費用や弁護士費用は、慰謝料本体と分けて判断する必要があります。

請求する側は、自分の事案に近い裁判例を踏まえて、増額事情を具体的に整理することが重要です。請求された側は、請求額にそのまま応じる前に、慰謝料本体、探偵費用、弁護士費用、既払い金、破綻や故意過失の有無を確認しましょう。

不貞慰謝料は、裁判例上の相場だけでなく、証拠、交渉経過、相手方の対応、早期解決の必要性によっても見通しが変わります。請求する場合も、請求された場合も、裁判例の金額だけを抜き出すのではなく、自分の事案がどの金額帯に近いかを整理することが大切です。

坂尾陽弁護士

不貞行為の慰謝料は、請求額ではなく、裁判所が重視する事情から見通しを立てることが大切です。

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