慰謝料の請求期限は3年?時効のカウント開始と例外ケースを解説!

不倫の慰謝料請求を検討されている方にとって、請求期限(時効)を理解することは非常に重要です。慰謝料を請求する権利がある場合であっても、時効期間を過ぎてしまうと、正当な権利を失うリスクがあります。

また、不倫慰謝料を請求された方にとっても、時効を主張することで慰謝料の支払いが免除されることがあります。

つまり、慰謝料を請求する人・された人の双方にとって慰謝料の請求期限を正確に理解することは非常に重要です。本記事では、知らないと損をする不倫慰謝料の請求期限についての知識を詳しく解説し、適切な対応策をご紹介します。

(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

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不倫慰謝料請求の請求期限とは?

不倫による精神的苦痛に対する慰謝料請求には、法律で定められた期限(時効)があります。この請求期限を過ぎると、慰謝料を請求する権利が消滅してしまいます。

時効の期間

民法第724条では、不法行為に基づく損害賠償請求権の時効について以下のように定められています。

  • 損害および加害者を知ったときから3年
  • 不法行為の時から20年

つまり、不倫の事実と相手を知った日から3年以内、または不倫行為が行われた日から20年以内に慰謝料請求を行う必要があります。

起算点の詳細

時効の起算点(カウント開始日)は以下の通りです。

不倫の事実および相手を知った日:配偶者の不倫を知り、その相手が誰であるかを認識した日から3年以内に請求を行う必要があります。

不倫行為が行われた日:不倫の事実を知らなかった場合でも、不倫行為が行われた日から20年が経過すると、慰謝料請求権は消滅します。

実務上、とくに重要なのは不倫の事実と不倫相手を知った時から3年間という請求期限です。例えば、LINEで不倫を疑うやり取りを見つけたことが不倫発覚のきっかけであった場合には、不倫の明確な証拠を入手して不倫の事実を知った時点、不倫相手の住所や氏名が分かった時点等がずれることがあるので注意が必要です。

 

不倫慰謝料の請求期限に関する裁判例

裁判例においても不倫慰謝料の請求期限が争われるケースは少なくありません。不倫慰謝料の時効に関する具体的な裁判例をいくつかご紹介します。これらの事例を通じて、時効の適用がどのように判断されるかを理解することができます。

裁判例1:東京地方裁判所 平成19年9月28日判決

本件では、原告が離婚後に不倫慰謝料を請求した事案です。被告は、原告が不貞行為を知った時点で不倫慰謝料の請求権が消滅時効にかかると主張しました。

しかし、裁判所は原告が離婚事件において妻の不貞行為を争点としていたものの、被告が不倫相手であることが明らかになるまで被告に対する不倫慰謝料を請求できなかったと判断しました。なぜなら、原告は離婚後に元夫の養育費不払いを追及するため、元夫の戸籍謄本を取り寄せた際に被告が不倫相手であると知ったからです。

このように、不貞相手を特定できなかったことから不倫慰謝料の消滅時効は完成していないと判断されました。

裁判例2:最高裁平成31年2月19日判決

本件は不倫をされた夫(原告)が、不倫をした妻の不倫相手である男性(被告)に対して慰謝料を請求した事案です。原告は平成22年5月頃までに不倫を知ったものの、被告に対して慰謝料を請求したのは平成27年中でした。この間に原告は不倫をした妻との離婚調停を行っており、平成27年2月25日に調停離婚が成立しています。つまり、離婚成立時点から起算すると消滅時効は完成していないのに対し、不貞行為を知った時点からは消滅時効は完成している事案でした。

判例は、特段の事情がない限り、不倫相手という第三者に対しては離婚に伴う慰謝料を請求することはできないとしています。つまり、被告に対する慰謝料請求の請求期限は離婚が成立してから3年ではなく、不貞行為を知った時から3年であると判断しています。そのため、不倫をされた夫(原告)は、不倫相手である男性(被告)に対し、慰謝料を請求できなくなったという事案です。

これらの事例から、時効の起算点と期間を正確に理解し、適切なタイミングで行動を起こすことの重要性がわかります。この他にも不倫慰謝料の時効に関する裁判例は数多く存在します。詳しくは下記記事で紹介していますので参考にしてください。

(参考)不倫慰謝料の消滅時効の裁判例について徹底解説

 

時効に関するよくある誤解と正しい知識

不倫慰謝料の時効に関して、以下のような誤解がよく見られます。正しい知識を持つことで、適切な対応が可能になります。

誤解1:「時効が成立しているかは簡単に判断できる」

「時効は3年経過していれば成立するから自分でも簡単に判断できる」と考えている相談者も少なくありません。しかし、慰謝料の請求期限は不倫をした時から3年ではなく、不倫の事実と不倫相手を知った時から3年間です。そのため、どの程度の事実を知っていれば3年の期間はスタートするかや、不倫の事実や不倫相手を知った時点を証拠でどのように認定するかを巡って裁判例においても判断が分かれています。つまり、時効が成立しているかどうかは簡単に判断できるものではありません。

誤解2:「不倫を知らなければ時効は進まない」

多くの人が、「不倫の事実を知らなければ、時効は進行しない」と考えがちです。確かに、民法第724条では「損害および加害者を知ったときから3年」と定められています。しかし、「知らなかった」と主張するためには、その主張を裏付ける証拠が必要になることもあります。。例えば、日記やメールなどで不倫の事実を知った日付を記録しておくことも考えられます。

誤解3:「相手が認めれば時効は関係ない」

一部の人は、「相手が慰謝料の支払いを認めれば、時効は関係ない」と思っています。しかし、相手が口頭で支払いを認めても、時効成立後に時効が成立したと主張されれば慰謝料を請求できなくなる可能性は高いです。そのため、時効が成立する前に適切な手続きを行うことが重要です。

誤解4:「口頭での請求で時効は止まる」

「口頭で慰謝料を請求すれば、時効の進行が止まる」と考える人もいます。しかし、実務的には口頭での請求では時効の進行を止めることはできないと考えるのが一般的です。なぜなら、時効の進行を止めたことを主張するためには証拠が必要となるからです。時効を止めるためには、内容証明郵便での請求や訴訟の提起が必要です。

これらの誤解を避け、正しい知識を持つことで、時効による権利の消滅を防ぐことができます。

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時効を止めるための内容証明郵便の具体的な書き方・送付方法

不倫慰謝料の請求を考えている場合、時効が成立する前に適切な手続きを取ることが重要です。その手段の一つとして、内容証明郵便を利用する方法があります。

内容証明郵便とは?

内容証明郵便とは、「いつ・誰に・どのような内容の文書を送付したのか」を郵便局が証明してくれる郵便のことです。慰謝料請求においては、内容証明郵便を送ることで請求期限を6ヶ月間伸ばすことができます。

内容証明郵便の書き方(テンプレート付き)

慰謝料請求の内容証明郵便は、例えば、以下のように記載します。

【内容証明郵便の例】

私は、貴殿が私の配偶者である(氏名)と不貞関係にあったことを○○年○○月に知りました。

この不貞行為により、私は大きな精神的苦痛を受けました。よって、貴殿に対し、慰謝料として○○万円を請求いたします。

本書面受領後○○日以内に、以下の指定口座へお振込みください。

振込先情報:○○銀行 ○○支店 普通口座 1234567 口座名義:○○ ○○

なお、本通知をもって、貴殿に対し正式な請求を行ったことを証明いたします。

この請求を受け入れる意思がない場合、法的措置を講じる可能性があります。

郵送方法

  • 作成した内容証明郵便を3部印刷する(送付用・控え用・郵便局用)
  • 最寄りの郵便局で「内容証明郵便」として送付手続きを行う
  • 相手が受け取らなくても送付した事実が証拠として残る

送付後の対応

  • 相手が支払いに応じる場合 → 交渉し、合意書を作成する
  • 相手が無視する場合 → 訴訟を検討する(内容証明送付の6ヶ月以内に行動を起こす)
  • 相手が時効を主張した場合 → 弁護士と相談し、訴訟が可能か検討する

内容証明郵便は時効の猶予に有効な手段ですが、あくまで慰謝料の請求期限を6か月間伸ばすだけにすぎません。慰謝料請求の交渉を行っていれば6か月間は簡単に経過してしまいます。そのため、慰謝料請求の時効が完成しそうなときは、内容証明郵便は一時しのぎの手段にすぎず、速やかに訴訟など次のステップに移るべきだと考えてください。

 

不倫慰謝料を請求された側の対策

逆に、不倫慰謝料を請求された場合、どのように対応すべきでしょうか? 慰謝料の請求期限を過ぎており時効が成立したことを主張することにより、慰謝料の支払いを免除される可能性があります。

慰謝料請求を受けたら時効を確認する

まずは、請求が時効内かどうかを確認しましょう。慰謝料請求は 「不倫の事実と不倫相手を知った日から3年」が請求期限となります。

  • 請求された日から3年以上経過しているか?
  • 「不倫の事実・不倫相手を知った日」の証拠を持っているか?

一般的に不倫被害者は密かに不倫の証拠を収集します。そのため、不倫被害者が不倫の事実・不倫相手をいつ知ったかを把握することは困難です。例えば、不倫をした配偶者から事情を確認することや、不倫被害者が提出した調査報告書の日付を確認することで、不倫被害者がいつ知ったかを確認することが考えられます。

時効を過ぎていたら時効の援用を行う

不倫慰謝料の請求権について時効が成立している場合、「時効の援用(えんよう)」を行うことで支払いを拒否できます。

時効の援用とは、時効が成立していることを正式に主張する行為です。

【時効の援用通知書の例】

貴殿からの慰謝料請求について確認したところ、本件に関しては既に時効が成立しております。

よって、民法第724条に基づき、本書面をもって正式に時効の援用を主張いたします。

本件に関して、今後一切の請求には応じかねますので、ご了承ください。

この通知を送ることで、請求者が裁判を起こしても、時効が成立しているため支払いを拒否できる可能性があります。

時効を援用するときの注意点

慰謝料を請求された側が時効を援用する場合には慎重な検討が必要となります。なぜなら、時効を援用する行為は、慰謝料の支払いを一切拒否するものです。そんため、不倫被害者が納得しない場合にはいきなり訴訟を起こされて、慰謝料について交渉の機会を失うリスクがあります。

また、不正確な知識に基づいて時効を主張することは、不倫被害者を騙す行為であり不誠実な対応です。そのため、もし本当は時効が成立していなかった場合には慰謝料の増額事由となるリスクもあるのでご注意ください。

時効が成立していない場合の対応

時効が成立しているかの判断が微妙な場合や、時効が成立していない可能性が高い場合には、慰謝料の減額交渉が可能な場合もあります。

減額交渉のポイント

  • 不倫関係が短期間だった場合
  • 精神的苦痛の程度が低いと主張できる場合
  • 配偶者との婚姻関係が破綻していた場合

弁護士に相談することで、慰謝料の大幅な減額が可能になることもあります。詳しくは下記記事を参考にしてください。

(参考)慰謝料減額交渉 5つの理由【弁護士執筆】

 

慰謝料の請求期限を弁護士に相談するメリット

不倫慰謝料の請求には時効があり、請求のタイミングや方法を誤ると、本来受け取れるはずの慰謝料を請求できなくなる可能性があります。また、慰謝料を請求された側も、時効の主張や減額交渉を適切に行わなければ、不必要に高額な慰謝料を支払うリスクがあります。

 

弁護士に相談することで、以下のようなサポートを受けることができます。

  • 時効の確認と適切な対策(時効が迫っている場合の対処や、時効の援用手続き)
  • 慰謝料の適正な金額の算出と交渉(不当に低い請求・高額な請求に対応)
  • 証拠の整理と法的手続きのサポート(証拠不足で請求が失敗しないように)
  • 相手との直接交渉を回避できる(弁護士が代理で交渉し、精神的負担を軽減)

「時効が迫っているかも…」「慰謝料を請求したい/されたが、どうすればいい?」とお悩みの方は、できるだけ早く弁護士に相談しましょう。無料相談を実施している法律事務所も多いため、まずは専門家の意見を聞くことが最善の選択です。当事務所の無料相談についてはこちらの記事もお読みください。

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不倫慰謝料の請求期限について正しく知っておくことが重要

不倫慰謝料の請求には請求期限があり、基本的には「不倫の事実及び不倫相手を知った日から3年」が経過すれば時効が成立し、慰謝料を請求できなくなります。時効を過ぎると請求が難しくなりますが、内容証明郵便の送付や訴訟を起こすことで時効を止めることが可能です。また、時効が成立していれば、慰謝料を請求された側は「時効の援用」によって支払いを拒否できる可能性があります。

不倫慰謝料を請求する場合も、請求された場合も、いつまで慰謝料を請求できるかについて早めに弁護士へ相談し、適切な対応を取ることが重要です。

まとめ

  • 不倫慰謝料の時効は「知った日から3年」、最長20年
  • 時効を止めるためには「内容証明郵便の送付」や「訴訟」が必要
  • 時効が過ぎても、交渉の余地がある場合もある
  • 慰謝料を請求された側も、時効を主張できる可能性がある
  • 時効の援用を適切に行えば、慰謝料の支払いを拒否できる
  • 不明な点があれば、弁護士に相談を!

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