既婚者と知らなかったのに慰謝料請求されたときの対応方法

不倫だと知らなかったが、実は交際相手が既婚者だった場合は慰謝料を払う必要はありません。そもそも、既婚者と知らず騙されて不倫関係を持った場合、あなたも被害者意識があり怒りを感じるかもしれません。しかし、不倫慰謝料を請求されたのであれば、正しく対応をしないと既婚者だと知らなかったとの主張が認められずに裁判で負けるリスクもあります。

 

そこで、この記事では既婚者だと知らなかったのに不倫慰謝料を請求されたときの不安や悩みについて解説します。

  • 既婚者だと知らなかったら慰謝料を払わないですむ理由
  • 相手が既婚者だと知らなかった証拠について
  • 裁判になった場合でも不倫と知らなかったとの反論は認められるか
  • 不倫の途中で既婚者だと知った場合
  • 既婚者だと隠した交際相手に慰謝料は請求できる

等の疑問について、不倫で慰謝料請求された事案を数多く扱う弁護士が説明します。いきなり不倫慰謝料を請求されて、その時に交際相手が既婚者だと知った場合は驚かれるかもしれません。この記事を読んで適切に対応してください。

(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

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既婚者だと知らなかったら慰謝料は払わないで済む

 

慰謝料を請求できる条件と既婚者と知らなかったことの関係

既婚者と知らなかった場合に慰謝料は払わないで済みます。これは慰謝料を請求できる条件を満たさないからです。

不倫慰謝料は民法709条を根拠とします。そして、民法709条は請求が認められるためには、故意・過失が必要だとしています。

民法709条の条文

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法709条における「不法行為」とは、不倫で慰謝料を請求された場合では不貞行為があったことをいいます。不貞行為は原則として自由な意思で配偶者以外と肉体関係(性行為)を持つことです。つまり、故意・過失によって既婚者と肉体関係(性行為)を行うことが慰謝料請求の条件になるのです。

故意・過失の有無がポイントです!

坂尾陽弁護士

既婚者だと知らなかった場合は故意・過失がない

不倫だと知らずに既婚者と肉体関係を持った場合、原則として不貞行為であることの故意・過失がありません。つまり、不倫慰謝料を請求されたときに既婚者だと知らなかったとの反論は、故意・過失を否定する旨の反論だと言えます。

不倫だと知らずに既婚者だと肉体関係を持ったことが認められれば、故意・過失がないため慰謝料を払わずに済みます。

既婚者と知らなかったが簡単に分かったはずの場合

しかし、既婚者だと知らなかったが、少し注意すれば既婚者だと簡単に分かった場合は慰謝料請求が認められる可能性があります。この場合、交際相手が既婚者でないと信じたことに不注意(過失)があったと判断されるからです。

特に不倫が長期間続いたような場合は過失の有無が問題になります。親密な交際関係があったのであれば、不自然な点があり既婚者かもしれないと思うべきだったと判断される可能性があるのです。

また、出会ったきっかけも重要です。例えば、社内不倫のケースでは上司や同僚が既婚者だと知らなかったし、気付くこともできなかったとの反論は認められにくいでしょう。これに対し、マッチングアプリや婚活パーティーや出会い系で出会った場合は不倫と知らんかったことがやむを得ないと判断されるケースも多いです。

既婚者と知らなかったので故意がない場合でも過失が認められると慰謝料の支払義務が生じるのでご注意ください。

坂尾陽弁護士

 

既婚者だと知らなかった証拠とは

 

なぜあなたが既婚者だと知らなかったと立証する必要があるのか

既婚者だと知らなかったのに不倫慰謝料を請求されたときは、相手が既婚者であると知らなかった証拠を提示することもポイントです。

慰謝料を請求する側としても、何ら立証もされないのに既婚者だと知らなかったので慰謝料を払わないと反論されたとしても納得できません。あなたは、既婚者と知らずに騙されて不倫関係を持ったわけなので被害者意識があるかもしれませんが、冷静に対応しないと裁判を起こされるリスクがあります。

既婚者だと知らなかったことを立証して、慰謝料を請求する側に交渉によって請求を取り下げて貰うのが一番です。したがって、きちんと既婚者だと知らなかった証拠を集めて立証をする必要があります。

相手が既婚者だと知らず、過失もなかったことを示す証拠

不倫慰謝料の支払いを避けるためには、既婚者だと知らなかったこと及びそのことに過失がなかったことの証拠が必要です。具体的には以下のような証拠が考えられます。

相手が独身であると嘘をついた証拠

例えば、相手が独身であるとアピールするLINE、メール、SNSのメッセージ等が考えられます。また、既に離婚をしたと嘘をついたり、婚姻関係は破綻していると嘘をついたりする場合も考えられます。

ただし、前後の文脈も重要です。例えば、あなたが「まさか既婚者ではないよね」と質問していたようなときは、あなたが既婚者だと疑っていたという過失を基礎付ける証拠ともなりかねないのでご注意ください。

マッチングアプリや婚活;パーティーで知り合った証拠

独身者であることを前提としたマッチングアプリや婚活パーティーで不倫相手と出会った場合はそれも証拠となります。

例えば、独身と記載されているプロフィールや、最初に連絡先を交換した時のメッセージにどこで出会ったかの記載があれば有力な証拠となります。

SNSで既婚者と簡単に分かる場合に注意する

逆に、本名で検索したらSNSの写真等から簡単に既婚者だと分かるケースもあるのでご注意ください。例えば、Facebookのプロフィールから既婚者だと分かったり、誕生日に配偶者からのコメントがあったりするような場合です。

このような場合は、既婚者だと知らなかったとしても、過失があったと認められる可能性があります。したがって、慰謝料請求について慎重な対応が必要です。慰謝料請求された案件に強い弁護士に相談することをおすすめします。

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不倫時点で既婚者だと知らなかった旨の反論がされた裁判例

既婚者だと知らなかったと反論して慰謝料の支払いを拒否した場合は裁判で慰謝料を請求されるリスクがあります。裁判になった場合には、既婚者だと知らなかったとの反論はどれぐらい認められるのでしょうか?

裁判所も、不倫だと知らなかったことが本当にやむを得ない場合には慰謝料の支払義務はないと判断してくれます。しかし、必ず勝てるわけではなく、過失があるとして慰謝料の支払いを認めた裁判例もあります。したがって、既婚者だと知らなかったとしても過信は禁物です。

故意・過失が認められなかった裁判例

東京地裁平成23年4月26日判決

お見合いパーティーで出会った事案において、既婚者だと知らなかったことから慰謝料請求は認められないと判断されました。お見合いパーティーは通常独身者が参加すると考えられていたことや、不倫相手は氏名、年齢、住所、学歴等を偽って独身であるかのように装ったことから過失もないと判断されています。

東京地裁平成25年7月10日判決

社内不倫の事案でしたが、既婚者と知らなかったことに過失はないと判断されました。この事案では入社して知り合った当初から、不倫相手は「自分には妻子がいたが、今は離婚して独身だ。」と嘘をついていました。また、勤務先でもこのことを疑う人はいませんでした。このような特別な事情があったことから、裁判所は既婚者だと知らなかったのもやむを得ないとして慰謝料請求を認めなかったものと思われます。

既婚者と知らなかったことに過失があるとした裁判例

東京地裁平成22年8月25日判決

この事案は、交際前から不倫相手が既婚者だと知っていたものの、夫婦関係が実質的に破たんしていると信じていた事案です。判例によれば、夫婦関係が破たんしている場合の不貞行為について慰謝料請求は認められません。そのため、夫婦関係が破たんしていることを知らなかった場合にどうなるかが問題となります。

しかし、裁判所は、4か月前に子どもが生まれており離婚を考えているなら出産に踏み切るはずがないことや、家庭内別居をしていたにすぎないことから、夫婦関係が実質的に破たんしていると信じたことに過失があるとして慰謝料請求を認めました。

既婚者と知らなかった場合でも不倫慰謝料の支払いを命じる裁判例もあります。

坂尾陽弁護士

 

以上のとおり、不倫時点で既婚者だと知らなかった旨の反論は裁判例においても認められています。もっとも、裁判になった場合は自分で対応することはできず、弁護士に依頼するのが通常です。しかし、最終的に弁護士に依頼するのであれば、裁判前に相談・依頼する方がスムーズに対応できます。

既婚者だと知らなかったので慰謝料を払わない旨を証拠とともに提案しても、相手が納得しない場合は早めに不倫慰謝料を請求された事案に強い弁護士にご相談ください。

既婚者と知らなかったとしても安心できない

あなたが本当に既婚者と知らなかったとしても、裁判例において不倫慰謝料の請求が認められた事例がある以上は安心できません。不倫慰謝料を請求された場合、適切な反論をせずに単に「既婚者と知らなかったので慰謝料の支払いは拒否する」と回答すると、裁判を起こされて敗訴するリスクもあります。既婚者と知らなかったこと、及び注意しても分からなかったことを具体的な事情に基づいて適切に反論する必要があります。

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不倫後に既婚者だと知ったが肉体関係を継続した場合

 

また、よくあるのが最初は既婚者だと知らなかったものの、不倫と知った後も断れずに肉体関係(性行為)を継続した場合です。この場合も既婚者だと知らずに不倫を始めたのだから慰謝料の支払義務はないと主張したいと思うかもしれません。

しかし、不倫慰謝料の根拠となる不貞行為は、それぞれの肉体関係(性行為)ごとに判断されます。したがって、不倫と知らなかった期間の肉体関係は故意・過失がないとして慰謝料の支払義務がありませんが、不倫と知ってからの肉体関係については故意・過失があるため慰謝料を払わなければなりません。

もっとも、不倫後に既婚者だと知ったことは、そもそも不倫は騙されてスタートしていることや故意・過失のある不貞行為の期間・回数が限られることから、請求された慰謝料を減額できる可能性が高いです。

したがって、このような場合は慰謝料の減額交渉を目指すことになります。

不倫開始時だけでなく、不倫終了時まで故意・過失がないことが慰謝料の支払拒否のためには必要です。

坂尾陽弁護士

 

既婚者だと隠していた交際相手に慰謝料を請求できるか

既婚者だと知らなかった場合は、騙されたという怒りから交際相手に対して慰謝料請求することも考えられます。このような場合を貞操権侵害に基づく慰謝料請求と言います。もっとも、請求が認められためには単に既婚者だと隠されていただけでなく妊娠・中絶があった等の事情が必要な場合もあり、請求が認められるかは具体的な事情によりけりです。

このような慰謝料請求をすると、交際相手が敵に回ってしまい「既婚者だと知ることができたはずだ」等のように不利な供述をされるリスクもあるので慎重な検討が必要です。もっとも、このような慰謝料請求をする可能性も減額交渉の材料とすることは考えられます。

 

既婚者だと知らなかったときは慰謝料を払わなくいですむ

 

この記事では、既婚者だと知らずに騙されて不倫してしまった方のために慰謝料を請求されたときの正しい対応方法を説明しました。

  • 不倫だと知らなかったら故意・過失がないため慰謝料を払わないですむ
  • 既婚者に騙された怒りはあっても冷静に対応しないと裁判で慰謝料請求されるリスクがある
  • 既婚者だと知らなかった証拠をきちんと提示する
  • 不倫後に既婚者だと知って肉体関係を継続したときは慰謝料の減額交渉を行う
  • 既婚者に対して慰謝料請求することも考えられる

交際相手が既婚者だと知ったときは騙されたという怒りは大きいものです。さらに、いきなり不倫の慰謝料を請求されたら冷静ではいられないかもしれません。

しかし、既婚者だと知らなかったことをきちんと主張・立証すれば慰謝料を払わなくてすみます。ひとりで悩んでいては適切に対応ができずに、裁判を起こされて問題が大ごとになる場合もあります。早めに専門家の助けを借りることがスムーズな問題解決に繋がります。

アイシア法律事務所は、不倫で慰謝料を請求された事案の法律相談は無料で対応しています。法律相談・見積りは無料ですので、あまり悩まずお気軽にご相談ください。

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