不貞行為とは?法律上の定義・要件と離婚・慰謝料での意味

不貞行為とは、一般に、配偶者が自由な意思で配偶者以外の人と性的関係を持つことをいいます。民法770条1項1号では、配偶者に不貞な行為があったことが裁判上の離婚原因の一つとされています。そのため、不倫や浮気があったと感じる場面でも、法律上はまず「不貞行為」に当たるかが問題になります。

もっとも、不貞行為という言葉は、離婚原因を判断する場面、配偶者に慰謝料を請求する場面、不倫相手に慰謝料を請求する場面で、検討するポイントが少しずつ変わります。単に「肉体関係があったか」だけでなく、自由な意思、性的関係の内容、婚姻関係の状態、不倫相手の故意・過失なども整理する必要があります。

この記事では、不貞行為の法律上の意味・要件を、裁判例を踏まえて整理します。キス、フェラ、ラブホテル、LINE、肉体関係なしなどの行為別の境界線を詳しく知りたい場合は、不貞行為はどこから問題になるかを整理した記事もあわせて確認してください。

  • 不貞行為は、基本的には「配偶者以外の人との自由意思に基づく性的関係」を指します。
  • 不倫・浮気は日常語であり、不貞行為は離婚や慰謝料請求で問題になる法律上の概念です。
  • 同じ不貞行為でも、離婚原因、配偶者への慰謝料、不倫相手への慰謝料では検討するポイントが異なります。
  • 典型的には肉体関係が中心ですが、近時裁判例では性交類似行為や婚姻共同生活の平穏侵害も問題になることがあります。
  • 強制・脅迫・不同意性交等で自由意思がない場合は、被害者を不貞行為をした側と単純に扱うべきではありません。

坂尾陽弁護士

不貞行為は、言葉の意味だけで結論を出すより、「離婚の話なのか」「慰謝料の話なのか」「誰に請求するのか」を分けて考えると整理しやすくなります。
(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

不倫慰謝料に詳しい坂尾陽弁護士

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不貞行為とは?法律上の意味をわかりやすく整理

不貞行為の基本定義

法律上の不貞行為を考える出発点は、最高裁昭和48年11月15日判決です。この判決は、民法770条1項1号の「不貞な行為」について、配偶者ある者が自由な意思に基づいて配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいう、という趣旨の判断を示しました。

この定義は、いくつかの要素に分けると理解しやすくなります。まず、問題になるのは「配偶者がいる人」の行為です。次に、その相手は配偶者以外の人である必要があります。そして、中心となるのは性的関係です。さらに、既婚者本人が自由な意思に基づいて関係を持ったかが重要になります。

ここで注意したいのは、最高裁昭和48年判決が「相手方の自由意思にもとづくものであるか否かを問わない」と述べている点です。この部分は、主に「既婚者本人に離婚原因としての不貞行為があったか」を判断する文脈で理解すべきです。たとえば、既婚者本人が自由意思で性的関係を持った場合、その相手方の自由意思の有無とは別に、既婚者本人の側では離婚原因として問題になり得ます。

一方で、この考え方を、不倫相手への慰謝料責任にそのまま当てはめることはできません。不倫相手に慰謝料責任を問う場面では、その相手方に故意・過失があるか、自由意思に基づく関与といえるか、婚姻共同生活の平穏を侵害したといえるかが別途問題になります。特に、強制・脅迫・不同意性交等の被害者を「不倫相手として責任を負う側」と単純に扱うことはできません。

不倫・浮気との違い

不倫や浮気という言葉は、日常会話では幅広く使われます。食事、LINE、デート、キス、好意のやり取りなども、人によっては不倫・浮気と感じることがあります。しかし、不倫・浮気は法律上の明確な用語ではありません。

これに対して、不貞行為は、離婚や慰謝料請求の場面で問題になる法律上の概念です。そのため、「気持ちの上では裏切りだと思うか」ではなく、「法律上、離婚原因や慰謝料請求の根拠になる行為といえるか」を見る必要があります。不倫・浮気の一般的な線引きと法律上の判断の違いを知りたい場合は、不倫・浮気はどこから問題になるかを整理した記事も参考になります。

もっとも、法律上の不貞行為が典型的には性的関係を中心に考えられるとしても、慰謝料請求の実務では、肉体関係が明確に証明されない場合や、性交そのものではない性的接触が問題になることもあります。この点を理解するには、まず不貞行為の要件を分解しておくことが重要です。

不貞行為の要件|性的関係・自由意思・婚姻関係をどう見るか

不貞行為の要件は、最高裁昭和48年判決の基本定義を出発点に、婚姻関係、配偶者以外の人との関係、性的関係、自由意思という要素に分けて整理できます。

  • 婚姻関係があること
    民法770条1項1号の不貞行為は、法律上の婚姻関係にある配偶者の行為を前提にします。内縁関係や婚約中の浮気は、法律婚の不貞行為そのものとは別の枠組みで問題になります。
  • 配偶者以外の人との関係であること
    問題になるのは、配偶者以外の第三者との関係です。不倫相手が異性である場合が典型ですが、近時裁判例では同性間の性的行為や性交類似行為も、婚姻共同生活の平穏を害する行為として問題になった例があります。
  • 性的関係または性交類似行為が問題になること
    典型的には性交渉が中心です。ただし、口淫・手淫などの性交類似行為も、事案によっては不貞行為や婚姻共同生活の平穏侵害として問題になります。フェラ・口淫などの詳細は、フェラや口淫が不貞行為になるかを整理した記事で詳しく解説しています。
  • 自由な意思に基づくこと
    既婚者本人が自由な意思で性的関係を持ったかが重要です。強制、脅迫、不同意性交等により自由意思がない場合は、少なくとも被害者側を不貞行為をした人と同じように評価することはできません。
  • 慰謝料請求では別の要素も問題になること
    不倫相手に慰謝料請求する場面では、不貞行為の有無だけでなく、既婚者と知っていたか、知ることができたか、婚姻関係が既に破綻していなかったかなども検討されます。

このように、不貞行為の要件は「肉体関係があるか」だけで判断するものではありません。たしかに、性的関係は中心的な要素ですが、どのような関係だったのか、どの場面で問題にしているのか、相手方に責任を問える事情があるのかを分けて考える必要があります。

また、近時の下級審裁判例では、典型的な性交渉に限らず、性交類似行為や、婚姻共同生活の平穏を侵害する蓋然性のある行為が問題にされることがあります。たとえば、同性間の性行為類似行為について、婚姻共同生活の平穏を侵害する行為として慰謝料が認められた裁判例があります。したがって、「性交そのものがなければ常に問題にならない」とまではいえません。

不貞行為の有無と、慰謝料責任の有無は同じではありません。不貞行為が問題になる場合でも、不倫相手への請求では、故意・過失、既婚者認識、婚姻関係破綻の有無などを別に検討します。

同じ「不貞行為」でも意味が変わる|離婚原因・配偶者間慰謝料・不倫相手への請求

不貞行為という言葉は、一見すると一つの意味に見えます。しかし、実際には、どの場面で使われるかによって検討の中心が変わります。特に重要なのは、離婚原因としての不貞行為、配偶者への不貞慰謝料、不倫相手への不貞慰謝料、不倫相手への離婚慰謝料を分けることです。

場面 中心になる問題 主に見るポイント
離婚原因としての不貞行為 配偶者に民法770条1項1号の離婚原因があるか 既婚者本人の自由意思、性的関係、婚姻継続の可否
配偶者への不貞慰謝料 不貞をした配偶者に慰謝料請求できるか 不貞の内容、婚姻への影響、精神的苦痛、離婚の有無
不倫相手への不貞慰謝料 不倫相手が婚姻共同生活の平穏を侵害したか 既婚者認識、故意・過失、婚姻関係破綻の有無
不倫相手への離婚慰謝料 不倫相手に離婚そのものの責任まで問えるか 離婚させる意図をもった不当干渉などの特段の事情

離婚原因としての不貞行為

離婚原因としての不貞行為では、主に「配偶者に不貞な行為があったか」が問題になります。ここでは、最高裁昭和48年11月15日判決の定義が中心になります。既婚者本人が自由な意思で配偶者以外の人と性的関係を持った場合、民法770条1項1号の離婚原因になり得ます。

この場面では、相手方が自由意思で関係を持ったかどうかよりも、配偶者本人の行為が婚姻関係を続けるうえで重大な裏切りと評価できるかが中心になります。もっとも、実際に離婚が認められるかは、不貞行為の有無だけでなく、夫婦関係の状況やその他の事情も踏まえて判断されます。

配偶者に対する不貞慰謝料

配偶者に対する不貞慰謝料では、不貞行為によって受けた精神的苦痛について、不貞をした配偶者に損害賠償を求めることが問題になります。離婚する場合だけでなく、離婚しない場合でも慰謝料請求が問題になることがあります。

ただし、慰謝料額は、不貞の期間・回数、婚姻期間、夫婦関係への影響、離婚の有無、謝罪や示談の状況などによって変わります。金額の見通しは定義論だけでは決まらないため、相場については不倫慰謝料の相場を整理した記事で確認するのが適切です。

不倫相手に対する不貞慰謝料

不倫相手への不貞慰謝料では、最高裁昭和54年3月30日判決の考え方が重要です。同判決は、第三者が故意・過失により既婚者と肉体関係を持った場合、他方配偶者の夫または妻としての権利を侵害し、精神的苦痛を慰謝すべき義務を負うという趣旨の判断を示しています。

この場面では、単に既婚者本人に不貞行為があったかだけでは足りません。不倫相手が相手を既婚者だと知っていたか、知ることができたか、夫婦関係が既に破綻していなかったかなどが問題になります。婚姻関係が既に破綻していた場合については、最高裁平成8年3月26日判決が、不倫相手の責任を否定し得る枠組みを示しています。詳しくは、婚姻関係破たんの抗弁を整理した記事で解説しています。

不倫相手に対する離婚慰謝料

さらに、不倫相手に対して「離婚したこと自体」の慰謝料を請求できるかは、不貞慰謝料とは別に考える必要があります。最高裁平成31年2月19日判決は、第三者が単に不貞行為に及んだだけでは、原則として離婚に伴う慰謝料まで請求することはできないと整理しました。

不倫相手に離婚慰謝料を請求するには、夫婦を離婚させることを意図して婚姻関係に不当に干渉したなど、離婚をやむなきに至らしめたものと評価できる特段の事情が必要です。つまり、不倫相手への請求では、「不貞行為があったか」と「離婚そのものの責任まで問えるか」は分けて考える必要があります。

このように、不貞行為の意味は、離婚原因、配偶者間の慰謝料、不倫相手への請求という場面ごとに働き方が異なります。だからこそ、最初に言葉の定義だけを確認するのではなく、自分が請求する側なのか、請求された側なのか、誰に対して何を請求する場面なのかを整理することが大切です。

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肉体関係・性的関係とは何か|性交・性交類似行為・口淫の整理

不貞行為を考えるとき、日常的には「肉体関係があったか」という表現がよく使われます。ただ、法律上は、肉体関係という言葉自体に細かな定義が置かれているわけではありません。実務では、性交渉があったか、性交に準じる性的な接触があったか、その行為が婚姻共同生活の平穏を害するものか、といった観点から判断されます。

典型的な不貞行為は、配偶者以外の人との性交渉です。もっとも、慰謝料請求の場面では、性交渉そのものだけでなく、口淫、手淫、性器への接触、性器を重ねる行為などの性交類似行為も問題になることがあります。特に、性的な満足を得る目的で行われ、夫婦関係に重大な影響を与えるような行為であれば、「挿入がないから一切問題にならない」とは言い切れません。

たとえば、東京地裁令和3年2月16日判決は、同性間の性行為類似行為について、婚姻共同生活の平穏を害しかねない行為として不貞行為に該当すると判断しました。また、横浜地裁小田原支部令和4年4月26日判決も、同性間で行われた性交類似行為の態様や継続期間などを踏まえ、婚姻共同生活の平穏を侵害する不法行為に当たると判断しています。

このように、性的関係という要件を考えるときは、「性交があったか」だけでなく、「性交に準じる性的行為があったか」「その行為が夫婦関係を害する性質のものか」を見る必要があります。フェラ・口淫・手淫などの性交類似行為が不貞行為になるかについては、フェラや口淫が不貞行為になるかを整理した記事で詳しく解説しています。

一方で、キス、ハグ、手をつなぐ、親密なLINEを送るといった行為は、それだけで典型的な不貞行為と評価されるとは限りません。もっとも、キスだけであっても、継続的な交際、宿泊、ラブホテルの出入り、他の身体接触、性的なメッセージなどと組み合わさると、性交渉や性交類似行為を推認する事情になったり、婚姻共同生活の平穏侵害として問題になったりすることがあります。キスだけの問題は、キスは不倫になるかを整理した記事で確認するのが適切です。

ラブホテルへの出入りや宿泊についても、ホテルに入ったこと自体が性的関係そのものではありません。しかし、男女または親密な関係にある二人がラブホテルに入った事実は、性的関係を推認する強い事情になりやすいです。ホテルや宿泊の証拠評価は、ラブホテルに入った場合の不貞行為・証拠評価を整理した記事で詳しく扱います。

MEMO

「肉体関係がない」と主張する場合でも、性交類似行為、ホテル出入り、宿泊、親密なやり取りなどの事情があると、慰謝料請求の場面では別の評価を受けることがあります。

近時裁判例にみる不貞行為の広い評価|肉体関係が明確でない場合・同性間の場合

不貞行為の基本定義は、最高裁昭和48年11月15日判決を出発点に考えます。ただし、慰謝料請求の裁判では、典型的な性交渉が直接証明されている場合だけでなく、肉体関係が明確でない密会、性行為類似行為、同性間の性的行為が問題になることがあります。

ここで大切なのは、「最高裁の定義がそのまま変更された」と単純に考えないことです。最高裁昭和48年判決は、主に民法770条1項1号の離婚原因としての不貞行為を判断したものです。これに対して、近時の下級審裁判例では、不倫相手への慰謝料請求などの場面で、婚姻共同生活の平穏という利益が害されたかという観点から、広い評価がされることがあります。

肉体関係が明確でない密会でも問題になった裁判例

東京地裁令和元年5月30日判決は、夫が、妻と被告との関係について慰謝料を請求した事案です。裁判所は、被告と妻が被告の借りていた部屋で夜間に密会していたこと、親密なメールのやり取りがあったことなどから、肉体関係を持ったことを十分に推認できると判断しました。

さらに同判決は、仮に肉体関係を持っていなかったとしても、肉体関係は不貞行為の端的なものではあるものの、婚姻関係を破綻に至らせる可能性のある異性との交流・接触であれば不貞行為に該当し得るという趣旨の判断を示しました。そのうえで、慰謝料250万円を認めています。

この判決は、不貞行為をかなり広く表現している点で重要です。ただし、どの密会でも直ちに不貞行為になるという意味ではありません。この事案では、夜間に私的空間で密会していたこと、親密なメッセージ、妻が夫に虚偽説明をしていたことなど、複数の事情が重なっていました。したがって、本文では「肉体関係がない場合でも常に不貞行為になる」とは書かず、「密会や交流の内容によっては、婚姻関係を破綻に至らせる可能性のある行為として問題になることがある」と整理するのが安全です。

同性間の肉体関係・性交類似行為も問題になっている

近時の裁判例では、同性間の性的行為についても、婚姻共同生活の平穏を害する行為として慰謝料請求が認められた例があります。

名古屋地裁平成29年9月15日判決は、妻と同性の被告との関係が問題になった事案です。裁判所は、同性間の肉体関係が不貞行為に該当するかはともかく、既婚者と知りながら肉体関係を持つことは、婚姻関係における平穏を害し、婚姻関係を破綻させる原因となる行為であって、社会的相当性を逸脱した違法な行為として不法行為に当たると判断しました。認められた損害は、慰謝料100万円と弁護士費用10万円です。

東京地裁令和3年2月16日判決は、妻と同性の被告との性行為類似行為が問題になった事案です。裁判所は、不貞行為について、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことに限らず、婚姻共同生活の平穏という法的保護に値する利益を侵害する蓋然性のある行為と捉えました。そのうえで、夫婦共同生活を破壊し得るような性行為類似行為があれば、不貞行為に該当し得ると判断し、慰謝料10万円と弁護士費用1万円を認めています。

横浜地裁小田原支部令和4年4月26日判決も、同性間の性交類似行為について、婚姻共同生活の平穏を侵害する不法行為に当たると判断しました。この事案では、平成31年1月頃から令和元年9月頃まで、月1回程度の頻度で性交類似行為が行われたこと、関係発覚を機に別居・離婚に至ったことなどを踏まえ、慰謝料120万円と弁護士費用12万円が認められています。

これらの裁判例からいえるのは、不貞行為を「異性間の性交だけ」に狭く固定して理解すると、実際の慰謝料請求の場面を見誤る可能性があるということです。他方で、同性間の親密な交際や好意のやり取りが、すべて慰謝料請求の対象になるわけでもありません。性的行為・性交類似行為の有無、既婚者であることの認識、夫婦関係への影響、関係の継続性などを具体的に見る必要があります。

肉体関係が明確でない場合やプラトニックな関係の裁判例を詳しく知りたい場合は、プラトニック不倫の慰謝料裁判例を整理した記事も参考になります。また、請求された側で「肉体関係はない」と反論したい場合は、肉体関係がないのに慰謝料請求された場合の記事で、証拠や反論の整理を確認してください。

裁判例を見るときの注意

近時裁判例は、不貞行為の意味を広く述べることがあります。ただし、下級審の事案判断を一般化しすぎず、性的行為の内容、婚姻関係への影響、証拠関係をセットで見る必要があります。

自由な意思がない場合|強制・脅迫・不同意性交等と不貞行為

不貞行為の基本定義では、「自由な意思」が重要です。これは、不貞行為が、配偶者本人の意思に基づいて配偶者以外の人と性的関係を持った場合に問題になるという意味です。強制、脅迫、暴行、立場を利用した圧力、不同意性交等により自由意思がない場合は、通常の不倫と同じように扱うことはできません。

特に注意すべきなのは、最高裁昭和48年11月15日判決の「相手方の自由意思は問わない」という部分です。この表現は、主に既婚者本人について、離婚原因としての不貞行為があったかを判断する文脈で理解する必要があります。つまり、既婚者本人が自由な意思で性的関係を持った場合、相手方が自由意思で関係を持ったかどうかとは別に、既婚者本人の側で離婚原因が問題になるという整理です。

しかし、この考え方を、不倫相手への慰謝料責任にそのまま当てはめることはできません。不倫相手に慰謝料責任を問うには、既婚者であることを知っていたか、知ることができたか、自由意思に基づいて婚姻共同生活の平穏を侵害したといえるかなどを別に検討します。したがって、強制・脅迫・不同意性交等の被害者を「不倫相手として責任を負う側」と単純に扱うべきではありません。

注意

性的被害を受けた人について、「不貞行為をした」「慰謝料責任を負う」と安易に評価することはできません。自由意思の有無、加害・被害の構造、故意・過失を分けて確認する必要があります。

場面ごとに整理すると、まず、既婚者本人が自由な意思で配偶者以外の人と性的関係を持った場合、その既婚者本人には離婚原因や配偶者への慰謝料責任が問題になり得ます。次に、既婚者本人が強制・脅迫などにより性的関係を持たされた場合は、その人に自由意思がないため、不貞行為をした側と評価することには慎重であるべきです。

また、不倫相手とされる人が強制・脅迫・不同意性交等の被害者である場合、その人に故意・過失や自由意思に基づく関与を認めることは困難です。この場合、中心になるのは、被害者への損害賠償や刑事責任の問題であって、被害者を慰謝料請求の相手方として責任追及する構成ではありません。

もっとも、「自由意思がなかった」と主張すれば必ず責任を免れる、というわけでもありません。東京地裁平成19年8月24日判決では、不倫相手側が、既婚者である上司との性的関係について、上司の地位を利用したセクシュアル・ハラスメントであり自由意思がなかったと主張しました。しかし裁判所は、宿泊費用の支払、関係継続中のメール、退職後のやり取りなどを踏まえ、その関係が自由意思に基づかずに行われたものとは認められないとして、慰謝料200万円を認めました。

この裁判例は、セクハラや圧力の主張が出た場合に、裁判所が関係の経緯、メール、宿泊、費用負担、仕事上の関係、関係終了後のやり取りなどを具体的に見ることを示しています。逆にいえば、実際に強制・脅迫・支配関係がある場合には、単に性的関係があったという外形だけで不貞行為や慰謝料責任を決めるべきではありません。

また、広島高裁平成16年9月2日判決は、不貞行為の定義を示した裁判例ではありませんが、職場でのセクシュアル・ハラスメントについて、使用者が良好な職場環境を整備すべき義務を怠ったことによる不法行為責任を認めた事案です。性的な被害や圧力がある場面では、夫婦間の不貞行為の問題だけでなく、被害者本人の権利侵害や職場環境の問題として整理すべき場合があります。

刑事法上は、現在、「強制性交等罪」ではなく「不同意性交等罪」「不同意わいせつ罪」という枠組みが用いられています。ただし、この記事では刑事事件の成立要件を詳しく解説するのではなく、不貞行為の自由意思要件との関係に限って整理しています。不倫トラブルの中で脅迫や強い圧力を受けている場合は、不倫トラブルで脅迫された場合の対応を整理した記事も確認してください。

結局のところ、自由意思がない場合に重要なのは、「性的関係があったか」という外形だけではありません。誰が自由意思で行動したのか、誰が被害者なのか、既婚者本人の離婚原因の話なのか、不倫相手への慰謝料請求の話なのかを分けて考える必要があります。

不貞行為があっても慰謝料請求で別途問題になる要素

ここまで整理したように、不貞行為に当たるかどうかは、離婚や慰謝料請求を考えるうえで重要な出発点です。もっとも、不貞行為に当たる可能性がある行為があっても、慰謝料請求の結論が当然に決まるわけではありません。特に、不倫相手に請求する場面では、相手方の認識や夫婦関係の状態、証拠の有無などを別途検討する必要があります。

  • 故意・過失があるか:不倫相手に請求する場合、相手が既婚者だと知っていたか、少なくとも知ることができたかが問題になります。詳しくは、不貞行為についての故意・過失を整理した記事で解説しています。
  • 既婚者と知らなかった事情があるか:独身だと説明されていた、婚活アプリで知り合った、単身赴任中で生活実態が分かりにくかったなど、事情によっては責任を争う余地があります。詳しくは、既婚者と知らなかった場合の慰謝料請求を整理した記事を確認してください。
  • 婚姻関係が既に破綻していなかったか:最高裁平成8年3月26日判決は、肉体関係を持った時点で婚姻関係が既に破綻していた場合、特段の事情がない限り、不倫相手の責任は否定され得るという枠組みを示しています。詳しくは、婚姻関係破たんの抗弁を整理した記事で解説しています。
  • 証拠が足りているか:不貞行為を疑っていても、裁判や交渉で相手が否認する場合には、ホテル出入り、宿泊、写真、メッセージ、探偵報告書などの証拠が重要になります。証拠が乏しい場合は、不倫の証拠がない場合の対応を整理した記事も参考になります。
  • 慰謝料額が相当か:不貞行為が認められる場合でも、慰謝料額は、婚姻期間、子どもの有無、不貞期間、発覚後の対応、離婚の有無などによって変わります。金額の見通しは、不倫慰謝料の相場を整理した記事で確認するのが適切です。

つまり、不貞行為の有無は重要ですが、それだけで「請求できる」「支払義務がない」と即断するのは危険です。請求する側は、誰に何を請求するのかを整理し、請求された側は、不貞行為そのもの、故意・過失、破綻、証拠、金額を分けて確認する必要があります。

よくある質問

肉体関係がない場合も不貞行為になりますか?

典型的な不貞行為は、配偶者以外の人との性的関係を中心に考えられます。そのため、肉体関係が全くない場合には、典型的な不貞行為そのものとは評価されにくいです。

もっとも、肉体関係が明確でない場合でも、宿泊、密会、性的なメッセージ、キス、抱擁、ラブホテルの出入りなどが重なると、性的関係を推認する事情になったり、婚姻共同生活の平穏侵害として問題になったりすることがあります。「肉体関係がないから絶対に慰謝料請求されない」とまではいえません。

キスだけでも不貞行為になりますか?

キスだけでは、典型的な不貞行為と評価されにくいのが通常です。不貞行為の基本は、性交渉や性交類似行為など、性的関係を中心に判断されるためです。

ただし、キスの回数・態様、交際期間、宿泊、ホテル出入り、性的なやり取り、他の身体接触などの事情によっては、慰謝料請求の中で問題になることがあります。キスだけの問題は、典型的な不貞行為かどうかだけでなく、婚姻共同生活の平穏を害する行為だったかという観点もあわせて見る必要があります。

同性との性行為や性交類似行為も不貞行為になりますか?

同性間でも、性行為や性交類似行為によって婚姻共同生活の平穏が害される場合には、不貞行為または不法行為として問題になる裁判例があります。名古屋地裁平成29年9月15日判決、東京地裁令和3年2月16日判決、横浜地裁小田原支部令和4年4月26日判決などは、同性間の肉体関係や性交類似行為をめぐって慰謝料責任を検討した裁判例です。

もっとも、同性間の行為であれば必ず不貞行為になる、という単純な整理はできません。行為の内容、継続期間、婚姻関係への影響、当事者の認識などを踏まえて、個別に判断されます。

内縁関係でも不貞行為になりますか?

法律婚ではない内縁関係の場合、民法770条1項1号の離婚原因としての不貞行為そのものが問題になるわけではありません。もっとも、内縁関係や婚姻に準ずる共同生活も、一定の場合には法的保護の対象になります。

最高裁昭和33年4月11日判決は、内縁を不当に破棄された者が不法行為を理由として損害賠償を求めることができるという考え方を示しています。また、同性カップルについても、宇都宮地裁真岡支部令和元年9月18日判決や東京高裁令和2年3月4日判決では、内縁に準ずる関係として法的保護に値するかが問題になりました。したがって、内縁の場合は、法律婚の不貞行為というより、婚姻に準ずる共同生活の平穏が侵害されたかという枠組みで考えることになります。

婚約中の浮気でも慰謝料請求できますか?

婚約中の浮気は、法律婚における不貞行為そのものではありません。ただし、婚約が成立している場合には、婚約破棄、不法行為、信義則違反などの枠組みで慰謝料請求が問題になることがあります。

婚約の有無は、口約束だけでなく、結婚準備、両家挨拶、結婚式や新居の準備、同居予定、周囲への紹介などの事情から判断されます。最高裁昭和38年9月5日判決は婚姻予約の不当破棄が問題になった裁判例であり、大阪高裁昭和53年10月5日判決は婚約中の当事者の将来の婚姻を破綻に瀕させる第三者の行為が不法行為になるとされた裁判例です。他方で、東京地裁令和2年8月20日判決のように、婚約があるだけでは第三者の責任を認めるには足りないとされた裁判例もあります。

婚約中の浮気は、法律婚の不貞行為とは別の枠組みで検討する必要があります。関連する問題として、婚約を隠した交際を整理した記事や、婚約破棄で訴えられた場合の記事も参考になります。

既婚者と知らなかった場合でも責任がありますか?

既婚者本人との関係では、配偶者以外の人と性的関係を持ったことが不貞行為として問題になり得ます。しかし、不倫相手に慰謝料を請求する場面では、その相手が既婚者だと知っていたか、少なくとも注意すれば知ることができたかが重要です。

相手から独身だと説明されていた場合や、既婚者であることを疑う事情が乏しかった場合には、故意・過失を争う余地があります。他方で、指輪、同居家族の存在、休日や夜間の連絡状況、SNS、職場での周知などから既婚者だと分かり得た場合には、知らなかったという主張が認められにくくなることがあります。

まとめ|不貞行為は「定義」と「請求場面」を分けて考える

不貞行為とは、一般に、配偶者が自由な意思で配偶者以外の人と性的関係を持つことをいいます。ただし、実際の離婚・慰謝料の場面では、この定義だけで結論が出るわけではありません。

  • 不貞行為は、離婚原因、配偶者への慰謝料、不倫相手への請求で意味や検討順序が変わります。
  • 典型的には肉体関係が中心ですが、性交類似行為や婚姻共同生活の平穏侵害が問題になることもあります。
  • 近時裁判例では、同性間の性的行為や肉体関係が明確でない交流が問題になった例もあります。
  • 強制・脅迫・不同意性交等で自由意思がない場合、被害者を不貞行為をした側と単純に扱うべきではありません。
  • 慰謝料請求では、故意・過失、既婚者認識、婚姻関係破綻、証拠、金額を別途確認する必要があります。

請求する側は、「誰に対して、何を根拠に、どの範囲の慰謝料を請求するのか」を整理することが重要です。請求された側は、「不貞行為そのものを争えるのか」「既婚者と知らなかった事情があるのか」「夫婦関係が既に破綻していたのか」「金額が過大ではないか」を分けて検討する必要があります。

坂尾陽弁護士

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