ダブル不倫(W不倫)で慰謝料請求が動き出すと、「相手の夫(妻)からも請求が来た」「自分の配偶者も相手に請求したい」など、当事者が4人になるぶん、話が一気に複雑になります。特に混乱しやすいのが「相殺(差し引き)」と「求償(きゅうしょう)」です。
結論から言うと、W不倫でよく言われる“差し引き”は、法律上の相殺として当然にできるものではありません。相殺が成立するのは「同じ2人の間で、互いに金銭を払う立場になっている」など、かなり条件がそろうときに限られます。
一方で、支払い方や示談の組み方(誰が誰に、何の名目で、いくら支払うか)をきちんと設計すれば、結果として負担を調整できる場面はあります。ここで重要になるのが、共同不法行為者どうしの内部負担を清算する求償権の考え方です。
この記事では、「ダブル不倫 求償権」で調べている方が最初につまずきやすいポイントを、4者の関係図(架空事例)を使って整理します。相殺ができる/できないの境界線、示談前に押さえるべき清算の考え方(後半では条項例も紹介)まで、できるだけ実務目線で解説します。
坂尾陽弁護士
- W不倫の「相殺」は成立しないことが多く、まずは条件の切り分けが必要
- 求償権は「支払った後」に問題化しやすく、示談の設計次第で揉め方が変わる
- 当事者4人の関係を図で整理すると、差し引きが難しい理由と、調整できる余地が見える
- 二方向請求では、連絡・支払・合意の順番を間違えると不利になりやすい
- 不安が強い場合は、示談書にサインする前に弁護士へ相談した方が安全
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

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まず結論:W不倫の「相殺」と「求償」は別物
W不倫の場面で「相殺できるよね?」と言われるとき、実際には2つの異なる話が混ざっていることが多いです。混ざったまま交渉を進めると、次のような事故が起こりがちです。
- 事故1:「差し引きでゼロ」のつもりで動いたが、支払い先が違い、結局、支払うことになった
- 事故2:一方の被害配偶者への支払いを急いだ結果、もう一方からの請求や、共同不法行為者からの求償に備えた設計ができていなかった
- 事故3:示談書の清算範囲が曖昧で、「まだ終わっていない」と言われて再燃した
まずは、相殺と求償をきちんと切り分けて考えます。
相殺は、簡単に言うと「同じ2人の間で、互いにお金を払う関係があるときに、差し引きで清算する仕組み」です。法律上の相殺(民法の相殺)は、当事者の組み合わせや債権の内容、期限(弁済期)などの条件がそろって初めて成立します。
これに対して求償は、共同不法行為(同じトラブルに複数人が関与し、被害者に対して一緒に責任を負う関係)において、「自分が多く払い過ぎた分を、相手に内部的に負担してもらう」という発想です。相殺が“外向きの差し引き”だとすれば、求償は“内向きの清算”に近いイメージです。
W不倫の整理のコツ:①まず「誰が誰に払う話か(当事者)」を確定→②相殺が成立するか検討→③成立しないなら、求償・清算条項を含む示談設計で調整する。
なお、不貞行為による慰謝料では、一般に「不倫をした配偶者」と「不倫相手」が、被害配偶者に対して共同で責任を負う(共同不法行為)構図になりやすいです。W不倫でも土台は同じですが、被害配偶者が2人いるため、請求や支払いが二方向に走り、整理が難しくなります。
[/alert]W不倫では「被害者が2人」です。片方に支払ったからといって、もう片方の請求が当然に消えるわけではありません。[/alert]たとえば、夫婦Aの被害配偶者(妻A)と、夫婦Bの被害配偶者(夫B)が受けた精神的苦痛は別です。したがって、妻Aへの支払いを済ませても、夫Bからの請求(またはその交渉)が残る可能性があります。「一度払えば全部終わる」と思っていると、想定外の追加負担や、交渉のやり直しが生じやすくなります。
もちろん、最終的な負担が無制限に膨らむわけではありません。個別事情(婚姻関係の状況、不倫の期間や頻度、主導性など)により、請求額も落としどころも変わります。しかし、“整理の順番”を誤ると不利になり得るのがW不倫の難しさです。
「相殺」と言われがちな2パターン
W不倫の現場で「相殺」という言葉が出るとき、典型的には次の2パターンです。
- パターン1:被害配偶者どうし(例:あなたの配偶者と相手の配偶者)の請求額を差し引きたい
- パターン2:不倫当事者どうし(あなたと不倫相手)の求償・負担を差し引きたい
パターン1は、感覚としては「お互い様だから±ゼロでいいのでは?」となりやすい一方で、法律上の相殺としては成立しにくい場面の代表例です。なぜなら、相殺は同じ2人の間で互いに債権債務があることが基本で、被害配偶者どうしは「互いに慰謝料を払う当事者」になっていないことが多いからです。
たとえば、あなたが受けている請求が「相手の配偶者から、あなた(不倫相手)への慰謝料請求」だとしても、あなたの配偶者が持っている請求権は、通常「あなたの不倫相手(相手配偶者)への請求」や「あなたへの請求(夫婦内の問題)」であり、“同じ当事者間で相互に金銭債権がある”という形になりません。このズレが、直感的な差し引きがうまくいかない最大の理由です。
パターン2は、条件がそろえば「差し引き(相殺)」の土俵に乗る可能性があります。W不倫では、被害配偶者が2人いるため、最終的に「あなたが一方の被害配偶者に多く支払った」「不倫相手ももう一方の被害配偶者に多く支払った」という状態になると、あなたと不倫相手の間で求償のやり取りが双方向に発生し得ます。このとき、当事者は同じ2人なので、相殺適状を満たすか(債権の確定性や弁済期など)という検討が現実味を帯びます。
ただし、ここで注意したいのは、実務でいう“差し引き”の多くは、法律上の相殺というより、示談(合意)で金銭の流れを整理して「結果的に差し引きになる」ように組むことです。相殺にこだわり過ぎると、当事者や名目が合わずに設計が崩れやすいので、まずは「相殺の要件に合うか」を冷静に切り分けることが重要です。
結論だけ先に:相殺できる/できないの早見
細かい法的検討の前に、まずは次の観点で“早見”すると整理が進みます。
- 差し引きの当事者は同じ2人か?(A↔B の相互債権になっているか)
- 金額が確定しているか?(合意済み・判決済みか、まだ争っているか)
- 支払時期(弁済期)が到来しているか?(“今すぐ相殺”できる状態か)
この早見に当てはめると、W不倫でよく問題になる「被害配偶者どうしで差し引きたい」という発想は、そもそも当事者が一致しないことが多く、相殺としては難しいケースが目立ちます。
逆に、あなたと不倫相手の間で「求償の支払い義務が互いに発生し、金額も確定し、支払時期も到来している」という状況であれば、相殺の検討余地が出ます。ただし、W不倫は感情面の対立が強く、交渉がこじれやすいので、実務上は相殺の成否を争うより、示談書で清算の枠組みを明確化する方がトラブルを減らしやすい場面も少なくありません。
さらに、相殺を考える前に確認しておきたいのが「そもそも自分(または相手)が、どの被害配偶者に対して、どの範囲で責任を負うのか」です。不倫相手の認識(既婚と知っていたか)、婚姻関係が既に破綻していたかなどで、責任の有無や交渉の見通しが変わることがあります。こうした前提は、後半で整理したうえで、示談条項(清算・求償放棄等)の組み方に落とし込みます。
求償の基本(いつ発生し、どこまで請求でき、どんな点で揉めやすいか)を先に押さえたい場合は、不倫慰謝料の求償権とはも参考になります(本記事はW不倫の「二方向請求」との絡みを中心に解説します)。
4者関係図で整理:誰が誰に請求され得る?(架空事例)
ここからは、W不倫の“ごちゃごちゃ”を解消するために、当事者を固定した架空事例で整理します。実際の事案は事情で変わりますが、骨格はこの型に沿うことが多いです。
架空事例の設定(人物・時系列・発覚の経路)
登場人物は次の4人です。
- 妻A=夫婦関係=夫Aー不倫関係ー妻B=夫婦関係=夫B
- 夫A:妻Aと婚姻中
- 妻A:夫Aの配偶者(被害配偶者になり得る)
- 妻B:夫Bと婚姻中
- 夫B:妻Bの配偶者(被害配偶者になり得る)
そして、不貞行為(不倫関係)は「夫Aと妻B」の間で発生した、とします(いわゆるW不倫の典型パターンです)。
時系列のイメージは次のとおりです。
- 夫Aと妻Bが職場で知り合い、交際へ発展
- 数か月~1年程度の関係が続き、スマホの履歴やSNSで発覚
- 妻Aは夫Aに問い詰め、夫Bも妻Bの行動を把握
- 双方が感情的に対立し、「慰謝料を請求する/請求される」フェーズへ
このとき、当事者4人のうち、慰謝料請求の“被害者側”になり得るのは妻Aと夫Bです。反対に、“加害者側”(不法行為者側)になり得るのは夫Aと妻Bです。ここを最初に固定すると、その後の整理が一気に楽になります。
また、W不倫は「離婚するか/しないか」で交渉の景色が変わることが少なくありません。離婚しない場合でも慰謝料請求はあり得ますし、離婚する場合は慰謝料とは別に財産分与や親権などの論点が出ます。本記事は慰謝料(相殺・求償・清算)に焦点を当て、離婚条件そのものは必要最小限にとどめます。
請求ルート(二方向請求)の中身
慰謝料請求の基本ルートは、次の2本が同時に走り得る、という形になります。
- ルート①:妻A(被害)→ 夫A(配偶者)・妻B(不倫相手)へ請求
- ルート②:夫B(被害)→ 妻B(配偶者)・夫A(不倫相手)へ請求
つまり、夫Aと妻Bは、「自分の配偶者からも、相手の配偶者からも請求され得る」立場になります。これが、W不倫でよく言われる「二方向請求」の実態です。
もう少し“体感”に近づけると、次のように見えます。
- 夫A:妻Aから(家庭内で)責任追及されつつ、夫Bからも慰謝料請求を受ける可能性がある
- 妻B:夫Bから(家庭内で)責任追及されつつ、妻Aからも慰謝料請求を受ける可能性がある
なお、被害配偶者が“誰に請求するか”は選べる場合があります。たとえば、夫婦関係の再構築を優先して「自分の配偶者には強く請求しない(家庭内で処理する)」「外部の不倫相手にだけ請求する」という選択をするケースもあります。逆に、家庭内の責任追及を重視して配偶者に請求するケースもあります。
この選択によって、金銭の流れが変わり、後から「求償の話」「差し引きの話」が出てくるタイミングも変わります。だからこそ、交渉の早い段階で“誰が誰に支払う話なのか”を整理しておくことが重要です。
また、注意したいのは「一方が請求を控える=もう一方も当然に控える」とは限らないことです。たとえば、妻Aが「相手夫婦と関わりたくないから請求しない」と判断しても、夫Bが強く請求してくることはあり得ます。W不倫は、当事者4人の意向が揃わないことも多く、ここが交渉を難しくします。
混乱ポイント:支払い先が違うと“差し引き”できない
W不倫で最も多い勘違いは、「相手夫婦も自分夫婦も同じように傷ついたのだから、慰謝料も相殺(差し引き)でゼロにできるのでは?」という発想です。
しかし、実際に請求権・支払義務が発生する相手関係は、先ほどのとおり妻Aと夫B(被害配偶者)、そして夫Aと妻B(不倫当事者)を軸に組み立てられます。支払い先が違うと、法律上の相殺の前提である「同じ当事者間の相互債権」が崩れます。
たとえば、次のようなケースを考えてみてください。
例:妻Aが妻Bに200万円を請求し、夫Bが夫Aに200万円を請求している。
このとき、妻Bは「あなた(妻A)から請求されている」、夫Aは「あなた(夫B)から請求されている」のであり、妻Bと夫Aは別々の相手に支払う立場です。つまり、妻Bと夫Aの間には、直接の“債権債務関係”があるわけではありません。したがって「同額だから差し引きでゼロ」という整理は、そのままではできません。
さらに、仮に「双方とも200万円を支払う」という結論が同じでも、誰が誰に払うかが違えば、支払証拠(振込記録)や示談書の位置づけも別物になります。ここを曖昧にしたまま話を進めると、後から「それは別の損害の填補だ」「まだ清算されていない」と争いが再燃しやすくなります。
差し引き(実質調整)を狙うなら、相殺に無理やり当てはめるよりも、当事者の組み合わせと支払いの名目を整理したうえで、示談の枠組みとして清算する方が安全です。W不倫で請求を受けている方の初動(連絡窓口の一本化や、支払前に確認すべき点)については、ダブル不倫で慰謝料請求された方へでも整理しています。
次のH2では、求償の仕組み(誰がどこまで負担するのか、割合はどう考えるのか)を、同じ架空事例に当てはめて解説します。
求償権の基本:W不倫でも土台は共同不法行為
W不倫(ダブル不倫)の慰謝料で「求償権」が出てくるのは、“誰がどれだけ支払うか”が偏りやすいからです。被害配偶者が2人いるため、請求も支払いも二方向に動き、結果として不倫当事者(架空事例でいう夫Aと妻B)の間で「自分が多く払った分をどうするか」という内部清算が問題になります。
まず押さえたい基本構造は次のとおりです。
- 被害配偶者(妻A・夫B)は、それぞれ自分の精神的苦痛について慰謝料を請求する
- 不倫当事者(夫A・妻B)は、各被害配偶者に対して、原則として共同不法行為者として責任を負う可能性がある
- その結果、被害配偶者は「どちらか一方だけ」または「両方」に請求し得る
- 一方が多く支払った場合、もう一方に対して内部負担の調整として求償する(求償権)
共同不法行為(民法719条)の世界では、被害配偶者から見れば「不倫当事者2人に対して、全額を請求できる」形になりやすい一方で、不倫当事者2人の間では「結局どの割合で負担するのが公平か」という調整が必要になります。これが求償の出発点です。
ただし、W不倫の場面では“被害者が2人いる”ことがポイントで、求償の話も1本ではなく、最低でも次の2本を分けて考える必要があります。
- 妻Aの損害(妻Aへの慰謝料)について:夫Aと妻Bの内部負担をどうするか
- 夫Bの損害(夫Bへの慰謝料)について:夫Aと妻Bの内部負担をどうするか
同じ不貞行為でも、「誰の損害を埋める支払いか」が違えば、求償の計算も別になります。W不倫で揉めやすいのは、ここを混ぜてしまい、「総額で見れば同じくらい払ったはず」と感覚で処理してしまうことです。
W不倫の求償は「妻Aに関する精算」と「夫Bに関する精算」を分けて台帳化すると、交渉が崩れにくくなります(誰が誰に、いくら、どの示談書で払ったか)。
また、求償の前提として重要なのは「そもそも共同不法行為者といえるか」です。たとえば、不倫相手が既婚者だと知らなかった、婚姻関係が既に破綻していたと評価される可能性がある、など事情によっては、責任の有無・範囲が争点になり、求償を語る前段階で結論が変わることがあります。請求された側の立場では、まず責任の前提(要件)から整理するのが安全です。
求償権が問題になるタイミング(支払い後/和解後)
求償権は「不倫の話が発覚した瞬間」ではなく、実務では次の場面で前面化します。
- 場面1:あなたが被害配偶者から請求され、先に支払った(または支払う合意をした)
- 場面2:相手(共同不法行為者)が先に支払っており、後からあなたに求償してきた
- 場面3:双方が別々の被害配偶者に支払った結果、互いに「払い過ぎ/払っていない」が生じ、求償が双方向に発生し得る
特にW不倫では場面3が起きやすく、「自分も払ったけど、相手も払っている。結局どっちがどれだけ負担すべき?」という話になります。この段階で初めて、相殺(差し引き)の検討余地が出ることがあります(ただし、後述のとおり要件が重要です)。
もう一つ、実務で多いのが「示談書の作り方」で求償の揉め方が変わるパターンです。たとえば、被害配偶者との示談書で次の点が曖昧だと、後から共同不法行為者間で争いになりやすいです。
- 支払金の名目(慰謝料としての損害填補なのか、解決金なのか)
- 清算の範囲(何の損害についての終局解決か)
- 他の共同不法行為者に対する請求をどう扱うか(残すのか、放棄するのか)
- 求償を前提にした支払いなのか、求償放棄まで含めて終わらせるのか
求償権は“自動的に公平にしてくれる魔法”ではなく、どの支払いが何を埋めたのかを文章と証拠で残して初めて、実務で機能しやすくなります。逆に言えば、請求された側の立場では、相手の勢いに押されて「とりあえず払って終わり」にしてしまうと、後から求償で再点火しやすいので注意が必要です。
求償権の基本的な考え方(共同不法行為者間の調整の仕組み)を先に確認したい方は、一般論として不倫慰謝料の求償権とはも参考になります。また、慰謝料の二重取りへの対処法についても参考にしてください。
求償割合はどう決まる?(半々が原則?事情で動く?)
「求償は半分ずつ(50:50)ですか?」という質問はとても多いのですが、W不倫では特に、結論を一言で断定しない方が安全です。実務上、出発点として“均等負担”が意識されることはありますが、最終的な負担割合は事情によって動く可能性があります。
求償割合を考えるときの視点は、「どちらの関与・落ち度が大きいか」「どちらがより強く結果に寄与したか」といった“寄与の程度”です。W不倫の文脈で、割合に影響しやすい要素は次のとおりです。
- 主導性:どちらが関係を積極的に主導したか(誘った側、継続を強く望んだ側など)
- 既婚認識:相手が既婚者であることをいつ・どの程度認識していたか
- 悪質性:期間の長さ、発覚後の継続、隠し方の悪質さ、挑発的言動の有無
- 婚姻状況:不貞前から婚姻が危機だったか、破綻に近い状況があったか
- 被害拡大への関与:発覚後の対応(謝罪・連絡遮断の有無)で傷を深めたか
ここで、架空事例に当てはめてみます。たとえば次のような差があると、求償の見通しも変わり得ます。
パターンA(均等に近い):夫Aも妻Bも、互いに既婚であることを十分認識しながら同程度に関係を継続し、期間・頻度も概ね同程度で、特段の悪質事情がない。
この場合、内部負担は「均等(50:50)」を基準に話が進みやすい一方で、金額そのもの(被害配偶者が各いくらで合意するか)は別問題なので、支払が偏った場合に求償で調整する場面が出ます。
パターンB(割合が動く可能性):妻Bが強く主導し、夫Aに家庭の事情を軽視させるような言動を繰り返していた、発覚後も妻Bが接触を継続しようとしてトラブルを拡大させた、などの事情がある。
この場合、内部負担が「50:50」から動く余地があり、夫Aが多く支払った分について、妻Bに対してより大きい割合で求償できる(または、妻Bからの求償に対して一定の反論を組み立てやすい)可能性があります。
パターンC(そもそも責任の前提が争点):夫Aが妻Bの既婚状況を誤信していた、婚姻破綻の説明を受けていた、など、責任の前提から争いがある。
この場合、求償割合以前に「共同不法行為者と言えるか」「どこまで責任があるか」の整理が先です。請求された側の立場では、ここを飛ばして“割合だけ”で話すと危険です。
もう一点、請求された側が気を付けたいのは、早期解決のために高めの金額で示談し、後から全額を求償しようとすると、共同不法行為者間で「それは払わなくてもよかった」「過大な示談だ」と反論される余地が出ることです。示談は柔軟ですが、求償の局面では「なぜその金額が妥当か」を説明できる方が強くなります。
また、求償には時効や、当事者間の合意(求償放棄)といった論点も絡みます。一般論としての整理は、求償権の時効や求償権は示談書で放棄できる?も参考になります(W不倫では「二方向請求」との関係で、放棄の設計ミスが起きやすい点に注意が必要です)。
W不倫特有の話がポイント
ここまでで、求償権の全体像(共同不法行為者間の内部清算)を押さえました。ただ、求償には「時効」「放棄」「訴訟での扱い」など細かい論点が多く、全部を一つの記事で深掘りすると、W不倫特有の“二方向請求”の整理がぼやけてしまいます。
そのため本記事は、W不倫ならではの混乱ポイント(当事者4人・支払い先の分岐・相殺の誤解)に焦点を当て、求償権の細部は必要に応じて前掲のページも参照できるようにしています。次では、求償の話と混同されやすい「相殺(差し引き)」について、できる/できないの境界線を具体例で切り分けます。
相殺できる場面/できない場面:境界線は「当事者」と「確定性」
W不倫の交渉で「相殺できるから、支払いはゼロでいい」といった主張が出てくることがあります。しかし、法律上の相殺は“差し引きたい気持ち”だけでは成立しません。結論を先に言うと、W不倫で成立し得る相殺はかなり限定的で、実務では「相殺」ではなく、示談(合意)として差額精算の形に組み直す方がトラブルを減らしやすい場面も多いです。
ここでは、相殺の境界線を「当事者」と「確定性(いつ・いくらが確定したか)」という2軸で整理します。
相殺の要件をW不倫に翻訳する
法律上の相殺は専門用語が多いのですが、W不倫の場面で本質的に重要なのは次の3点です。
- 当事者が同じ2人か:差し引きたい「債権」と「債務」が、同じ2人の間で向き合っているか
- 中身が金銭で、互いに差し引ける性質か:お金の支払い同士として整理できるか
- 金額と支払時期が確定しているか:まだ争っている段階では、相殺の話自体が空中戦になりやすい
W不倫で「当事者が同じ2人」という条件が崩れやすいのは、当事者が4人いるからです。たとえば、妻Aへの支払いの話と、夫Bへの支払いの話は、被害者が違います。そして被害者が違えば、請求権者も違います。ここをまたいで一気に“差し引き”しようとすると、相殺の土俵から外れやすいです。
また、「確定性」も軽視できません。交渉初期は、請求額が動いたり、証拠の強さで見通しが変わったりします。相殺は、少なくとも「互いに支払うべき金額がいくらか」を前提にするため、未確定の段階で相殺を言い出すと、結局は単なる減額交渉になりがちです(それ自体が悪いわけではありませんが、相殺という言葉で誤解が生まれやすいです)。
相殺できない典型(“当事者がズレる”)
W不倫で最も多い「相殺できない典型」は、支払う相手が違うケースです。架空事例で具体化します。
例:妻Aが妻Bに慰謝料200万円を請求している。一方で、夫Bが夫Aに慰謝料200万円を請求している。
この状況で「同額だから相殺でゼロ」と言いたくなる気持ちは分かります。しかし、妻Bが支払う相手は妻Aであり、夫Aが支払う相手は夫Bです。つまり、妻Bと夫Aは「同じ相手に払う/同じ相手から受け取る」関係ではありません。相殺の前提である「同じ2人の間の相互債権」が成立しないため、法律上の相殺としては整理できません。
さらに実務では、次の“ズレの連鎖”が起きやすいです。
- あなた(不倫当事者)が受けている請求と、あなたの配偶者が持っている請求が、相手方のどの人物に向いているかがズレる
- 支払う名目(慰謝料/解決金/離婚条件に含まれる金銭など)が混ざり、差し引きの前提が崩れる
- 「こちらは相殺のつもりだった」と言っても、相手は「そんな合意はしていない」と反発し、紛争が長期化する
したがって、請求された側の立場では、相殺を前提にした行動(勝手な差し引き・支払拒否・減額振込)は避け、まずは「誰が誰に請求しているのか」「どの金銭を何の損害として清算するのか」を整理する方が、結果として負担を減らせる可能性が高いです。
相殺を理由に一方的に支払額を減らしたり、減額した金額だけを振り込んだりすると、交渉が硬直しやすく、訴訟化のリスクも上がります。合意ができるまでは“差し引き”を前提に動かない方が安全です。
なお、「差し引きできないなら絶対に損か」というと、そうとも限りません。相殺が成立しない場合でも、たとえば四者関係を見据えた示談設計(誰がどこにいくら支払うか、求償をどう扱うか)で、実質的な負担のバランスを整える余地はあります。この点は後段で詳しく解説します。
相殺できる可能性:求償権同士が“互いに確定”したとき
W不倫で相殺の検討余地が出るのは、主に不倫当事者どうし(夫Aと妻B)の間で、互いに求償の支払い関係が成立している場面です。イメージしやすいように、数字を置いた架空例で見ます(あくまで説明用です)。
前提:妻Aの損害について「夫Aと妻Bが半分ずつ負担するのが公平(100万円ずつ)」、夫Bの損害についても「半分ずつ負担するのが公平(100万円ずつ)」だと仮定します(実際の割合は事情で動きます)。
支払い状況:
- 妻Aへの支払い:夫Aが150万円、妻Bが50万円を支払った
- 夫Bへの支払い:妻Bが180万円、夫Aが20万円を支払った
この場合、妻Aについては「夫Aが50万円払い過ぎ(妻Bが50万円不足)」なので、夫Aは妻Bに対して50万円の求償を主張しやすい構図になります。一方、夫Bについては「妻Bが80万円払い過ぎ(夫Aが80万円不足)」なので、妻Bは夫Aに対して80万円の求償を主張しやすい構図になります。
つまり、夫Aと妻Bの間には、
- 夫A→妻B:50万円(妻A分の求償)
- 妻B→夫A:80万円(夫B分の求償)
という双方向の金銭債権が生じ得ます。ここまで整理でき、金額が確定し、支払時期も到来しているのであれば、理屈の上では相殺(または合意による差額精算)を検討する余地が出ます。上の例だと、差額の30万円を一方が支払って清算する、という発想です。
ただし、実務上は「法定相殺として一方的にやる」よりも、合意として“差額精算で清算する”形に落とす方がトラブルを抑えやすいことが多いです。なぜなら、求償額は割合の見立てや、示談書の内容(清算範囲)によって争いになりやすく、“相殺の要件(確定性)”を満たすまでに時間がかかることがあるからです。
また、W不倫では感情面の対立が強く、「相手に支払うくらいなら、こちらも徹底的に争う」となりやすい局面があります。相殺や差額精算を安全に機能させるには、そもそも支払い・示談の段階から後で整合が取れる形で記録を残し、必要なら清算条項や求償の扱いまで視野に入れて組むことが重要です。
示談や和解の条項設計(清算の書き方、どこまで終わらせるか)については、一般的な考え方として裁判上の和解条項(清算条項・求償権など)も参考になります。W不倫の場合は「当事者が4人」「請求が二方向」という前提があるため、条項の事故が起きやすい点に注意が必要です。
次では、相殺では整理しきれない場面で、二者示談・三者示談・四者和解をどう選び、どう組むと再燃しにくいか(清算の設計)を具体的に解説します。
4者関係の清算ルール:二者示談・三者示談・四者和解の選び方
前の架空事例(夫A・妻A/夫B・妻B、そして不貞関係は夫A×妻B)で見たとおり、ダブル不倫(W不倫)は「被害配偶者が2人」いるため、慰謝料の請求・支払いが二方向に走りやすく、相殺(差し引き)だけで解決しようとすると破綻しやすいのが特徴です。
このようなケースで現実的に重要になるのは、法律上の相殺に無理やり当てはめるよりも、示談(合意)で“お金の流れ”と“終わらせ方”を設計することです。設計の選択肢は大きく分けて、二者示談(2人で合意)、三者示談(3人で合意)、四者和解(4人まとめて清算)があります。
どれが正解かは状況次第ですが、請求された側(不倫した側・不倫相手側)の立場では、次の3点を同時に満たす方向で選ぶと“再燃”を減らしやすいです。
- 二方向請求の止め方:誰から誰への請求を、どの範囲で終わらせるか
- 求償の地雷回避:あとから「払い過ぎ/払ってない」で揉めない設計にするか
- 再発防止:接触禁止・口外禁止など、次の火種を潰す条件を整合させるか
以下では、それぞれの方式のメリットと落とし穴を、W不倫特有の「4者関係」「二方向請求」「求償」の観点から整理します。
二者示談のメリット・落とし穴
二者示談は、例えば「妻A(被害)と妻B(不倫相手)で示談する」「夫B(被害)と夫A(不倫相手)で示談する」といった形で、当事者2人で完結する合意です。関係者が少ないので、話がまとまりやすい一方、W不倫では落とし穴も多い方式です。
二者示談の主なメリットは、次のとおりです。
- 合意のハードルが低い:全員の利害を揃えなくてよい(誰かが拒否しても進められる)
- スピード優先に向く:請求された側が早期に一定の決着を作りやすい
- 条件を絞れる:接触禁止や口外禁止など、最低限の再燃防止条項に集中できる
一方で、二者示談の最大の注意点は、その合意が“その2人の間”にしか効かないことです。W不倫では当事者が4人いるため、二者示談を積み上げると、条件の整合性が崩れやすくなります。
典型的な落とし穴は、次の3つです。
- 落とし穴1:残った当事者が別の条件で動く
妻Aと妻Bで「これで終わり」と思っても、夫Bが夫Aへの請求を行えば、夫A側の負担が一気に増える可能性がある - 落とし穴2:求償が後から飛んでくる
二者示談で一方が多く払うと、共同不法行為者(不倫当事者)間で「払い過ぎ分」を巡る求償の紛争が生じやすい - 落とし穴3:条項の整合性が崩れ再燃する
口外禁止・接触禁止・違約金などの条件が相手方の示談書とズレ、違反時の扱いで揉める
請求された側の立場で二者示談を選ぶなら、少なくとも次の点は意識しておくと安全です。
- 「清算の範囲」を明確にする:本件不貞行為に基づく慰謝料請求についての解決なのか、関連する損害賠償一般まで含めるのか
- 第三者の請求は止められないと理解する:二者示談で“相手配偶者の請求”を消すことはできない(止めたいなら三者・四者の設計が必要)
- 支払いの証拠・名目を整える:後で求償・差額精算の議論になったときに、何の損害を埋めた支払いか説明できるようにする
また、二者示談を積み上げる場合は、連絡窓口と交渉順序も重要です。相手方が感情的になっている局面では、個別に連絡を取り合うだけで火種が増えやすいので、請求された側としては、初動の整理(窓口の一本化、相手方の請求意図の把握)から丁寧に進めた方が、結果として負担が小さくなりやすいです。W不倫で請求を受けた直後の動き方は、ダブル不倫で慰謝料請求された方へでも整理しています。
三者示談で整える発想
W不倫の「二方向請求」を整理しやすいのが、三者示談です。ここでいう三者示談は、典型的には次の形を指します。
- 妻A(被害配偶者)+夫A(配偶者)+妻B(不倫相手)
- 夫B(被害配偶者)+妻B(配偶者)+夫A(不倫相手)
三者示談の強みは、被害配偶者(請求する側)から見て「共同不法行為者になり得る2人」を同じ場で縛れるため、“誰がいくら負担するか”と“清算の範囲”を一括で整えやすい点にあります。
例えば、妻Aの請求について「夫Aと妻Bが合計で◯◯万円を支払う」「内訳は夫Aが◯◯万円、妻Bが◯◯万円」と合意し、妻A側の請求はそれで終局解決にしておけば、妻Aが後から別の名目でぶり返すリスクを抑えやすくなります(もちろん、実際にどこまで終局にできるかは条項設計と事情次第です)。
請求された側にとっての実務上のメリットは、次のとおりです。
- 総額と内訳が決まる:「どこまで払えば一区切りか」が見えやすい
- 支払いの偏りを抑えやすい:一方だけが先に多額を払って、後から求償で揉める事故を減らせる
- 再発防止条項を揃えやすい:接触禁止・口外禁止・違約金などを同じ条件で整えやすい
ただし、三者示談にも弱点はあります。最大の弱点は、もう一方の被害配偶者(残りの1人)は縛れないことです。妻Aの三者示談が成立しても、夫Bの請求が残るなら、結局もう一本の交渉が必要になります。
そのため、三者示談は「二方向請求のうち、少なくとも片方をきれいに終わらせる」ための現実解として有効です。逆に言えば、W不倫で三者示談を採用するなら、もう一方の請求(夫B側)との整合性を崩さないよう、次の点を意識すると揉めにくくなります。
- 清算条項の対象を整理する:妻Aに関する損害の清算なのか、4者関係全体の清算を狙うのかを混ぜない
- 「他の当事者」の扱いを過度に約束しない:三者示談の当事者でない人の請求を“させない”と断定すると、実行不能な合意になりやすい
- 求償の扱いを先回りする:夫Aと妻Bの内部負担(求償)について、合意で整理する余地があるか検討する
裁判上の和解や、より硬い形での清算を視野に入れる場合は、条項の考え方として裁判上の和解条項(清算条項・求償権など)も参考になります(本記事では、W不倫に合わせた注意点を後段で整理します)。
四者和解(4人まとめて清算)の強みと難しさ
W不倫で「相殺(差し引き)したい」という希望が強い場合、理屈としては相殺に当てはめるよりも、四者和解(4人全員で合意して清算する)の方が目的に合致しやすいことがあります。
四者和解は、裁判所で行う「裁判上の和解」に限らず、裁判外で4人が署名押印して合意する形も含め、ここでは便宜上「四者で一括清算する合意」を指します。強みは、当事者4人を同じ合意で縛れるため、二方向請求を一度で畳み、求償・口外・接触などの条件も整合させやすい点です。
四者和解が向きやすい典型は、次のようなケースです。
- 双方の被害配偶者が「早期に終わらせたい」意向を持っている
- 請求額が近く、実質的な差額精算に落とし込みやすい
- 二者示談を重ねると整合性が壊れそう(求償・口外禁止・接触禁止がバラバラになりやすい)
- 訴訟化のリスクを下げたい(連絡の行き違いでエスカレートしやすい局面)
一方で、四者和解が難しい理由はシンプルで、4人の感情と利害を同時に揃える必要があるからです。W不倫は当事者の心理的負荷が大きく、「署名をするくらいなら徹底的に争う」という方向に振れやすい局面があります。
そこで、請求された側が四者和解を狙う場合は、いきなり“完全一括”を目標にするのではなく、合意の目的を分解して整理するのが実務的です。例えば、次のように“段階的な目標”に落とすと、交渉が前に進みやすくなります。
- 目標1:二方向請求の「総額の上限」を見える化する(各被害配偶者の落としどころ)
- 目標2:差額精算の形にできるか検討する(誰が誰にいくら払うと全体のバランスが取れるか)
- 目標3:清算条項・求償の扱い・再発防止条項を一つの合意に統合する
四者和解は「相殺(差し引き)」を実現したい人にとって魅力的に見えますが、実際に重要なのは“見た目の差し引き”よりも、後から蒸し返されない終わらせ方です。相殺という言葉に引っ張られず、最終的に「誰がどの被害配偶者に対して、何の名目で、いくら支払ったのか」が説明できる合意にしておくことが、結果としてリスクを下げます。
そして、この「終わらせ方」を具体的に支えるのが、次で扱う条項設計(求償権放棄・清算条項・相殺条項など)です。
条項例あり:求償権放棄・相殺条項の注意点
ここでは、W不倫で特に事故が起きやすい条項を、短い例文(テンプレ)つきで整理します。条項は、同じ言葉でも当事者・範囲・例外の置き方で意味が大きく変わります。特にW不倫は当事者が4人いるため、「誰と誰の間の合意なのか」を一度見失うと、条項が“逆効果”になりやすいので注意が必要です。
重要な注意:以下の例文は説明用の短いテンプレです。そのままコピペすると、あなたの事案に合わない範囲まで放棄したり、逆に放棄できていなかったりして、後から揉める原因になります。実際に示談書を作るときは、当事者の組み合わせ(2者/3者/4者)と、清算したい範囲(妻A分/夫B分/両方)を前提に、条項を調整してください。
求償権放棄条項(短い例+落とし穴)
「求償権放棄」は、W不倫の交渉でよく出るキーワードです。特に請求された側の立場では、“支払った後に求償でまた揉める”のを避けたいので、放棄条項を入れたくなることが多いでしょう。
ただし、落とし穴もはっきりしています。最も多い事故は、片務的(片方だけ)な放棄です。例えば、あなた(夫A)が「自分は求償しない」と書いても、不倫相手(妻B)が同じ合意に署名していなければ、不倫相手からあなたへの求償を止める効果は基本的に期待できません。W不倫では「求償が双方向に発生し得る」ため、相互放棄(双方が放棄)にしないと、目的(再燃防止)を達成できない場面が多いです。
また、放棄する範囲も重要です。W不倫では、妻Aに関する精算と夫Bに関する精算が分かれるので、「どの被害配偶者に関する支払いについての求償を放棄するのか」を曖昧にすると、後で「その求償は放棄の対象外だ」と争いになり得ます。
例文(不倫当事者2人の相互放棄:範囲を限定)
「甲および乙は、本件不貞行為に起因して、第三者(被害配偶者)に対して支払う(または支払った)慰謝料その他解決金に関し、相互に有する求償権を放棄する。」
この例文を入れる場合、最低限次のチェックが必要です。
- 当事者:甲乙が「共同不法行為者(不倫当事者)」になっているか(配偶者同士の合意に入れても意味がズレやすい)
- 対象範囲:妻Aに関するものだけか/夫Bに関するものも含めるか(両方ならそう書く)
- 対象となる支払い:慰謝料・解決金・訴訟費用等まで含めるか(広げ過ぎると別論点まで巻き込む)
- 例外:示談違反(口外・接触)など、別の損害賠償まで放棄してしまわないか
「求償権放棄」は強力ですが、W不倫では強力な分だけ事故が起きやすい条項です。一般論としての整理は求償権は示談書で放棄できる?も参考になりますが、W不倫では“二方向請求”の構図に合わせて範囲を明確化するのがポイントです。
相殺条項(入れるなら「前提条件」まで書く)
W不倫では「相殺」という言葉が独り歩きしやすい一方、実務で役に立つのは、法律上の相殺そのものというより、合意としての差額精算(相殺的な清算)です。これを条項に落とす場合、ポイントは「いつ」「何が確定したら」「どうやって差額精算するか」を書いておくことです。
相殺条項で揉めやすいのは、次のようなパターンです。
- 求償額が未確定なのに相殺をうたう:結局、何を基準に相殺するのか分からず、紛争が再燃する
- 当事者がズレている:被害配偶者同士の“差し引き”を相殺条項で無理に書き、実現できない合意になる
- 対象範囲が広すぎる:不貞以外の金銭(離婚条件、生活費など)まで巻き込み、別の争いを生む
W不倫で現実的に相殺条項が意味を持ちやすいのは、不倫当事者(夫Aと妻B)間で、互いに求償の支払い関係が生じたときです。その場合も、条項は“ふわっと”書かず、確定の定義を入れるのが安全です。
例文(相殺的な差額精算:確定条件を入れる)
「甲および乙は、本件不貞行為に起因して相互に金銭支払義務が生じた場合であって、その金額が当事者間の書面による合意または確定判決等により確定したときは、対当額において相殺(差額精算)して清算することができる。」
この条項を置く場合は、次の点を合わせて検討すると事故が減ります。
- 「確定」の定義:口頭の言い分ではなく、書面合意や確定裁判など客観的基準にする
- 通知方法:相殺(差額精算)を行うときの通知方法・期限を定める(揉めたときの交通整理になる)
- 対象の限定:「第三者(被害配偶者)への慰謝料支払いに関する求償」に限定する(広げ過ぎない)
- 代替案:相殺が難しい場合は差額を振込で精算するなど、実行手段を明確化する
相殺条項は、うまく設計できれば「後からの差額精算」をスムーズにしますが、逆に設計が甘いと“相殺できるはずだ”という誤解を強化し、交渉をこじらせる原因にもなります。W不倫では、相殺に頼り切らず、二者・三者・四者のどの枠組みで清算するかを先に決めたうえで、条項を組み立てるのが安全です。
W不倫ではこれらの条項に加えて、接触禁止・口外禁止・違約金などの再発防止条項の整合性が重要です。条項の考え方自体は、裁判上の和解条項(清算条項・求償権など)の整理も参考になります。
訴訟になった場合の波及:訴訟告知・反訴・求償の絡み
W不倫の慰謝料は、示談でまとまることも多い一方で、感情の対立や「差し引き(相殺)の主張」で交渉が硬直すると、訴訟に移るケースもあります。訴訟化した場合の特徴は、単に“裁判所で白黒つける”にとどまらず、当事者が4人いることで波及が起きやすい点です。
たとえば、妻A(被害配偶者)が妻B(不倫相手)だけを訴えたつもりでも、背景には夫A(妻Aの配偶者)という共同不法行為者がいます。逆に、夫B(被害配偶者)が夫A(不倫相手)を訴えたつもりでも、妻B(夫Bの配偶者)との関係が絡みます。W不倫では「一方向の訴訟」が、事実上はもう一方向の紛争まで巻き込みやすいのです。
請求された側としては、「訴訟になっても何とかなる」と考えてしまうより、訴訟化で何が起きるかを先に把握しておくと、交渉の優先順位(どこを守って、どこで譲るか)が決めやすくなります。
- 争点が増えやすい:不貞の事実だけでなく、婚姻状況(破綻の有無)や悪質性、発覚後の対応なども争点化しやすい
- 証拠の棚卸しが避けられない:LINEやメール、写真、ホテル利用履歴、探偵資料など、提出の要否を含めて整理が必要
- 他当事者へ波及する:もう一人の共同不法行為者との関係(求償や協力関係)が問題化しやすい
- 時間・心理コストが大きい:期日対応や主張立証で長期化し、私生活にも負荷がかかる
もちろん、訴訟は「勝つ/負ける」だけがゴールではありません。W不倫の慰謝料は、訴訟の途中で和解に至ることも多く、現実には“着地点を作るためのプロセス”として動くこともあります。ただ、その場合でも、訴訟の入口での対応が雑だと、和解の条件が不利になりやすいので注意が必要です。
訴訟告知が出てくる理由(W不倫では“巻き込み”が起きやすい)
W不倫の訴訟では、途中で「訴訟告知」という言葉が出ることがあります。これは簡単にいうと、訴訟の当事者が、訴訟に関係し得る第三者に対し「いまこういう裁判が進んでいる」と知らせる手続です。
共同不法行為(不倫した配偶者+不倫相手)の構図では、のちに求償(内部清算)が問題になることがあるため、訴訟の当事者が「あとで求償する/される可能性」を見据えて、もう一人の共同不法行為者に訴訟を知らせる場面があります。W不倫では二方向請求があるため、告知が出る局面も増えやすいです。
訴訟告知が出たら、「誰が、誰に、何のために告知しているのか」を整理すると、求償や波及の方向が見えます。
ただし、訴訟告知は“自動的に解決する魔法”ではありません。告知された側がどう動くか(補助参加などで関与するか、距離を置くか)、その後の交渉や求償の扱いで意味合いが変わります。請求された側としては、告知が出た時点で、「この先、求償や差額精算が現実化しそうか」を再点検するのが安全です。
反訴・別訴・二方向請求の再燃
W不倫の訴訟でややこしいのは、「AがBを訴えた」という一つの訴訟が、周辺で別の訴訟・別の請求を生みやすい点です。たとえば、次のような動きが連鎖することがあります。
- 妻Aが妻Bを提訴(不倫相手への請求)
- 妻B側が、夫A(共同不法行為者)との関係整理を迫られる(協力か、距離を置くか)
- 夫Bが夫Aに請求を行い、もう一方向の紛争が加速する(=二方向請求が“裁判モード”で再燃)
- 支払いが偏り、後から求償の紛争が別に立ち上がる
この連鎖が起きると、最初の目的(慰謝料の妥当な着地)から離れて、当事者が“勝ち負け”や“報復”に引っ張られ、時間も費用も膨らみやすくなります。請求された側の現実的な防衛としては、「訴訟化を避ける」か、「訴訟になっても被害が広がらないように設計する」か、いずれかを早めに選ぶことが重要です。
たとえば、交渉段階で清算条項や求償の扱いを雑にしてしまうと、訴訟になったときに「その合意はどこまで効くのか」「まだ終わっていないのでは」と争点化しやすくなります。逆に、示談で終わらせるなら終わらせる、争うなら争うで、“前提整理(当事者・支払先・範囲)”を先に固めるほど、訴訟のダメージは小さくなりやすいです。
なお、すでに弁護士からの連絡(内容証明、受任通知など)や、裁判所からの書類(訴状など)が届いている場合は、時間制限が絡むことがあります。対応を先延ばしにすると、交渉の余地が狭くなることがあるため、早めに方針を決めるのが安全です。
時効・証拠・今すぐやること(状況別チェックリスト)
W不倫の紛争を長引かせる最大の原因は、「相殺できるはず」「相手も同じくらい悪いはず」という感覚で動き、当事者・支払先・証拠・期限の整理が後回しになることです。ここでは、請求された側が“いま”やるべきことを、期限(時効)・証拠・行動の順で整理します。
時効:放置が一番危ない(起算点がズレやすい)
慰謝料請求や求償の話には、いずれも時効(消滅時効)が関係します。W不倫では被害配偶者が2人いるため、次のように「どの権利の時効か」が混ざりやすい点に注意が必要です。
- 妻Aが不倫当事者(夫A・妻B)に対して持つ請求
- 夫Bが不倫当事者(夫A・妻B)に対して持つ請求
- 不倫当事者(夫Aと妻B)どうしの求償(内部清算)
さらに、時効は「いつから進むか(起算点)」が重要で、発覚時期・認識の時期・支払の時期などによって見え方が変わることがあります。W不倫は発覚の経路もさまざまで、夫婦Aと夫婦Bで発覚日がズレることも珍しくありません。そのため、“こちらはまだ大丈夫”と思い込むのが危険です。
時効の考え方や、求償の時効の整理を先に確認したい場合は、別ページで詳しく解説しています。
(参考)求償権の時効
一方で、請求された側の実務としては、数字や条文の暗記よりも、「時間が経つほど、交渉が不利になり得る」という前提で動くことが大切です。特に、弁護士からの通知が来ているのに放置すると、相手方が訴訟へ切り替える動機が強くなりやすいので注意しましょう。
証拠・資料:あとから必要になるものを先に確保する
W不倫の紛争では、当事者が増えるぶん、後から「言った/言わない」「どこまで合意した/していない」が発生しやすくなります。請求された側が最初にやるべきことの一つは、資料を“散逸させない”ことです。
特に次の資料は、示談・訴訟・求償(内部清算)のいずれの局面でも土台になります。
- 請求の証拠:LINE・メール・DM、内容証明、弁護士書面、請求書、メモ(日時・発言)
- 支払いの証拠:振込明細、領収書、分割払いの合意書、支払条件を示すやり取り
- 合意書(示談書)の最新版:ドラフトも含めて、どの版で何が変わったか残す
- 関係性の事情:交際期間の推移、発覚日、発覚後の接触有無、連絡遮断の状況
- 婚姻状況の事情:別居の有無、夫婦関係の経緯(破綻の主張が出る場合に備える)
特にW不倫では、「妻A分の示談書」と「夫B分の示談書」が別々に存在する、またはドラフトが複数並走することがあります。あとで整理できるように、“誰が誰に対して、どの合意で、いくら払ったか”を台帳化するイメージで保管すると、求償・差額精算の局面で事故が減ります。
状況別チェックリスト:いまの立ち位置ごとに優先順位を変える
最後に、「いま請求されている/交渉中/支払後」の3つに分けて、請求された側が優先すべき行動を短くまとめます。
1)請求が来た直後(まだ示談していない)
- 窓口を整える:相手方(被害配偶者2人)から連絡が別々に来る場合、混線しないよう整理する
- 相殺を前提に動かない:「差し引きできるはず」で一方的に減額振込・支払拒否をしない
- 先に“当事者と支払先”を整理:誰の請求(妻A分/夫B分)なのか、共同不法行為者は誰かを固定する
- 条件の優先順位を決める:金額だけでなく、接触禁止・口外禁止・清算範囲(終局性)も同時に考える
初動の具体的な注意点は、状況に応じてダブル不倫で慰謝料請求された方へも参考になります。
2)示談交渉中(合意が見えてきた段階)
- 二者/三者/四者の枠組みを再確認:誰を縛れて、誰を縛れない合意なのかを誤解しない
- 清算条項の範囲を具体化:「何が終わるのか」を曖昧にしない(終わらせたい範囲を当事者で一致させる)
- 求償の地雷を潰す:求償権放棄・内部負担の扱いを入れるか、入れないなら後の揉め方を想定する
- 支払い方法を整える:一括か分割か、期限、遅延時の扱い(遅延損害金等)を決める
求償権放棄を含めた条項の考え方は、一般論として求償権は示談書で放棄できる?も参考になります(W不倫は当事者が多いため、範囲の書き方が特に重要です)。
3)支払後(また請求/求償が来そう・来た)
- 支払いの位置づけを確認:どの被害配偶者の損害を、どの合意で埋めた支払いか整理する
- 求償の見通しを立てる:支払いの偏りがあるなら、内部負担の調整が必要か検討する
- 証拠と合意書をセットで保管:「いくら払ったか」だけでなく「何を終わらせたか」が重要
- 連絡の取り方を間違えない:感情的な応酬は不利になりやすいので、記録と事実整理を優先する
支払後の求償(内部清算)が問題になりそうな場合は、不倫慰謝料の求償権とはで基本構造を確認しておくと、交渉の交通整理がしやすくなります。
よくある質問
ダブル不倫で「相殺できるから払わない」は通りますか?
多くのケースで、そのままは通りません。W不倫で言われる“差し引き”は、当事者や支払先がズレていて法律上の相殺にならないことが多いからです。差し引きの希望がある場合でも、相殺にこだわるより、示談の枠組み(四者清算など)で実質的な調整を目指す方が安全な場面があります。
求償権はいつ発生しますか?支払前に主張できますか?
求償は「共同不法行為者の一方が、被害者に支払った(または負担した)」ことを前提に生じる権利です。交渉の中で“将来の求償をどう扱うか(放棄・差額精算など)”を合意として先回りすることはありますが、具体的な請求関係は支払状況と結びついて整理するのが基本です。
求償割合は本当に半々ですか?
出発点として均等(半々)を想定しやすい一方、主導性や悪質性、既婚認識、婚姻状況などの事情で割合が動く可能性があります。W不倫では被害配偶者が2人いるため、「妻A分」「夫B分」を分けて考えた上で、どの支払いが偏っているかを整理すると見通しが立ちやすくなります。
求償権放棄条項は有効ですか?
一般に、当事者が合意して適切に設計すれば、求償権放棄が問題になる場面はあります。ただ、W不倫では当事者が4人いるため、「誰の求償を、どの範囲で、相互に放棄するのか」を曖昧にすると、目的(再燃防止)を達成できないことがあります。
時効が心配です。どう考えればいいですか?
慰謝料請求や求償には時効が関係し、起算点(いつから進むか)が問題になります。W不倫は発覚時期や支払い時期がズレやすいため、「自分はまだ大丈夫」と決めつけず、早めに整理するのが安全です。詳しい整理は求償権の時効も参考にしてください。
まとめ
- W不倫の“相殺(差し引き)”は成立しないことが多く、まず当事者と支払先の整理が重要
- 求償権は「支払後」に再燃しやすいので、示談の枠組みと条項(清算・求償放棄)で地雷を潰す
- 二者示談は早いが整合性が崩れやすく、三者示談・四者清算で事故を減らせる場面がある
- 訴訟になると争点と当事者が増えやすい。証拠と合意内容の整理が防衛の土台
- 時効・証拠・支払記録は後から効く。放置せず、状況別に優先順位をつけて動く
W不倫の慰謝料は、感情の問題が大きい一方で、実務としては「誰が誰に、何の名目で、いくら払うのか」を丁寧に設計できるかで、最終負担が大きく変わることがあります。特に、相殺に頼れないケースでは、清算条項や求償の扱いを含めて整合性を取ることが、再燃防止に直結します。
もし、すでに慰謝料を請求されていて交渉がこじれそう、相殺や求償で揉めそう、示談書にサインしてよいか不安がある場合は、早めに弁護士へ相談し、交渉の設計から整える方が安全です。
坂尾陽弁護士
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