不貞行為の定義はどこから?【弁護士解説】 :キス・LINE・枕営業など裁判例で見る例外ケース

はじめに

配偶者以外の異性と親密に付き合った場合、日常的には「浮気」や「不倫」と呼ばれます。しかし、法律上は「不貞行為(ふていこうい)」という明確な用語と定義が存在します。
不倫慰謝料を請求された・請求したいと考えるとき、どこからが“不貞行為”になるのかが大きな争点となることが多いのです。

この記事では

  • どこからが不貞行為とされるのか
  • キスだけや枕営業の場合はどうなるのか
  • 強姦された場合も責任を負うのか

など、不貞行為の定義やどこまでが含まれるのかについての疑問について、具体例・裁判例を交えながら詳しく解説します。

不貞行為の認定は離婚や慰謝料請求の成否に直結するため、正しい理解が欠かせません。ぜひ最後までご覧ください。

肉体関係=不貞行為だけではなく例外・特殊なケースも深掘りします!
(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

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不貞行為とは? 判例による定義

法律用語の「不貞行為」とは、一般的に**「既婚者が自由な意思で、配偶者以外と肉体関係(性行為)を結ぶこと」**を指します(最高裁昭和48年11月15日判決)。

民法770条1項1号では「配偶者に不貞な行為があったとき」は法定離婚事由になると定められていますが、ここでいう「不貞な行為」=「不貞行為」として扱われます。

不倫や浮気との違い

  • 浮気・不倫(一般用語)
    • 恋人や婚姻相手がいるにもかかわらず、他の異性と親密な関係を持つこと。
    • 肉体関係の有無にかかわらず「浮気」「不倫」と呼ばれるケースが多い。
  • 不貞行為(法律用語)
    • 自由意思による性行為があって初めて成立。
    • したがって、キスや手をつないだだけでは「法的な不貞行為」とは認められないのが原則です。

一般的な浮気・不倫のイメージより、不貞行為の範囲は狭いと言えるでしょう。

肉体関係がある場合:不貞行為成立の基本

配偶者以外との肉体関係(性行為)が認められれば、1回だけでも不貞行為は成立します。
例えば「一度きりの過ちだから許してほしい」と言っても慰謝料請求の根拠になます。もちろん長期間・頻繁に続いた場合には、より高額の慰謝料や離婚不可避となるケースも多いです。

MEMO

厳密には、離婚を請求するための不貞行為は、慰謝料を請求するための不貞行為よりも要件が厳しくなります。そのため、1回限りの不貞行為を理由として離婚が認められるかは微妙なところです。

性交類似行為(フェラチオ・手淫など)

実務上は、フェラチオや手淫など性交に至らない行為であっても、ほぼ肉体関係と同視される傾向にあります。

実際に裁判例や弁護士実務でも「口淫など性交類似行為が行われた=性行為があった」と推定され、不貞行為が認められる例が多いです。

性交類似行為の証拠があれば不貞行為があったと判断されると思ってください。

枕営業・売買春

クラブのママやホステスなどが、営業目的で顧客と性的関係をもつ「枕営業」の場合でも、通常は「自由意思で性行為をしている」ので不貞行為になりそうです。

しかし、東京地裁平成26年4月14日判決では「いわば顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず、婚姻共同生活を破壊する行為とは言いがたい」として慰謝料請求を退けた事例があり、商売目的かつ事情次第では不法行為が認められない可能性もあります。

もっとも、この判決はかなり特殊な例なので、枕営業をすれば必ず責任が免れるわけではない点に注意が必要です。

ホステス・キャバ嬢・風俗嬢は既婚者の顧客とのトラブルに巻きこまれやすいです。当事務所の解決事例で紹介していますので参考にしてください。

(参考)【枕営業・風俗・キャバ嬢の不倫】慰謝料請求を支払い拒否・大幅減額した解決事例を徹底解説

強姦・強制性交等は被害者側に責任なし

最高裁の判例(昭和48年11月15日など)でも明らかにされているように、「自由意思」が重要なポイントです。

もしも強姦・強制性交等の被害に遭った場合、被害者側に自由意思はありません。そのため、不貞行為とはみなされず、被害者が慰謝料の支払いを負うことはありません。
ただし、加害者側にとっては不貞行為に該当するとともに、別途の責任(刑事・民事)が問われます。

注意

肉体関係を持った理由が「強引に迫られた」、「嫌々ながらも応じてしまった」場合は、上記と異なり不貞行為に該当すると判断される可能性が高いです。無理矢理に肉体関係を持たされたため慰謝料を免れるのは、加害者側が極めて悪質なケースに限られ、実務的にはレアケースだと考えてください。

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肉体関係なしでも違法とされる例外

原則として、性行為がなければ不貞行為に該当しないため、慰謝料を支払う義務はありません。しかし、いくつかの裁判例では「キスだけ」や「LINE・メールだやり取りしただけ」でも慰謝料が認められた例外が存在します。
大きく分けると下記2パターンに分類できます。

  • 肉体関係を推定されるケース
  • 夫婦関係を積極的に破壊したケース

LINE・メールやキスから肉体関係を推定される

実務では、キスの写真・LINEの会話・ラブホテルの出入り記録などを積み重ね、「結果的に性行為があった」と判断される場面が多いです。

本人が「キスだけ」「ハグだけ」と主張しても、周辺状況によって裁判所が**「おそらく肉体関係があったはずだ」と推定**し、不貞行為が認定される可能性が高まります。

MEMO

キスやハグについてだけ直接的な証拠がある場合、裁判所は個別具体的な状況を踏まえてケースバイケースで判断をしています。例えば、東京地裁平成23年5月19日判決は、アメリカ人であることを理由としてキス・ハグが不貞行為と評価できないと判断しています。裁判において適切な主張・反論をすることが不貞行為と評価されるか否かの分かれ目になるため、早めに弁護士にご相談ください。

夫婦関係を破壊するような言動

たとえキス以上の行為がなかったとしても、不倫相手に対して

  • 「今すぐ奥さんと別れてほしい」
  • 「一緒に暮らしたいから離婚して」

など、現在の夫婦関係を積極的に破壊するような行為を行えば、裁判所が慰謝料を認める場合があります。

東京地裁平成20年12月5日判決では、肉体関係が確認できないものの「別居や離婚を強く迫る交際」が不法行為と判断され、250万円の慰謝料が認められた例があります。

肉体関係がなかったとしても、夫婦関係を壊すような行動があれば“違法性”が認められるのです。

人工授精

人工授精を行った場合、当然ですが肉体関係はありません。しかし、裁判所は人工授精は外形的・質的に異なる要素があるとしつつも、婚姻共同生活の維持を求める配偶者に不貞行為と同等か、これを超える大きな苦痛を生じるとして慰謝料請求を認めています(東京地裁平成24年11月21日判決)。

 

不貞行為をめぐる実際のトラブルと証拠

不貞行為の成否が争われる場合、決定的な証拠がないことが多いのが現実です。そこで、複数の状況証拠を重ね合わせて性行為を推認することが行われます。

主な証拠の例

  • 探偵の調査報告書
  • ラブホテルや旅館の領収書・クレジット明細
  • LINEやメールのやり取り(「実際に性行為をした」と読み取れる文言)
  • 本人が不倫を認めた録音や書面

詳しくは裁判で使える不倫の証拠についての記事で解説しています。

MEMO

探偵の報告書は強い証拠になる場合が多いですが、まず弁護士に相談せずに探偵へ依頼すると、不要な出費になったり調査ポイントがズレてしまう恐れがあります。最初に弁護士へご相談いただき、必要に応じて探偵を紹介してもらうのが賢明です。

酒に酔って一緒にホテルに入ったという弁解

ラブホテルの出入りが記録されている場合、**「何もしていない」「休憩しただけ」**と弁解しても、裁判所はまず認めません。

特に、ラブホテルは性行為を目的とする施設ですから、「何もしていない」という主張は不自然・不合理と判断される可能性が非常に高いです。

 

不貞行為の慰謝料・離婚への影響

不貞行為が認定されると、次の2つの大きな効果があります。

・離婚原因になる(民法770条1項1号)
・慰謝料請求が認められる(加害者は配偶者本人と不倫相手)

慰謝料相場は50~300万円程度が多い

・性行為の回数や期間
・夫婦関係が最終的に離婚したかどうか
・未成年の子どもの有無

といった事情を総合的にみて、50~300万円程度になることが多いです。1回だけの肉体関係や短期の不倫なら50万~100万円程度にとどまるケースもありますが、長年の裏切り行為や妊娠に至った場合は300万円近くまで上がる可能性があります。詳しい慰謝料相場や増減要素については、こちらの記事をご覧ください。

減額や支払い拒否が認められるケース

  • 夫婦関係がすでに破綻していた場合
    不貞行為が始まる時点で夫婦が事実上破綻しているなら、慰謝料の必要性が否定される(最高裁平成8年3月26日判決)。
  • 時効が成立
    通常、不倫被害者が不貞行為を知ってから3年経過などにより慰謝料請求ができなくなる場合があります。
  • 加害者が既婚者だと知らなかった
    故意・過失がなければ不貞行為の賠償責任を問えない(民法709条の要件が満たされない)。
注意

ただし、これらの主張が簡単に認められるかどうかは個別事情によって大きく変わります。法律の専門家へ早めに相談し、適切な反論方法を検討することが重要です。

高額な慰謝料を請求されたら早めに弁護士にご相談ください。

 

不貞行為の定義についてのQ&A

ここでは、不貞行為の定義や慰謝料に関して、よく寄せられる疑問をまとめました。

肉体関係(性行為)があれば原則として不貞行為になります。
もっとも枕営業や無理矢理に肉体関係を持たされた場合は不貞行為に該当しないことも。肉体関係を持つに至った経緯・理由も確認しましょう。

回数や期間は関係ありません。1回でも不貞行為になります。
とはいえ、長期・複数回の不倫に比べて慰謝料が低めに認定されることはありますが、ゼロになるわけではありません。

キスだけなら、不貞行為には該当しないのが原則です。
ただし、キスに加えて、別居や離婚を迫る行為をしたり、他の状況証拠から肉体関係が推定されたりする場合は例外的に慰謝料が発生する可能性があります。

「夫婦関係の平穏を乱す行為」と判断されれば、請求自体は可能です。
裁判所が不貞行為を認定するかどうかは個別事情に左右されます。微妙な場合でも、慰謝料が一部認められることがあるので、弁護士に早めに相談してください。

探偵報告やLINE、ホテル領収書などの状況証拠で「推定」されるケースがほとんど。
「絶対に証拠がないから大丈夫」と思っていても、複数の事実を積み重ねて性行為を推認される恐れがあります。慎重な対応が必要です。不倫の証拠がない場合の対応の記事も参考にしてください。

 

まとめ:どこからが不貞行為か、早めに専門家へ相談を

この記事では以下のような点について解説しました。不貞行為の定義を巡っては、簡単に肉体関係=不貞行為と解説されることもありますが、詳しく裁判例を分析するとそう単純でもありません。

  • **不貞行為は「自由意思で性行為を持つこと」**が原則
  • 枕営業・キスだけ・無理矢理肉体関係を持たされた場合など、例外的に判断が分かれる特殊ケースも存在
  • 肉体関係なしでも、夫婦関係を積極的に壊す言動があると違法とされる可能性がある
  • 決定的な証拠がなくても、状況次第で「不貞行為があった」と推定される場合もある

当事務所では、不貞行為に関する無料法律相談を実施しています。

  • 「肉体関係の証拠はないけど慰謝料を請求したい」
  • 「LINEやメールで不貞行為が立証できそうか聞きたい、」
  • 「キスだけだったのに慰謝料を請求された」
  • 「本当に肉体関係がないのに疑われている」
  • 「枕営業でトラブルになった」

など、お困りの方はぜひ一度お問い合わせください。あなたの状況に合わせて、最適な解決策をご提案いたします。

「実際に慰謝料を請求された側・請求したい側のいずれでも、事案の詳細を丁寧に確認することが必要です。早めに弁護士へご相談ください。」

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