不貞行為とは?どこから不貞か|キス・ホテル・肉体関係なしの慰謝料判断

「キスだけでも不貞行為?」「ラブホテルに入っただけで慰謝料?」「肉体関係がないのに請求された…」――不倫慰謝料の場面では、そもそも“不貞行為”に当たるのかが最大の分岐点になります。

この記事では、次の疑問に答えます。

  • そもそも不貞行為とは何を指すのか
  • キス・口淫・ホテル出入りは不貞行為になるのか
  • 肉体関係なし(プラトニック)でも慰謝料請求はできるのか
  • 不貞行為の証拠は何が強く、何が弱いのか
  • 認めないと言われた/請求された場合の対応はどうするのか

民法や裁判例の傾向、実務上の注意点をふまえ、不貞行為の定義・境界線と、証拠・否認・裁判の基本を弁護士目線で整理します(結論は個別事情で変わります)。

結論が揺れる場面ほど「行為の中身」と「証拠の強さ」で整理すると迷いにくくなります。
(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

不倫慰謝料に詳しい坂尾陽弁護士

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不貞行為とは?法律上の定義と慰謝料請求との関係

日常会話では、配偶者以外と親密になれば広く「不倫」と言われます。一方、法律上の「不貞行為」は、慰謝料請求や離婚の場面で“線引き”に使われる言葉で、一般には 配偶者の貞操義務に反する性的関係(性交渉やそれに類する行為) が中心になります。

つまり、ポイントは「気持ち」よりも “性的関係と評価できるか” です。逆に言うと、感情的に許せない出来事であっても、性的関係といえない場合は、慰謝料(不貞慰謝料)としてはハードルが上がることがあります。

押さえるべき前提

不貞行為が問題になる場面は主に2つです。

・配偶者(夫/妻)との関係で、離婚原因や夫婦間の慰謝料が問題になる

・不倫相手(第三者)に対して、不法行為として慰謝料請求できるかが問題になる

※第三者への請求では、相手が既婚者だと知っていた(または気づけた)かも争点になりやすいです。

「どこまでが不貞行為か」「肉体関係が必須か」など、法律上の定義・要件をもう一段きれいに整理したい場合は、次の記事が参考になります。

不貞行為とは?法律上の定義と要件(肉体関係が必要か)

どこから不貞行為?境界線(キス・口淫・ホテル・LINE・プラトニック等)

結論から言うと、「これをしたら必ず不貞行為」という単純な線引きはありません。裁判や交渉では、行為の内容だけでなく、前後のやり取り・回数・密室性・証拠の積み上げによって “性的関係があったと推認できるか” が見られます。

ただ、実務上は次のような“傾向”で整理すると見通しが立ちやすいです。

  • キスだけ:単独では不貞行為と評価されにくい一方、交際関係の強い状況証拠にはなり得る
  • 口淫(フェラ等):性交類似行為として不貞行為に含まれる方向で争われやすい
  • ラブホテル出入り:それ自体が不貞行為というより、「肉体関係があった」推認の重要証拠になりやすい
  • LINEだけ/会ってない:不貞行為そのものの立証には弱いが、他の証拠と合わさると評価が変わる
  • 肉体関係なし(プラトニック):不貞慰謝料は難しくなりやすいが、例外的に別の不法行為が問題になることもある

ここで注意したいのは、「本人が肉体関係はないと言っている」ことと、「法的に肉体関係がなかったと認定される」ことは別、という点です。ホテルの出入り、濃密なメッセージ、会う頻度、第三者の目撃などが重なると、当事者が否定しても推認されることがあります。

また、風俗利用は「性的行為」という意味では不貞行為に近い一方で、第三者(相手方)への請求では、相手が既婚者と知っていたか等の論点が絡み、見通しが単純ではないケースもあります。

このあたりの“ケース別”を深掘りしたい場合は、次の記事が参考になります。

不貞行為の証拠|何が強い?集め方・注意点

不貞行為は密室で行われることが多く、証拠は「単発」ではなく 複数の状況証拠を積み上げて総合評価 されることがよくあります。

一般に、請求する側が意識したいのは次の2点です。

1つ目は “肉体関係の推認につながる証拠” を確保すること(例:ラブホテル出入り、宿泊の事実、性交類似行為の具体的やり取り等)。

2つ目は “相手の言い逃れを潰す補強” を揃えること(例:日時・場所・頻度、同一人物との継続性、夫婦関係への影響)。

逆に、請求された側(不倫した側/疑われた側)から見ると、次が重要です。

・相手方の証拠が「推認」に届く強さか(単なる疑いレベルか)

・決定打がない場合に、どこを争点化すると減額・解決に近づくか

・証拠が強い場合に、早期に方針転換(謝罪・示談)した方が傷が浅いか

証拠集めでやってはいけないこと

たとえば、パスワードを突破して配偶者のスマホやSNSにログインするなど、方法によっては違法・トラブル化のリスクがあります。証拠を増やすつもりが、逆に不利になることもあるため、迷ったら先に弁護士へ相談して安全な集め方を確認してください。

証拠が揃った後は、「内容証明を送る/交渉する/示談にする/裁判にする」など手続きの選択になります。請求の流れ全体を把握したい場合は、次のページも参考になります。

不倫慰謝料の請求方法|請求の流れ・証拠・内容証明・示談・裁判の全体像

不貞行為を認めない(否認)と言われたとき|請求する側・された側の対応

「絶対にやっていない」「肉体関係はない」と否認された場合、感情的に押し切ろうとすると、かえって長期化しがちです。ポイントは 証拠の強弱に応じて“次の一手”を変える ことです。

請求する側(配偶者側)では、次のような考え方になります。

・決定打が弱い段階で追及しすぎない(証拠隠し・口裏合わせのきっかけになり得る)

・「何を立証すべきか」を逆算する(肉体関係、継続性、既婚者認識など)

・交渉で回収するか、裁判も視野に入れるかを早めに決める

請求された側(不倫した側/不倫相手側)では、次が分岐点です。

・事実と異なるなら、矛盾のない説明と証拠の検討(言い分が崩れると不利)

・事実関係に争いがない/証拠が強いなら、早期の示談でダメージを抑える

・高すぎる請求でも、無視・放置は危険(手続きが進むと不利になりやすい)

否認対応の具体(説得の組み立て、証拠の補強、逆に請求された側の反論ポイント)は、次の記事で詳しく整理しています。

不貞行為を認めない場合も諦めない|説得術・証拠集め・慰謝料請求方法

「否認する/認める」だけでなく、着地点(減額・早期解決)から逆算するのが実務では重要です。

裁判になった場合の争点|「不貞行為の有無」で何が見られる?

裁判になると、感情面の主張よりも、結局は 不貞行為があったといえるか(推認できるか) が中心になります。よく争点になるのは、たとえば次のような点です。

  • 密室性の高い状況(ホテル出入り、宿泊、深夜の滞在)があるか
  • メッセージ等の内容が、肉体関係を具体的に示しているか
  • 会う頻度・期間から、継続的関係が推認できるか
  • 第三者への請求なら、既婚者と知っていた(気づけた)か
  • 慰謝料額に直結する事情(期間、悪質性、夫婦関係への影響など)があるか

裁判では「1つの証拠で100%」を求めるというより、証拠同士の整合性や自然さを積み上げて判断されることが多いです。逆にいえば、説明が合理的で証拠が薄いと、請求が全部通らない(または大きく減る)こともあります。

不貞行為の有無を裁判で争う具体的な考え方は、次の記事で詳しく解説しています。

不貞行為の有無を裁判で争う方法について解説

まとめ|境界線で迷ったら、まず整理すべきこと

不貞行為に当たるかどうかは、言葉の印象ではなく「性的関係と推認できるか」「それを裏づける証拠があるか」で決まります。迷ったときは、次の順で整理すると判断が早くなります。

  • 行為の内容が「性的関係」と評価されるタイプかを切り分ける
  • 単発の疑いではなく、状況証拠の積み上げで見通しを立てる
  • 否認される前提で、証拠・説明の弱点を先に確認する
  • 交渉で回収するか、争点を絞って法的手続きへ進むか決める
  • 不利な行動(違法な証拠収集、無視・放置)を避ける

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