内縁や事実婚の相手に不倫・浮気をされた場合、「入籍していないから慰謝料は請求できないのではないか」と不安になる方は少なくありません。
結論からいえば、内縁・事実婚でも、法律婚に準じて保護される関係といえる場合には、不倫慰謝料を請求できる可能性があります。もっとも、法律婚と異なり、まずは「夫婦同然の共同生活があったこと」を示す必要があります。
また、不倫相手に慰謝料を請求する場合は、不倫相手が内縁・事実婚の関係を知っていたか、少なくとも知り得たかが大きな争点になります。この記事では、内縁・事実婚と同棲の違い、内縁関係を証明するための資料、不倫相手に請求する場合の注意点、請求された側の反論まで整理します。
- 内縁・事実婚でも、夫婦同然の共同生活があれば不倫慰謝料を請求できる可能性があります。
- 単なる恋人関係や同棲だけでは、原則として不倫慰謝料は認められにくいです。
- 内縁関係の判断では、婚姻意思、同居の継続、家計、親族・友人への紹介などを総合して見ます。
- 不倫相手に請求する場合は、内縁関係を知っていたか、知り得たかが重要です。
- 請求された側は、内縁の有無、破綻、認識、請求額の妥当性を分けて確認する必要があります。
坂尾陽弁護士
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

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内縁・事実婚でも不倫慰謝料は請求できる?
内縁・事実婚の相手が不倫した場合でも、一定の条件を満たせば慰謝料請求が問題になります。ポイントは、法律上の婚姻届がないことだけで結論が決まるわけではない、という点です。
内縁・事実婚は、法律婚そのものではありません。しかし、夫婦として共同生活を営む実態があり、社会的にも夫婦に準じる関係といえる場合には、法律上保護される利益があると考えられています。そのため、内縁の相手が不貞行為をしたり、第三者の関与によって内縁関係が破綻したりした場合には、不法行為に基づく慰謝料請求が問題になります。
内縁・事実婚でも法律上保護される場合がある
最高裁昭和33年4月11日判決は、内縁について、婚姻届を欠くため法律上の婚姻ではないものの、男女が協力して夫婦として生活する結合であり、婚姻に準ずる関係として保護され得ることを示しました。
この考え方からすれば、内縁・事実婚の関係も、単なる交際関係とは異なります。夫婦としての共同生活があり、一方が正当な理由なく関係を壊した場合には、相手に精神的損害が生じたとして慰謝料請求が認められる余地があります。
不倫慰謝料の場面でも同じです。内縁の相手が他の人と肉体関係を持ち、それによって内縁関係が傷ついたり破綻したりした場合には、内縁の相手本人に対する慰謝料請求が問題になります。また、不倫相手が内縁関係に不当に干渉したといえる場合には、不倫相手に対する慰謝料請求も検討できます。
内縁・事実婚の不倫慰謝料では、「入籍していないから無理」とすぐに決まるわけではありません。一方で、「同居していたから必ず請求できる」ともいえません。夫婦同然の共同生活があったかを、証拠に基づいて確認する必要があります。
単なる恋人・同棲では原則として難しい
もっとも、交際していた、長く付き合っていた、一緒に住んでいた、という事情だけで慰謝料請求が認められるわけではありません。法律上、不倫慰謝料の前提になるのは、保護されるべき夫婦関係や、それに準じる関係が侵害されたという考え方です。
そのため、単なる恋人関係で相手に浮気をされた場合や、生活上の便宜から同棲していただけの場合には、原則として不倫慰謝料は認められにくいと考えられます。恋愛関係では、相手に強い不誠実さがあったとしても、それだけで法律上の慰謝料請求につながるとは限りません。
ただし、本人たちが「同棲」と呼んでいたとしても、実態として夫婦同然の共同生活があり、周囲からも夫婦として扱われていた場合には、内縁・事実婚と評価される可能性があります。つまり、名称ではなく実態が重要です。
たとえば、同じ住居で長期間生活していたことに加えて、生活費を分担していた、互いの親族に配偶者同然に紹介していた、将来の生活を夫婦として考えていた、賃貸借契約や公的手続でパートナーとして扱われていた、といった事情がある場合には、単なる同棲とは異なる評価を受ける余地があります。
不倫慰謝料の一般条件も必要になる
内縁・事実婚で慰謝料請求を考える場合でも、不倫慰謝料の一般的な条件を無視することはできません。内縁関係があることは重要ですが、それだけで慰謝料が当然に認められるわけではありません。
一般に、不倫慰謝料を請求するには、次のような点が問題になります。
- 肉体関係を伴う不貞行為があったか
- 内縁・事実婚の関係が法律上保護される程度にあったか
- 不貞行為の時点で内縁関係がすでに破綻していなかったか
- 不倫相手に故意または過失があるか
- 慰謝料額を基礎づける精神的損害があるか
- 時効にかかっていないか
このうち、内縁・事実婚のケースで特に争われやすいのは、内縁関係の成立と不倫相手の故意・過失です。法律婚では戸籍上の配偶者関係が明確ですが、内縁・事実婚では外部から見て関係性が分かりにくいためです。
不倫慰謝料の一般的な条件については、不倫慰謝料が認められる条件で詳しく解説しています。本記事では、内縁・事実婚に特有の問題を中心に説明します。
本記事の中心は「内縁の証明」と「不倫相手の認識」
内縁の不倫慰謝料では、争点を分けて考えることが大切です。まず、請求する側と内縁の相手との間に、法律上保護される内縁・事実婚の関係があったかを確認します。次に、不貞行為があったか、その不貞行為によって内縁関係が傷ついたかを検討します。
さらに、不倫相手に請求する場合には、別の問題として、不倫相手がその内縁関係を知っていたか、または注意すれば知ることができたかを確認します。
- 内縁関係の成立:請求する側と内縁の相手が、夫婦同然の共同生活をしていたか。
- 不貞行為の有無:内縁の相手と第三者との間に、不倫慰謝料の対象となる関係があったか。
- 不倫相手の認識:不倫相手が、内縁・事実婚の関係を知っていたか、または知り得たか。
この3つは、似ているようで別の問題です。内縁関係が認められても、不倫相手が内縁関係を知らず、知らなかったことに過失もないと判断されれば、不倫相手への慰謝料請求は認められないことがあります。
そのため、請求する側は「内縁だったことの証拠」と「不倫相手が内縁関係を知っていたことの証拠」を分けて集める必要があります。反対に、請求された側は「そもそも内縁ではなかった」「不倫相手は内縁関係を知らなかった」「すでに関係が破綻していた」など、どの部分を争うのかを整理する必要があります。
内縁・事実婚・同棲・恋人関係の違い
内縁の不倫慰謝料を考えるうえで、まず整理すべきなのが、内縁・事実婚・同棲・恋人関係の違いです。ここを曖昧にしたまま慰謝料請求を進めると、相手から「ただの同棲だった」「結婚していないのだから慰謝料は発生しない」と反論されやすくなります。
反対に、請求された側にとっても、相手が「内縁だった」と主張しているからといって、すぐに支払義務が決まるわけではありません。実際に夫婦同然の関係だったのか、生活実態を具体的に確認する必要があります。
内縁と事実婚は基本的に同じ言葉で扱う
「内縁」と「事実婚」は、厳密な使われ方に違いがある場合もありますが、不倫慰謝料との関連では、基本的に同じ方向の言葉として扱ってよいでしょう。いずれも、婚姻届を出していないものの、夫婦として共同生活をしている関係を指す場面で使われます。
最近は「事実婚」という言葉の方が日常的に使われることも多く、夫婦別姓を選びたい、戸籍上の婚姻にこだわらない、という理由で婚姻届を出さずに夫婦として生活するケースもあります。一方、「内縁」は、法律上の問題として、婚姻届を出していない夫婦同然の関係を説明するときによく使われます。
どちらの言葉を使う場合でも、不倫慰謝料の場面で重要なのは、呼び方ではありません。実際に夫婦として共同生活をしていたか、互いに夫婦として生活する意思があったか、周囲からも夫婦に準じる関係として扱われていたかが問題になります。
したがって、記事内では「内縁・事実婚」と併記しますが、慰謝料請求の判断では、最終的に生活実態と証拠を見て判断することになります。
同棲との違いは「婚姻意思」と「夫婦共同生活の実態」
同棲は、同じ住居で生活している状態を指す広い言葉です。恋人同士が生活費を節約するために一緒に住む場合もあれば、将来の結婚を見据えて共同生活を始める場合もあります。
これに対し、内縁・事実婚といえるためには、単なる同居を超えて、夫婦として生活する意思と、夫婦共同生活の実態が必要です。裁判でも、同居期間だけでなく、生活全体を見て総合的に判断されます。
内縁・事実婚に近い事情としては、たとえば次のようなものがあります。
- 長期間にわたって同居している
- 生活費や家賃、光熱費を分担している
- 互いを夫・妻・パートナーとして親族や友人に紹介している
- 冠婚葬祭や家族行事に夫婦同然に参加している
- 住民票、賃貸借契約、保険、緊急連絡先などで同居の実態が分かる
- 将来の生活、子ども、住宅、介護などを夫婦として話し合っている
ただし、これらの事情が一つあれば必ず内縁になるわけではありません。たとえば、長期間同居していても、家計が完全に別で、親族や友人にも恋人としてしか紹介しておらず、結婚や共同生活の意思もない場合には、単なる同棲と評価される可能性があります。
逆に、住民票上の続柄が「妻(未届)」になっていない、家計を完全に一つにしていない、といった事情があっても、それだけで内縁が否定されるとは限りません。内縁関係の有無は、特定の書類だけで機械的に決まるのではなく、婚姻意思と共同生活の実態を総合して判断します。
長期間の交際・同居だけで内縁になるとは限らない
「何年同居すれば内縁になりますか」「内縁関係は10年同居していれば認められますか」という相談もよくあります。しかし、内縁関係について、何年以上同居すれば必ず認められる、という固定の年数はありません。
長期間の同居は、内縁関係を基礎づける重要な事情です。長く一緒に暮らしていれば、生活の一体性や周囲からの認識も積み重なりやすく、夫婦同然の関係だったと説明しやすくなるからです。
しかし、長期間交際していても、次のような事情がある場合には、内縁関係の成立が争われやすくなります。
- 家計が完全に別だった:家賃や生活費を完全に分け、互いの生活に経済的な協力関係が乏しい場合。
- 対外的に夫婦として扱われていなかった:親族、友人、職場に対して恋人や同居人としてしか説明していなかった場合。
- 将来の共同生活の意思が弱かった:結婚、子ども、住宅、介護などを夫婦として考えていた事情が乏しい場合。
- 別れ話や別居が繰り返されていた:共同生活が安定せず、夫婦として継続する意思が疑われる場合。
一方で、同居期間が比較的短いからといって、直ちに内縁が否定されるわけでもありません。双方が夫婦として生活する意思を明確に持ち、親族への紹介、生活費の分担、公的手続上の扱いなどがそろっていれば、内縁関係が問題になることもあります。
要するに、内縁・事実婚と単なる同棲の境界は、期間だけでは決まりません。不倫慰謝料を請求する側は、同居期間だけでなく、夫婦として生活していたことを示す資料を集める必要があります。請求された側は、相手の主張する内縁関係が、実際には単なる恋人関係や同棲にとどまるのではないかを具体的な事情から確認することが重要です。
内縁関係が認められる判断要素
内縁・事実婚の不倫慰謝料では、まず「本当に内縁関係といえるのか」が問題になります。入籍していない関係では、戸籍だけで夫婦関係を示すことができないため、生活実態を積み上げて説明する必要があります。
裁判所は、ひとつの事情だけで内縁関係を判断するわけではありません。婚姻意思、共同生活の継続性、家計の一体性、親族・友人への紹介、公的手続や契約書上の扱いなどを総合して、夫婦同然の関係だったかを見ます。
そのため、不倫された側が慰謝料請求をする場合は、「長く一緒に住んでいた」という説明だけで終わらせず、夫婦として生活していたことを具体的に示す資料を整理することが重要です。反対に、請求された側は、相手が挙げる事情が本当に内縁を基礎づけるものなのかを一つずつ確認する必要があります。
婚姻意思
内縁関係が認められるためには、単に交際している、同じ家に住んでいる、生活費を一部負担しているというだけでは足りません。重要なのは、双方に夫婦として共同生活を営む意思があったかという点です。
ここでいう婚姻意思は、必ずしも「すぐに婚姻届を出す意思」だけを意味するわけではありません。婚姻届は出していないものの、互いを夫・妻・パートナーとして扱い、社会的にも夫婦に準じる関係として生活していたかが問題になります。
たとえば、将来の生活設計を夫婦として話し合っていた、互いの親族に配偶者同然に紹介していた、病気や介護、住宅、子ども、生活費などを二人の問題として考えていた、といった事情は、婚姻意思をうかがわせる材料になります。
一方で、同居していても、どちらかが一貫して「結婚するつもりはない」「単なる恋人である」と説明していた場合や、周囲にも同居人・恋人としてしか紹介していなかった場合には、婚姻意思が争われやすくなります。
本人たちが「事実婚」「内縁」「パートナー」と呼んでいたかは参考事情になりますが、それだけで結論が決まるわけではありません。反対に「同棲」と呼んでいた場合でも、実態として夫婦共同生活があれば内縁関係が問題になることがあります。
共同生活の継続性
内縁関係では、夫婦としての共同生活が継続していたかも重要です。共同生活の継続性を見るときは、同居期間の長さだけでなく、同居の開始経緯、途中の別居の有無、別居が一時的なものだったか、生活の拠点を共にしていたかなどを確認します。
東京地裁平成15年8月27日判決では、交際開始後まもなく半同棲状態となり、その後、約8年にわたり同居が継続していた事情が、内縁関係を認める方向の重要な事情として扱われました。途中で短い別居期間があっても、その後やり直して同居を再開していたことなども踏まえ、夫婦としての共同生活が認められています。
もっとも、長期間の同居があれば必ず内縁になるわけではありません。共同生活が続いていたとしても、生活の実態が単なるルームシェアや便宜的な同居に近い場合、夫婦としての協力関係が乏しい場合、将来の共同生活を前提にしていない場合には、内縁性が争われます。
また、不倫慰謝料では、内縁関係がいつ成立し、いつまで続いていたかも重要です。不貞行為の時点で内縁関係が成立していなかった、またはすでに破綻していたと判断されると、慰謝料請求が認められない、または減額される可能性があります。
生計・家計の一体性
生計や家計の一体性も、内縁関係を判断する重要な事情です。法律婚の夫婦でも家計管理の方法はさまざまですが、内縁・事実婚の場合は、二人が生活を支え合っていたことを示す資料が特に重要になります。
家計の一体性を示す事情としては、次のようなものがあります。
- 家賃や住宅ローンを二人で負担していた
- 光熱費、食費、日用品費を分担していた
- 生活費を定期的に送金していた
- 共同口座や家族カードを使っていた
- 家具・家電・車などを共同生活のために購入していた
- 病気や失業時に生活費を支え合っていた
ただし、家計が完全に一つでなければ内縁が否定される、というわけではありません。東京地裁平成15年8月27日判決でも、双方がそれぞれの収入をそれぞれ管理していたことや、一方が生活費の大半を負担していたことが指摘されていますが、それだけで内縁関係は否定されませんでした。
大切なのは、形式的に財布が一つだったかではなく、夫婦として協力し、扶助し合う生活関係があったかです。たとえば、収入の多い側が家賃や光熱費を負担し、もう一方が食費や日用品費、家事、看病などを担っていた場合にも、生活を支え合っていた事情として評価される余地があります。
親族・友人・職場などへの対外的表示
内縁関係は、二人だけの内心ではなく、周囲から夫婦同然の関係として見られていたかも重要です。親族、友人、職場、近隣などに対し、互いをどのように紹介していたかは、内縁関係の有無を判断する材料になります。
対外的表示としては、たとえば次のような事情が考えられます。
- 親族に夫・妻・パートナーとして紹介していた
- 冠婚葬祭や法事に夫婦同然に参加していた
- 友人の集まりや結婚式に二人で参加していた
- 職場で配偶者・パートナーとして説明していた
- 年賀状、招待状、SNSなどで夫婦同然に扱われていた
- 緊急連絡先や保証人として互いを記載していた
東京地裁平成15年8月27日判決では、同居中に互いの親族・友人と交流していたこと、父親の葬儀に内縁の相手が関与していたこと、友人の結婚披露パーティーや通夜などに一緒に出席していたことなどが認定されています。裁判所は、こうした事情も踏まえて、周囲から夫婦またはそれに準ずる関係と評価されていたと判断しました。
対外的表示は、不倫相手への請求でも重要になります。不倫相手が二人の生活実態をどの程度知っていたか、周囲から夫婦同然と分かる状況だったかは、不倫相手の故意・過失を判断する資料にもなり得るからです。
住民票・契約書・公的手続上の扱い
住民票、賃貸借契約書、保険、勤務先の届出などの書面は、内縁関係を説明するうえで分かりやすい資料になります。特に、第三者が作成した書類や公的手続に関する資料は、後から作った説明よりも客観性が高い資料として扱いやすいです。
具体的には、次のような資料が考えられます。
- 同一住所で生活していたことが分かる住民票
- 続柄欄に「妻(未届)」「夫(未届)」などの記載がある資料
- 賃貸借契約書や入居申込書で婚約者・配偶者同然と記載された資料
- 生命保険や医療保険の受取人・緊急連絡先に関する資料
- 勤務先への届出、扶養関係、福利厚生に関する資料
- 病院、施設、学校などで家族として扱われた資料
もっとも、住民票の続柄が「妻(未届)」になっていないからといって、直ちに内縁関係が否定されるわけではありません。東京地裁平成15年8月27日判決でも、住民票上同一世帯として届け出ていなかった点が主張されましたが、裁判所は、それだけで内縁関係の存否を決めるほど重要な要素とはいえないと判断しています。
他方で、書類がある場合には、内縁関係を説明しやすくなります。東京地裁平成15年8月27日判決では、転居時に不動産会社へ提出した書類に相手を「婚約者」と記載していた事情も認定されています。このような契約書上の記載は、二人が単なる同居人ではなく、将来の共同生活を前提にしていたことを示す一つの資料になります。
裁判例は総合判断で見ている
内縁関係の判断では、同居期間、家計、親族交流、契約書上の記載などを一つずつ確認したうえで、全体として夫婦同然の共同生活といえるかを見ます。どれか一つの資料だけで、必ず内縁関係が認められるわけではありません。
東京地裁平成15年8月27日判決では、約8年の同居、親族・友人との交流、生活費の負担、賃貸契約時の「婚約者」記載などを総合して、内縁関係が認められました。その一方で、不倫相手については、内縁関係を知っていた、または知り得たとはいえないとして、責任が否定されています。
また、東京地裁平成24年6月22日判決でも、約8年の同居や誓約書などから、内縁関係の成立が認められました。もっとも、不倫相手については、長年同居していることを知っていたとしても、単なる同居人程度と認識していた事情などから、故意・過失が否定されています。
これらの裁判例から分かるのは、内縁関係の成立と、不倫相手の責任は別の問題だということです。請求する側は、まず内縁関係を証明し、そのうえで不倫相手が内縁関係を知っていた、または知り得た事情を示す必要があります。請求された側は、内縁関係そのものを争うのか、不倫相手の故意・過失を争うのかを分けて検討することが重要です。
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内縁関係を証明する資料と時系列整理
内縁・事実婚の不倫慰謝料では、証拠の整理が非常に重要です。法律婚であれば戸籍で配偶者関係を示せますが、内縁関係では、夫婦同然の共同生活があったことを複数の資料で説明する必要があります。
証拠を集めるときは、「とにかく多く集める」だけでは不十分です。その資料が何を証明するためのものなのかを意識して、同居、家計、対外的表示、将来設計、不倫発覚までの時系列に分けて整理すると、請求や反論の見通しを立てやすくなります。
同居を示す資料
まず確認すべきなのは、二人が同じ生活拠点で暮らしていたことを示す資料です。同居は内縁関係の重要な事情ですが、単に「一緒に住んでいた」と説明するだけでは、いつから、どこで、どの程度継続していたのかが分かりません。
同居を示す資料としては、次のようなものが考えられます。
- 住民票、転居届、同一住所の公的書類
- 賃貸借契約書、入居申込書、更新書類
- 同一住所に届いた郵便物や宅配記録
- 電気、ガス、水道、インターネットなどの契約資料
- 引越し業者の見積書、領収書、転居時の写真
- 同居先で撮影した日常生活の写真や動画
同居資料を整理するときは、同居開始日、転居の回数、別居期間の有無も確認します。短期間の別居があった場合でも、それが一時的なものだったのか、関係解消に向けた別居だったのかで評価が変わります。
家計の一体性を示す資料
次に、二人が生活を支え合っていたことを示す資料を整理します。内縁関係では、夫婦として協力し扶助し合う関係があったかが重要になるため、家計や生活費に関する資料は大切です。
家計の一体性を示す資料としては、次のようなものがあります。
- 生活費の送金履歴、振込明細、通帳
- 家賃、光熱費、食費、日用品費の支払記録
- 共同口座、家族カード、クレジットカード明細
- 家具、家電、車、住宅関連費用の領収書
- 保険料、医療費、介護費用などの負担記録
- 失業、病気、転職時に生活を支えたやり取り
家計資料は、請求する側にとっては「生活が一体だった」ことを示す資料になります。請求された側にとっては、家計が完全に別だった、互いに生活を支え合う関係ではなかった、生活費は単なる同居費用の精算だった、という反論の材料になることもあります。
そのため、支払記録だけでなく、その支払いが何のためのものだったのかを説明できるようにしておくことが重要です。たとえば、単発の立替えなのか、継続的な生活費負担なのか、夫婦としての共同生活のための支出なのかを分けて整理します。
対外的に夫婦として扱われていた資料
内縁関係の証明では、周囲から夫婦同然に扱われていたことを示す資料も重要です。二人の間では夫婦のつもりだったと主張しても、外部から見ると単なる恋人や同居人に見えていた場合には、内縁性が争われやすくなります。
対外的表示を示す資料としては、次のようなものがあります。
- 親族や友人との写真、メッセージ、招待状
- 冠婚葬祭、法事、家族行事に参加した記録
- 年賀状、暑中見舞い、結婚式やイベントの案内
- SNSで夫婦・パートナーとして扱われていた投稿
- 職場への届出、緊急連絡先、福利厚生関係の資料
- 病院や施設で家族として対応した記録
これらの資料は、内縁関係の成立だけでなく、不倫相手の認識を考えるうえでも意味を持つことがあります。たとえば、不倫相手が同じ職場や友人関係にいて、二人が夫婦同然に扱われていたことを知り得る立場にあった場合には、不倫相手の故意・過失を検討する材料になります。
将来設計・親族交流を示す資料
内縁・事実婚では、将来を二人で考えていたか、親族との関係にどの程度入っていたかも重要です。単なる同棲ではなく、夫婦として長期的に生活していく意思があったことを示す資料を整理します。
将来設計や親族交流を示す資料としては、次のようなものがあります。
- 結婚、事実婚、パートナー関係に関するメッセージ
- 両親や兄弟姉妹への紹介、食事、宿泊、旅行の記録
- 子ども、不妊治療、出産、養育に関する話し合い
- 住宅購入、転居、転職、介護などの生活設計資料
- 指輪、誓約書、パートナー契約書などの書面
- 病気や事故の際に家族として対応した記録
東京地裁平成24年6月22日判決では、「婚約誓約書」と題する書面があり、互いをパートナーとして尊重すること、浮気や裏切りをしないこと、共同生活に関して協力することなどが記載されていました。裁判所は、婚約そのものの成立は否定したものの、この誓約書を含む事情を踏まえ、遅くとも誓約書作成時点では内縁関係が生じていたと判断しています。
このように、誓約書やメッセージは、それだけで結論を決めるものではありませんが、二人がどのような関係として共同生活を続けていたかを示す重要な資料になります。
時系列表で整理すべき事項
内縁関係の証明では、資料をバラバラに提出するよりも、時系列で整理することが重要です。いつ交際が始まり、いつ同居し、どの時点で夫婦同然の関係になり、いつ不倫が発覚したのかが分かると、争点を把握しやすくなります。
時系列で整理すべき事項は、次のとおりです。
- 交際開始日
- 同居開始日
- 転居、同居再開、別居の時期
- 家計を一体化した時期
- 親族や友人に夫婦同然に紹介した時期
- 誓約書、契約書、住民票などの資料が作成された時期
- 不倫相手との関係が始まった時期
- 不倫発覚日
- 内縁関係が破綻したと主張される時期
- 慰謝料請求や話し合いを始めた時期
請求する側は、不貞行為の時点で内縁関係が成立しており、まだ破綻していなかったことを説明できるようにします。不倫相手に請求する場合は、不倫相手が内縁関係を知った時期や、知り得た事情も時系列に入れておくとよいでしょう。
請求された側も、時系列整理は重要です。たとえば、不貞行為の前から別居していた、夫婦としての協力関係が失われていた、相手から「別れた」「単なる同居人だ」と説明されていた、という事情がある場合には、時期を具体的に整理することで反論の方向性が見えやすくなります。
不利に見えるメッセージや写真でも、前後の文脈を含めると重要な資料になることがあります。感情的に削除したり、相手と口裏合わせをしたりすると、後の交渉や裁判で不利に扱われる可能性があります。
内縁関係の証明は、同居期間だけを示せば足りるものではありません。資料ごとに「何を証明するためのものか」を意識し、内縁関係の成立、破綻の有無、不倫相手の認識を分けて整理することが、内縁の不倫慰謝料を検討するうえでの出発点になります。
不倫相手に請求する場合は「内縁関係を知っていたか」が問題になる
内縁・事実婚の不倫慰謝料で特に注意が必要なのは、内縁関係が認められることと、不倫相手に慰謝料責任が認められることは別問題だという点です。
内縁の相手本人に対しては、夫婦同然の共同生活をしていた相手が不貞行為をしたこと自体が問題になります。これに対し、不倫相手に請求する場合は、「その人が内縁関係を知っていたか」「少なくとも注意すれば知り得たか」という故意・過失が別に問題になります。
最高裁昭和38年2月1日判決は、内縁の当事者でない第三者であっても、内縁関係に不当に干渉して破綻させた場合には損害賠償責任を負い得るという考え方を示しています。もっとも、これは「第三者責任が理論上あり得る」という意味であり、どの事案でも不倫相手に当然責任があるという意味ではありません。
そのため、不倫相手への請求では、内縁関係そのものを示す資料に加えて、不倫相手の認識を示す資料も整理する必要があります。
法律婚より故意・過失が争われやすい理由
法律婚の場合、配偶者関係は戸籍で確認できます。もちろん、法律婚でも「既婚者だと知らなかった」という反論が問題になることはありますが、婚姻関係の存在自体は公的な届出によって明確です。
これに対し、内縁・事実婚は婚姻届を出していません。外部から見ると、夫婦同然のパートナーなのか、長く同棲している恋人なのか、単なる同居人なのかが分かりにくい場合があります。
そのため、不倫相手からは、次のような反論が出やすくなります。
- 同居しているとは知らなかった
- 同居は知っていたが、恋人関係だと思っていた
- 単なる同居人・ルームメイトだと説明されていた
- すでに別れた、または関係は破綻していると聞いていた
- 内縁の妻・内縁の夫といえる事情までは分からなかった
請求する側は、これらの反論を想定したうえで、不倫相手がどの時点で、どのような事情を知っていたのかを整理します。請求された側は、相手方が主張する「知っていたはず」という事情が、内縁関係を認識できる程度のものだったのかを確認します。
「内縁関係がある」と「不倫相手が内縁関係を知っていた」は、別々に検討されます。内縁関係が認められても、不倫相手の故意・過失が否定されることがあります。
不倫相手が内縁関係を知っていたことを示す資料
不倫相手に慰謝料を請求する場合は、不倫相手が内縁関係を知っていた、または知り得たといえる事情を整理します。単に「同居していることを知っていた」だけでは足りるか争いになるため、夫婦同然の関係だと分かる事情を具体化することが重要です。
たとえば、次のような資料や事情が問題になります。
- 内縁関係を直接伝えた記録:不倫相手に対し、「内縁の妻です」「事実婚の夫です」「夫婦同然の関係です」と伝えたメッセージ、録音、話し合いの記録など。
- 不倫相手が同居先を知っていた事情:不倫相手が同居先に来た、同居先へ荷物や郵便を送った、同居先で会った、生活実態を見ていたなど。
- 内縁相手から説明されていた事情:内縁の相手本人が、不倫相手に対して「妻」「夫」「パートナー」「家族」などと説明していた記録。
- 共通の友人・職場関係から分かる事情:周囲が夫婦同然の関係として扱っており、不倫相手もそのコミュニティに属していた事情。
- 三者間の話し合いの記録:不倫発覚後に、内縁関係の存在を前提に話し合った録音、メッセージ、謝罪文など。
これらの資料は、不倫相手が「知らなかった」と主張した場合に重要になります。特に、請求前後のやり取りは感情的になりやすいため、相手を威圧する連絡をするのではなく、事実関係を記録に残す意識が大切です。
なお、証拠を集める際に、無断で相手のスマートフォンを操作する、違法な位置情報取得をする、職場や家族に過度な連絡をするなどの方法は、別のトラブルにつながるおそれがあります。証拠収集は、適法で説明可能な方法にとどめる必要があります。
「単なる同居人だと思った」と反論される場合
内縁・事実婚では、不倫相手から「一緒に住んでいるとは聞いていたが、単なる同居人だと思っていた」「恋人関係は終わっていると聞いていた」と反論されることがあります。
この点について、東京地裁平成15年8月27日判決は、約8年の同居などから内縁関係を認め、内縁の相手本人には慰謝料150万円を認めました。他方で、不倫相手については、内縁関係を知っていた、または知り得たとはいえないとして、慰謝料責任を否定しました。
東京地裁平成24年6月22日判決も、約8年の同居と誓約書などから内縁関係の成立を認めました。しかし、不倫相手は、長年同居していることを知っていたものの、相手本人から単なる同居人のように説明されていた事情などを踏まえ、故意・過失が否定されています。
これらの裁判例から分かるのは、長期間の同居を知っていたことだけで、直ちに不倫相手の責任が認められるとは限らないということです。同居の事実に加えて、夫婦同然の関係だと分かる事情があったかが問題になります。
法律婚のケースとは前提が異なりますが、故意・過失の考え方を確認するうえでは、既婚者と知らなかった場合の故意・過失の考え方も参考になります。
内縁の存在を知っていた不倫相手に責任が認められた例
一方で、不倫相手が内縁関係を知っていた場合には、慰謝料責任が認められることがあります。
東京地裁平成22年2月25日判決では、内縁関係にあった相手と不倫関係になった不倫相手について、内妻の存在を知っていたことなどを踏まえ、不法行為責任が認められました。この事案では、慰謝料150万円と弁護士費用15万円が認められています。
この判決では、不倫相手が内縁関係の存在を知っていたこと、不倫関係が内縁関係の破綻に影響したこと、内縁関係が完全に破綻していたとは断定できないことなどが重要な事情として扱われています。
したがって、請求する側は、不倫相手が内縁関係の存在を知っていたことだけでなく、不倫関係が内縁関係を傷つけた、または破綻に影響したことも整理する必要があります。請求された側は、交際開始時点ですでに内縁関係が破綻していたか、相手本人からどのような説明を受けていたか、内縁関係を確認できる事情があったかを確認します。
裁判例から分かる実務上のポイント
内縁の不倫慰謝料では、裁判例を見ても、次の三つを分けて検討することが重要です。
- 内縁関係が成立していたか
- 不倫相手が内縁関係を知っていたか、知り得たか
- 不倫関係が内縁関係の破綻や精神的苦痛に影響したか
請求する側は、この三つを一つの主張としてまとめるのではなく、証拠ごとに分けて整理します。たとえば、同居や家計の資料は内縁関係の成立を示す資料であり、不倫相手とのメッセージや話し合いの録音は、不倫相手の認識を示す資料です。
請求された側は、内縁関係そのものを争えるのか、内縁関係はあっても知らなかったといえるのか、関係はすでに破綻していたのか、請求額が過大ではないかを分けて検討します。内縁関係があるかどうかだけに反論を集中すると、故意・過失や金額の反論を見落とすことがあります。
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内縁相手・不倫相手に慰謝料請求できるケース
内縁・事実婚の不倫慰謝料では、「誰に請求するか」によって、主張すべき内容が変わります。内縁の相手本人に請求する場合、不倫相手に請求する場合、両方に請求する場合で、それぞれ確認すべき点があります。
請求する側は、感情的に「両方に責任を取ってほしい」と考えやすい場面です。しかし、証拠の強さ、相手方の資力、交渉の進め方、求償関係などを考えると、誰にどのような請求をするかは慎重に整理する必要があります。
内縁相手本人への請求
内縁の相手本人が不貞行為をした場合、法律上保護される内縁関係があれば、慰謝料請求が問題になります。最高裁昭和33年4月11日判決は、内縁が法律上保護される生活関係であり、不当に破棄された場合には不法行為に基づく損害賠償を求め得るという考え方を示しています。
内縁相手本人への請求では、主に次の点を確認します。
- 内縁関係が成立していたか
- 不貞行為があったか
- 不貞行為によって精神的苦痛を受けたか
- 内縁関係が破綻していたか
- 慰謝料額を左右する事情があるか
東京地裁平成15年8月27日判決では、内縁関係にあった相手本人が別の女性と性交渉を持ったことについて、内縁の相手本人に慰謝料150万円の支払が命じられました。このように、内縁の相手本人に対する請求では、内縁関係が法律上保護される程度にあるかが出発点になります。
不倫相手への請求
不倫相手に請求する場合は、内縁関係の成立に加えて、不倫相手の故意・過失が問題になります。つまり、不倫相手が「内縁関係を知っていた」または「注意すれば知り得た」といえる事情が必要です。
不倫相手が内縁関係を知っていた場合や、夫婦同然の関係であることを容易に確認できる事情があった場合には、慰謝料責任が認められる可能性があります。反対に、内縁相手本人から「同居人にすぎない」「すでに別れている」と説明されており、その説明を信じてもやむを得ない事情がある場合には、責任が否定されることがあります。
そのため、不倫相手への請求では、性交渉の証拠だけでなく、不倫相手が内縁関係をどう認識していたかを示す資料が重要になります。
両方に請求する場合の注意点
内縁相手本人と不倫相手の両方に慰謝料請求することもあります。ただし、同じ精神的損害について二重に全額を受け取れるわけではありません。どちらか一方から支払を受けた場合、その金額は全体の損害額との関係で調整されます。
また、内縁相手本人と不倫相手では、争点が異なります。内縁相手本人には不貞行為や関係破綻の責任が問題になり、不倫相手には故意・過失が特に問題になります。両方に請求する場合は、相手ごとに主張と証拠を整理する必要があります。
請求相手の選び方や、配偶者・不倫相手・両方に請求する場合の考え方については、不倫慰謝料の請求相手で詳しく解説しています。
請求・交渉の流れは一般の不倫慰謝料と共通する
内縁・事実婚の不倫慰謝料でも、請求の流れ自体は一般的な不倫慰謝料と大きく変わりません。証拠を整理し、請求内容を検討し、相手方に通知し、交渉で解決できなければ訴訟を検討するという流れになります。
ただし、内縁の場合は、通知書の段階から「内縁関係があったこと」を具体的に説明する必要があります。単に「不倫したから慰謝料を支払ってください」と記載するだけでは、相手方から「法律婚ではない」「ただの同棲ではないか」と反論されやすいからです。
請求を受けた側も、通知書に書かれた事実を鵜呑みにせず、内縁関係の証拠、不倫相手の認識、破綻時期、請求額を分けて確認することが重要です。通知、交渉、示談、裁判という流れについては、不倫慰謝料の解決までの流れも参考になります。
内縁の不倫慰謝料の相場と内縁特有の増減要素
内縁・事実婚の不倫慰謝料は、法律婚の場合と同じく、事案ごとの事情によって金額が大きく変わります。内縁関係が長く安定していたか、不倫相手が内縁関係を知っていたか、不倫によって関係が破綻したかなどが影響します。
相場だけを見て判断すると、請求する側は過大請求になり、請求された側は必要以上に不安になることがあります。特に内縁の場合は、法律婚よりも「関係性の証明」と「相手の認識」が金額に影響しやすいため、金額だけでなく、増減要素を確認することが大切です。
相場は事案によって幅がある
内縁の不倫慰謝料について、裁判例では、50万円、150万円などの金額が認められた例があります。たとえば、東京地裁平成15年8月27日判決では、内縁の相手本人に慰謝料150万円が認められました。東京地裁平成24年6月22日判決では、内縁の相手本人に慰謝料50万円が認められています。
また、東京地裁平成22年2月25日判決では、内妻の存在を知っていた不倫相手に対し、慰謝料150万円と弁護士費用15万円が認められました。
これらを見ると、内縁の不倫慰謝料は、数十万円から200万円程度が一つの目安になることがあります。ただし、これはあくまで目安であり、長期間の内縁関係が不倫によって破綻した場合、不倫の態様が悪質な場合、当事者の精神的苦痛が大きい場合などには、事案に応じて評価が変わります。
反対に、内縁関係が希薄だった、すでに破綻に近い状態だった、不倫相手が内縁関係を知らなかった、または知り得なかったという事情がある場合には、慰謝料が低くなったり、不倫相手への請求が認められなかったりする可能性があります。
内縁特有の増減要素
内縁・事実婚の不倫慰謝料で特に重要なのは、法律婚一般の増減要素に加えて、内縁特有の事情です。具体的には、次のような事情が金額に影響し得ます。
- 内縁期間の長さ:長期間、安定した夫婦同然の共同生活が続いていた場合、精神的苦痛が大きいと評価されやすくなります。
- 共同生活の実態の強さ:同居、家計、親族交流、対外的表示が強いほど、法律上保護される生活関係として説明しやすくなります。
- 不倫による破綻への影響:不倫が内縁関係の破綻に大きく影響した場合は増額方向に働きます。すでに破綻していた場合は、責任の有無や金額が争われます。
- 不倫相手の認識:不倫相手が内縁関係を知っていた場合は責任が認められやすく、知らなかったことに過失がない場合は責任が否定される可能性があります。
- 不倫の態様・期間・悪質性:交際期間、肉体関係の回数、発覚後の対応、謝罪の有無、関係継続の有無なども金額に影響します。
請求する側は、これらの事情を証拠と結びつけて説明する必要があります。たとえば、「長く同居していた」だけでなく、生活費の分担、親族への紹介、周囲からの扱い、不倫相手の認識を具体的に示すことで、内縁関係の重要性や精神的苦痛を説明しやすくなります。
請求された側は、請求額が高い場合でも、感情的に反論するのではなく、どの増額事情が本当に証拠で裏づけられているかを確認します。内縁期間、関係の実態、破綻時期、不倫相手の認識を分けて見ることで、減額交渉の余地を検討しやすくなります。
相場一般は別記事で確認する
不倫慰謝料の金額は、離婚の有無、婚姻期間、子どもの有無、不倫期間、発覚後の対応、求償関係など、多くの事情で変わります。内縁・事実婚の記事で相場一般を詳しく広げすぎると、内縁特有の論点が見えにくくなります。
そのため、本記事では内縁特有の増減要素に絞って説明しています。一般的な慰謝料額の目安や増減要因については、不倫慰謝料の相場を確認してください。
内縁の不倫慰謝料では、金額を考える前に、まず「内縁関係が成立していたか」「不倫相手が内縁関係を知っていたか」「不倫が破綻にどの程度影響したか」を整理することが重要です。相場はその整理をした後に、事案に即して検討するものと考えるべきです。
請求された側が反論できるポイント
内縁・事実婚の不倫慰謝料を請求された場合、まず確認すべきなのは、請求額の大きさではなく、請求の根拠です。特に不倫相手として請求された場合は、法律婚の不倫慰謝料よりも、内縁関係の有無や認識が争点になりやすいといえます。
反論の方向性は、大きく分けると、内縁関係そのものを争うもの、内縁関係があったとしても保護される状態ではなかったと争うもの、不倫相手に故意・過失がないと争うもの、請求額が過大であると争うものに整理できます。
- 内縁関係が成立していない
- 単なる同棲・恋人関係だった
- 不倫開始時点で内縁関係がすでに破綻していた
- 内縁関係を知らず、知り得なかった
- 請求額が事案に比べて高すぎる
請求された直後は感情的に反論したくなることがありますが、内縁の不倫慰謝料では、事情を分けて整理することが重要です。以下では、典型的な反論ポイントを順番に見ていきます。
内縁関係が成立していない
請求された側がまず確認すべきなのは、請求者とその相手との間に、本当に内縁関係があったのかという点です。内縁・事実婚は、単なる交際や同棲よりも強い、夫婦同然の共同生活関係です。
そのため、同居していた、交際期間が長かった、周囲が交際相手として知っていたという事情だけでは、必ずしも内縁関係が成立するとはいえません。婚姻意思、共同生活の継続性、家計の一体性、親族や友人への夫婦としての紹介、公的書類や契約上の扱いなどを総合して判断します。
たとえば、家計が完全に別で、互いの親族との交流もなく、将来を夫婦として設計していた資料もない場合には、請求者側が「内縁」と主張していても、実際には恋人関係や同棲関係にとどまると反論できる余地があります。
もっとも、住民票の続柄や入籍予定の有無だけで結論が決まるわけではありません。裁判例でも、住民票上の届出や家計管理の形式だけではなく、夫婦として協力し扶助し合う関係があったかが重視されています。そのため、反論する側も、一つの事情だけに頼らず、生活実態全体を確認する必要があります。
単なる同棲・恋人関係だった
「結婚していない相手に浮気された」「同棲相手に浮気された」というケースでは、請求する側が内縁・事実婚だったと主張することがあります。しかし、同棲していたからといって、当然に不倫慰謝料が認められるわけではありません。
単なる同棲と内縁の違いは、生活の形が夫婦に近かったかどうかです。たとえば、ルームシェアに近い生活、家計が完全に別、将来の婚姻や夫婦としての生活を前提にしていない関係であれば、内縁関係と評価されにくくなります。
ただし、反対に、当事者が「同棲」と呼んでいても、実際には夫婦として生活していたと評価される場合があります。長期間の同居、親族への紹介、冠婚葬祭への参加、共同での住宅購入や賃貸契約、生活費の分担、周囲から夫婦として扱われていた事情がある場合には、単なる同棲との反論だけでは足りない可能性があります。
請求された側は、「同棲だった」と言うだけでなく、夫婦共同生活といえない事情を具体的に整理します。たとえば、別財布だったこと、親族に紹介されていなかったこと、婚姻や事実婚の合意がなかったこと、相手が別の交際関係を自由に持つ関係だったことなどが検討対象になります。
内縁関係はすでに破綻していた
仮に内縁関係が成立していたとしても、不倫関係が始まった時点でその内縁関係がすでに破綻していた場合には、慰謝料責任が否定されたり、金額が減額されたりする可能性があります。
もっとも、破綻の主張は簡単には認められません。喧嘩が多かった、別れ話が出ていた、しばらく性交渉がなかった、同居中に関係が冷めていたというだけでは、なお修復可能な関係だったと評価される場合があります。
破綻を主張する場合は、不倫関係の開始時期と、内縁関係が実質的に終わっていた時期を分けて整理する必要があります。別居開始日、生活費の分担終了、家計の分離、連絡頻度、修復の話し合いの有無、退去合意、荷物の搬出、周囲への説明などを時系列で確認します。
東京地裁平成22年2月25日判決では、不倫相手が内妻の存在を知っていた事案で、不倫関係となった時点で内縁関係が完全に破綻していたとは断定できないとして、不倫相手の責任が認められています。破綻の反論をするには、「関係が悪かった」という評価だけでなく、不倫開始前に夫婦同然の共同生活が実質的に失われていたことを示す必要があります。
内縁関係を知らなかった/知り得なかった
不倫相手として請求された場合に特に重要なのが、内縁関係を知らなかった、または知り得なかったという反論です。内縁・事実婚は戸籍上の婚姻関係ではないため、外部から見て「夫婦」なのか「同棲している恋人」なのかが分かりにくいことがあります。
東京地裁平成15年8月27日判決では、内縁関係自体は認められ、内縁の相手本人には慰謝料150万円が認められましたが、不倫相手については、内縁関係を知っていた、または知り得たとはいえないとして責任が否定されました。
また、東京地裁平成24年6月22日判決でも、約8年の同居や誓約書などから内縁関係は認められましたが、不倫相手については、単なる同居人程度と認識していた事情などから故意・過失が否定されています。
このように、内縁関係が成立していても、不倫相手に対する請求では、相手の認識が別に問題になります。不倫相手側では、次のような事情を確認します。
- 内縁関係を明確に伝えられていなかった:相手から「同居人」「元交際相手」「別れた相手」などと説明されていた場合は、その説明を信じた経緯が問題になります。
- 同居の事実を知らなかった:交際相手の生活状況や同居先を知らず、夫婦同然の関係を推測できる事情がなかった場合は、故意・過失を争う余地があります。
- 夫婦としての対外的表示を見ていなかった:親族交流、職場での紹介、SNS表示、共同生活の実態などを知らなかった場合は、どの時点で何を認識していたかを整理します。
- 別れていると説明されていた:交際相手から内縁関係が解消済みだと説明され、その説明を信じる事情があった場合は、過失の有無が問題になります。
ただし、単に「知らなかった」と言うだけでは足りません。長期間の同居を知っていた、相手が「妻」「夫」「パートナー」と呼ばれているのを見ていた、請求者から直接警告を受けていた、3人で話し合いをしたなどの事情がある場合には、故意・過失が認められる可能性があります。
法律婚のケースを前提にした解説ですが、故意・過失の考え方を確認したい場合は、既婚者と知らなかった場合の故意・過失の考え方も参考になります。
請求額が過大である
内縁の不倫慰謝料では、請求額が数百万円単位で提示されることもあります。しかし、請求額がそのまま認められるわけではありません。金額は、内縁関係の強さ、不倫の態様、破綻への影響、不倫相手の認識、当事者双方の事情を総合して判断されます。
特に請求された側では、請求額を争うために、次の点を分けて確認します。
- 内縁期間はどの程度か
- 夫婦同然の共同生活といえる証拠がどれほどあるか
- 不倫が破綻の主な原因といえるか
- 不倫相手が内縁関係をどの程度認識していたか
- 請求者側にも関係悪化の原因がないか
- 慰謝料以外の費目が不当に含まれていないか
裁判例でも、内縁関係が認められても、慰謝料額は50万円、150万円など、事案によって幅があります。請求額が高いと感じる場合は、「高すぎる」と感情的に反論するのではなく、どの事情が増額要素として主張されているのか、その事情が証拠で裏づけられているのかを確認することが重要です。
削除・口裏合わせ・感情的な連絡は避ける
請求された側が注意すべきなのは、証拠を消す、相手と口裏合わせをする、請求者に感情的な連絡をするなどの行動です。これらは、交渉や裁判で不利に評価されるおそれがあります。
特に内縁の不倫慰謝料では、メッセージ、通話履歴、写真、SNS、同居状況の資料などが、内縁関係の有無や認識を判断する材料になります。都合の悪い内容がある場合でも、削除や改ざんは避け、どのような経緯でやり取りされたのかを整理する方が安全です。
また、請求者や内縁の相手に対して、脅すような連絡、侮辱的な発言、職場や親族への連絡をすると、別のトラブルや追加請求につながる可能性があります。請求された場合は、まず通知書やメッセージの内容を保存し、時系列、証拠、反論ポイントを分けて整理しましょう。
重婚的内縁・長い不倫相手が内縁の妻や夫になるか
内縁・事実婚の不倫慰謝料を調べている方の中には、「既婚者と長く交際していた場合も内縁になるのか」「長い不倫相手は内縁の妻や夫になるのか」と疑問を持つ方もいます。
この点は、通常の内縁・事実婚とは分けて考える必要があります。法律上の配偶者がいない男女が夫婦同然に共同生活をする通常の内縁と、法律上の配偶者がいる人が別の相手と夫婦同然の共同生活をする重婚的内縁では、法的な扱いが異なるからです。
法律上の配偶者がいる場合は通常の内縁と分けて考える
法律上の配偶者がいる人と長期間交際・同棲している場合、単に「内縁」「事実婚」と呼ぶだけでは足りません。法律上の婚姻関係が残っている以上、その関係が破綻・形骸化しているのか、別の相手との共同生活がどの程度安定しているのか、公序良俗との関係で保護されるのかといった別の論点が出てきます。
そのため、本記事で扱っている通常の内縁・事実婚の不倫慰謝料と、既婚者との長期同棲・不倫関係を前提にする重婚的内縁は、同じ基準で判断しないよう注意が必要です。
長い不倫関係だけで当然に内縁になるわけではない
長期間交際していた、頻繁に一緒に過ごしていた、生活費の援助を受けていた、相手から「妻」「夫」のように扱われていたという事情があっても、それだけで当然に内縁の妻・内縁の夫になるわけではありません。
法律上の配偶者がいる場合には、その法律婚が実質的に終わっていたのか、別居期間や夫婦間の交流はどうだったのか、経済的な関係は残っていたのか、長期交際相手との共同生活がどの程度夫婦に近かったのかなどが問題になります。
また、法律婚の配偶者から見れば、長期交際相手が不倫相手として慰謝料請求を受ける場面もあります。重婚的内縁を主張する側の慰謝料請求と、法律婚の配偶者からの不倫慰謝料請求は、立場も争点も異なるため、混同しないことが重要です。
重婚的内縁の詳細は別記事で確認する
重婚的内縁は、通常の内縁・事実婚よりも判断が難しく、法律婚の破綻や形骸化、別の共同生活関係の実態、公序良俗との関係などを丁寧に見る必要があります。
既婚者との長期同棲、長い不倫関係、法律上の配偶者がいる人との事実婚状態については、重婚的内縁とはで詳しく確認してください。本記事では、法律上の配偶者がいない通常の内縁・事実婚を中心に整理しています。
よくある質問
内縁・事実婚の不倫慰謝料では、法律婚とは違う不安や疑問が出やすいです。ここでは、よくある質問を整理します。
結婚していない相手に浮気された場合、慰謝料請求できますか?
結婚していない相手に浮気された場合でも、内縁・事実婚または婚約といえる関係があれば、慰謝料請求できる可能性があります。反対に、単なる恋人関係にとどまる場合は、原則として不倫慰謝料の請求は難しくなります。
判断の中心は、入籍していたかどうかではなく、法律上保護される関係といえるだけの生活実態があったかです。内縁・事実婚を主張する場合は、同居、家計、親族交流、対外的表示、将来設計などの証拠を整理する必要があります。
同棲相手の浮気で慰謝料請求できますか?
同棲していたという事実だけでは、原則として慰謝料請求は難しいです。同棲相手の浮気で慰謝料請求できる可能性があるのは、その同棲が単なる恋人同士の共同生活を超えて、夫婦同然の内縁・事実婚といえる場合です。
たとえば、長期間同居していた、生活費を共同で負担していた、親族や友人に夫婦として紹介していた、住民票や契約書などで夫婦に近い扱いをしていたといった事情があると、内縁関係を基礎づける事情になります。
内縁関係は何年同居すれば認められますか?
何年同居すれば必ず内縁関係になる、という固定の年数はありません。長期間の同居は重要な事情ですが、それだけで結論が決まるわけではありません。
裁判例では、約8年の同居が問題になった事案でも、同居期間だけでなく、親族・友人との交流、生活費の分担、賃貸契約上の記載、誓約書、共同生活の実態などが総合的に見られています。短い期間でも内縁が認められる可能性はありますし、長期間同居していても、夫婦としての実態が乏しければ争われる可能性があります。
不倫相手が内縁だと知らなかった場合でも請求できますか?
不倫相手に請求する場合は、不倫相手が内縁関係を知っていた、または注意すれば知り得たといえる事情が必要になります。内縁・事実婚は法律婚と異なり、戸籍上の配偶者関係として外部から明確に分かるわけではないためです。
内縁関係が成立していても、不倫相手が単なる同居人や別れた相手だと認識しており、その認識に過失がない場合には、不倫相手への慰謝料請求が認められない可能性があります。請求する側は、不倫相手の認識を示す証拠を整理し、請求された側は、いつ何を知っていたのかを時系列で確認する必要があります。
事実婚と内縁は違いますか?
日常的には、事実婚と内縁はほぼ同じ意味で使われることが多いです。いずれも、婚姻届を出していないものの、夫婦同然の共同生活をしている関係を指します。
もっとも、慰謝料請求で重要なのは、呼び方ではなく実態です。当事者が「事実婚」と呼んでいても、共同生活の実態が乏しければ内縁関係が否定される可能性があります。反対に、「同棲」と呼んでいても、夫婦としての生活実態があれば内縁関係と評価される可能性があります。
長い不倫相手は内縁の妻・夫になりますか?
長い不倫関係や長期同棲だけで、当然に内縁の妻・内縁の夫になるわけではありません。相手に法律上の配偶者がいる場合は、通常の内縁とは別に、重婚的内縁の問題として検討する必要があります。
重婚的内縁では、法律婚が破綻・形骸化していたか、別の共同生活が夫婦同然といえるか、保護に値する関係といえるかが問題になります。通常の内縁よりも判断が複雑なため、単に「長く付き合っていた」という事情だけで判断しないことが大切です。
まとめ:内縁の不倫慰謝料は「内縁の証明」と「相手の認識」が重要
内縁・事実婚でも、夫婦同然の共同生活として法律上保護される関係といえる場合には、不倫慰謝料を請求できる可能性があります。ただし、法律婚と異なり、まず内縁関係そのものを証明する必要があります。
また、不倫相手に請求する場合は、内縁関係が成立していたかだけでなく、不倫相手がその関係を知っていたか、または知り得たかが大きな争点になります。内縁関係が認められても、不倫相手の故意・過失が否定されることがある点には注意が必要です。
- 内縁・事実婚でも、不倫慰謝料を請求できる可能性があります。
- 単なる恋人・同棲ではなく、婚姻意思と夫婦共同生活の実態が必要です。
- 内縁関係の証明資料は、同居・家計・対外的表示・時系列で整理します。
- 不倫相手への請求では、内縁関係を知っていたか/知り得たかが大きな争点になります。
- 請求された側は、内縁の有無・破綻・認識・金額を分けて検討することが重要です。
内縁の不倫慰謝料では、請求する側も請求された側も、感情的な主張だけでは解決が難しくなりがちです。早い段階で資料を保存し、同居や家計の状況、不倫相手の認識、破綻時期、請求額の根拠を分けて整理することが大切です。
坂尾陽弁護士
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