上司と部下の「社内不倫」は、慰謝料の話に加えて、職場の上下関係ゆえに懲戒処分やハラスメント認定が絡みやすいのが特徴です。とくに請求された側は、対応を誤ると「金額が上がる」「会社に波及する」「示談が崩れる」といった二次被害が起こりがちです。
この記事では、次の疑問に答えます。
- 社内不倫でも慰謝料は発生する?誰が誰に請求できる?
- 上司・部下だと金額が上がる(下がる)ことはある?
- 懲戒処分や異動、会社調査はどこまであり得る?
- セクハラ・パワハラ扱いになるのはどんなとき?
- 示談で揉めないために入れるべき条項は?
不貞慰謝料は民法上の不法行為を土台に判断され、同時に職場では就業規則・ハラスメント対応の枠組みも動きます(個別事情で結論は変わります)。
![]()
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

Contents
慰謝料請求された事案の無料法律相談実施中!
- 0円!完全無料の法律相談
- 弁護士による無料の電話相談も対応
- お問合せは24時間365日受付
- 土日・夜間の法律相談も実施
- 全国どこでも対応いたします
上司・部下の社内不倫でも慰謝料は発生する?まず結論
結論から言うと、上司・部下という関係でも、不貞行為(肉体関係)があれば慰謝料が発生し得ます。社内か社外か、役職差があるかは「成立の有無」を直接決める要件ではありません。
ただし社内不倫は、次の点でトラブルが拡大しやすい傾向があります。
- 証拠(社用端末の履歴、出張・残業の整合、同僚の目撃など)が集まりやすい
- 噂・通報・人事対応が入り、示談交渉が複線化しやすい
- 上下関係があると「合意だったのか」「圧力はなかったのか」が問題化しやすい
また、そもそも「不倫慰謝料」には前提があります。法律上は、一般に次のように整理されます。
- 「不倫(不貞行為)」=原則として配偶者のある人が、配偶者以外と肉体関係を持つこと
- 請求できるのは通常、配偶者(被害者)
- 請求先は、
- 不貞をした配偶者(夫・妻)
- 不倫相手(社内の上司/部下)
- その両方
- になり得ます
なお、配偶者がいない同士の社内恋愛(独身同士)だと、ここでいう「不倫慰謝料」は基本的に問題になりません。その場合は、社内規程・職場秩序・ハラスメントが中心論点になります。
社内不倫を含む「ケース別の全体像」は、次のページにも整理があります。
(参考)不倫慰謝料のケース別まとめ|社内不倫・妊娠・アプリ・学生・愛人(特殊事情も整理)
慰謝料の相場と増減要素:社内不倫・役職差で見られやすいポイント
慰謝料の金額は「一律いくら」と決まりません。一般論としては、数十万円〜300万円程度のレンジに収まることが多い一方で、事案が重いとそれ以上が争点になることもあります。
(※裁判か示談か、婚姻状況、証拠、当事者の資力などで大きくブレます。)
社内不倫でも、基本は「婚姻関係へのダメージ」を軸に、次の事情が総合考慮されます。たとえば、次の事情は増額・減額の方向に働きやすい代表例です。
- 不倫が長期・高頻度、発覚後も継続(増額方向)
- 離婚に至った/別居が長期化した(増額方向)
- 子どもがいる、家庭への影響が大きい(増額方向)
- 婚姻関係が破綻に近かった(減額方向になりやすい)
- 不倫期間が短い、早期に関係解消した(減額方向になりやすい)
ここに「社内」「上司・部下」という要素が入ると、増額方向に働きやすいのは主に次のパターンです。
- 上司が職務上の立場を利用して既婚の部下に関係を迫った疑いがある(後述のハラスメント問題)
- 職場で公然化し、配偶者の精神的苦痛が増幅した(噂、同僚の認識、家庭への流入)
- 会社の調査・処分が入り、当事者のダメージが拡大した(ただし「会社の処分そのもの」を慰謝料に直結させるのは慎重に見る必要があります)
逆に、「部下側が既婚と知らなかった」「実質的に拒めない状況だった」など、部下側の帰責性(責められ度合い)が弱い事情は、相手(配偶者)との関係で争点になり得ます。
慰謝料請求には期限(時効)があります。原則として「不倫相手と不倫の事実を知った時から一定期間」で進行するため、放置すると争えなくなるリスクがあります。
上下関係があると「セクハラ・パワハラ」論点が混ざる
上司・部下の社内不倫で揉めやすいのは、慰謝料の話が途中から、次の問いにすり替わりやすい点です。
- 本当に「合意」だったのか
- 断ったら人事評価・配置・契約更新に影響する空気がなかったか
- 交際後に関係がこじれて、報復・口外・人事介入が起きていないか
たとえ当初は双方が「合意」と考えていたとしても、上下関係があると、あとから次のような主張が出やすくなります。
- 部下:「実際は断れなかった」「拒否したら不利益が怖かった」
- 上司:「恋愛関係だった」「合意だった」
- 配偶者:「地位を利用した悪質な関係だ」「精神的苦痛が大きい」
この“評価の揺れ”が起きると、問題は3方向に分岐します。
1)配偶者からの慰謝料請求(不貞慰謝料)
2)部下からのハラスメント主張(上司個人・会社への責任追及に発展することも)
3)会社の調査・処分(職場環境を守る義務の観点で動く)
特に注意が必要なのは、配偶者との示談が成立しても、部下側のハラスメント問題や会社対応が別ルートで残り得る点です。
「慰謝料を払って終わり」と思っていると、後から再燃しやすいので、論点を分けて整理することが重要です。
懲戒処分・会社調査・異動はどうなる?慰謝料と別のリスク
社内不倫は、あくまでプライベートの問題でもあります。一方で、会社は職場秩序や労務管理、ハラスメント防止の観点から、事実確認や措置を取らざるを得ない場面があります。
ポイントは、会社が見ているのは「不倫そのもの」よりも、主に次のような事情だということです。
- 就業時間中・社用設備を使っていたか(業務専念義務、情報管理など)
- 上下関係を背景に、不利益や圧力が疑われるか(ハラスメント)
- 職場の士気・業務に支障が出たか(部署運営、チームの安全配慮)
- 苦情・通報があったか(会社の対応義務が発生しやすい)
会社調査が入ったとき、当事者がやりがちな失敗は次のとおりです。
- その場しのぎで虚偽説明をして、後で整合が崩れる
- 社用チャット・メール・端末の証拠隠しをして、懲戒の口実を増やす
- 感情的に相手を責め、口外・報復と受け取られる行動をする
社内不倫は「慰謝料の交渉」と「会社での立ち回り」が相互に影響します。とくに退職するか/異動で収めるか/自発的に事実関係を整理して説明するかは、ケースで正解が変わります。
退職の必要性や、社内不倫で請求された側の減額の考え方は、次のページで詳しく整理しています。
(参考)社内不倫で慰謝料を請求されたとき退職の必要性や減額のポイントを解説
示談の注意点:口外禁止・接触禁止・退職条項・ハラスメント蒸し返し対策
上司・部下の社内不倫は、示談の設計が雑だと再燃しやすい類型です。理由はシンプルで、**同じ職場にいる限り「接点がゼロにならない」**からです。
示談(和解)でよく問題になるのは、金額以外の条項です。代表的には次のような条項を、事案に合わせて設計します。
- 接触禁止(勤務上の必要連絡は例外にする等)
- 口外禁止(SNS・同僚への拡散も含める設計)
- 違約金条項(破った場合のペナルティを定める)
- 清算条項(これ以上請求しない、蒸し返し防止)
- 求償・分担の扱い(当事者間の負担整理が必要なことも)
ただし、「会社」そのものは示談当事者にならないのが通常です。つまり、口外禁止を書いても、会社の調査や配置転換まで止められるとは限りません。示談は“民事の紛争を終わらせる道具”で、労務問題を丸ごと封じるものではない、という前提で組み立てる必要があります。
また、上下関係があると、次の“火種”が残りやすい点にも注意してください。
- 後日、部下が「実は断れなかった」と主張し始める(ハラスメント化)
- 逆に上司側が、別れ話のもつれで不利な行動を取ってしまう(報復・口外と受け取られる)
- 配偶者が会社に連絡し、会社調査が起動する(職場対応が先行)
「とりあえず謝って払う」「言われるままに退職を約束する」は危険です。示談書に一度サインすると、後からの修正は簡単ではありません。
示談書の作り方・条項の基本は、次のページでも詳しく解説しています。
(参考)不倫示談書マニュアル【テンプレート付】|書き方・記載事項・無効リスク・公正証書化まで
ミニQ&A(よくある疑問)
Q:社内不倫だと、会社が慰謝料を請求してくることはありますか?
A:一般的な「不貞慰謝料」は配偶者が請求するもので、会社が同じ枠組みで請求するものではありません。ただし別問題として、就業規則違反などがあれば懲戒・人事上の措置はあり得ます。
Q:合意の交際でも、セクハラ扱いになることはありますか?
A:上下関係があると、後から「断れなかった」と評価されるリスクがあります。特に評価・配置・契約更新への影響がちらついた場合は、争点化しやすいです。
Q:会社の聞き取りに、何でも答えないといけませんか?
A:調査の趣旨や範囲次第です。虚偽説明や証拠隠しはリスクが大きい一方、私生活の詳細まで無制限に開示すべきとも限りません。弁護士を挟んで整理すると安全な場面があります。
まとめ
上司・部下の社内不倫は、慰謝料だけでなく「上下関係」「会社対応」「ハラスメント」の要素が絡み、初動で揉めやすい類型です。最後に要点を整理します。
- 慰謝料の基本は不貞行為の有無と婚姻へのダメージで決まる
- 上下関係は悪質性・合意性が争点になり、火種が増えやすい
- 懲戒・調査・異動は慰謝料と別ルートで進み、相互に影響する
- 示談は金額だけでなく接触禁止・口外禁止・清算条項が重要
- 退職や謝罪の判断は早まらず、事実整理と戦略が必要
関連記事・次に読むべき記事
![]()
慰謝料請求された事案の無料法律相談実施中!
- 0円!完全無料の法律相談
- 弁護士による無料の電話相談も対応
- お問合せは24時間365日受付
- 土日・夜間の法律相談も実施
- 全国どこでも対応いたします

