不倫慰謝料を支払ったあと、「不倫相手(または配偶者)にも負担してほしい」と思っても、いつまでも請求できるわけではありません。求償権 時効の問題があり、放置すると“時間切れ”で請求できなくなることがあります。
この記事では、次の疑問に答えます。
- 不倫慰謝料を払った後、相手にいつまで請求できる?(期限)
- 時効はいつから数える?(支払日が基準?起算点は?)
- 分割で払った場合、期限の考え方は変わる?
- 交渉している間に時効が来そう…何をすればいい?
- 求償請求が来た側は、どう対応すべき?
本記事は「時効・起算点・放置リスク」に特化して整理します。求償権の基本(求償権とは何か/責任割合の考え方/全体像)から確認したい方は、まずこちらをご覧ください。
不倫慰謝料の求償権とは|求償権の仕組み・責任割合・トラブル回避策【弁護士解説】
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2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

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結論:求償権の時効は「5年/10年」が基本。起算点は“支払った時”が軸
不倫慰謝料の求償権(共同で責任を負う関係で、払い過ぎた分を相手に負担してもらう請求)は、一般に次の発想で整理されます。
- 原則:行使できると知った時から5年
- または:行使できる時から10年
- そして、起算点(いつからカウントするか)は、実務上 「慰謝料を支払った時(または支払いが確定した時)」 が軸になりやすい
ここで大事なのは、次の2点です。
①「不倫慰謝料そのもの(被害者からの請求)」の時効と、「支払った側の求償」の時効は“別物”です。
②時効は、ただ待っていれば相手が配慮してくれる制度ではありません。放置すると、請求する側が不利になります。
また、求償の場面では、示談書の条項(清算条項・求償の扱い)次第でそもそも請求できなくなるケースもあります。時効以前に「条項で詰む」こともあるため、心当たりがある方は早めに確認が必要です。
起算点はいつ?「支払日」「相手を知った時」「分割払い」など典型パターンで整理
「いつから5年(10年)を数えるのか」は、求償で最も揉めやすいポイントです。典型パターンごとに整理します。
1)一括で支払った(振込・和解一括など)
最も多いのはこの形です。
この場合、基本的には 支払った時点で求償権を行使できる状態になりやすく、支払日(またはその直後)から時効が進む と考えて準備するのが安全です。
2)支払ったが、相手方(求償先)や連絡先が分からない/確証が薄い
理屈としては「相手が誰か分からず権利行使できない」事情が絡むと起算点がズレる余地があります。
ただし実務では、「分からない」状態が長引くほど、証拠も弱り、交渉も難航しがちです。“相手が確定してから動く”では遅いことがあるので、早期に証拠と情報(氏名・住所等)を固めるのが重要です。
3)分割で支払っている(または分割で支払った)
分割払いは要注意です。
よくある扱いとしては、支払った分ごとに求償の問題が生じ、支払いの都度、時効が進むと考えることもできる(少なくともそう主張され得る) ため、「最後の支払いが終わってから考える」だと危険です。
分割は「払う側に優しい」ようでいて、求償の期限管理は難しくなります。分割が始まった時点で、求償の方針(交渉/通知/手続)も同時に設計しておくのが安全です。
4)裁判・調停・示談で解決した(支払義務が確定した)
裁判や調停、示談で支払うことが確定した場合でも、求償権は基本的に「実際に支払って初めて生じる(または具体化する)」という理解で動くのが実務的です。
一方で、示談書の内容によっては、求償が難しくなったり、相手が「その条件なら求償はしないはず」と争ってきたりします。“いつから”と同時に、“そもそも求償できる設計か” も合わせて確認してください。
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時効で負けないための初動:証拠確保→通知→“止め方(完成猶予・更新)”の選択
時効で損しないための動き方は、結局この順番に集約されます。
- ① まず証拠を固める(支払った事実・金額・根拠)
- ② 期限(時効)を仮で置き、逆算して動く
- ③ 交渉でいけるか/手続に入るかを早めに決める
(1)まず集めるべき証拠(最低限)
- 示談書・和解調書・判決書など「支払義務の根拠」
- 振込明細・通帳履歴など「実際に支払った証拠」
- 不倫関係・共同責任を基礎づける資料(やりとり、期間、認否の手がかり等)
(2)通知(内容証明など)は“万能”ではない
「内容証明を送れば時効が止まる」と思われがちですが、通知はあくまで初動の一つです。
相手が無視したり、時間稼ぎをしたりするケースもあるため、通知後にどう“確実な手段”へつなぐかが大事です。
(3)交渉中でも、時効は進む:止め方を選ぶ
時効対策には、大きく次の発想があります。
- いったん“期限の完成を先送りする”方向(完成猶予)
- “時効期間をリセットする”方向(更新)
実務上は、相手の態度次第で、次のように判断します。
・相手が連絡をはぐらかす/回答期限を守らない
・「払う意思がない」と明確に言っている
・時効が近い(逆算して余裕がない)
→ 交渉だけに寄せず、弁護士を窓口にして手続も含めて設計した方が安全です。
示談書の作り方や、条項設計(清算・分割・違反時の取り扱い)を含めて整えたい方は、こちらも参考になります。
不倫示談書マニュアル【テンプレート付】|書き方・記載事項・無効リスク・公正証書化まで弁護士が丸ごと解説
放置するとどうなる?よくある失敗(サイン・口約束・揉めたまま時間切れ)
求償の時効でよくある失敗は、「相手が払わない」ことよりも、**こちらが“詰め切らないまま時間を過ごす”**ことです。
失敗例1:話し合いが続いていると思っていたら、実は時間切れ
「また連絡する」「考えておく」と言われて待っていたら、数年経っていた、というパターンです。
相手が悪いというより、期限管理の不備で負けやすい典型です。
失敗例2:示談書にサインしたが、求償の扱いを確認していなかった
被害者との示談書に、清算条項や免責の文言が入り、後から求償を巡って争点になることがあります。
求償の有無・求償放棄の有無は、金額と同じくらい重要です。
失敗例3:証拠が揃わず、請求の前提でつまずく
求償は「払った」という事実だけでは足りず、状況によっては共同責任の前提や支払額の根拠を争われます。
時間が経つと、メッセージ履歴や相手の連絡先、当時の経緯が失われやすく、交渉も訴訟も不利になりがちです。
時効に間に合っても、証拠が薄くなれば交渉力が落ちます。求償は「期限」と「証拠」の両方が同時に劣化する、と考えてください。
求償“される側”の注意点:時効の主張(援用)と不用意な「承認」回避
逆に、求償請求が来た側(不倫相手/配偶者)は、次の点を押さえる必要があります。
(1)時効は“自動で勝てる”わけではない(主張が必要)
時効が完成していそうでも、手続の中で適切に主張しないと、そのまま認められてしまうことがあります。
「いつ支払ったのか」「いつからカウントされるのか(起算点)」「途中で止まっていないか」を整理することが重要です。
(2)不用意なメッセージが「承認」扱いになることがある
よくある危険行動は、LINE等で
「分かった、払う」「今は無理だけどそのうち返す」
のように書いてしまうことです。内容次第では、相手から「債務を認めた」と主張され、時効の扱いが不利になる可能性があります。
(3)一部入金・分割合意も慎重に
とりあえず少額を振り込む、分割で払う合意をする、といった対応は、紛争を収める一方で、法的には重い意味を持つことがあります。
“支払う前”に、時効や条項、負担割合の見通しを確認してから動くのが安全です。
求償権の全体像(責任割合・どんなときに求償されるか)を先に押さえたい方は、こちらも参考になります。
不倫慰謝料の求償権とは|求償権の仕組み・責任割合・トラブル回避策【弁護士解説】
まとめ:期限・起算点・やることチェックリスト
最後に、求償の期限(時効)で損しないための要点をまとめます。
- 求償の期限は「5年/10年」が基本で、起算点は“支払った時”が軸になりやすい
- 分割払いは、最後にまとめて動くと危険(支払いの途中から期限管理が必要)
- 内容証明は重要だが、それだけで安心せず「次の手(交渉継続か手続か)」を設計する
- 放置すると、時効だけでなく証拠も弱り、交渉力が落ちる
- 求償される側は、時効の主張と、不用意な承認(メッセージ・一部入金)に注意する
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