不倫慰謝料の求償権とは|求償権の仕組み・責任割合・トラブル回避策【弁護士解説】

不倫慰謝料を巡る問題では、「求償権(きゅうしょうけん)」という法律概念が重要になる場合があります。とりわけ不倫や浮気といった不貞行為で慰謝料が発生したケースでは、「自分が多く払った分を相手にも負担させたい」と思う人も少なくありません。

求償権の仕組みを知らずに示談や支払いを済ませてしまうと、あとから損をしたり、逆に相手から求償されたりして困ることもあるのです。

本記事では、慰謝料の求償権とは具体的にどういう権利なのか、不倫慰謝料でどのように発生するのか、その事例や裁判例、さらにトラブル回避のポイントまでを総合的に解説します。特に、共同不法行為不真正連帯債務といった法律用語、実際に求償請求を行う際の注意点を踏まえ、円満な解決を目指すためのヒントをまとめました。

  • 求償権とは、複数の加害者のうち一方が被害者に支払い過ぎた場合、他方に「負担分を支払ってほしい」と請求できる権利
  • 不倫慰謝料でも「多めに支払ってしまった」人があとから相手に求償する展開がよくある
  • 民法443条(連帯債務の規定)は不真正連帯債務に直接適用できるか疑義があるが、事前事後の通知を行うとトラブル回避に役立つ

求償権は慰謝料請求・減額交渉の重要なポイントになることもあります。しっかり理解しておきましょう!
(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

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慰謝料の求償権とは?

不真正連帯債務と連帯債務の違い

「求償権」とは、法律用語の中でもやや専門的です。まず前提として、以下のような場面でよく問題になります。

  • 連帯債務:たとえばローンを夫婦共同で組んだ場合に、どちらか一方が全額返済してしまったとき。他方に自分の負担分を求償できる
  • 不真正連帯債務:交通事故などで加害者が複数いる場合、被害者は全員に全額請求できる。結果的に誰か一人が多く支払ったら、あとから他の加害者に「あなたの責任分を払ってほしい」と求償する

不倫の慰謝料は後者にあたる「不真正連帯債務」と考えられています。被害者(不倫された配偶者)は、不倫をした夫や妻、そして不倫相手の二人に対して、連帯して責任を負うものとして請求できます。すると、一方だけが全額を負担してしまったケースで、あとから「本来はそっちも責任があるのでは?」と負担分を請求し合う構図が生まれるのです。

求償権の基本ルール

**求償権(民法442条など)**は、自分が本来の負担を超えて払った分について、他の共同不法行為者(加害者)に「負担割合に応じて返してほしい」と請求できる仕組みです。

たとえば、2人の加害者AとBが、合計100万円の賠償責任を連帯で負っている場合、被害者が「Aに100万円全額を請求する」ことも可能です。この場合、Aが100万円全額を払ってしまったら、AはBに対し、Bの責任分を「求償権」として請求できます。「自分が払った中でBの責任分を肩代わりしたのだから、Bに返してもらいたい」という考え方です。

本来はAとBが2人で払う慰謝料を、Aが全額払った場合に、Bに分担を求めるのが求償権の仕組みです。

求償権の負担割合

不倫慰謝料の求償権において、どちらがどの程度負担すべきかという“責任割合”は、当事者の事情や不倫の経緯などを踏まえて決まります。一般的には、不倫をした配偶者と不倫相手の割合を50%:50%とするのがベースラインとして考えられています。

しかし、不倫に至るまでの状況を詳しく見てみると、不倫した配偶者側が積極的に誘っていた、または年齢差が大きく相手を強く誘導していた、などの事情から「より大きな責任を負うのは不倫配偶者側」だと判断され、50%以上を配偶者が負担すると認定されるケースも珍しくありません。

  • 不倫配偶者が相手に既婚であることを隠していた
  • 配偶者のほうが立場上優位で、相手に断りづらい状況を作った
  • 夫婦関係がまだ修復可能な状態で、一方的に不倫を続けていた

このように、不倫した配偶者の行動がより悪質とみなされれば、60%や70%といった高い負担割合が認められることもあります。要するに、50:50はあくまで目安であり、実際の割合は当事者の具体的事情次第で上下します。裁判例でも「不倫配偶者:相手=8.5:1.5」と判断されたような事例もありますので、あくまで“参考値”と考えてください。

 

不倫慰謝料で求償権が発生する仕組み

不倫による共同不法行為

不倫(不貞行為)とは、夫婦の一方と第三者が肉体関係を持つことを指します。法律上は、「配偶者と不倫相手の共同不法行為」とされています。つまり「不倫をした夫(または妻)+不倫相手」が一緒になって被害者(不倫をされた配偶者)を害したことになるため、被害者はどちらに対しても全額を請求できるのです。

たとえば、

  • が不倫した場合:不倫相手(女性)との共同不法行為
    → 妻は、不倫をした夫か不倫相手(女性)か、好きな方に全額を請求可能
  • が不倫した場合:不倫相手(男性)との共同不法行為
    → 夫は、不倫をした妻か不倫相手(男性)か、いずれにも全額を請求可能

この結果、たとえば不倫相手が慰謝料を全額払った場合には、共同不法行為者である不倫をした側の配偶者に求償請求できるのです。

離婚しない場合は求償請求が問題となる

不倫の慰謝料問題でよくあるのが、夫婦が離婚しないケース。たとえば妻が夫の不倫に気づいたが「家庭を壊すつもりはなく、夫を許す。でも相手の女性は絶対に許さないから、不倫相手だけに慰謝料を請求する」という対応です。

この場合、不倫相手の女性は1人で全部(たとえば100万円~300万円程度)の慰謝料を払わなくてはなりません。すると女性側が「私だけが払うのはおかしい。夫(不倫した配偶者)にも責任があるはずだ」と考え、夫へ求償することが生じます。結果的に、いったん女性が全額払ったあとで「あなたの取り分を支払ってよ」と求償されると、結局家計から夫への支払いが発生するので、妻としては「半額が不倫相手に戻ってしまう…?」という困惑・トラブルにつながるのです。

妻が300万円慰謝料を貰っても、夫が求償請求を受けて家族の財布から150万円払うのでは最初から150万円貰ったのと同じことになります。

離婚する場合の問題点

逆に、離婚に至るほど深刻な不倫であれば、被害者は夫と不倫相手の両方に対して慰謝料を請求することが多いです。もちろん、1人に請求しても構いませんが、離婚する以上、夫にも遠慮なく慰謝料を求めやすいです。

この場合、離婚で夫婦の家計が完全に分離されるため、配偶者が求償されても被害者にとって直接影響が小さいケースもあるため、トラブルになりにくいともいわれます。

他方で、不倫をした夫と不倫相手は「慰謝料の二重取り」が生じないように注意する必要があります。たとえば、不倫をした夫が離婚時に財産分与・慰謝料等の名目を決めずに解決金として500万円を払ったとします。そして、不倫をされた妻は不倫相手の女性は300万円の慰謝料を獲得できたします。この場合、もし夫が払った解決金のうち200万円が慰謝料の趣旨であったときは、妻は、夫から200万円、不倫相手から300万円を獲得し、実質的に慰謝料の二重取りができたことになります。詳しくは慰謝料の二重取りの解説記事をご覧ください。

離婚をする場合は慰謝料を請求された側にとって慎重な対応が必要となります。

 

求償請求の事例と裁判例

ここでは、求償権の具体的な事例として、求償権が問題となった裁判例を簡潔に紹介します。特に、「自分だけが慰謝料を支払ったが、あとから共同不法行為者に負担分を請求する」構図がどのように判断されているかに注目してみましょう。

東京地裁令和2年12月24日判決(求償金等請求事件)

  • 事案:既婚者(被告)と不貞関係にあった原告が、不倫された配偶者(被告の元配偶者)に対して100万円を支払い済み。原告は「被告にも責任があるのだから80万円を求償したい」と訴えた。
  • 結論:原告の請求が棄却(認められなかった)。
  • 理由:被告は不倫慰謝料として先に612万円を配偶者に支払っており、原告の支払に先立つ免責が成立している。その結果、「原告が負担分を超えて支払った」とはいえないと判断された。また、不真正連帯債務に連帯債務の規定である民法443条が直接適用されるか疑問、加えて事前通知もされていなかったため、原告が求償を主張できないと裁判所は判断。

不倫慰謝料合計712万円は相場を大きく超えており、実質的に慰謝料の二重取りがされた事案です。

東京地裁令和3年8月30日判決

  • 事案:独身女性である原告が、被告(既婚男性)との不貞行為で被告の元妻へ135万円を支払った。その全額を予備的に被告へ求償請求。
  • 結論:裁判所は責任割合を原告1.5割・被告8.5割と認定。よって**135万円のうち被告負担85%分(114万7500円)**を求償請求として認めた。
  • ポイント:不倫加害者双方の責任割合を決める際、どちらがより悪質かや当時の状況を総合的に判断する。この事件では原告が未成年であったことや、被告の詐言や誘導が不倫に至った大きい要因とみなされたことから、不倫相手である独身女性の責任を15%とした。

求償権に関する裁判例のポイント

  • 責任割合
    不倫加害者2名が必ず50:50になるとは限らない。詐言があった、年齢差がある、誘った積極性がどちらにあるかで変動する。
  • 先に免責行為をしたかどうか
    一方が配偶者に大金を払って済ませてしまっていた場合、もう一方は求償を主張できない可能性がある(令和2年12月24日判決)。
  • 443条の適用問題
    不真正連帯債務では連帯債務の規定がそのまま使えるか疑義があるが、裁判例では「事前事後の通知の有無」が争点になるケースがある。

慰謝料請求と求償権を巡る注意点

  • 慰謝料を請求する側
    不倫相手に慰謝料を全額請求しても、不倫をした配偶者が求償請求を受けて、慰謝料の半分以上を負担する結果になるリスクがある。
  • 慰謝料を請求された側
    求償請求をしようとしても相手に資力がなければ回収が難しいため、費用対効果が見合わない場合も少なくない。慰謝料を支払う前後に不倫当事者間で連絡を取り合わないと二重取りが生じるリスクがある。
  • 慰謝料減額交渉で求償権放棄を求められる
    不倫相手が「求償権を放棄するかわりに慰謝料を減額してほしい」と交渉する場面もある。

慰謝料を請求された側としては、不倫被害者から「求償権を放棄してほしい」と言われた場合に安易に応じると、実際にはあなたが本来の負担以上の金額を払ってしまうことになりかねません。自分の責任が2割しかないのに全額支払わされても、放棄してしまえば求償できません。交渉段階で慎重に判断しましょう。

求償権放棄による減額交渉は弁護士と相談しながら慎重に進めましょう。

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トラブル回避のためのポイント

示談書や合意書での扱い

  • 慰謝料の負担割合を決めておく
    事前に「夫が6割、不倫相手が4割」などと負担割合を決めておく。極端なケースでは不倫をした配偶者が不倫相手の慰謝料を肩代わりしてくれるケースもある。
  • 書面化:強制力を持たせたい場合、具体的な書面に落とし込むのが安心。
  • 求償権放棄の交渉
    不倫相手に「求償権は行使しない」と書いてもらう場合、相応の金銭的メリットを提供するかなど、きちんと合意を取り付けないと応じて貰えない。

慰謝料の肩代わりについては、慰謝料の肩代わりをして貰う方法の解説記事で詳しく説明していますのでご覧ください。

不倫当事者間で通知しておくと有益

民法443条は連帯債務者間の通知について以下のルールを定めています。
「一人の連帯債務者が弁済等をするには、事前に他の連帯債務者に通知すべきである。通知なく弁済した場合、相手方が主張できた抗弁を失うおそれがある。~(略)~」

不倫慰謝料の支払い債務は「不真正連帯債務」とされ、民法443条(連帯債務の事前事後通知規定)が直接適用されるかどうかは疑問があるところです。
しかし 実務上は「求償権を行使するにあたって、事前事後に相手に通知しておくと防御策を潰されるリスクが減り、トラブル回避に役立つ」 と考えられています。なぜなら、相手方から「知らなかったから私は払うつもりも機会もなかった」「二重払いになった」などの反論を受けづらくなるからです。

事前通知のメリット

  • 相手がすでに慰謝料の支払いをしていないか確認できる
  • 後から「勝手に払っただけだろ?」と主張されるのを防げる

事後通知のメリット

  • 相手が同じ債権に重ねて支払わないように伝えられる
  • 後ほど「知らずに支払ったから求償されても返せない」と言われるのを回避

たとえ443条の厳密な適用がないとしても、通知しておくほど実務的トラブルが少ないことは間違いありません。

弁護士のサポートを受ける

求償権にまつわる交渉は難しいです。相手が本当に放棄してくれるのか?どんな書き方なら安全か?といった問題は当事者同士だと揉めがち。
不倫問題に強い弁護士なら、「将来にわたって相手と関わり合いを持たないためにどう書面化すべきか」をアドバイスしてくれます。結果的にトラブル回避の確度が上がるでしょう。

 

求償権についてよくある質問(FAQ)

可能性はあります。被害者が不倫相手に全額を請求し、その不倫相手が多めに支払ったと判断されるなら「求償権」を使って、もう一方の加害者にも負担を請求することができます。ただし実際に訴訟までいくと費用倒れの懸念もあるため、求償するかどうかはケースバイケースです。

離婚をせずに不倫相手にだけ慰謝料を請求する場合、減額交渉に応じる代わりに求償権を放棄するメリットもあります。どの程度減額をするのか、他にどんな約束をするか、示談書で明確にする必要があります。弁護士に相談した上で慎重に判断しましょう。

示談段階であらかじめ負担割合を決めておいたり、求償しないことを互いに合意させておくと良いでしょう。弁護士に相談して、将来にわたって両者がトラブルを生じないための書面化をアドバイスしてもらうのが安心です。

不真正連帯債務の不倫慰謝料に443条が直接適用されるかは疑いがありますが、通知しておくと後から「勝手に払っただけでしょ?」と反論されるリスクを減らせます。実務上は事前通知・事後通知をしっかり行うのが望ましいでしょう。

 

まとめ:求償権はトラブルになりがち、早めに弁護士相談へ

この記事では「慰謝料の求償権」を中心に、不倫慰謝料でどのように発生し、どう回避や対処をすればいいのかを解説しました。ポイントは次のとおりです。

  • 不倫の慰謝料は被害者が自由に一方に全額を請求可能。支払った側が「求償権」で相手に負担分を求める構図がよくある
  • 離婚しないケースだと「夫(または妻)を守るために不倫相手だけに請求」→のちに求償で家計に影響が出る可能性も
  • 示談で求償権を放棄してもらうなら、しっかりした書面化や代わりのメリットを検討
  • 不真正連帯債務に民法443条が適用されるかは疑問だが、通知をしておけば裁判での不利を回避できる

実際には示談書の書き方一つ、通知をするかどうかなどで、後日のトラブルが大きく変わります。**求償権を放棄するか?責任割合は何割か?**は当事者間の合意があれば変動しうるもの。法律的に複雑な点も多いため、慰謝料の求償権が大きな問題になりそうなケースでは、早期に不倫に強い弁護士に相談することをおすすめします。

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