なぜ不倫慰謝料を請求できるのか? 二股交際との違いや貞操義務が理由か等を解説

不倫慰謝料とは民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求権の一種です。つまり、不倫により慰謝料が請求できるためには、不倫が民法709条の不法行為に該当する必要があります。

不法行為は他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した場合に成立します。なぜ不倫慰謝料が認められるのかは、不倫によってどのような権利又は法律上保護される利益が侵害されたと考えるかと密接に関連しています。

(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

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不倫により侵害される権利・利益の内容がなぜ重要か

権利利益と行為態様の相関関係による判断基準

不倫により権利・利益が侵害された場合には、民法709条の不法行為に該当するような不倫行為の違法性が認められます。そして、民法709条の違法性は、侵害された権利・利益の保護の必要性が高いかと侵害行為の態様が悪質かとの相関関係によって判断されるとしてます。つまり、不倫により侵害される権利・利益が弱いものであれば不倫行為の内容が悪質なものでなければ慰謝料請求は認められないのに対し、権利・利益が強いものであれば不倫行為の内容にかかわらず慰謝料請求が認められることになります。

不倫により貞操権が侵害されるか

不倫によって侵害される権利・利益として、まず思いつくのが貞操権です。実際に古い裁判例において不倫は貞操を守ることを請求する権利を侵害するものだとしているものも少なくありません(大阪地裁昭和15年7月2日判決、仙台地裁昭和32年5月31日判決等)。また、最高裁昭和54年3月30日判決は「配偶者の夫又は妻としての権利」が不倫により侵害されると指摘しており、この権利とは貞操権のことを踏まえているようにも思われます。

しかし、最近の裁判例は不倫によって貞操権が侵害されると考えることに対して否定的です。例えば、東京地裁平成15年6月24日判決は、貞操義務は夫婦間の問題であり、性的なことについて法の介入をできるだけ抑制するべきであることや、貞操請求権は夫婦の一方から他方への対人的・相対的なものであり第三者による侵害から法によって保護されるべきではないと指摘しています。

不倫は夫婦生活の平穏を侵害する

そこで、最近の裁判例においては、不倫は夫婦生活の平穏を侵害するため不法行為に該当すると判断される傾向にあります。例えば、最高裁平成8年3月6日判決は、不倫が不法行為となるのは、それが「婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるから」としています。

ちなみに、裁判所は、夫婦生活ではなく「婚姻共同生活」、「婚姻生活」、「婚姻関係」、「家庭生活」、侵害について「破壊」、「破たん」、「崩壊」、「悪化」等の表現を用いており、必ずしも裁判所間でも表現が統一されているわけではないようです。

夫婦生活の平穏を侵害するから不倫が違法であると考える場合、必ずしも不倫相手との間に肉体関係がないときでも、第三者による夫婦生活を破壊するような具体的な行為があったときは、当該行為が不法行為に該当し慰謝料請求が認められ得ることになります。この点は貞操権が保護されると考えた場合には、肉体関係がないときは貞操権の侵害はあり得ないため慰謝料請求が認められなくため大きな違いです。

肉体関係がなくても夫婦生活の平穏を侵害する場合

東京地裁平成17年11月15日判決は、不倫は夫婦生活の平穏を侵害するため違法になるとの理解を前提とした上で、さらに第三者が夫婦生活を破壊した場合には違法な行為になるのであって、「肉体関係を結んだことが違法性を認めるための絶対的要件とはいえないと解するのが相当」としています。

具体的には、裁判所は、肉体関係を結んだとは認定されていない不倫相手の男性について、夫婦の一方(妻)と互いに結婚を希望して、夫に対して結婚させて欲しいと懇願し続け、その結果夫婦が別居・離婚に至ったことから、このような行為は夫婦生活の平穏を侵害するため不法行為に該当するとして慰謝料請求を認めています。

家族共同生活の平穏と子どもによる不倫慰謝料の請求

また、不倫によって侵害されるのは婚姻当事者間の夫婦生活の平穏であり、子どもを含めた家族共同生活の平穏ではないと裁判所は考えているようです。不倫によって家族共同生活の平穏が侵害されると考えれば、不倫によって家庭が破壊された子どもによる慰謝料請求が認められるはずです。しかし、原則として子どもから不倫相手に対する慰謝料請求は認められないとうするのが判例です(最高裁昭和54年3月30日判決)。

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不倫と二股交際との違い

不倫により侵害される権利・利益の内容について、貞操権が侵害されると考える場合も夫婦生活の平穏が侵害される場合も二股交際については違法性が認められないことになります。交際段階であれば交際相手に貞操を求めることも出来ませんし、保護するべき夫婦生活も存在しないからです。

二股交際の違法性に関する裁判例

そのため、裁判所は二股交際が違法行為になることはないと考えているようです。東京地裁平成21年8月24日判決は、婚姻・婚約関係にない独身の男女が複数の異性と性的関係を伴う交際をすることは世の中にままあることであり、「『二股交際』が、直ちに法定な違法行為になるということもできない」としています。

内縁破棄や婚約破棄の場合について

内縁関係や婚約関係がある場合に、当事者の一方が浮気をして内縁破棄や婚約破棄をしたときは内縁当事者や婚約当事者の間での慰謝料請求が認められます。

これに対し、浮気をされた内縁当事者・婚約当事者から、浮気相手に対し、慰謝料請求が認められるかは必ずしも明らかではありません。民法709条の違法性が行為により侵害された権利・利益の内容と侵害行為の態様の相関関係により判断されると考えた場合、内縁関係や婚約関係は保護される必要性があることから、浮気相手が内縁破棄・婚約破棄に加担した行為にそれなりの悪質性が認められれば浮気相手に対する慰謝料請求が認められ得ると考えられます。

もっとも、内縁関係や婚約関係はその成否自体が争われやすいことや、婚姻関係と異なり第三者に認識されづらいため浮気相手の故意・過失が認められにくいことから、浮気相手に対する慰謝料請求が裁判で争われるまで発展するケースは少ないようです。

東京地裁平成21年8月24日判決では、婚約破棄をした当事者に対する慰謝料請求は認める一方で、その浮気相手に対する慰謝料請求は否定しています。この事案は、原告との間で婚約破棄をする一方で浮気相手と結婚に至っているという事情があっため、浮気相手に対しても慰謝料が請求された稀な事例だといえます。しかし、裁判所は、浮気相手は婚約関係を知ることはなく、知り得る可能性もなかったとして、浮気相手に対する慰謝料請求は認めていません。

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