不倫慰謝料を請求したいとき、「まずは弁護士を通さずに自分で連絡してもよいのか」「内容証明を自分で送れるのか」と迷う方は少なくありません。慰謝料請求は弁護士しかできない手続ではないため、相手に請求書を送ったり、話し合いで示談を目指したりすること自体は可能です。
もっとも、不倫慰謝料は、証拠の有無、請求額、時効、相手の反論、示談書の条項によって結果が大きく変わります。弁護士を通さず慰謝料請求する場合は、「どの順番で進めるか」だけでなく、「どの段階で自分だけでは危ないか」も知っておく必要があります。
- 弁護士なしでも、慰謝料請求自体は可能です。
- ただし、証拠・請求額・時効を誤ると交渉がこじれます。
- 内容証明や示談書は、書き方を間違えると不利になります。
- 相手が否認・無視・弁護士対応をしたら、早めの相談が安全です。
この記事では、不倫慰謝料を請求する側が、弁護士を通さずに請求する場合の基本的な流れと注意点を整理します。自分で進める方法を説明しますが、実際には法律判断や証拠評価が必要になるため、無理に一人で進めることをすすめる趣旨ではありません。
坂尾陽弁護士
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

Contents
慰謝料請求された事案の無料法律相談実施中!
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- 弁護士による無料の電話相談も対応
- お問合せは24時間365日受付
- 土日・夜間の法律相談も実施
- 全国どこでも対応いたします
弁護士を通さず慰謝料請求することはできるのか
結論として、弁護士に依頼しなくても、不倫慰謝料を請求すること自体はできます。本人が相手に連絡し、請求書を送り、話し合いを行い、合意できれば示談書を作成して支払いを受けることも可能です。
ただし、「請求できる」と「適切な金額を回収できる」は同じではありません。不倫慰謝料では、不貞行為があったか、相手が既婚者だと知っていたか、夫婦関係がすでに破綻していなかったか、証拠でどこまで立証できるかなどを確認する必要があります。
弁護士に依頼しなくても請求自体はできる
慰謝料請求は、裁判所に申し立てる前の段階であれば、まずは当事者間の話し合いとして始まることが多いです。たとえば、不倫相手に対して、事実関係、請求額、支払期限、今後の接触禁止などを記載した書面を送り、回答を待つ方法があります。
弁護士を通さない場合でも、請求書を作ること、内容証明郵便を送ること、電話やメールで交渉すること、合意内容を示談書にまとめることはできます。相手が事実を認め、金額や支払方法にも大きな争いがなければ、本人同士の交渉で解決するケースもあります。
しかし、相手が不倫を否定する、証拠の提出を求める、請求額が高すぎると反論する、配偶者との関係がすでに破綻していたと主張する、弁護士を立てるといった場面では、法律上の見通しを踏まえた対応が必要になります。
請求できることと回収できることは違う
自分で請求する場合に特に注意すべきなのは、最初の請求で交渉の方向性が決まりやすいことです。証拠が弱いのに強い言い方で請求したり、相場から大きく外れた高額請求をしたりすると、相手がすぐに弁護士へ相談し、以後の交渉が硬直することがあります。
- 証拠が弱い場合、相手に否認されると、追加証拠をどう集めるかを検討しなければなりません。
- 請求額が高すぎる場合、感情的な請求と受け取られ、支払意思があった相手まで争う姿勢になることがあります。
- 示談書が不十分な場合、支払い後に求償、再接触、口外、追加請求などで紛争が再燃する可能性があります。
自力請求では、相手への最初の通知、回答への返し方、合意条件のまとめ方をすべて自分で判断します。弁護士なら、証拠の強さ、類似裁判例、相場、相手の反論可能性、示談条項まで見通して請求します。本人で請求する場合も、本来は同じ程度の整理をしてから動くことが望ましいです。
この記事は請求する側の解説です
「弁護士なし」「弁護士を通さず」という検索語には、慰謝料を請求する側の意図と、慰謝料を請求された側の意図が混ざりやすいです。しかし、請求する側と請求された側では、注意すべき点が大きく異なります。
この記事では、不倫慰謝料を請求する側が、自分で請求を進める場合を前提に解説します。反対に、慰謝料を請求された側が弁護士なしで対応できるかを知りたい場合は、慰謝料を請求されたときに弁護士なしで対応できるかを確認してください。
自分で請求する前に最低限確認すること
弁護士を通さずに慰謝料請求を始める場合でも、いきなり相手へ連絡するのは避けるべきです。最初に送った文章や話した内容は、後から交渉や裁判で問題になることがあります。まずは、証拠、請求相手、請求額、時効、相手情報を確認します。
証拠が慰謝料請求に使えるレベルか確認する
不倫慰謝料では、「不倫をしていると思う」だけでは足りません。相手が否認したときに、不貞行為があったことや、相手が既婚者であることを知っていた又は知り得たことを、証拠で説明できるかが重要です。
証拠には、LINE・DM・メール、写真、宿泊記録、探偵報告書、自白の録音、贈り物や旅行の記録などがあります。ただし、LINEの一部だけでは、肉体関係まで読み取れない場合があります。反対に、ホテルの出入り、宿泊をうかがわせるやり取り、自白が組み合わさると、請求の見通しは変わります。
LINEやDMを証拠として使う場合は、送受信者、日時、前後の文脈、相手のアカウントとのつながりが分かるように保存することが大切です。スクリーンショットの保存方法や注意点は、LINE・DMが不倫の証拠になるかでも詳しく整理しています。
誰に請求するかを決める
不倫慰謝料は、不倫相手に請求する場合、配偶者に請求する場合、両方に請求する場合があります。もっとも、同じ損害について二重に回収できるわけではありません。また、不倫相手が支払った後に、配偶者に求償を求める可能性もあります。
婚姻関係を続ける予定なのか、別居や離婚を検討しているのかによって、請求先や示談条件の設計も変わります。たとえば、不倫相手だけに請求する場合でも、配偶者との今後の関係、接触禁止、求償権、口外禁止などをどう扱うかを先に考えておく必要があります。
また、不倫相手に対して当然に離婚慰謝料まで上乗せして請求できるわけではありません。最高裁平成31年2月19日第三小法廷判決は、不倫相手に離婚に伴う慰謝料を請求する場面では、単なる不貞行為を超えた特段の事情が問題になることを示しています。請求額を決めるときは、「不倫慰謝料」と「離婚に伴う慰謝料」を安易に混同しないことが重要です。
請求額を相場だけで決めない
自分で慰謝料請求をする場合、インターネット上の相場だけを見て金額を決めてしまいがちです。しかし、慰謝料額は、婚姻期間、不貞期間、回数、悪質性、離婚・別居の有無、子どもの有無、発覚後の対応、証拠の強さなどで変わります。
最初から高額な請求をすると、相手に強いプレッシャーを与えられるように見えるかもしれません。しかし、根拠のない高額請求は、相手が弁護士を立てるきっかけになりやすく、交渉が長期化することもあります。請求額には、感情面だけでなく、裁判になった場合の見通しを踏まえた説明が必要です。
時効と相手情報を確認する
不倫慰謝料請求では、時効も確認が必要です。一般に、不倫の事実と請求相手を知ってから長期間が経過している場合、相手から時効を主張される可能性があります。時効が近いときは、内容証明を送るか、調停や訴訟などの手続を検討するかを急いで判断する必要があります。
また、相手の氏名や住所が分からない場合、内容証明や裁判へ進むことが難しくなることがあります。SNSだけで連絡できるからといって、いきなり感情的なメッセージを送ったり、勤務先へ連絡したりするのは危険です。不倫相手の住所が分からない場合は、住所不明で慰謝料請求を進める方法を確認してください。名前しか分からない場合は、不倫相手の名前しか分からない場合の身元特定も参考になります。
弁護士に依頼すると、相手情報の確認が必要な場面で、職務上請求や弁護士会照会などの方法を検討できることがあります。ただし、これらは受任事件に必要な範囲で使う手段であり、単に相手を懲らしめる目的で使えるものではありません。
弁護士を通さず慰謝料請求する流れ
自分で慰謝料請求を進める場合は、順番を意識することが大切です。いきなり電話をしたり、相手を呼び出したりすると、感情的な対立になりやすく、後から言った・言わないの争いになることもあります。基本的には、証拠と請求内容を整理し、書面で請求し、回答を見て交渉し、合意できたら示談書にまとめる流れになります。
- 証拠と事実関係を整理する
- 請求書・内容証明を作成する
- 相手の回答を見て交渉する
- 合意できたら示談書を作成する
- 支払確認まで行う
証拠と請求内容を整理する
最初に、請求の根拠になる事実を時系列で整理します。いつ頃から不倫関係が始まったのか、どのような証拠があるのか、相手は既婚者であることを知っていたのか、発覚後に夫婦関係へどのような影響があったのかを書き出します。
この段階では、相手に送る文章を書く前に、次の項目をメモしておくと整理しやすくなります。
- 請求する事実:不貞行為の時期、期間、回数、発覚の経緯を整理します。
- 手元の証拠:LINE、写真、録音、探偵報告書などを一覧化します。
- 請求額:相場だけでなく、離婚・別居・婚姻継続の状況を踏まえて検討します。
- 求める条件:慰謝料の支払いだけでなく、接触禁止や口外禁止を求めるかも考えます。
弁護士であれば、この段階で証拠の強弱、裁判になった場合の立証可能性、類似裁判例の傾向、請求額の妥当性を確認します。自分で請求する場合でも、少なくとも「相手が否認したら何を根拠に説明するか」は準備しておく必要があります。
請求書・内容証明を送る
証拠と請求内容を整理したら、相手に請求書を送ります。普通郵便やメールで送ることもできますが、後で「どのような内容をいつ送ったか」を証拠化したい場合は、内容証明郵便を利用することがあります。
内容証明については誤解が多いので注意が必要です。日本郵便の内容証明の説明でも、内容証明は、いつ・どのような内容の文書を・誰から誰あてに差し出したかを証明する制度とされています。つまり、文書の内容が真実であることや、相手に支払義務があることを証明する制度ではありません。
また、相手に届いた事実を記録したい場合は、配達証明を併せて利用することがあります。日本郵便の配達証明の説明では、配達証明は一般書留を配達した事実を証明するものであり、実際の受取人が誰であるかを証明するものではないとされています。
不倫慰謝料の内容証明では、相手を威圧する表現ではなく、事実関係、請求額、支払期限、回答期限、今後の連絡方法を落ち着いて記載することが重要です。内容証明の書き方や送り方は、不倫慰謝料を内容証明で請求する方法でも詳しく解説しています。
請求書には、多くを書けばよいというものではありません。相手に伝えるべき事項と、交渉をこじらせる表現を分ける必要があります。自分で作成する場合は、少なくとも次の点を整理してから書面にします。
- 請求の根拠:不貞行為の時期や概要を、必要な範囲で具体的に記載します。
- 請求額と期限:慰謝料額、支払期限、回答期限、振込先を明確にします。
- 証拠の扱い:証拠を持っていることを示すか、どこまで開示するかを慎重に判断します。
- 禁止したい行為:今後の接触、連絡、口外をどう扱うかを検討します。
反対に、「支払わなければ会社に知らせる」「家族やSNSに公表する」などの表現は、たとえ強い怒りがあっても避けるべきです。請求書は、相手を追い詰めるための文書ではなく、後で交渉や裁判になっても説明できる文書として作る必要があります。
内容証明は、相手を強制的に支払わせる手段ではありません。強い言葉で脅すような文面にすると、名誉毀損、脅迫、プライバシー侵害などの反論を招くおそれがあります。
電話や面談で話す場合は慎重に進める
弁護士を通さない請求では、相手から電話で話したい、直接会って謝罪したい、すぐに金額を決めたいと言われることがあります。早く解決したい気持ちから応じたくなる場面ですが、電話や面談は感情的になりやすく、後から発言内容やその場の雰囲気が争われることがあります。
請求する側も、相手を長時間拘束したり、親族を同席させて署名を迫ったり、録音を前提に一方的に問い詰めたりすると、強迫や不当な圧力だと主張される可能性があります。直接話す場合でも、日時、場所、参加者、話す範囲、書面への署名の有無を事前に決め、無理にその場で合意させないことが重要です。
実務上は、最初から面談で解決しようとするより、まず書面で請求内容を整理し、相手の回答を見てから交渉方法を選ぶ方が安全です。電話で話す場合も、感情的なやり取りを避け、合意内容は必ず後で書面化します。
相手の回答を見て交渉する
請求書を送った後は、相手の回答を確認します。相手が事実を認める場合でも、請求額、支払方法、分割払い、求償権、今後の接触、口外禁止などで争いになることがあります。相手が否認する場合は、どの証拠をどの範囲で示すかも慎重に判断しなければなりません。
本人同士の交渉では、電話や面談で一気に解決したくなることがあります。しかし、不倫慰謝料の交渉は感情的になりやすく、録音、言質、強迫といった問題が後から出ることがあります。まずは書面やメールで争点を整理し、必要がある場合だけ面談を検討する方が安全です。
相手が「証拠を全部出してください」「配偶者にも責任がある」「夫婦関係は破綻していた」「その金額は高すぎる」と反論してきた場合、単に再請求するだけでは進展しないことがあります。どの反論に法的意味があるのか、どの反論は交渉上の主張にとどまるのかを分けて考える必要があります。
合意できたら示談書を作成する
金額や支払方法について合意できたら、口約束で終わらせず、示談書を作成します。示談書には、慰謝料額、支払期限、振込先、遅れた場合の扱い、清算条項、接触禁止、口外禁止、求償権の扱いなどを記載します。
示談書が不十分だと、支払い後に「追加請求できるのか」「配偶者へ求償されるのか」「また連絡してよいのか」「不倫の事実を周囲に話してよいのか」といった問題が残ります。特に分割払いにする場合は、支払いが止まったときの対応も決めておく必要があります。
テンプレートを使うこと自体が悪いわけではありませんが、事案に合わない条項をそのまま使うと、かえって紛争が残ることがあります。示談書の条項やテンプレートの考え方は、不倫示談書・合意書の書き方を確認してください。
支払確認まで行う
示談書を作成しても、実際に支払いを受けるまでは解決したとはいえません。一括払いであれば入金日、分割払いであれば各回の支払日と金額を確認します。支払いが遅れた場合の連絡方法や、期限の利益喪失、遅延損害金、公正証書化の要否も、事案によっては検討が必要です。
ここまでの流れを見ると、自分で請求する場合でも、単に請求書を送るだけでは足りないことが分かります。証拠、請求額、内容証明、交渉、示談書、支払確認まで一連で設計しなければ、途中で相手が争う姿勢に変わったり、合意後にトラブルが再燃したりする可能性があります。
相手が期限までに回答しない場合や、支払いに応じない場合には、再通知、調停、訴訟、弁護士への依頼を検討することになります。特に本人で訴訟まで進めるのは負担が大きいため、次の段階では、相手が応じない場合の選択肢を整理します。
相手が応じない場合は調停・訴訟・弁護士相談を検討する
請求書や内容証明を送っても、相手が期限までに回答しないことがあります。また、回答があっても、「不貞行為はない」「既婚者とは知らなかった」「夫婦関係は破綻していた」「請求額が高すぎる」などと反論され、話し合いが進まないこともあります。
この段階で大切なのは、感情的に連絡を重ねることではなく、次の手段を冷静に選ぶことです。本人だけで進める場合でも、再通知、調停、訴訟、弁護士への相談・依頼という選択肢を分けて考える必要があります。
相手が無視・否認する場合
相手が無視している場合、まずは、請求書が届いているか、回答期限が明確か、連絡先に誤りがないかを確認します。配達証明付きの内容証明を送っていない場合には、改めて書面で期限を区切って通知することも考えられます。
もっとも、何度も電話をかけたり、相手の勤務先や家族に連絡したり、SNSで接触したりする方法は避けるべきです。相手が任意の交渉に応じない場合は、当事者間の連絡を増やすよりも、第三者を介した手続や弁護士への相談に切り替える方が安全です。
本人請求で第三者を介したいなら調停も選択肢になる
弁護士に依頼しないまま第三者を介して話し合いたい場合には、民事調停を検討する余地があります。民事調停は、裁判所で行われる話し合い型の手続であり、裁判官と調停委員が関与して、当事者双方が合意できる解決を目指します。
裁判所の説明でも、民事調停では調停委員会が双方の意見を聴き、解決案を考えて提示し、双方が合意すれば調停成立となるとされています。成立した内容は調停調書に記載され、確定判決と同じ効力を持ちます。
民事調停の手続は、相手が任意交渉には応じないものの、裁判までは避けたい場面で選択肢になります。ただし、調停は合意を目指す手続です。相手が不貞行為自体を強く否認している場合や、証拠評価が大きな争点になる場合には、調停だけで解決できないこともあります。詳しくは、不倫慰謝料の調停は使うべき?|不倫相手への民事調停が向かない理由と例外ケースをご覧ください。
本人で手続を進めるなら、訴訟よりも調停の方が話し合いに近い形で進めやすいことがあります。ただし、調停は相手の合意がなければ終わるため、証拠が弱い事案や高額請求の事案では、先に見通しを確認しておくことが重要です。
不倫慰謝料で調停や裁判を検討する場合の流れは、不倫慰謝料の調停・裁判の進め方で詳しく整理しています。
訴訟は証拠と法律構成を裁判所に示す必要がある
相手が話し合いに応じない場合、最終的には訴訟を検討することになります。本人で訴訟を起こすこと自体は不可能ではありませんが、訴訟では、単に「不倫された」と主張するだけでは足りません。
裁判所に対して、不貞行為の内容、相手が既婚者と知っていたこと、婚姻関係への影響、請求額の根拠、証拠との対応関係を示す必要があります。相手が反論すれば、その反論に対して法律上意味のある反論なのか、証拠上どう評価されるのかを整理しなければなりません。
そのため、本人でいきなり訴訟へ進むよりも、証拠、請求額、相手の反論、回収可能性を整理したうえで、調停にするのか、訴訟にするのか、弁護士に依頼するのかを判断する方が現実的です。
坂尾陽弁護士
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自分で慰謝料請求するときにやってはいけないこと
弁護士を通さずに慰謝料請求する場合、やり方を誤ると、請求する側が不利になることがあります。特に、不倫の被害を受けた側は感情的になりやすく、「相手に分からせたい」「早く払わせたい」という気持ちから、強い表現や強引な方法を選んでしまうことがあります。
しかし、慰謝料請求は、相手に圧力をかけるための手段ではありません。請求する側であっても、相手の名誉、プライバシー、生活の平穏を侵害するような方法を取ると、逆に損害賠償を求められるリスクがあります。
感情的な連絡や強い表現を使わない
「払わなければ会社に言う」「家族に知らせる」「SNSに載せる」などの表現は、相手に強い心理的圧力を与えます。請求する側としては事実を伝えているつもりでも、相手からは脅しや嫌がらせと受け取られる可能性があります。
また、電話やLINEで感情的なやり取りをすると、相手に録音・保存されることがあります。後から交渉や裁判になったときに、請求する側の発言が「不当な圧力をかけた証拠」として使われるおそれもあります。
自分で請求する場合こそ、事実、請求額、支払期限、希望する条件を淡々と書面で整理することが重要です。怒りや非難の言葉を増やしても、慰謝料が回収しやすくなるわけではありません。
勤務先・親族・SNSに知らせる行為は反訴リスクがある
不倫相手が対応しない場合でも、勤務先、親族、友人、SNSなどへ不倫の事実を知らせることは慎重に考える必要があります。不倫の事実があったとしても、それを第三者に広めてよいとは限りません。
裁判例でも、勤務先や周囲への連絡が名誉毀損、プライバシー侵害、生活平穏の侵害として問題になった事例があります。たとえば、東京地裁平成24年12月21日判決では、勤務先への通知が問題となり、請求する側が逆に損害賠償を命じられました。東京地裁令和2年2月10日判決でも、親族や知人への連絡、SNS上のメッセージ送信などが名誉毀損・プライバシー侵害として問題になっています。
一方で、東京地裁平成19年8月22日判決のように、勤務先への接触が直ちに違法な嫌がらせとは評価されなかった事例もあります。つまり、職場接触が常に違法というわけではありませんが、目的、回数、伝え方、相手の受ける影響によって評価が変わります。本人判断で行うにはリスクが大きい領域です。
口外禁止や暴露リスクの考え方は、不倫慰謝料の口外禁止条項と暴露リスクも参考になります。
過大請求をしない
自分で請求するときに、インターネット上の相場や感情だけをもとに高額請求をするのは危険です。請求額が大きすぎると、相手が強く反発し、弁護士を立てるきっかけになることがあります。
慰謝料額は、婚姻期間、別居・離婚の有無、不貞期間、回数、悪質性、夫婦関係への影響、証拠の強さ、既に支払われた金額などによって変わります。相場より高く請求する余地がある場合でも、なぜその金額になるのかを説明できなければ、交渉は進みにくくなります。
特に、不倫相手に対して離婚に伴う慰謝料まで当然に上乗せできるわけではありません。最高裁平成31年2月19日第三小法廷判決は、不倫相手に離婚慰謝料を請求するには、夫婦を離婚させる意図で婚姻関係に不当干渉したなどの特段の事情が必要であると判示しています。請求額を決めるときは、単なる相場表だけでなく、裁判例の考え方も踏まえる必要があります。
直接面談で署名を迫らない
相手を呼び出して、直接謝罪させたり、その場で示談書に署名させたりする進め方も危険です。請求する側から見ると、「相手が納得して署名した」と思っていても、相手からは「怖くて断れなかった」「親族に囲まれて署名させられた」「内容を理解しないままサインした」と主張されることがあります。
特に、親族や知人を同席させる、長時間話し合う、逃げにくい場所で面談する、空欄のある書面に署名させるといった方法は避けるべきです。後から強迫、錯誤、無効・取消し、過大請求などが争点になると、せっかく合意した内容が紛争の火種になります。
自分で交渉する場合でも、相手に署名を求める前に、金額、支払方法、清算条項、接触禁止、口外禁止、求償権の扱いなどを明確にし、相手が内容を確認できる時間を確保する方が安全です。
示談書を簡単なテンプレートだけで済ませない
示談書は、慰謝料の金額を書くだけの書面ではありません。示談書の条項が不十分だと、支払い後に追加請求できるか、相手が配偶者へ求償できるか、今後の接触を禁止できるか、第三者に話した場合にどうするかなどが曖昧になります。
テンプレートを使う場合でも、空欄、矛盾した条項、不要な条項、事案に合わない違約金条項が残っていないかを確認する必要があります。特に、分割払い、求償権放棄、口外禁止、接触禁止、違約金、公正証書化は、事案によって必要性が変わります。
なお、実務家の感覚だと当事者同士で作成した示談書は無効の主張がしやすくなります。示談書が無効になる場合についての記事もご覧ください。
請求する側でも、相手を追い詰めるような面談や、不十分な書面への署名要求は避けるべきです。慰謝料請求は、相手を困らせることではなく、法的に説明できる範囲で適切な解決を目指す手続です。
弁護士に相談すべきケースと、依頼すると変わること
弁護士を通さずに慰謝料請求できるとしても、すべての事案で自力請求が向いているわけではありません。むしろ、証拠、請求額、相手の反論、相手情報、調停・訴訟の可能性が問題になる事案では、早い段階で弁護士に相談した方が安全です。
弁護士に依頼する意味は、単に「代わりに連絡してもらうこと」だけではありません。証拠の見方、請求額の調整、裁判例の確認、書面の設計、相手の反論への対応、調停・訴訟の見通しまで含めて、一連の交渉を組み立てられる点にあります。
自分で請求する前に相談した方がよいケース
次のような場合は、最初から自分だけで進めるより、請求前に弁護士へ相談することをおすすめします。
- 証拠が弱い場合:LINEや写真はあるものの、肉体関係の立証に不安がある場合は、請求前に証拠評価が必要です。
- 相手の氏名・住所が分からない場合:SNSや勤務先だけを頼りに連絡すると、名誉毀損やプライバシー侵害のリスクがあります。
- 時効が近い場合:催告、協議、訴訟提起など、期限管理を誤ると請求できなくなるおそれがあります。
- 高額請求をしたい場合:裁判例や事案の特徴を踏まえて、請求額の根拠を整理する必要があります。
- 相手が既婚者と知らなかったと反論しそうな場合:故意・過失の有無が争点になり、証拠の組み立てが重要になります。
特に相手の身元が分からない場合、本人が無理に勤務先や家族へ連絡するのは避けるべきです。弁護士であれば、受任事件に必要な範囲で職務上請求や弁護士会照会などを検討できることがあります。弁護士会照会は、弁護士法第23条の2に基づき、弁護士会が官公庁や企業などへ必要事項を照会する制度です。
弁護士会照会制度の概要は、日弁連の弁護士会照会制度の説明でも確認できます。ただし、これらは弁護士が依頼を受けた事件について、必要性・相当性のある範囲で検討する手段であり、どの事案でも必ず使えるわけではありません。
自力請求を始めた後に切り替えるべきケース
すでに自分で請求書を送った後でも、状況によっては弁護士へ切り替えるべきです。特に、相手が弁護士を立てた場合、本人同士の交渉から、法律上の主張と証拠を前提にした交渉へ変わります。
相手方弁護士から回答書が届いた場合、そこには、事実関係の否認、慰謝料額の争い、既婚認識の否定、夫婦関係破綻の主張、求償権の主張などが含まれることがあります。どの反論に反論すべきか、どの条件で和解すべきかを本人だけで判断するのは難しいことがあります。
また、相手が無視を続ける場合や、分割払いしかできないと主張する場合、口外禁止・接触禁止・求償権放棄などの条項で対立する場合も、交渉の組み立てが必要です。ここで無理に押し切ろうとすると、交渉がこじれて調停・訴訟へ移行しやすくなります。
弁護士に依頼すると変わること
弁護士に依頼すると、まず証拠を「裁判になったときに通用するか」という視点で確認できます。LINEや写真の見方、相手の既婚認識を示す事情、夫婦関係破綻の反論への備えなどを整理したうえで、請求額と交渉方針を決めます。
また、慰謝料額については、単に相場表を見るだけではなく、類似事案の裁判例を確認し、婚姻期間、別居・離婚の有無、不貞期間、悪質性、証拠の強さなどを踏まえて調整します。弁護士であれば、判例検索データベースや判例誌を使って、事案に近い裁判例を探すこともあります。自分で請求する場合でも、本来はこの程度の検討をしたうえで金額を決めることが望ましいです。
さらに、内容証明の文面や示談書の条項も、単発の書面ではなく、交渉全体の流れを見て作成します。相手が否認する場合、減額を求める場合、分割払いを希望する場合、求償権を主張する場合に備えて、どの条件なら合意できるかをあらかじめ設計しておくことが重要です。
このように、弁護士に依頼する意味は、請求書を強い文面にすることではありません。証拠、裁判例、請求額、交渉、示談条項、調停・訴訟の見通しを一体として検討し、回収可能性とリスクのバランスを取ることにあります。
よくある質問
弁護士を通さず慰謝料請求すると違法になりますか?
請求すること自体が違法になるわけではありません。本人が相手に請求書を送り、話し合いをすることは可能です。ただし、脅しと受け取られる表現、勤務先や家族への暴露、SNS投稿、過度な連絡などは違法と評価されるリスクがあります。
自分で内容証明を送れば相手に支払わせられますか?
内容証明は、どのような文書を送ったかを証明する手段であり、相手に支払いを強制するものではありません。相手が争う場合には、証拠や請求額の根拠を示して交渉し、それでも解決しなければ調停や訴訟を検討することになります。
慰謝料請求はLINEだけでもできますか?
LINEの内容によっては、不倫関係や既婚認識を示す証拠になることがあります。ただし、LINEだけでは肉体関係の立証が弱い場合もあります。ホテルの出入り、宿泊、写真、探偵報告書、自白など、他の証拠と組み合わせて判断することが大切です。
相手が無視した場合はすぐ裁判するべきですか?
すぐに裁判と決める必要はありません。再通知、調停、弁護士名義での通知、訴訟など、状況に応じた選択肢があります。本人で訴訟まで進めるのは負担が大きいため、無視が続く場合は、証拠と請求額を整理して相談する方が安全です。
本人で調停を申し立てることはできますか?
本人で民事調停を申し立てることは可能です。調停は話し合い型の手続なので、訴訟より本人対応しやすい場面もあります。ただし、相手が合意しなければ成立せず、証拠や金額が大きく争われる場合には、調停だけで解決しないこともあります。
慰謝料を請求された側が弁護士なしで対応する方法も同じですか?
同じではありません。この記事は、慰謝料を請求する側が自分で請求する場合の解説です。慰謝料を請求された側は、支払義務、減額理由、時効、相手の証拠、示談書への署名など、確認すべきポイントが異なります。
まとめ
弁護士を通さず慰謝料請求することは可能ですが、実際には、請求前の準備、内容証明、交渉、示談書、相手が応じない場合の対応まで、自分で判断しなければなりません。
- 自分で請求する場合でも、証拠・請求額・時効の確認は必要です。
- 内容証明は強制力ではなく、送付内容を証拠化する手段です。
- 相手が応じない場合は、調停・訴訟・弁護士相談を分けて検討します。
- 勤務先・親族・SNSへの暴露や強引な面談は、反訴リスクがあります。
- 証拠が弱い、相手が弁護士を立てた、調停・訴訟を考える場合は早めに相談しましょう。
自分で請求を始める前に、手元の証拠、相手情報、希望する請求額、支払条件、今後避けたいことを整理しておくと、弁護士に相談する場合にも見通しを立てやすくなります。反対に、感情的に連絡してしまうと、請求する側であっても不利な材料を残すことがあります。
坂尾陽弁護士
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自分で慰謝料請求を進める場合でも、すべてを1つの記事で判断するのは難しいことがあります。必要に応じて、次の記事も確認してください。
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