不倫慰謝料の話し合いは、金額や支払い方法だけで終わるとは限りません。むしろ現場では、求償権(肩代わり・負担割合)、税金、恐喝・脅迫まがいの要求、名誉毀損・プライバシー侵害(暴露・晒し)、嫌がらせといった「周辺トラブル」で二次被害が広がることが少なくありません。
この記事では、次の疑問に答えます。
- 求償権や肩代わりで、あとから揉めるのはどんなとき?
- 慰謝料をもらう側・払う側で、税金の心配は必要?
- 「会社に言う」「家族にばらす」は恐喝・脅迫になる?
- SNSで暴露・晒しをされた(してしまいそう)ときの違法ラインは?
- 嫌がらせが続くとき、まず何を証拠として残せばいい?
不倫慰謝料・不法行為の基本構造と、交渉実務上の注意点を踏まえて、個別事情で結論が変わりうるポイントも含めて整理します。
「一度送ったメッセージ」「一度払ったお金」「一度サインした示談書」は、後から取り返すのが難しくなりがちです。感情が高ぶっているときほど、まず“初動の型”を優先しましょう。
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2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

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周辺トラブルの全体像:まず「類型」と「初動の原則」を押さえる
不倫慰謝料の周辺トラブルは、ざっくり言うと次の5類型に分けて考えると整理しやすいです。
1)求償権・肩代わり(負担割合の争い)
配偶者(不倫した側)と不倫相手が「共同不法行為」と評価される場面では、被害者側に対しては“まとめて責任を負う”形になりやすい一方、支払った側がもう一方に負担分を求める(求償する)局面で揉めます。
2)税金・名目(示談金/解決金)の誤解
「慰謝料だから非課税」と単純に決めつけると危険な場面があります。逆に「示談金」「解決金」と呼べば税金がかかる、というわけでもありません。
3)恐喝・脅迫・不当要求(要求のエスカレート)
請求自体が直ちに違法になるわけではありませんが、「言うことを聞かなければ不利益を与える」と迫ると、刑事・民事のリスクが出ます。
4)名誉毀損・プライバシー侵害(暴露・晒し)
SNS投稿、職場への連絡、家族や知人への拡散などは、慰謝料の問題を超えて別の紛争(削除・開示・損害賠償)に発展します。
5)嫌がらせ(接触が続く・ストーカー化)
連絡が止まらない、家の近くに来る、周辺へ言いふらす等は、精神的負担が大きいだけでなく、早期に手を打たないと長期化します。
そして、請求する側/された側のどちらにも共通する「初動の原則」は次の3つです。
- 窓口を一本化して“言った言わない”を減らす(できれば書面・メッセージ中心)
- 証拠と記録を先に固める(通話履歴、メッセージ、SNS投稿、送金記録など)
- 合意は必ず書面化し、再燃ポイント(求償権・接触・守秘)を潰す
なお、そもそも「不倫慰謝料の基本(請求の条件・相場・手続き)」から確認したい場合は、全体像をまとめたページも参考になります。
不倫慰謝料とは?請求・減額・相場・手続きの全体像(請求する側/請求された側)
このページ(周辺トラブル)で扱う個別テーマは、以下の記事で深掘りしています。
【索引:求償権・肩代わり・二重取り(負担割合/条項)】
【索引:税金】
【索引:恐喝・脅迫・不当要求】
【索引:暴露・晒し(名誉毀損/プライバシー侵害)・嫌がらせ】
【索引:刑事責任(犯罪との関係)】
【索引:解決事例(トラブルが現実に起きたケース)】
求償権・肩代わりで揉めないためのポイント
求償権トラブルがやっかいなのは、「被害者に払う話(対外)」と「当事者間で割り勘する話(内部)」が別物だからです。
たとえば不倫慰謝料では、被害者(配偶者)から見れば「配偶者(不倫した側)」と「不倫相手」のどちらにも請求できる場面があり、先にどちらかが支払うこともあります。ところが、支払った側はその後、もう一方に対して「あなたの分も払ったから負担して」と求めたくなることがあります。これが求償権の入口です。
請求する側(被害者側)からすると、次の点で揉めやすいです。
・片方と先に和解した結果、もう片方への請求が“想定より減る”(二重取りはできません)
・「免除」「清算条項」の書き方次第で、残りの請求余地が狭まったと感じる
・「肩代わりするから一括で払う」と言われ、後から当事者同士の争いに巻き込まれる
請求された側(配偶者側/不倫相手側)からすると、次の点がリスクです。
・よく分からないまま一括で支払ってしまい、後から求償される/できないで揉める
・示談書で求償権を放棄させる条項が入り、支払った側が“回収できない”状態になる
・支払額が「相場」や「責任割合」とかけ離れていて、内部負担の争いが激化する
求償権の基本を先に押さえたい方は、次の記事が役に立ちます。
また、求償権は示談書の条項(放棄条項など)で結論が大きく変わることがあります。サイン前に「その条項が何を失わせるか」を確認することが重要です。
税金(所得税・贈与税)と「示談金/解決金」名目の注意
慰謝料の税金は、結論だけ知りたい方が多い一方で、**「原則」と「例外」**を分けて考えないと危険です。
一般的に、精神的苦痛に対する損害賠償(いわゆる慰謝料)は課税されない整理になることが多いです。もっとも、実際の支払いは「示談金」「解決金」などの名目で行われることもあり、名目だけで判断するとズレます。
たとえば、次のような事情が絡むと、税務上の評価が問題になりやすくなります。
・慰謝料以外の性質(財産の移転、事業上の補填など)が混ざっている
・第三者への支払いが絡み、贈与・経済的利益の問題が顔を出す
・合意書の書き方が粗く、支払いの趣旨が読み取れない
「慰謝料か、単なるお金のやりとりか」は、後から説明できる形にしておくことが大切です。合意書の文言・振込記録・やりとりの経緯が、結果的に“説明資料”になります。
税金の論点だけをまとめて確認したい方は、こちらも参考になります。
恐喝・脅迫と紙一重にならない請求/要求の線引き
不倫慰謝料の請求は、適法な権利行使として行われることがあります。しかし、交渉が感情的になり、要求がエスカレートすると「やり方」が問題になります。
ポイントは、お金の要求とセットで“害を告知する”形になっていないか、そしてその害が社会通念上、許される範囲を超える圧力になっていないか、です。
・「払わないなら職場に連絡する」「家族に全部ばらす」などの告知をして金銭を迫る
・法的根拠が薄いのに、期限で追い込み高額を強要する
・面会を強く求め、断ると不利益を示唆する(身の安全面でも危険)
請求する側は、回収したい気持ちが強いほど「圧」をかけたくなりますが、違法性の議論に入ると、主導権が一気に崩れます。請求された側も、怖さから即決で支払うのではなく、証拠化→窓口一本化→専門家相談の順で落ち着かせるのが基本です。
恐喝・脅迫の境界や、要求が過激化したときの初動を整理した記事はこちらです。
名誉毀損・プライバシー侵害(暴露・晒し)/嫌がらせへの対処
不倫慰謝料の周辺で、いちばん「取り返しがつきにくい」のが情報拡散系のトラブルです。なぜなら、投稿や連絡が一度広がると、削除しても完全には回収できず、被害が長期化しやすいからです。
請求する側が注意すべきこと
不倫の事実をSNS等で暴露・晒ししてしまうと、相手から名誉毀損やプライバシー侵害として反撃され、慰謝料交渉そのものが泥沼化することがあります。
「正しいことを書いている」つもりでも、私生活上の事実の公表が違法と評価される場面はあり得ます。怒りの出口をネットに求めるほど、回収のゴールが遠のきやすい点は要注意です。
請求された側(暴露された側/嫌がらせを受けた側)がやるべきこと
まずは、相手の言動を止めるために「反論合戦」へ入らないことが重要です。次に、以下を淡々と進めます。
・投稿やメッセージの証拠保全(URL、日時、スクリーンショット、ログ)
・削除依頼(プラットフォーム、サイト管理者)
・必要に応じて警告書(連絡禁止・投稿禁止・接触禁止を明確化)
・匿名投稿なら、発信者情報の開示など、法的手続きの検討
暴露・晒し(SNS等)に特化した手順は、次の記事で詳しく整理しています。
また、嫌がらせが続くケースでは、連絡禁止や警告書の設計が効いてくることがあります。
最後に、周辺トラブルの“再発防止”として効くのが示談書の設計です。金額だけでなく、守秘・接触禁止・SNS投稿禁止・違反時の扱い(違約金等)まで、現実的に決められる範囲で決めておくと、蒸し返しを抑えやすくなります。
まとめ:結局、何から確認すべきか(要点の再整理)
周辺トラブルで損をしないための要点をまとめます。
- 金額だけでなく、求償権・税金・情報拡散リスクをセットで点検する
- 脅しや暴露で押し切ろうとすると、恐喝・名誉毀損など別の火種が増えやすい
- 支払う前・サイン前に、清算条項/求償権/守秘/接触禁止の抜けを潰す
- 晒し・嫌がらせは「証拠保全→削除/警告→手続き」を淡々と進める
- こじれる前に窓口を一本化し、交渉と危機対応を切り分ける
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