不倫が一度だけの慰謝料の相場【実例付き】|1回でも請求される条件と金額の決まり方

はじめに:不倫が一度だけでも慰謝料で悩む人へ

「不倫は一度だけだったのに、慰謝料を請求された」「相手の配偶者から300万円、600万円など高額な金額を求められて怖い」――このような状況は、決して珍しくありません。

不倫が一度だけでも、条件を満たせば慰謝料の話になることはあります。もっとも、請求された金額がそのまま認められるとは限りませんし、「一度だけ」という事情は慰謝料を考えるうえで重要な要素になり得ます。

この記事では、次のような悩みに答えます。

  • 不倫が一度だけでも慰謝料を払う必要があるのか
  • 「不貞行為」と扱われるラインはどこか(連絡・食事だけでもアウト?)
  • 不倫が一度だけの場合、慰謝料の相場はどのくらいか
  • なぜ“一度だけ”でも高額請求されることがあるのか(考え方の前提)

「一度だけだから大丈夫」「とりあえず謝って払えば終わる」と自己判断すると、かえって不利になることがあります。まずは落ち着いて、条件と相場の枠組みを押さえてください。

一夜の過ちでも慰謝料されるのという疑問にお答えします!
(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

不倫慰謝料に詳しい坂尾陽弁護士

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不倫が一度だけでも慰謝料が発生する条件

結論からいうと、「不倫が一度だけ」でも慰謝料が問題になることはあります。

ただし、ポイントは「一度だけかどうか」だけではありません。法律上は、主に次のような観点で“慰謝料の話になるか(責任が生じるか)”が判断されます。

「不貞行為」と評価されるライン

一般に、不倫慰謝料の場面で問題となるのは、配偶者のある人と第三者が行う不貞行為です。

ここでいう不貞行為は、イメージとしては「肉体関係(性的関係)」を指すことが多く、単なる連絡や食事だけでは、通常は不貞行為とまでは評価されにくい傾向があります。

ただし、注意点もあります。

  • 慰謝料の請求が問題になるのは、基本的に「肉体関係があった(またはそれに準ずる行為があった)」といえる場合です。
  • LINEやDMのやり取り、食事、デートなどは、それだけで直ちに不貞行為と評価されるとは限りません。
  • もっとも、やり取りの内容や状況によっては「肉体関係を推認させる事情」として使われ、交渉がこじれるきっかけになることがあります。

「一度だけ」でも、肉体関係が認められるなら不貞行為として扱われ得ます。一方で、肉体関係が争点になる場合は、**相手が何を根拠に主張しているのか(証拠・状況)**を冷静に確認することが重要です。

既婚者と知っていたか(故意・過失)

不倫慰謝料では、「相手が既婚者だと知っていたか(または知るべきだったか)」が大きな分かれ目になります。

分かりやすく整理すると、次のとおりです。

  • 既婚者だと知っていて関係を持った場合
    → 慰謝料の話になりやすい(責任が肯定されやすい)
  • 既婚者だと知らず、注意しても知りようがなかった場合
    → 事情によっては、慰謝料の責任が否定される余地がある

「既婚と知らなかった」といっても、職場・SNS・周囲の話・会話の流れなどから通常は気づけたはず、と評価されると難しくなることがあります。逆に、相手から独身だと強く説明されていた、結婚をうかがわせる事情が見当たらなかった、といった事情が丁寧に整理できると結論が変わることもあります。

慰謝料が問題になる理由(婚姻関係の侵害)

「一度だけなのに、なぜ慰謝料なのか」と感じる方は多いと思います。

不倫慰謝料は、ざっくり言うと「配偶者として守られるべき婚姻関係(夫婦関係)を侵害されたことによる精神的苦痛」を理由に請求されます。つまり、回数が少なくても、夫婦側が受けた精神的ダメージが問題になる、という考え方です。

また、次の点も重要です。

  • 夫婦関係がすでに事実上破綻していた場合は、慰謝料が認められにくいことがある
  • 逆に、夫婦関係が安定していた・子どもがいる・発覚後に離婚や別居に至った等の事情があると、慰謝料が問題になりやすい

「一度だけ」という事情は、慰謝料の金額(増減)に強く影響しやすい一方で、条件次第では請求自体が成り立ちにくい場合もあります。まずは、この枠組みを押さえることが出発点です。

不倫が一度だけの慰謝料相場

「不倫 一度だけ 慰謝料」で検索する方が最も知りたいのは、おそらくここです。

ただ、慰謝料には“固定の定価”がありません。請求書に「300万円」「600万円」と書かれていても、それがそのまま妥当とは限らず、最終的にはさまざまな事情を総合して決まります。

相場が決まらない理由(事案で上下する)

不倫慰謝料の金額は、ざっくりいえば「不貞行為の内容」と「婚姻関係への影響」の強さで上下します。

とくに、一度だけのケースでも金額が動きやすい代表的な事情は次のとおりです。

  • 不貞行為が1回か、複数回か(期間がどの程度か)
  • 相手夫婦の婚姻期間(長いか短いか)、子どもの有無
  • 発覚の経緯と、発覚後に別居・離婚など重大な変化があったか
  • 既婚者と知っていたか、だまされていたか(故意・過失)
  • 関係の主導性(どちらが積極的だったか)、強引・酩酊などの事情があるか
  • 謝罪や対応の仕方(誠実さ)と、紛争を長引かせたか

このように、「一度だけ」という要素は重要ですが、それだけで機械的に金額が決まるわけではありません。

「一度だけ」で特に見られやすい評価ポイント

一般論として、不倫が一度だけのケースは、長期・複数回のケースに比べて慰謝料が低めに落ち着く傾向があります。

目安としては、交渉・裁判を含めると、数十万円〜100万円台で着地することが比較的多い一方、事情が重なると100万円台後半〜200万円超が視野に入ることもあります。逆に、条件次第では「そもそも責任が認められにくい(請求が通りにくい)」方向の議論になることもあります。

金額が動きやすいポイントを、「増えやすい方向」と「下がりやすい方向」に分けて整理すると次のとおりです。

まず、金額が上がりやすい典型です。

  • 夫婦の婚姻期間が長い、子どもがいる
  • 発覚をきっかけに別居・離婚など大きな変化が生じた
  • 明確な肉体関係を裏付ける証拠がある
  • 不貞相手が既婚であることを明確に認識していた

次に、「一度だけ」のケースで金額が下がりやすい方向の典型です。

  • 不貞行為が文字どおり1回のみで、期間性がない
  • 相手夫婦の婚姻期間が比較的短い
  • 既婚だと知らなかった、だまされていたなど事情がある
  • 主導性が低い、強引・酩酊など同意や状況に問題がある(主張の組み立てが重要)
注意

請求額が相場より高く見えても、「相手が事実関係を把握できず、最悪の前提で疑っている」ために高くなることがあります。反射的に全面的な認め方をすると、下げられる余地まで失うことがあるので注意してください。

慰謝料が増額・減額されるポイント

不倫が一度だけ(不貞行為が1回)だとしても、慰謝料の金額は「一度だけ」という事実だけで決まるわけではありません。

実際の交渉では、相手(配偶者)が抱いている疑い(長期不貞では?など)や、夫婦関係への影響、発覚後の対応などが重なって、請求額が大きく上下します。

ここでは、不倫 一度だけ 慰謝料で悩む人が特に押さえておくべき「増額されやすい事情」「減額されやすい事情」「証拠と交渉の現実」を整理します。

増額されやすい事情

一度だけの不倫でも、次のような事情が重なると慰謝料が高くなりやすい傾向があります。とくに、請求された側は「一度だけだから安いはず」と思い込みやすいので注意してください。

  • 相手夫婦の婚姻期間が長い、夫婦関係が安定していた
  • 子どもがいる、家庭への影響が大きい(精神的負担が強いと評価されやすい)
  • 発覚をきっかけに別居・離婚など、夫婦関係に重大な変化が生じた
  • 既婚者だと明確に知っていた(故意が強い)といえる事情がある
  • 不貞行為の態様が悪質(反省がない、開き直り、発覚後も関係継続など)
  • 相手が手堅い証拠を持っている(ホテル出入り、肉体関係を直接推認できる記録など)

増額要素を見落とすと、「相場から考えて高いから払わない」と突っぱねた結果、話がこじれて裁判に進み、余計に負担が増えることがあります。逆に、相手の不安や怒りのポイントがどこにあるかを把握できると、金額だけでなく条件面も含めて落としどころを作りやすくなります。

減額されやすい事情

一方で、不倫が一度だけのケースは、事情を丁寧に整理すれば慰謝料を減額できる余地が比較的大きいことがあります。ポイントは「一度だけだった」という結論だけでなく、なぜ一度だけなのか/なぜ長期不貞ではないのかを、相手が納得できる形で説明できるかどうかです。

  • 不貞行為が文字どおり1回のみで、期間性・継続性がない
  • 相手夫婦の婚姻期間が比較的短い
  • 既婚者だと知らなかった、独身だと誤信させられた等の事情がある
  • 主導性が低い(相手から強く誘われた、断りにくい立場差があった等)
  • 発覚後、関係が終わっており、再発防止策(連絡遮断など)を具体化できる
  • 相手の主張を裏付ける証拠が弱い、推測に寄っている(ただし油断は禁物)

ここからは、一度だけ案件で特に効きやすい減額ポイントをもう少し掘り下げます。

婚姻期間が短い場合の見立て

慰謝料の増減では、不貞行為の回数・期間と並んで、相手夫婦の婚姻期間が重視されることがあります。

婚姻期間が短い場合、一般論としては「長年かけて築かれた夫婦関係が壊された」という評価になりにくく、金額が抑えられる方向に働くことがあります。

ただし、婚姻期間が短くても、

  • すでに子どもがいる
  • 発覚後に離婚・別居などの重大な変化が起きた
  • 証拠が強く、態様も悪質と評価される事情がある

といった要素があると、単純には下がりません。

「婚姻期間が短いから安い」と決めつけるのではなく、他の事情とセットで見立てることが大切です。

「連絡期間が長い=長期不貞」ではない

一度だけの不倫で高額請求される典型に、「連絡期間(LINEやDMのやりとり)が長い」ことがあります。

相手(配偶者)からすると、あなたと配偶者が長期間連絡を取り合っていた事実だけで、

  • 長い期間ずっと肉体関係が続いていたのでは?
  • 何度も会っていたのでは?
  • 本当は1回ではなく、隠しているのでは?

と疑ってしまいがちです。

しかし、連絡期間が長いことと、不貞行為(肉体関係)が継続していたことは別問題です。ここを切り分けるには、次のような整理が役に立ちます。

  • 実際に会った日・場所・回数を時系列で整理する(会っていない期間が長いなら明確にする)
  • 肉体関係があったのが「特定の1日」だといえる根拠を固める(その前後の状況も含めて説明できるようにする)
  • メッセージの内容が誤解を招く場合、どの部分が誤解ポイントかを把握する

「一度だけ」を主張するうえでは、相手の疑いを刺激しない言い回しと、事実関係の整理がセットで必要になります。

証拠の強さと交渉の現実

慰謝料の交渉は、きれいな理屈だけで決まるわけではなく、「相手がどれくらい確信しているか」「どれくらい証拠を持っているか」によって、交渉の難易度が大きく変わります。

請求された側がまず確認したいのは、次の2点です。

  • 相手は何を根拠に「不貞行為があった」「長期にわたる」と主張しているのか
  • その根拠は、推測なのか、客観的な証拠なのか

たとえば、ホテルの領収書・出入り写真・肉体関係を強く推認できるメッセージなどが揃っていると、争い方は変わります。一方、根拠が「連絡が長い」「最近様子がおかしい」といった推測中心であれば、事実関係の整理と説明によって、過大な請求を修正できる余地が出てきます。

注意

「証拠が弱そうだから大丈夫」と自己判断するのは危険です。相手が何を持っているか分からない段階で、こちらが不用意に事実を補ってしまうと、交渉が一気に不利になることがあります。

一度だけの不倫慰謝料で重要なのは、「争う」か「収束させる」かの方向性を、証拠状況と希望(早期解決か、徹底減額か)に合わせて決めることです。

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「一度だけなのに高額請求」になりやすい典型パターン

不倫が一度だけなのに、300万円、600万円といった高額の慰謝料を請求されると、「相場から見ておかしい」「脅しでは?」と感じるかもしれません。

しかし、高額請求の背景には、次のような“構造”があることが多いです。

  • 不倫をした側は、回数・期間・事情を知っている
  • 請求する側(配偶者)は、真相が分からず、最悪の想定で考えやすい

つまり、相手が「長期間・複数回の悪質な不倫だった」と疑っている状態だと、請求額が跳ね上がりやすいのです。ここでは、一度だけ案件でよくある高額請求パターンと、対処の考え方を整理します。

連絡期間が長く、長期不貞を疑われる

一度だけ案件の“あるある”が、「肉体関係は一回だが、連絡を取っていた期間は長い」というパターンです。

この場合、請求する側は次のように考えがちです。

  • 2年も連絡していたなら、ずっと関係があったはず
  • 1回だけというのは嘘では?
  • 証拠が揃っていないだけで、実際はもっと悪質なはず

この疑いを放置すると、交渉は前提から噛み合いません。重要なのは、「一度だけ」を感情で押し返すのではなく、事実関係を構造化して説明することです。

たとえば、次のような整理が有効です。

  • 連絡を取っていた期間と、実際に会った日を切り分ける(会っていない期間が長いなら明確にする)
  • 会った回数の中で、肉体関係があったのがいつなのかを特定する
  • その後に肉体関係がないことを説明できる事情(距離、状況変化、関係解消の経緯など)を整理する

一度だけの不倫慰謝料で揉めるときは、金額の前に「前提(長期不貞かどうか)」で対立していることが多いので、前提の修正から入るのがポイントです。

 “反省しているから支払う”が危ない場面

不倫が発覚した直後は、「とにかく謝って、言われたとおり払えば終わる」と考えやすいです。しかし、初動での言動が、その後の交渉を不利にすることがあります。

とくに注意したいのは、次のようなケースです。

  • 事実関係が整理できていないのに、「長期不貞だった」と受け取られる言い方をしてしまう
  • 金額の妥当性を確認しないまま、「払います」と明言してしまう
  • 相手の怒りを和らげようとして、必要以上に話を盛ってしまう(会った回数を曖昧に増やす等)

反省や謝罪そのものが悪いわけではありません。問題は、“反省の表明”と“法的な前提(事実関係・金額)”をごちゃ混ぜにすることです。

もし連絡を取る必要があるなら、少なくとも、

  • 事実関係は整理してから回答する
  • 金額については「検討して改めて回答する」と伝える
  • 期限がある場合は、放置せず、回答方針だけでも早めに示す

といったスタンスが安全です。

一度だけのケースほど、「相手の疑い」と「こちらの説明不足」で金額が跳ね上がりやすいです。気持ちで押し切らず、事実と条件を分けて話しましょう。

示談条件が金額以外で揉めるポイント

不倫慰謝料の示談は、金額だけで終わらないことがあります。むしろ、早期解決を目指すほど「条件面」で揉めやすいので注意が必要です。

一度だけの不倫でよく出る条件は、たとえば次のようなものです。

  • 接触禁止(本人・家族・職場への連絡禁止を含む)
  • 口外禁止(SNS投稿や職場での言及を禁止する趣旨)
  • 清算条項(これ以上、追加の請求をしない旨)
  • 分割払いの可否、支払期日、遅延時の取り扱い
  • 求償の問題(当事者間での負担調整が争点になることがある)

「とにかく早く終わらせたい」と焦るほど、条件をよく読まずに合意してしまいがちです。示談書は、後から撤回しにくい性質があるため、金額だけでなく条項の意味も確認することが大切です。

強引・酩酊など「同意の有無」が争点になるケース

不倫が一度だけのケースの中には、単に「魔が差した」という話ではなく、

  • 強引に迫られた
  • お酒で酩酊していて判断が鈍っていた
  • 立場差があり、断りにくかった(職場の上下関係など)

といった事情が絡むことがあります。

このような場合、「不貞行為 1回」という事実だけで機械的に判断するのではなく、当時の状況や主導性を丁寧に整理することが重要です。場合によっては、慰謝料の減額につながるだけでなく、そもそも責任の有無が問題になることもあります。

主導性・拒絶の有無が評価に与える影響

不倫慰謝料では、一般に「どちらが積極的だったか」「拒絶できたのにしなかったのか」といった点が、金額の評価に影響することがあります。

たとえば、次のような事情があると、少なくとも減額方向で検討される余地が出てきます。

  • こちらは複数回断っていたが、相手が執拗に誘ってきた
  • 年齢差・社歴差・職場の上下関係などがあり、強く拒絶しにくい状況だった
  • 酩酊して判断能力が低下していた中で、相手から強く迫られた
  • 関係を継続する意思はなく、その一度きりで終わっている

「強引だった」「同意がなかった」という事情は、感情的に語ると反発を招きやすい一方で、事実関係を整理して伝えれば、相手の誤解(継続的・積極的な不倫だったという見方)を修正する材料になることがあります。

主張・証拠整理の注意点

同意や主導性の争いは、扱い方を間違えると紛争が激化しやすい論点です。次の点には注意してください。

  • 相手(配偶者)は「不倫をした側が言い訳している」と受け取りやすい
  • 主張するなら、当時の状況を具体的に説明できる準備が必要(時系列、やり取り、断った経緯など)
  • 感情的な非難合戦になると、解決が長引き、条件も厳しくなりやすい

また、同意が争点になるケースでは、「慰謝料の話」だけでなく、当事者間の力関係やトラブルの性質自体が複雑になりやすいです。

そのため、

  • 何を目標にするか(徹底的な減額か、早期の収束か)を先に決める
  • 主張するポイントを絞り、事実ベースで整理する

といった進め方が大切になります。状況によって最適解が変わるため、早い段階で整理しておくと、不要な泥沼化を避けやすくなります。

慰謝料を請求された側の初動と交渉の進め方

不倫が一度だけでも、相手(配偶者)から慰謝料を請求されると、強い不安や焦りが出やすいと思います。

ただ、ここでの初動を間違えると、もともと「一度だけ」だったのに、相手の疑いが強まって金額や条件が厳しくなることがあります。逆に、事実関係と希望(早期解決か、徹底減額か)を整理して進めれば、解決までの道筋は作れます。

以下では、請求された側が取るべき行動を「まず確認→NG対応→交渉の基本」の順にまとめます。

まず確認すること(請求根拠・期限・証拠)

まずは、届いた書面や連絡内容を見て、次の点を整理してください。頭の中だけで考えるより、メモに書き出した方が混乱を減らせます。

  • 誰からの請求か(配偶者本人か、弁護士名義か)
  • 請求されている金額はいくらか(慰謝料、調査費用、弁護士費用などが混ざっていないか)
  • 回答期限・支払期限はいつか(「〇日までに回答」など)
  • 相手が主張する不倫の内容(いつから、何回、どこで、どの程度の関係か)
  • 相手が求めていることは金銭だけか(謝罪文、接触禁止、連絡先削除、口外禁止など)
  • 相手が示している証拠は何か(写真、領収書、メッセージ、ホテルの記録など)

次に、自分側の事実関係も整理します。ここで「一度だけ」の主張を支える材料が固まると、交渉の軸がぶれにくくなります。

  • 連絡を取り始めた時期と、実際に会った日(時系列)
  • 肉体関係があったのがいつか(本当に1回か)
  • その後に関係が続いていない事情(会っていない期間、関係を断った経緯など)
  • 相手が既婚者だと知ったタイミング(知っていた/知らなかった)
  • 発覚後の状況(相手夫婦が離婚・別居に至ったか等、分かる範囲で)

請求を放置するのが一番危険です。すぐに結論を出せなくても、「期限までに回答する意思がある」ことだけは伝える方が安全なケースが多いです。

やってはいけない対応

不倫慰謝料の交渉で、よくある失敗は「焦って、言わなくていいことまで言ってしまう」ことです。特に一度だけのケースでは、相手が疑いを強めやすいため、言動がそのまま不利材料になることがあります。

注意

次の対応は、状況を悪化させやすいので避けてください。

  • 無視して期限を過ぎる(訴訟・勤務先への連絡など、相手が強硬になる原因になりやすい)
  • 事実関係が固まる前に「全部認めます」「長く続いていました」など曖昧に認める
  • 「怖いから」と言われるまま高額を即決で支払う(後から戻すのは難しい)
  • 相手(配偶者)に直接電話して感情的にやり合う(録音・文章化されるリスクもある)
  • 不利な証拠を消そうとする、相手に消すよう求める(交渉が決裂しやすい)
  • SNS等で相手を非難する、名誉を傷つける投稿をする

謝罪そのものが悪いわけではありません。ただ、謝罪と同時に「長期不貞だった」と受け取られる言い回しをしてしまったり、金額や条件を確定させてしまったりすると、後から修正が難しくなります。

もし連絡をするなら、最低限次のスタンスが無難です。

  • 期限内に返信する(ただし結論は急がない)
  • 金額は「検討して改めて回答する」
  • 事実関係は「整理の上、回答する」

減額交渉の基本(分割・条件・示談書)

「一度だけ」案件の交渉は、やみくもに値切るのではなく、減額の理由を構造的に示して、着地点を作ることが重要です。

交渉の基本は、次の順番で考えると整理しやすいです。

  • ① 目標を決める(徹底減額か/スピード解決か)
  • ② 争点を決める(長期不貞かどうか、既婚認識、夫婦への影響、主導性など)
  • ③ 減額材料を並べる(1回のみ、婚姻期間が短い、証拠の強弱、発覚後の収束など)
  • ④ 金額だけでなく条件も含めて提案する(接触禁止、口外禁止、分割、清算条項など)
  • ⑤ 最終的に示談書で終結させる(口約束で終わらせない)

一度だけのケースで「減額の軸」になりやすいのは、たとえば次のような点です。

  • 肉体関係は1回のみで、継続的な不貞ではない
  • 相手夫婦の婚姻期間が比較的短い(他事情と合わせて評価される)
  • 離婚や長期別居など重大な結果が出ていない(分かる範囲で)
  • 既婚だと知らなかった、だまされていた等の事情がある(状況次第)
  • 主導性が低い、強引・酩酊などの事情がある(主張の組み立てが重要)

また、早期解決を目指す場合は「金額」だけに固執せず、相手が求めている安心材料(再発防止)を条件で示すと、まとまりやすくなることがあります。

示談でよく検討される条件例は次のとおりです。

  • 接触禁止(本人・家族・職場への連絡も含むか)
  • 口外禁止(SNS・職場等での言及を禁止)
  • 清算条項(今回の支払いで追加請求しないことの確認)
  • 支払方法(分割の可否、振込期日、遅延時の取り扱い)
  • 違反時の取り扱い(違約金条項を入れるか等)

「一度だけ」のケースは、相手が疑いを強めるほど金額が跳ね上がりやすい反面、事実関係を整理して“前提”を整えると、交渉が現実的なラインに戻ることも多いです。

慰謝料を請求する側が押さえるべきポイント

ここまでは主に「請求された側」を中心に説明してきましたが、夫(妻)の不倫が発覚した側も「一度だけでも慰謝料を請求できるのか」「いくら請求すべきか」と悩むことが多いと思います。

請求する側が押さえるべきポイントは、感情の強さだけで金額や条件を決めないこと、そして示談で再発防止と終局性(蒸し返し防止)を確保することです。

請求額の決め方と注意点

一度だけの不倫でも、精神的苦痛がある以上、慰謝料が問題になることはあります。ただし、請求額は「高ければよい」というものではありません。

請求を進める前に、最低限次の点を整理しておくと、交渉が不毛な対立になりにくくなります。

  • 不貞行為の内容(肉体関係の有無、回数、期間)
  • 夫婦関係への影響(別居・離婚、子どもへの影響等)
  • 相手が既婚だと知っていたか(故意・過失)
  • こちらが持っている証拠は何か(どこまで客観的に説明できるか)
  • 金銭以外に求めたい条件はあるか(接触禁止、口外禁止など)

また、請求額を大きく外したまま強硬に進めると、相手が徹底抗戦になり、解決が長期化することもあります。納得できる解決を目指すなら、証拠と事情に見合った請求設計が大切です。

示談に入れるべき条項の例

示談をする場合、金額だけで合意してしまうと、「また連絡を取ったらどうするのか」「後から追加で請求できるのか」といった不安が残りやすいです。

一度だけの不倫のケースでも、再発防止と終局性を確保するため、示談書には次のような条項が検討されます。

  • 接触禁止(本人への連絡だけでなく、SNS、職場、家族への接触も含むか)
  • 口外禁止(第三者・職場・SNSでの言及禁止)
  • 清算条項(本件に関する請求をこれで終わりにする)
  • 支払条件(期日、分割、遅延時の取り扱い)
  • 追加請求の扱い(例外を設けるかどうかも含め、整理する)

示談書は後から覆すのが難しいため、感情が強い時ほど、文面と条件の意味を確認しながら進めることが重要です。必要に応じて、弁護士に相談しながら「再発防止」「終局性」「無用な紛争の回避」を同時に満たす形を目指すのが安全です。

解決事例:一度だけでも高額請求→減額して解決したケース

「不倫は一度だけだったのに、高額な慰謝料を請求された」という相談は多くあります。

一度だけのケースでも、相手(配偶者)が事実関係を把握できず、最悪の前提で疑ってしまうと、請求額が大きくなりがちです。一方で、事実関係と減額事情を丁寧に整理して交渉すれば、現実的な金額に落ち着くこともあります。

ここでは、実際に「一度だけ」の不貞行為で慰謝料請求を受け、減額して解決したケースを2つ紹介します。

MEMO

同じ「一度だけ」でも、夫婦の状況や発覚後の影響、主導性(どちらが積極的だったか)などで、交渉の着地点は変わります。結果の見通しは個別事情によります。

600万円請求→約200万円で解決(スピード×円満解決)

事案の概要は、次のとおりです。

  • ご依頼者様(40代/男性)が、既婚女性と2年前から連絡を取り合い、後に不貞関係に発展した
  • 肉体関係は「一度のみ」だったが、連絡期間が長かったため、相手配偶者が長期不貞を疑った
  • 相手配偶者から、600万円という高額な慰謝料を請求された

交渉のポイントは、主に2つでした。

  • 不貞行為(肉体関係)が1回のみであり、継続的な不倫関係ではないこと
  • 既婚女性と相手配偶者の婚姻期間が比較的短いこと(事情として減額方向に働きやすい)

相手配偶者は「連絡を取っていた期間=肉体関係が継続していた」と疑いやすい立場です。そのため、感情に任せて押し返すのではなく、会った回数・肉体関係があった時期・その後に関係が続いていない事情などを整理し、事実関係を丁寧に示すことが重要になります。

最終的には、次の金額で解決しました。

  • 請求された金額:600万円
  • 解決金・示談金:200万円
  • 減額できた金額:400万円

本件では、ご依頼者様が「徹底的な減額」よりも「早期に円満解決したい」という希望が強く、交渉方針もそれに合わせて設計しました。慰謝料交渉では、金額だけでなく「早く終わらせたい」「裁判は避けたい」といった希望に応じた着地も重要になります。

300万円請求→60万円で解決(同意・主導性の事情を整理)

次は、「一度だけ」の中でも、関係の経緯・主導性に争点があるケースです。

  • ご依頼者様(20代/女性)が、職場の既婚男性と食事に行く関係になった
  • ある日、酩酊していた状況で、男性から強引に性行為を求められ、肉体関係を持ってしまった(1回)
  • その事実が男性の妻に知られ、ご依頼者様が300万円の慰謝料を請求された

このケースでは、「不貞行為が1回のみ」という点に加えて、次の事情を整理して主張することがポイントになりました。

  • 男性側が積極的に接触しており、関係の主導性が男性側にあること
  • ご依頼者様が関係を望んでおらず、誘いを複数回断っていたこと
  • 職場での立場差や年齢差などから、断りにくい状況があったこと
  • 酩酊していた場面で1度だけ関係を持ってしまったこと(継続性がない)

同意・主導性が絡むケースは、言い方や整理の仕方を誤ると、感情的な対立が激しくなりやすいのも特徴です。目的(徹底減額か、早期収束か)を先に定め、事実ベースで主張を組み立てることが重要になります。

最終的な解決結果は次のとおりです。

  • 請求された金額:300万円
  • 解決金・示談金:60万円
  • 減額できた金額:240万円
  • 解決までの期間:約4か月

よくある質問(FAQ)

Q:不倫が一度だけなら、慰謝料は払わなくていいですか?
A:一度だけでも、条件を満たせば慰謝料が問題になることはあります。ただし、請求額がそのまま認められるとは限らず、「一度だけ」は減額方向に働きやすい要素でもあります。まずは、相手が主張する内容と証拠、期限を確認し、事実関係を整理することが大切です。

Q:肉体関係はなく、連絡や食事だけでも慰謝料になりますか?
A:一般に、慰謝料の中心となるのは「不貞行為(肉体関係)」です。連絡や食事だけで直ちに不貞行為と評価されるとは限りません。ただし、やり取りの内容次第では「肉体関係を推認させる材料」として扱われ、交渉がこじれる原因になることもあります。

Q:相手から300万円や600万円と書かれています。相場より高い気がします。
A:請求額は、相手が最悪の想定で疑っている(長期不貞だと思い込んでいる)場合などに高くなりがちです。特に「連絡期間が長い」ケースは、実際が一度だけでも高額請求になりやすい傾向があります。相場の一般論だけで判断せず、相手の主張の前提を確認することが重要です。

Q:相手が「長期間の不倫だった」と決めつけています。どうすればいいですか?
A:「一度だけ」を感情で主張しても、相手の疑いが解けないことがあります。会った日・回数・肉体関係があった時期・その後の経緯を時系列で整理し、継続性がないことを具体的に説明するのがポイントです。

Q:内容証明が届きました。無視するとどうなりますか?
A:無視すると、相手が強硬になり、裁判に進むなど解決が難しくなることがあります。すぐに結論が出せなくても、「期限までに回答する意思がある」ことを示し、事実関係の整理と方針決定を進めるのが安全です。

Q:分割払いは認められますか?
A:合意できれば分割払いで解決することもあります。分割の場合は、支払期限・遅延時の取り扱い・一括請求条項の有無など、示談条項を丁寧に確認することが重要です。

Q:示談書は必要ですか?口約束ではダメですか?
A:示談書で条件を明確にしないと、後から「追加で払え」と蒸し返されるリスクが残ります。金額だけでなく、接触禁止、口外禁止、清算条項(これ以上請求しないこと)なども含めて整理するのが基本です。

Q:相手が既婚者だと知らなかった場合でも慰謝料を払う必要がありますか?
A:「既婚者だと知らなかった」「注意しても知りようがなかった」場合は、責任が否定される余地があります。ただし、状況によっては「知るべきだった」と判断されることもあるため、当時の説明や周辺事情を具体的に整理することが重要です。

Q:強引に迫られた、酩酊していたなど、同意に問題がある場合はどう考えればいいですか?
A:主導性や状況によって、法的評価や慰謝料の見立てが変わることがあります。ただし、主張の仕方を誤ると紛争が激化しやすい論点でもあります。目的(早期解決か、減額重視か)を明確にし、事実関係を丁寧に整理したうえで対応することが大切です。

まとめ

不倫が一度だけでも、慰謝料の問題になることはあります。ただし、請求された金額がそのまま妥当とは限らず、「一度だけ」という事情は減額方向に働く重要な要素になり得ます。

最後に、要点を整理します。

  • 不倫が一度だけでも、条件を満たせば慰謝料請求の対象になり得る
  • ただし「請求額=相場」ではなく、夫婦状況・証拠・発覚後の影響などで金額は大きく上下する
  • 一度だけでも高額請求される典型は、連絡期間の長さなどから「長期不貞」と疑われるケース
  • 初動で曖昧に認めたり、焦って即決したりすると不利になりやすい(期限対応と事実整理が重要)
  • 早期解決か徹底減額か、希望に合わせて交渉方針を組み立てると解決しやすい

慰謝料請求には回答期限や支払期限が設けられていることも多く、対応が遅れるほど不利になりやすい面があります。不安が大きいときほど、事実関係と方針を整理したうえで、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

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