- 不倫で「探偵費用」まで請求されたとき、どこまで払う必要があるのか知りたい
- 探偵費用の仕組み・相場の目安を知って、「高額すぎるのか」を判断したい
- 裁判になった場合に、探偵費用が損害として認められる条件を押さえたい
- 減額交渉で見られるポイント(内訳確認・反論の方向性)を知りたい
この記事を読めば不倫で探偵費用を払う必要があるかを判断できます。弁護士が実務に基づき分かりやすく解説しました。
![]()
はじめに|不倫で「探偵費用」まで請求されると高額化しやすい
不倫の慰謝料を請求されるとき、損害賠償の内訳に「探偵費用(調査費用)」が含まれていることがあります。慰謝料だけなら相場感があっても、探偵費用が合算されると、合計が400万円〜500万円などの高額になるケースもあり、強い不安を感じる方が少なくありません。
ただし結論からいうと、探偵費用は「請求された=そのまま全額払う」と決まっているわけではありません。裁判でも、探偵費用が損害として認められるかどうか、また認められるとしても“どこまで”かは、事案ごとに判断が分かれています。
この記事では、「不倫 探偵 費用」は払う必要があるのかという疑問に直結する形で、
- 探偵費用の仕組み(算出方式・相場目安)
- 探偵費用が損害として認められる条件(裁判例の考え方)
- 請求された側が、減額に向けてまずやるべきこと
を、できるだけ分かりやすく整理します。
不倫の「探偵費用」とは|仕組み・算出方式・相場の目安
探偵費用(調査費用)は、配偶者の不貞行為の証拠を集めるために、興信所・探偵事務所へ支払った費用のことを指します。請求書では「調査費用」「調査報告書作成費」「実費(交通費等)」などとして整理されていることもあります。
ここで押さえておきたいのは、**「探偵費用として実際に支払った金額」と、「不倫の損害賠償として認められる金額」**は一致しないことが多い、という点です。
探偵費用が発生する場面
不倫の証拠として典型的なのは、ラブホテルの出入りや宿泊の事実などです。こうした事実を「調査報告書」の形にして提出するために、探偵が尾行・張り込み等の調査を行います。
その結果、慰謝料請求の通知書に、慰謝料だけでなく探偵費用が含まれていることがあります。特に、相手方(請求する側)が「証拠がないと認めさせられない」と考えたケースでは、探偵費用が請求に乗りやすい傾向があります。
算出方式の代表例(時間制・パック制など)
探偵費用の算出にはいくつかのパターンがあります。あなたが「高いのか普通なのか」を判断するためにも、請求書の内訳と見比べてみてください。
- 時間制(人員×時間)
調査員の人数、調査時間、時間単価を掛け算して算出する方式です。短時間でも「2名体制」等だと金額が伸びます。 - パック制
一定の調査時間・回数・報告書作成などをまとめた料金体系です。内訳がざっくりしがちなので、内容確認が重要になります。 - 成功報酬の有無
契約形態によっては成功報酬が付くことがあります。ただ「成功」の定義が契約により異なるため、請求書の根拠(契約内容)を要確認です。 - 実費(交通費等)・報告書作成費
調査員の交通費、高速代、宿泊費、報告書作成費などが別建てで加算されることがあります。
相場の目安|「高額かどうか」のざっくり判断
実務上、探偵費用は幅があります。比較的抑えめなケースから高額なケースまであり、60万〜70万円程度が一つのボリュームゾーンになることもありますが、調査が長期化したり回数が多かったりすると、200万〜300万円程度になる例も見られます。
ただし、ここで注意してほしいのは、相場を知る目的は「探偵を探すこと」ではなく、あなたが請求された探偵費用が“説明できる内訳か”“過剰ではないか”を見抜くことです。
![]()
探偵費用は損害賠償として必ず認められるわけではない
探偵費用が不倫の損害賠償として認められるかどうかは、裁判でも判断が分かれるところです。一般論としては、調査の「必要性・相当性」があるか、そして不貞行為との相当因果関係がある損害といえるか、がポイントになります。
近時の裁判例をみると、そもそも探偵費用が損害項目として請求されている割合は高くなく、また請求されても裁判所が全部を認めるとは限りません。
結論と争点|必要性・相当性がカギ
探偵費用の扱いを一言でいうと、次のイメージです。
- 必要で、相当な調査だったと言えるなら、損害として認められる可能性がある
- 必要性が乏しい/やりすぎ(過剰)なら、損害として否定されたり、一部だけしか認められなかったりする
例えば、すでに不貞を認めている、他の証拠で立証できる、SNS等で十分な状況が分かっている、といった事情があると、「探偵に依頼せざるを得なかった」とは評価されにくくなります。
一方で、強く否認されていて証拠が乏しいなど、調査をしないと立証が困難だった事情があると、必要性が肯定されやすくなります。
探偵費用は「請求された金額=裁判でそのまま通る金額」ではありません。裁判では、必要性・相当性がある範囲に“圧縮”されることが多い点が重要です。
認められやすい/認められにくい典型
あくまで目安ですが、判断の方向性は次のように整理できます。
- 認められやすい方向の事情(例)
配偶者や不倫相手が不貞を強く否認している/手元に証拠が乏しい/調査によって初めて決定的な証拠が得られた/調査期間・回数が必要最小限に近い - 認められにくい方向の事情(例)
不貞を早期に認めている/他の証拠で立証できる(LINE、写真、SNS等)/調査期間が長すぎる・回数が多すぎる/内訳が曖昧で、費用が過剰に見える
不倫の探偵費用に関する裁判例でみる判断
裁判例を確認すると、「探偵費用の結論が割れる」だけでなく、「全額はほとんど通らない」傾向も見えてきます。代表例をいくつか紹介します。
- 東京地裁平成22年2月23日判決
不貞行為を認めているなどの事情がある中で、調査が訴訟の立証に寄与した程度が低いとして、調査費用の請求を認めませんでした。 - 東京地裁平成22年12月21日判決
調査の必要性・相当性を認めることができないとして、調査費用の請求を否定しました(必要性の評価が厳格になり得ることが分かります)。 - 東京地裁平成25年5月30日判決
探偵費用として約207万円が請求された事案で、損害として認められたのは10万円にとどまっています。
「探偵に支払った金額」ではなく「相当因果関係のある範囲」だけが認められる、という考え方が出ています。 - 東京地裁平成29年4月27日判決
約304万円の調査費用が請求された事案で、損害として認められたのは20万円とされています。
高額な調査費用がそのまま損害として通りにくいことを示す例です。
このように、裁判では調査費用がゼロになることもあれば、一部だけが認められることもあります。だからこそ、請求された側としては「探偵費用が当然に全額通る」という前提で動くのではなく、どの部分が争点になり得るかを冷静に整理することが重要です。
不倫で探偵費用を請求されたときの対応ポイント
探偵費用が含まれる請求は、金額が大きく見える分、焦ってしまいがちです。しかし、ここでの対応を誤ると、減額の余地を自分で狭めてしまうことがあります。
まずは、次の順番で対応するのが基本です。
まず確認する資料・内訳(「高額かどうか」より先)
最初にやるべきは、慰謝料と探偵費用を“分けて”、さらに探偵費用の中身を“分けて”確認することです。
- 請求書に探偵費用(調査費用)がいくら含まれているか
- 探偵費用の内訳(調査日・時間・人数・単価・回数・実費の内容)
- 調査報告書の有無(どの時点の、どの行動が記載されているか)
- 調査対象期間が、問題になっている不貞期間とどの程度一致しているか
- 「パック一式」等で内訳が曖昧になっていないか
ここで内訳が曖昧なままだと、「必要性・相当性」の判断材料が不足します。交渉の場面でも、まずは内訳の明確化から始まることが多いです。
反論の方向性|必要性・相当性/因果関係/“全部は無理”の主張
探偵費用の反論は、いきなり「一円も払わない」と突っぱねるのではなく、裁判で評価されるポイントに沿って組み立てるのが安全です。
- 調査の必要性が乏しい
すでに不貞を認めている/認める姿勢だった/他の証拠で足りる、など。 - 調査が過剰(相当性に欠ける)
調査期間が長すぎる/回数が多すぎる/人員が過大、など。 - 相当因果関係の問題
「その調査があったから損害が生じた」とは言いにくい部分(実費の一部・成功報酬の扱い等)が混ざっている、など。 - 仮に認められるとしても“一部”に限られる
裁判例でも全額が通りにくいことを踏まえ、相当な範囲に限定する、という主張。
探偵費用が絡む請求では、「期限までに返事をしないと訴える」など強い文言が使われることがあります。
ただ、焦ってその場で電話を入れたり、書面で不用意に認めたり、分割合意を急いだりすると、後から修正が難しくなることがあります。詳しくは「慰謝料を請求されたときの初動対応ガイド」をご覧ください。
交渉の進め方と注意点|“探偵費用を落とす”設計で全体を圧縮する
探偵費用が請求に含まれる場合、実務的には次の考え方が重要になります。
- 慰謝料そのものを下げる交渉に加えて、探偵費用を「損害としては認められない/認められても一部」へ寄せる
- その結果、合計額(慰謝料+探偵費用)を圧縮する
交渉では、相手方が「裁判も辞さない」姿勢を見せることがありますが、探偵費用は裁判でも結論が割れやすい争点です。相手にとっても、調査の必要性・相当性の立証は簡単ではありません。こうした事情を前提に、訴訟リスクと和解の着地を丁寧に提示していくことが、減額交渉の現実的なルートになります。
探偵費用で重要なのは、気持ちのぶつけ合いではなく「内訳」と「必要性・相当性」の整理です。ここが整理できると、交渉の見通しが立ちやすくなります。
次の章からは、実際に慰謝料と探偵費用の合計が高額だったケースでも、解決金を大きく圧縮できた解決事例を紹介します。
解決事例①|探偵調査で発覚:慰謝料+探偵費用「約500万円」→「約100万円」で解決
【H3-5-1】事案の概要
ご依頼者様(30代・男性)は、不倫相手の女性とともに既婚者で、いわゆるダブル不倫の関係にありました。相手方(不倫相手の配偶者)は、配偶者の行動に不審を抱き、探偵を雇って調査を行ったことをきっかけに不貞関係が判明します。
その後、ご依頼者様には不倫慰謝料に加えて探偵費用(調査費用)も含めた、約500万円の請求が届きました。慰謝料だけでも大きな負担になり得るところに、探偵費用が上乗せされたことで請求額が大きく見え、精神的にも強いプレッシャーがかかる状況でした。
![]()
交渉のポイント(探偵費用を“実質的に落とす”設計)
この事案では、相手方が弁護士に依頼して請求してきており、交渉の最初から強い姿勢が示されていました。そこで重要になるのが、感情論ではなく、裁判になった場合を見据えた争点整理です。
本件で焦点となったのは、まさに「探偵費用が損害として認められるか(認められるとしてもどこまでか)」でした。
ポイントは大きく次のとおりです。
- 探偵費用は、必要性・相当性が認められる場合に限って問題になり得る
調査が「やむを得なかった」といえる事情があるのか、調査が過剰ではないかが核心になります。 - 裁判例を踏まえ、探偵費用が全額通りにくいことを前提に交渉を組む
例えば、東京地裁平成22年2月23日判決は、調査が訴訟の立証に寄与した程度が低いこと等を踏まえて調査費用を損害として認めませんでした。
このように、裁判では探偵費用が否定されたり、一部しか認められなかったりする可能性があるため、相手方にも訴訟リスクが生じます。 - (仮に訴訟になっても)立証のハードルがある点を丁寧に示す
探偵費用については、「その調査が本当に必要だったのか」「その費用が相当か」を、相手方が説明しなければならない場面があります。
内訳が曖昧、回数が多い、調査範囲が過大などがあれば、争点になりやすくなります。
※探偵費用の考え方(必要性・相当性/認められる範囲の目安など)は、次の記事でも整理しています。
解決結果(請求約500万円→約100万円)
粘り強い交渉の結果、解決金として約100万円を支払う内容で和解し、請求額から大きく圧縮することができました。探偵費用については、結果として実質的に請求が通らない形での着地となっています。
- 請求額:約500万円(慰謝料+探偵費用)
- 解決金:約100万円
- 減額幅:約400万円
- 解決期間:5ヶ月
高額請求に直面したときは、「すべてを丸のみする」か「全面的に争う」かの二択ではありません。探偵費用のように結論が割れやすい項目は、裁判例・内訳・必要性を軸にすることで、現実的に圧縮できる余地があります。
解決事例②|慰謝料300万+探偵費用150万「450万円」→「80万円」で解決
事案の概要
ご依頼者様(40代・女性)は、勤務先の同僚である既婚男性から「離婚するので結婚してほしい」などと言われ、不倫関係に至りました。しばらく関係が続いた後、男性の配偶者に不倫関係が知られ、慰謝料300万円に加えて探偵費用150万円の合計450万円を請求されました。
職場での立場もあり、問題を大きくしたくない一方で、男性から聞いていた話と異なる点もあり、強い困惑のなかで対応を迫られる形となりました。
交渉のポイント(短期・受け身事情+探偵費用の“全部は通らない”)
この事案でも鍵は、慰謝料の事情整理に加え、探偵費用の扱いを冷静に争点化することでした。具体的には、次のような点がポイントになります。
- 不貞期間が長期ではないこと(交際期間が短い)
慰謝料は不貞期間が重要な考慮要素の一つです。長期にわたる事案と比べると、減額方向の事情になります。 - 交際開始の経緯(相手が積極的だった/離婚や結婚の話があった等)
状況によっては、受け身事情として慰謝料の評価に影響し得ます。 - 探偵費用は「全額が当然に損害になる」わけではない
探偵費用は必要性・相当性が認められる範囲に限られ、裁判でも一部しか認められない例が見られます。
例えば、東京地裁平成25年5月30日判決では、探偵費用として高額の請求があった事案で、損害として認められたのはごく一部にとどまっています。
このように、慰謝料側の事情(期間・経緯等)と、探偵費用側の事情(必要性・相当性・内訳)を分けて整理し、訴訟になった場合の見通しも織り込みつつ交渉を組み立てることで、合計額を大きく圧縮できる可能性があります。
解決結果(請求450万円→80万円)
交渉の結果、解決金80万円の支払いで和解し、請求額から大幅に圧縮して解決しました。
- 請求額:450万円(慰謝料300万+探偵費用150万)
- 解決金:80万円
- 減額幅:370万円
- 解決期間:3ヶ月
探偵費用が入った請求では、合計額のインパクトが大きくなりがちです。しかし実務上は、探偵費用の「内訳」と「必要性・相当性」を軸に争点を作ることで、合計額を現実的に圧縮できるケースがあります。
不倫時の探偵費用に関するよくある質問(FAQ)
探偵費用は、不倫相手に全額請求できる(請求された場合は全額払う)ものですか?
全額が当然に認められるわけではありません。探偵費用は、調査の必要性・相当性が問題になり、裁判でも否定されたり一部しか認められなかったりすることがあります。
「支払った=そのまま損害」という発想ではなく、内訳・調査の内容・証拠の状況を踏まえて整理することが大切です。
探偵費用が高すぎる気がします。どこを見ればいいですか?
まずは「相場」よりも、内訳の具体性を見てください。
- 調査日/調査時間/調査員人数/時間単価が書かれているか
- 実費(交通費等)の根拠があるか
- 報告書作成費などの名目が過大になっていないか
- パック一式で、内容が不透明になっていないか
内訳が不透明な請求は、交渉で争点になりやすいポイントです。
裁判になったら、探偵費用はどう扱われますか?
裁判では、探偵費用が損害として認められるかどうかに加え、認められるとしても「相当な範囲に限る」という判断がされることがあります。
調査が必要だったのか、過剰ではないか、調査が立証にどの程度役立ったのか、といった点が見られます。
請求する側として探偵費用を回収したい場合はどう考えればいいですか?
探偵費用を回収したい場合も、ポイントは同じで「必要性・相当性」です。
手元の証拠で足りるのに過度な調査をすると、費用が回収できないリスクがあります。まずは証拠状況を整理したうえで、探偵調査が本当に必要かを検討するのが安全です。
まとめ|探偵費用は不倫をした側が「必ず払う」ことはない。争点整理で減額余地が出る
- 不倫の請求で探偵費用が上乗せされると高額化しやすいが、探偵費用は全額が当然に認められるわけではない
- 探偵費用は、裁判でも必要性・相当性が厳しく見られ、否定や一部認容となることがある
- 「高いかどうか」は相場だけでなく、調査日・時間・人数・単価などの内訳を確認することが重要
- 交渉では、慰謝料と探偵費用を分けて整理し、訴訟リスクも踏まえて合計額を圧縮する設計が有効
- 実際に、慰謝料+探偵費用の高額請求でも、大幅に減額して早期解決できた事例がある
![]()


