不倫慰謝料の請求相手は誰?配偶者・不倫相手・両方への請求と進め方

不倫慰謝料を請求したいとき、最初に迷いやすいのは「誰に請求するか」です。結論からいえば、不倫慰謝料の請求相手は大きく、不倫をした配偶者だけ、不倫相手だけ、配偶者と不倫相手の両方の3パターンに分かれます。

もっとも、法律上請求できる相手と、実際に先に請求すべき相手は必ずしも同じではありません。離婚するのか、夫婦関係を続けるのか、証拠は十分か、相手を特定できているか、時効が近いか、一方からすでに支払いを受けているか、不倫相手から配偶者への求償をどう防ぐかによって、適切な進め方は変わります。

この記事では、不倫された配偶者が慰謝料請求を検討する場面を中心に、配偶者・不倫相手・両方のどこに請求するか、どちらから先に進めるかを整理します。後半では、不倫相手として慰謝料請求された場合に確認すべき点にも触れます。

まずは、請求相手を選ぶときの全体像を押さえておきましょう。

  • 不倫慰謝料の請求相手は、配偶者だけ・不倫相手だけ・両方の3パターンです。
  • 離婚する場合は、配偶者への請求を離婚条件とあわせて整理しやすいです。
  • 離婚しない場合は、不倫相手への請求が関係遮断や再発防止に使いやすいです。
  • 両方に請求できる場合でも、同じ損害について二重に回収することはできません。
  • 不倫相手として請求された側は、既払い金・二重取り・求償権・示談書条項を確認する必要があります。

坂尾陽弁護士

誰に請求するかは、怒りの強さだけでなく、離婚方針・証拠・求償権まで見て決めることが大切です。
(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

不倫慰謝料に詳しい坂尾陽弁護士

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不倫慰謝料は誰に請求できる?配偶者・不倫相手・両方の3パターン

不倫慰謝料は、夫婦の一方が不倫をした場合に、不倫された配偶者が精神的苦痛を受けたとして損害賠償を求めるものです。法律上は、民法709条の不法行為責任、民法710条の精神的損害、民法719条の共同不法行為などが問題になります。

不倫では、不倫をした配偶者だけでなく、不倫相手も婚姻共同生活の平穏を侵害したと評価されることがあります。そのため、事案によっては、配偶者だけ、不倫相手だけ、または配偶者と不倫相手の両方に慰謝料を請求することができます。

ただし、「不倫があった」と感じているだけで、どの相手にも当然に請求できるわけではありません。一般には、肉体関係を伴う不貞行為があったか、不倫相手が既婚者であることを知っていたか又は注意すれば知ることができたか、不貞行為の時点で夫婦関係がすでに破綻していなかったか、請求期限を過ぎていないか、といった点が問題になります。詳しくは、不倫慰謝料を請求できる条件不倫慰謝料の時効も確認しておくとよいでしょう。

MEMO

本記事では、請求相手の選び方と進め方を中心に説明します。不倫相手への請求条件、証拠、相場、請求手順の細かな検討は、別の専門記事で整理します。

配偶者だけに請求する

配偶者だけに請求するのは、主に離婚を前提としている場合や、離婚協議の中で慰謝料を含めてまとめて解決したい場合です。また、不倫相手の名前や住所が分からない場合や不倫相手にお金がない場合も配偶者だけに請求するケースが多いです。

不倫をした配偶者とは、慰謝料だけでなく、財産分与、親権、養育費、婚姻費用、住宅ローン、年金分割など、複数の問題を同時に整理しなければならないことがあります。

そのため、離婚する方向が明確であれば、配偶者に対する慰謝料請求を離婚条件の一部として位置づける方が、全体の解決に結びつきやすいことがあります。たとえば、慰謝料を単独で合意するのではなく、財産分与や養育費とのバランスも見ながら、離婚協議書や公正証書にまとめる方法が考えられます。

一方で、離婚しない場合に配偶者だけへ慰謝料を請求すると、実際には夫婦の家計内でお金が移動するだけになりやすい点に注意が必要です。夫婦関係を続ける予定があるときは、配偶者への金銭請求よりも、不倫相手との関係を終わらせることや再発防止の条件を整えることの方が重要になる場合があります。

不倫相手だけに請求する

不倫相手だけに請求するのは、離婚しない場合、夫婦関係を続ける場合、不倫関係を確実に終わらせたい場合に検討しやすい選択肢です。不倫相手に対して慰謝料を請求することで、単に金銭の支払いを求めるだけでなく、今後の接触禁止、口外禁止、再発時の違約金、求償権放棄などを示談書に盛り込むことができます。

特に、夫婦関係を続ける場合には、「配偶者を責め続けるよりも、不倫相手との関係を遮断することを優先したい」という判断があり得ます。不倫相手だけを請求相手にすることで、夫婦間の再構築を進めながら、不倫相手には責任を取ってもらうという整理をしやすくなります。

もっとも、不倫相手が既婚者と知らなかったと主張する場合、肉体関係がないと争う場合、夫婦関係はすでに破綻していたと反論する場合、支払能力が乏しい場合には、請求が難航することがあります。不倫相手だけに請求する場合ほど、証拠の内容、相手の住所・氏名の特定、請求期限の確認が重要になります。

配偶者と不倫相手の両方に請求する

配偶者と不倫相手の両方に請求することも可能です。不倫をした配偶者と不倫相手が共同して不法行為をしたと評価される場合、不倫された配偶者は、どちらか一方だけでなく、両方を請求相手にすることができます。

両方に請求するメリットは、責任追及の対象を明確にできること、回収可能性を高められること、片方だけに責任を押し付けられることを防ぎやすいことです。配偶者に資力がない場合に不倫相手へ請求する、不倫相手に資力がない場合に配偶者へ請求するなど、回収の観点からも意味があります。

ただし、両方に請求できることと、慰謝料を二重に受け取れることは別です。同じ不貞行為によって受けた精神的損害は一つであるため、配偶者からすでに一定額を受け取っている場合には、不倫相手への請求額が調整されることがあります。また、不倫相手が自分の負担割合を超えて支払ったときは、不倫をした配偶者に対する求償権が問題になることもあります。

離婚する場合と離婚しない場合で請求相手の選び方は変わる

不倫慰謝料の請求相手を決めるときは、「誰が悪いか」だけでなく、離婚するのか、離婚しないのかを先に整理することが重要です。離婚する場合と離婚しない場合では、慰謝料請求で実現したい目的が変わるためです。

離婚する場合は、夫婦関係を清算するための条件全体の中で慰謝料を考える必要があります。これに対し、離婚しない場合は、夫婦関係を続けることを前提に、不倫相手との関係を終わらせ、再発を防ぐための条件を整える必要があります。

請求相手の選び方を大きく整理すると、次のようになります。

  • 離婚する場合:配偶者への請求を離婚条件とあわせて整理しやすい
  • 離婚しない場合:不倫相手への請求で関係遮断や再発防止を図りやすい
  • 方針が未定の場合:証拠・時効・相手特定を優先して準備する

離婚する場合は配偶者への請求を離婚条件とあわせて整理しやすい

離婚する場合、不倫をした配偶者への慰謝料請求は、離婚条件の一部として整理しやすくなります。離婚協議では、慰謝料だけでなく、財産分与、親権、養育費、面会交流、婚姻費用、住宅、預貯金、保険、退職金など、多くの項目を検討することになります。

このような場面で慰謝料だけを切り離して考えると、全体の条件が見えにくくなることがあります。たとえば、慰謝料額を高く設定する代わりに財産分与の内容を調整する、養育費や住宅ローンの負担を踏まえて支払方法を分割にするなど、離婚条件全体のバランスを見ながら解決する必要があるためです。

また、配偶者に慰謝料を請求する場合は、感情的な対立が強くなりやすく、離婚協議全体が長引くことがあります。離婚そのものに争いがある場合、親権や財産分与で対立している場合には、慰謝料の話し合いも簡単には進まないことが少なくありません。

そのため、離婚する場合でも、必ず最初に配偶者だけを請求相手にすべきとは限りません。配偶者との離婚条件の協議に時間がかかりそうなときは、不倫相手への不貞慰謝料請求を先に整理するという進め方も検討対象になります。

離婚しない場合は不倫相手への請求が再発防止に使いやすい

離婚しない場合は、不倫相手への請求が重要になりやすいです。夫婦関係を続けるのであれば、配偶者に慰謝料を請求しても、実際には夫婦の家計内で資金が移動するだけになり、問題の解決につながりにくいことがあります。

これに対し、不倫相手へ請求する場合は、不倫関係を終了させること、今後の接触を制限すること、周囲に口外しないこと、再び不倫関係を持った場合の違約金を定めることなど、再発防止のための条件を示談書に入れやすくなります。金銭回収だけでなく、夫婦関係を立て直すための環境整備として意味があります。

特に注意したいのは求償権です。不倫相手が慰謝料を支払った後、不倫をした配偶者に対して「自分が負担しすぎた分を返してほしい」と求償することがあります。離婚しない場合には、その求償によって、結果的に夫婦の家計から不倫相手へお金が戻るような状態になりかねません。

そのため、離婚しない場合に不倫相手へ請求するなら、慰謝料額だけでなく、接触禁止、口外禁止、求償権放棄、違約金などを含めて示談条件を設計することが大切です。離婚しない場合の全体像は、離婚しない場合の不倫慰謝料でも詳しく整理しています。

まだ離婚方針が固まっていない場合は証拠・時効・相手特定を優先する

不倫が発覚した直後は、離婚するかどうかをすぐに決められないことも多いです。その段階で無理に請求相手を一つに絞るよりも、まずは証拠、時効、相手の特定を確認することが重要です。

たとえば、ホテルの出入り写真、メッセージ、通話履歴、旅行記録、探偵報告書、相手が既婚者であることを知っていたことを示すやり取りなどは、不倫相手へ請求する際に重要な証拠になることがあります。時間が経つと、メッセージが削除されたり、相手が転居したり、記憶が曖昧になったりすることがあります。

また、不倫慰謝料には請求期限があります。不倫相手に請求する場合は、不貞行為と不倫相手を知った時期が問題になりやすいため、離婚協議に時間をかけているうちに請求期限が近づくことがあります。請求相手を決めきれていない段階でも、不倫慰謝料の請求期限は早めに確認しておくべきです。

方針が未定の段階では、感情的に内容証明を送るよりも、証拠を整理し、相手の住所・氏名を確認し、配偶者への請求と不倫相手への請求のどちらを先に進めるかを検討する方が、後の交渉を有利に進めやすくなります。

不倫相手への請求を先に進めることが適するケース

不倫慰謝料を請求する場合、法律上「配偶者を先に請求しなければならない」「不倫相手を先に請求してはいけない」という順番の決まりはありません。請求相手が複数いる場合でも、どちらに先に連絡するか、どちらと先に示談するかは、事案の状況に応じて決めることになります。

実務上は、配偶者との離婚条件が複雑なケースでは、不倫相手への不貞慰謝料請求を先に整理し、その後で配偶者との離婚条件をじっくり協議することを勧めるケースがあります。もっとも、常に不倫相手を先行すべきという意味ではありません。証拠、時効、相手の支払能力、夫婦関係の方針によって、適切な順番は変わります。

法律上はどちらを先に請求してもよい

配偶者と不倫相手の両方が不法行為責任を負う可能性がある場合、請求する側は、どちらか一方を先に請求することも、両方へ同時に請求することも検討できます。不倫相手へ先に内容証明を送ること自体が違法になるわけではありませんし、配偶者への請求を後回しにしたからといって、当然に権利を失うわけでもありません。

ただし、請求の順番によって交渉の進み方は変わります。不倫相手に先に請求した場合、不倫相手が配偶者に連絡し、夫婦間の話し合いが一気に感情的になることがあります。反対に、配偶者と先に話し合った場合、配偶者が不倫相手に事実関係を伝え、証拠隠しや口裏合わせが起きるリスクもあります。

したがって、「どちらを先に請求できるか」だけでなく、「どちらを先に請求すると、証拠、回収、離婚条件、再発防止の面で有利か」を考えることが重要です。請求相手の選択は、法的な可否だけでなく、交渉設計の問題でもあります。

配偶者との離婚条件が複雑な場合は不倫相手請求を先に整理する選択肢がある

配偶者との離婚条件が複雑な場合は、不倫相手への請求を先に進めることが適していることがあります。離婚協議では、慰謝料だけでなく、財産分与、親権、養育費、婚姻費用、住宅ローン、退去時期などが絡みます。これらの争点が多いと、慰謝料の話し合いも離婚条件全体に巻き込まれ、解決まで長期間かかることがあります。

これに対し、不倫相手への不貞慰謝料請求は、基本的には不貞行為の有無、故意・過失、婚姻関係破綻の有無、慰謝料額、支払方法、求償権、接触禁止などが中心になります。配偶者との離婚条件よりも争点を絞りやすい場合があり、先に不倫相手との示談を成立させることで、不貞慰謝料の一部を早期に回収できることがあります。

また、不倫相手との示談で接触禁止や口外禁止を定めておくと、配偶者との離婚協議や夫婦関係の再構築を進める際に、不倫関係の継続や再燃を防ぎやすくなります。離婚する場合でも、しない場合でも、不倫相手との関係を先に遮断することには実務上の意味があります。

不倫相手への請求を進めると決めた場合は、請求条件、証拠、請求額、内容証明の文面、示談書の条項を慎重に検討する必要があります。具体的な進め方は、不倫相手への慰謝料請求の条件・進め方で詳しく確認できます。

実務上のポイント

配偶者との離婚協議が長期化しそうな場合でも、不倫相手への請求期限まで止まるわけではありません。離婚条件の協議と不倫相手への請求は、同時並行又は順番を工夫して進める必要があります。

不倫相手請求を先行しない方がよいケース

一方で、不倫相手への請求を先に進めない方がよいケースもあります。たとえば、証拠が不十分な段階で不倫相手に請求すると、相手に否認され、証拠の削除や口裏合わせを招く可能性があります。不倫相手の住所や氏名が不明確な場合も、内容証明の送付や訴訟提起が難しくなります(参考:浮気相手・不倫相手の住所がわからない|住所不明で慰謝料請求・内容証明・裁判を進める方法)。

また、夫婦関係の修復を最優先したい場合には、不倫相手へ請求したことをきっかけに配偶者との関係がさらに悪化することがあります。配偶者が不倫相手をかばう態度を取ったり、不倫相手から配偶者に連絡が入ったりすると、夫婦間の話し合いがこじれることもあります。

不倫相手に資力が乏しい場合も注意が必要です。請求自体は可能でも、現実に支払いを受けられなければ、時間と費用だけがかかることがあります。分割払いにする場合は、支払期間中に再接触が起きないようにする条項や、滞納時の対応も考えておく必要があります。

さらに、ダブル不倫の場合には、不倫相手の配偶者からこちらの配偶者に慰謝料請求される可能性もあります。請求相手を一方的に選ぶだけでなく、相手方配偶者の存在や、夫婦双方の請求関係まで見て判断することが大切です。

  • 証拠が弱い場合:先に請求すると、否認や証拠隠しを招く可能性があります。
  • 相手の住所・氏名が不明な場合:通知や訴訟の準備が不十分になりやすいです。
  • 夫婦関係の修復を最優先する場合:請求をきっかけに配偶者との対立が深まることがあります。
  • 不倫相手に支払能力がない場合:回収可能性と費用対効果を検討する必要があります。
  • ダブル不倫の場合:相手方配偶者からの請求リスクも見込む必要があります。

このような事情があるときは、不倫相手への請求を急ぐよりも、証拠の補強、相手の特定、配偶者との話し合い、請求期限の確認を先に行う方が安全です。

最高裁平成31年2月19日判決に注意する

不倫相手へ請求する場合には、「不貞慰謝料」と「離婚慰謝料」を区別して考える必要があります。不貞慰謝料は、不倫行為そのものによって婚姻共同生活の平穏が害されたことを理由に請求するものです。これに対し、離婚慰謝料は、離婚に至ったこと自体による精神的苦痛を理由に請求するものです。

最高裁平成31年2月19日判決は、不倫相手に対する離婚慰謝料請求について、単に不貞行為があっただけでは足りず、不倫相手が夫婦を離婚させることを意図して婚姻関係に不当に干渉し、離婚をやむなくさせたと評価できる特段の事情が必要だという考え方を示した裁判例です。

この判決は、不倫相手への不貞慰謝料請求一般を否定したものではありません。重要なのは、不倫相手に対して何を理由に請求するのかを整理することです。不倫相手へ請求する場合、通常は「離婚したことそのもの」よりも、「不貞行為により婚姻共同生活の平穏を害されたこと」を理由に構成する場面が中心になります。

また、時効との関係でもこの区別は重要です。不貞行為を理由にする請求と、離婚に伴う慰謝料を理由にする請求では、起算点や請求の構成が問題になることがあります。離婚協議が長引いている場合でも、不倫相手への不貞慰謝料請求の期限を後回しにしすぎないよう、早めに確認しておく必要があります。

注意

「離婚したから不倫相手に離婚慰謝料を請求できる」と単純に考えるのは危険です。不倫相手への請求では、不貞行為を理由とする慰謝料なのか、離婚に伴う慰謝料なのかを分けて検討しましょう。

配偶者だけに慰謝料請求する場合のメリット・注意点

配偶者だけに慰謝料請求する方法は、離婚を前提にしている場合や、離婚条件の一部として慰謝料を整理したい場合に検討しやすい選択肢です。不倫をした配偶者は、夫婦関係の当事者であり、離婚するかどうか、生活費をどうするか、子どものことをどう決めるかなど、慰謝料以外の問題とも強く結びついています。

もっとも、配偶者だけに請求すれば常に解決しやすいわけではありません。離婚協議が長期化したり、夫婦関係を続ける場合には家計内の資金移動にとどまりやすかったり、不倫相手への請求期限や証拠の問題を見落としたりすることがあります。

離婚条件とまとめて整理できる

離婚する方向が明確であれば、配偶者への慰謝料請求は、離婚条件とまとめて整理しやすいというメリットがあります。離婚協議では、慰謝料だけでなく、財産分与、親権、養育費、面会交流、婚姻費用、住宅ローン、年金分割など、複数の条件を同時に決めることが多いからです。

たとえば、不倫を理由に離婚する場合、慰謝料額だけを切り出して合意するよりも、財産分与の内容、養育費の支払方法、住宅の扱い、分割払いの可否などとあわせて全体の合意を作る方が、現実的な解決につながることがあります。配偶者が一括で支払えない場合でも、離婚協議書や公正証書の中で分割払い、期限の利益喪失、遅延損害金などを定めることが考えられます。

また、配偶者に対して請求する場合は、不倫相手への請求と比べて、相手の氏名や住所を特定する問題は通常少なくなります。配偶者の収入、預貯金、不動産、退職金、保険などの情報も、離婚条件の協議の中で整理しやすいことがあります。

ただし、離婚条件全体と絡むからこそ、慰謝料だけを急いで合意することには注意が必要です。慰謝料について先に清算条項を入れてしまうと、後から他の離婚条件とあわせて再調整したいと思っても、交渉が難しくなる場合があります。配偶者だけに請求する場合でも、「慰謝料だけの示談」なのか、「離婚条件全体の合意」なのかを区別しておくことが大切です。

夫婦関係を続ける場合は家計内の移動になりやすい

離婚しない場合に配偶者だけへ慰謝料を請求すると、実際には夫婦の家計内でお金が移動するだけになりやすい点に注意が必要です。夫婦で同じ家計を維持している場合、配偶者から慰謝料を受け取っても、その後の生活費、住宅ローン、子どもの費用などを同じ家計から支出することになります。

もちろん、夫婦間で責任を明確にするために、配偶者に謝罪や金銭的負担を求める意味がないわけではありません。夫婦関係を再構築するうえで、不倫をした配偶者が自分の責任を認め、一定の金銭を支払うことが区切りになる場合もあります。

しかし、離婚しない場合の本当の課題は、今後の不倫関係を終わらせ、再発を防ぎ、夫婦関係を立て直す環境を整えることにあります。そのため、配偶者だけに慰謝料を請求するよりも、不倫相手への請求を通じて、接触禁止、口外禁止、再発時の違約金、求償権放棄などを定める方が、目的に合うことがあります。

特に、不倫相手が同じ職場にいる場合や、SNS・メッセージアプリで連絡を取り続ける可能性がある場合には、単に配偶者から慰謝料を受け取るだけでは再発防止として不十分なことがあります。夫婦関係を続けるなら、配偶者への請求だけで終えるのではなく、不倫相手との関係をどう遮断するかまで検討する必要があります。

離婚協議が長引く場合は不倫相手への請求期限にも注意する

配偶者だけに慰謝料請求する場合でも、不倫相手への請求可能性を完全に切り捨てるかどうかは慎重に考えるべきです。離婚協議が長引いているうちに、不倫相手への請求期限が近づいたり、証拠が失われたり、相手の住所が分からなくなったりすることがあるためです。

不倫相手への請求では、不貞行為の内容だけでなく、不倫相手が既婚者であることを知っていたか、又は注意すれば知ることができたか、不貞行為の時点で夫婦関係が破綻していなかったか、請求期限を過ぎていないかが問題になります。配偶者との離婚条件に集中している間に、これらの準備が後回しになることがあります。

したがって、配偶者だけに請求する方針をとる場合でも、不倫相手に対する請求期限や証拠の保全は早めに確認しておきましょう。請求期限については、不倫慰謝料の請求期限もあわせて確認しておくと、離婚協議と不倫相手への請求の順番を判断しやすくなります。

配偶者だけに請求するときの確認ポイント

配偶者だけに請求する場合でも、不倫相手への請求を放棄するのか、後から請求する余地を残すのか、示談書や離婚協議書の清算条項でどこまで解決するのかを確認しておく必要があります。

不倫相手だけに慰謝料請求する場合のメリット・注意点

不倫相手だけに慰謝料請求する方法は、離婚しない場合、夫婦関係を続けたい場合、不倫関係を終わらせたい場合に検討しやすい選択肢です。配偶者との関係をすぐに法的紛争にしたくない一方で、不倫相手には責任を取ってもらいたいという場面で選ばれることがあります。

もっとも、不倫相手だけを請求相手にする場合は、証拠、相手の反論、支払能力、求償権、示談書条項を慎重に確認する必要があります。特に離婚しない場合は、不倫相手から配偶者への求償によって、結果的に夫婦の家計からお金が戻るリスクに注意が必要です。

離婚しない場合は関係遮断・再発防止の意味が大きい

離婚しない場合に不倫相手へ請求する目的は、慰謝料を受け取ることだけではありません。不倫関係を終了させ、今後の接触を制限し、夫婦関係を再構築するための環境を整えることにも大きな意味があります。

不倫相手への請求では、慰謝料の支払いとあわせて、今後私的に連絡しないこと、会わないこと、SNSで接触しないこと、周囲に口外しないこと、再び不貞関係を持った場合には違約金を支払うことなどを示談書に入れることがあります。金銭的な解決だけではなく、再発防止の条件を文書化できる点が重要です。

職場不倫の場合は、接触禁止条項を作るときに特に注意が必要です。同じ職場で業務上の連絡が避けられない場合、私的な接触は禁止しつつ、業務上必要な最低限の連絡だけは例外として認める設計が必要になることがあります。会社や同僚へ不用意に通知すると、名誉毀損、プライバシー侵害、職場内トラブルの問題が生じることもあるため、通知先や表現は慎重に検討すべきです。

離婚しない場合の慰謝料請求では、相場や金額だけでなく、接触禁止、違約金、求償権放棄、夫婦関係の再構築まで含めて考える必要があります。詳しくは、離婚しない場合の不倫慰謝料不倫慰謝料の接触禁止条項も参考になります。

不倫相手の支払能力・反論・証拠を確認する

不倫相手だけに請求する場合は、請求が認められる見込みと、実際に回収できる見込みを分けて考える必要があります。法的には請求できる可能性があっても、不倫相手に支払能力がなければ、合意まで時間がかかり、分割払いになり、途中で滞納する可能性もあります。

また、不倫相手は、請求を受けた後にさまざまな反論をすることがあります。典型的には、「既婚者とは知らなかった」「肉体関係はなかった」「夫婦関係はすでに破綻していた」「慰謝料額が高すぎる」「配偶者からすでに支払いを受けているはずだ」といった主張です。

このような反論に備えるには、証拠の整理が欠かせません。ホテルの出入り、旅行、宿泊、肉体関係を推認できるメッセージ、配偶者が既婚者であることを知っていたことが分かるやり取り、夫婦関係が破綻していなかったことを示す生活状況などを確認する必要があります。

不倫相手に請求すると決めた後の条件、証拠、相場、内容証明、交渉の流れは、不倫相手への慰謝料請求の条件・証拠・流れで詳しく整理しています。本記事では、請求相手として不倫相手を選ぶ意味と注意点に絞って理解しておきましょう。

求償権放棄を入れないと家計に戻るリスクがある

不倫相手だけに請求する場合、特に重要なのが求償権です。求償権とは、不倫相手が慰謝料を支払った後、自分の負担割合を超えて支払った分について、不倫をした配偶者に負担を求める権利をいいます。

たとえば、不倫相手が不倫された配偶者に慰謝料を支払った後、不倫をした配偶者に対して「本来はあなたも責任を負うのだから、一定額を返してほしい」と請求することがあります。離婚しない場合、この求償が行われると、結果的に夫婦の家計から不倫相手へお金が戻るような状態になることがあります。

そのため、離婚しない場合に不倫相手だけへ請求するなら、示談書で求償権放棄を定めるかどうかを慎重に検討する必要があります。求償権放棄を入れることで、不倫相手が慰謝料を支払った後に配偶者へ求償することを防ぎやすくなります。

ただし、求償権放棄を求める場合は、不倫相手から慰謝料額の減額を求められることがあります。不倫相手にとっては、支払った後に配偶者へ一部を求償できない分、負担が重くなるためです。慰謝料額、支払方法、求償権放棄、接触禁止、違約金の全体を見て示談条件を組み立てる必要があります。

求償権そのものの仕組みは不倫慰謝料の求償権で、示談書での条項設計は求償権放棄条項で詳しく確認できます。

注意

不倫相手だけに慰謝料を請求しても、示談書の内容によっては、不倫相手から配偶者へ求償される可能性が残ります。離婚しない場合は、慰謝料額だけでなく、求償権放棄の有無まで確認しましょう。

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配偶者と不倫相手の両方に請求する場合の注意点

配偶者と不倫相手の両方に慰謝料を請求することも、事案によっては可能です。不倫をした配偶者と不倫相手が共同して婚姻共同生活の平穏を害したと評価される場合、不倫された配偶者は、どちらか一方だけでなく、両方に対して責任を追及できます。

ただし、「両方に請求できる」ということと、「同じ損害について二重に受け取れる」ということは別です。両方へ請求する場合は、既払い金、二重取り、求償権、示談書の清算条項を意識して進める必要があります。

両方に請求できることと二重取りできることは別

不倫慰謝料では、不倫をした配偶者と不倫相手が共同不法行為者として扱われることがあります。この場合、不倫された配偶者は、配偶者だけ、不倫相手だけ、又は両方に対して慰謝料を請求することを検討できます。

しかし、同じ不貞行為によって受けた精神的苦痛は一つです。そのため、配偶者から慰謝料を受け取り、さらに不倫相手からも同じ損害について満額を受け取るような、二重取りは認められません。両方に請求できる場合でも、最終的に回収できる金額は、損害額との関係で調整されます。

たとえば、配偶者からすでに一定額の慰謝料や解決金を受け取っている場合、不倫相手に対する請求では、その既払い金が考慮されることがあります。反対に、不倫相手から先に支払いを受けた場合、配偶者への請求でその金額が問題になることがあります。

二重取りの問題は、請求する側だけでなく、請求された側にも重要です。不倫相手として請求された人は、配偶者がすでに慰謝料や解決金を支払っていないか、示談書で清算済みになっていないかを確認する必要があります。詳しくは、不倫慰謝料の二重取り・重複請求で整理しています。

一方から受け取った金額は他方への請求で調整されることがある

両方に請求する場合は、どちらから、いつ、いくら受け取ったかを正確に整理しておく必要があります。慰謝料、解決金、迷惑料、和解金など、名目が違っていても、不倫による精神的苦痛を補償する趣旨で支払われた金銭であれば、他方への請求で考慮されることがあります。

また、片方が自分の負担割合を超えて支払った場合には、内部的な負担調整として求償権が問題になります。請求する側から見ると、「誰から受け取るか」だけでなく、「その後、支払った人がもう一方に求償するか」まで見通しておくことが大切です。

両方へ請求する場面では、次の点を整理してから交渉を進めると、後のトラブルを防ぎやすくなります。

  • 請求する損害の内容:不貞行為による慰謝料なのか、離婚条件全体の中の解決金なのかを整理します。
  • 既払い金の有無:配偶者又は不倫相手から、すでに支払いを受けていないかを確認します。
  • 示談書の清算範囲:誰との間で、どの請求を清算したのかを文言で確認します。
  • 求償権の扱い:支払った側がもう一方に負担を求める余地を残すのかを検討します。
  • 請求の順番:先にどちらと交渉するかによって、回収可能性や示談条項の作り方が変わります。

このように、両方に請求する場合は、単純に請求先を増やすだけではありません。各示談の文言が相互に影響するため、全体の解決設計を意識する必要があります。

示談書の清算条項・免除条項で請求範囲が変わることがある

配偶者と不倫相手の両方が関係する事案では、示談書の清算条項や免除条項が特に重要です。どちらか一方と示談したときに、もう一方への請求を残すのか、残さないのかを明確にしておかないと、後で争いになることがあります。

たとえば、配偶者と離婚協議書を作る際に、「本件不倫に関する慰謝料請求をすべて清算する」と広く書いた場合、不倫相手への請求も清算されたと主張されるおそれがあります。反対に、不倫相手と示談する際に、配偶者への請求を残したいのであれば、その趣旨が誤解されないように文言を整える必要があります。

また、不倫相手との示談で求償権放棄を定める場合には、不倫をした配偶者を示談の当事者に入れる三者間合意にするか、不倫相手との二者間合意でどこまで拘束できるかも検討が必要です。離婚しない場合には、求償権放棄を入れないと家計に戻るリスクがある一方で、離婚する場合には配偶者との離婚条件全体との整合性も問題になります。

示談書では、慰謝料額、支払期限、分割払い、期限の利益喪失、清算条項、口外禁止、接触禁止、違約金、求償権放棄などを総合的に検討します。両方に請求する場合は、一つの示談書だけを見るのではなく、配偶者との合意と不倫相手との合意が矛盾しないように設計することが重要です。

示談書全体の作り方は不倫慰謝料の示談書で詳しく整理しています。両方に請求する場合ほど、金額だけで合意せず、清算範囲と今後の請求関係を明確にしておきましょう。

不倫相手として慰謝料請求された場合に確認すべきこと

ここまでは、不倫された配偶者が誰に慰謝料を請求するかを中心に説明してきました。一方で、この記事を読んでいる方の中には、不倫相手として慰謝料請求を受けた方もいるかもしれません。

不倫相手として請求された場合、まず大切なのは、感情的に反論したり、急いで支払ったりする前に、請求の内容を分解することです。請求者が誰なのか、何を理由に請求されているのか、すでに不倫をした配偶者側から支払いがあったのか、示談書にどのような条項が入っているのかによって、対応の方向性は変わります。

なお、配偶者として慰謝料を請求された場合は、離婚慰謝料、財産分与、親権、養育費などを含む離婚問題に近い整理になります。この見出しでは、主に不倫相手として請求された人が確認すべき点に絞って説明します。

まず請求者と請求内容を確認する

慰謝料請求を受けたら、最初に確認すべきなのは、請求者と請求内容です。不倫された配偶者本人からの請求なのか、弁護士からの通知なのか、ダブル不倫で相手方の配偶者から請求されているのかによって、前提となる当事者関係が変わります。

また、請求の理由が「不貞行為によって婚姻共同生活の平穏を侵害した」という不貞慰謝料なのか、「離婚に至ったこと自体の責任」を問う離婚慰謝料なのかも確認が必要です。第三者である不倫相手に対する離婚慰謝料請求は、単に不貞行為があっただけで当然に認められるものではないため、請求の法的構成を見極める必要があります。

請求書や通知書を受け取ったときは、少なくとも次の点を確認しましょう。

  • 誰から請求されているか:不倫された配偶者本人か、代理人弁護士か、ダブル不倫の相手方配偶者かを確認します。
  • 何を理由に請求されているか:不貞行為そのものか、離婚したことか、夫婦関係の悪化全体かを整理します。
  • 請求額と支払期限:一括でいくらを、いつまでに支払うよう求められているのかを確認します。
  • 証拠の有無:肉体関係、既婚者であることの認識、婚姻関係の状態について、どのような証拠が示されているかを見ます。
  • 示談条件:慰謝料額だけでなく、接触禁止、口外禁止、求償権放棄などの条項が入っているかを確認します。

通知書を受け取った段階で、すぐに「全額支払う」「絶対に支払わない」と決める必要はありません。請求の根拠や証拠が不十分なこともあれば、金額が相場より高いこともあります。反対に、証拠が十分で、交渉を長引かせるほど不利になる場合もあります。

既払い金・二重取り・求償権を確認する

不倫相手として請求された場合に見落としやすいのが、既払い金と二重取りの問題です。不倫をした配偶者が、すでに不倫された配偶者へ慰謝料や解決金を支払っている場合、その金額が不倫相手への請求で考慮されることがあります。

たとえば、同じ不貞行為による精神的損害について、配偶者からも不倫相手からも別々に満額を受け取れるわけではありません。両方に請求できることと、同一損害を超えて二重に回収できることは別です。既払い金がある場合は、誰が、いつ、どの名目で、いくら支払ったのかを確認しましょう。二重取りや既払い金控除の考え方は不倫慰謝料の二重取りで詳しく整理しています。

もう一つ重要なのが、求償権です。不倫相手が慰謝料を支払った場合、自分の負担割合を超えて支払った部分について、不倫をした配偶者に負担を求められる余地があります。ただし、求償できるかどうか、どの程度求償できるかは、負担割合、支払額、示談書の内容によって変わります。

請求する側から見ると、求償権は「夫婦の家計にお金が戻るリスク」になり得ます。反対に、請求された不倫相手から見ると、求償権は支払後に負担を調整するための重要な権利です。そのため、不倫相手として請求された場合は、示談書に求償権放棄条項が入っているか、求償権を放棄する代わりに慰謝料額を減額できないかを検討することになります。

求償権の仕組みは不倫慰謝料の求償権で、求償権放棄条項の考え方は求償権放棄条項で詳しく解説しています。

示談書では清算条項・口外禁止・接触禁止・求償権放棄に注意する

不倫相手として慰謝料請求された場合、示談書では慰謝料額だけを見て判断しないことが重要です。金額に納得していても、条項の内容によっては、今後の生活や仕事に大きな影響が出ることがあります。

清算条項は、示談後に追加請求を受けないために重要です。ただし、清算される範囲が狭すぎると、後から別名目で請求される余地が残ります。反対に、清算範囲が広すぎると、不倫をした配偶者との関係や求償権に影響することもあります。

口外禁止条項は、家族、職場、SNSなどへの拡散を防ぐために置かれることがあります。もっとも、相談のために弁護士へ話すこと、税務・裁判・強制執行など法的に必要な場面まで禁止されると、過度に広い条項になることがあります。

接触禁止条項も、離婚しないケースでは再発防止のために重要です。ただし、不倫相手と不倫をした配偶者が同じ職場で働いている場合、業務上必要な最低限の連絡まで一律に禁止すると、現実に守れない条項になることがあります。職場不倫では、勤務先への不用意な通知、社内での口外、業務上必要な連絡と私的接触の線引きに注意が必要です。接触禁止条項の作り方は不倫慰謝料の接触禁止条項でも整理しています。

示談書全体では、慰謝料額、支払方法、支払期限、期限の利益喪失、清算条項、口外禁止、接触禁止、違約金、求償権放棄を一体で確認する必要があります。示談書の基本的な作り方は不倫慰謝料の示談書で詳しく解説しています。

請求相手の判断に関係する裁判例

不倫慰謝料の請求相手を考えるときは、法律上の一般論だけでなく、裁判例でどのような点が問題になっているかを押さえておくと、交渉の見通しを立てやすくなります。

ここでは、配偶者と不倫相手のどちらに請求するか、両方に請求した場合にどう調整されるか、求償権をどう考えるかに関係する裁判例を整理します。裁判例は事案ごとの判断であり、同じ結論が常に当てはまるわけではありませんが、請求相手を選ぶ際の注意点を理解する手がかりになります。

最高裁平成6年11月24日判決:一方を免除しても他方の責任が当然に消えるとは限らない

不倫をした配偶者と不倫相手が共同不法行為者として損害賠償責任を負う場合、両者の債務は不真正連帯債務として整理されます。不真正連帯債務とは、被害者との関係では各共同不法行為者が損害全体について責任を負い得る一方で、通常の連帯債務とは異なる扱いを受ける債務関係です。

最高裁平成6年11月24日判決は、この不真正連帯債務の関係で、共同不法行為者の一方に対する債務免除が、他方の債務を当然には消滅させないことを示した裁判例として理解されています。

不倫慰謝料の実務では、たとえば配偶者と先に合意した場合に、不倫相手への請求もなくなるのかが問題になります。この裁判例からは、配偶者との合意があったからといって、不倫相手への請求が当然に消えるとは限らないという考え方を読み取れます。

もっとも、示談書で「不倫相手を含めて本件不貞に関する一切の請求を清算する」といった広い文言を置いた場合には、別の解釈問題が生じます。請求相手を一人に絞る場合でも、両方に請求する場合でも、誰に対する請求を残し、誰に対する請求を終わらせるのかを文言で明確にする必要があります。

東京地裁平成25年6月19日判決:求償権は負担割合と支払額で変わる

東京地裁平成25年6月19日判決は、不倫相手が被害者側へ金銭を支払った後、不倫をした配偶者に対して求償を求めた事案です。裁判所は、不倫相手と配偶者の負担割合を5対5と見たうえで、不倫相手がすでに支払った金額は自分の負担部分の範囲内であるとして、求償請求を認めませんでした。

この裁判例から分かるのは、不倫相手が慰謝料を支払ったからといって、当然に配偶者へ全額又は半額を求償できるわけではないということです。求償できるかどうかは、共同不法行為者間の負担割合と、実際に支払った金額が自己の負担部分を超えるかどうかによって変わります。

請求する側にとっては、不倫相手だけに慰謝料を請求する場合でも、求償権の扱いを見落とさないことが大切です。特に離婚しない場合には、不倫相手が支払った後に配偶者へ求償すると、結果的に夫婦の家計からお金が戻る可能性があります。求償権の詳しい仕組みは不倫慰謝料の求償権で確認できます。

東京地裁平成21年12月22日判決:既払い金が他方への請求で調整されることがある

東京地裁平成21年12月22日判決は、不倫相手に対して150万円の慰謝料が認められる事案で、すでに配偶者から被害者へ離婚に伴う解決金として50万円が支払われていたため、その金額を差し引き、不倫相手が支払うべき金額を100万円と判断した裁判例です。

この裁判例は、配偶者と不倫相手の両方に請求できる場合でも、同じ損害について受け取った金額が調整されることを示しています。つまり、「配偶者にも不倫相手にも請求できる」ということは、「双方から別々に満額を受け取れる」という意味ではありません。

請求する側は、先にどちらからいくら受け取ったのかを整理したうえで、残りを誰に請求するのかを考える必要があります。請求された側も、配偶者からの既払い金や解決金がある場合には、その金額が自分への請求で考慮される余地がないかを確認すべきです。二重取りや既払い金控除の詳しい考え方は不倫慰謝料の二重取り・既払い金控除で整理しています。

最高裁平成31年2月19日判決:離婚慰謝料と不貞慰謝料の区別に注意する

最高裁平成31年2月19日判決は、不倫相手に対する離婚慰謝料請求の可否を考えるうえで重要な裁判例です。この判決は、夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者が、単に不貞行為をしただけで、当然に「夫婦を離婚させたこと」について不法行為責任を負うわけではないという考え方を示しました。

第三者である不倫相手に離婚慰謝料を請求するには、不倫相手が夫婦を離婚させることを意図して婚姻関係に不当に干渉し、離婚をやむなくさせたと評価できるような特段の事情が必要とされています。

ただし、この判決は、不倫相手への不貞慰謝料請求一般を否定したものではありません。不倫相手が、既婚者であることを知りながら不貞行為に及び、婚姻共同生活の平穏を侵害したと評価できる場合には、不貞慰謝料の問題として請求を検討する余地があります。

請求相手を判断する際には、配偶者に対して離婚慰謝料を請求するのか、不倫相手に対して不貞慰謝料を請求するのか、それとも両方を一定の範囲で請求するのかを整理することが重要です。離婚協議が長期化している場合でも、不倫相手への不貞慰謝料請求の時効を後回しにしすぎないよう注意しましょう。

これらの裁判例を踏まえると、請求相手の判断では、次の点が特に重要になります。

  • 一方と示談しても、他方への請求が当然に消えるとは限らない
  • 両方に請求できても、同一損害を超える二重取りはできない
  • 一方の既払い金は、他方への請求で調整されることがある
  • 不倫相手への請求では、不貞慰謝料と離婚慰謝料を区別する
  • 求償権や清算条項を見落とすと、示談後に紛争が残ることがある

裁判例は、個別事情を前提とした判断です。そのため、金額や結論だけを抜き出すのではなく、自分のケースでは誰に、何を理由に、どの範囲で請求するのかを整理することが大切です。

まとめ

不倫慰謝料の請求相手は、配偶者だけ、不倫相手だけ、配偶者と不倫相手の両方という3パターンで考えることができます。ただし、法律上請求できる相手と、実際に先に請求すべき相手は一致するとは限りません。

請求相手を選ぶときは、次の点を整理しましょう。

  • 離婚する場合は、配偶者への請求を離婚条件と一体で整理しやすい
  • 離婚しない場合は、不倫相手への請求が関係遮断・再発防止に使いやすい
  • 配偶者と不倫相手の両方に請求できても、同一損害を超える二重取りはできない
  • 不倫相手だけに請求する場合は、求償権放棄を検討する必要がある
  • 示談書では、清算条項・接触禁止・口外禁止・求償権放棄まで確認する

配偶者との離婚条件が複雑な場合には、不倫相手への不貞慰謝料請求を先に整理し、その後に配偶者との離婚条件をじっくり協議するという進め方が適することもあります。もっとも、証拠が不足している場合、相手を特定できていない場合、夫婦関係の修復を優先したい場合などは、先行請求がかえって不利になることもあります。

また、不倫相手として請求された側は、請求者、請求根拠、既払い金、二重取り、求償権、示談書条項を確認する必要があります。金額だけで判断すると、求償権放棄や接触禁止条項などの重要な条件を見落とすおそれがあります。

不倫慰謝料の請求相手は、怒りや感情だけで決めるのではなく、離婚方針、証拠、時効、回収可能性、二重取り、求償権、示談条項を総合して判断することが大切です。

坂尾陽弁護士

請求相手を決める前に、証拠・時効・既払い金・求償権を一度整理しておくと、交渉の失敗を防ぎやすくなります。

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請求相手を決めた後は、具体的な請求条件、示談書、求償権、二重取りの問題を確認しておくと、交渉の進め方を整理しやすくなります。

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