不倫慰謝料は、法律上は不法行為に基づく損害賠償請求権の性質を持つため、民法724条により損害及び加害者を知った時から3年間、又は不法行為の時から20年間が経過したときは時効により消滅します。
一般の方にも分かりやすいように不倫慰謝料は3年間で時効消滅すると簡易的な説明をされることもありますが、不倫慰謝料がどの時点で時効消滅するかは簡単に判断できるものではありません。例えば、不倫慰謝料が時効により消滅するためには、不倫被害者が損害及び加害者を知った時から3年間が経過する必要があるのに、不倫をした時から3年間が経過すれば時効消滅すると勘違いしている方も少なくありません。
この記事では不倫慰謝料の消滅時効について、どのような点が問題となり得るのか、具体的な裁判例においてどの時点で不倫慰謝料が時効により消滅したと判断されているのか、消滅時効に関する重要な判例である最高裁平成31年2月19日判決はどのような点がポイントなのかなどを分かりやすく解説します。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
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不倫慰謝料はなぜ消滅時効の判断が難しいのか
不貞行為は反復的・継続的に行われる
例えば、交通事故に遭って骨折をしたようなケースでは、交通事故や骨折は1回限りでありどの時点から消滅時効の期間がスタートするかは比較的容易に判断できます。これに対し、不倫慰謝料が生じるのは不貞行為があった場合ですが、不貞行為は通常一回限りではなく、反復・継続して行われることがほとんどです。
そのため、不倫慰謝料の消滅時効の期間がいつからスタートするかについて、それぞれの不貞行為があった時、不貞行為がなされた期間全体を一体と見て不貞行為が終了した時、不貞行為によって婚姻関係が破たんした時などのように様々な考え方があり得ます。このため、不倫慰謝料の消滅時効は判断が難しくなります。
不倫慰謝料と離婚慰謝料を区別できる
不倫が発覚した場合でも、必ずしも夫婦関係が離婚に至るとは限りません。不倫があったものの夫婦関係を再構築するような場合もあります。これに対し、不倫が夫婦関係に悪影響を与え、夫婦関係が破たんする又は離婚に至ることもあります。
このため、不倫を原因とする慰謝料には、不貞行為の存在自体から生じた精神的苦痛についての不倫慰謝料と、不貞行為がありその結果離婚に至ったことについての離婚慰謝料を区別することができます。不倫の結果、夫婦関係が離婚するか否かのパターンがあり、不倫慰謝料・離婚慰謝料という異なる性質を持つ慰謝料を考えることができるため、消滅時効の判断が難しくなるのです。
損害及び加害者が知った時はいつか
民法724条によれば、不法行為の被害者が損害及び加害者を知った時から3年が経過することにより、不法行為に基づく損害賠償請求権は時効消滅するとしています。
不倫慰謝料の場合、「損害及び加害者を知った時」の解釈として、どのような損害を知る必要があるのか、加害者をどの程度明確に知る必要があるのかが問題となります。また、実務上の問題として、不倫をした側にとって、不倫被害者がいつ不倫の事実を知ったかを把握することは困難であるという事情もあります。
そのため、自分の事案において、不倫被害者が不倫の事実を知った時期が分からないため、いつ不倫慰謝料の消滅時効が完成するか判断できないことも少なくありません。
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裁判例は不倫慰謝料の消滅時効をどう判断しているか
不貞行為自体を理由とする慰謝料(不倫慰謝料)の消滅時効
不倫慰謝料の消滅時効については、最高裁平成6年1月20日判決が不倫をした配偶者が不倫相手と同棲をした事案について、不倫をされた配偶者が同棲関係を知った時から消滅時効がスタートすると判断しており、これが判例の立場となります。
最高裁判決の原審は同棲関係が終了した時から消滅時効がスタートするとしていましたが、最高裁はこれを否定したことになります。不倫をした側にとって消滅時効がスタートをするのが早いほど有利になるため、同棲関係が終了した時点ではなく、同棲関係を知った時から消滅時効がスタートする判例の立場は不倫をした側にとって有利な判断をしたことになります。
不貞行為が原因で離婚に至ったことに対する慰謝料(離婚慰謝料)の消滅時効
離婚慰謝料の消滅時効については、最高裁平成31年2月19日判決により、そもそも不倫相手に対しては特段の事情がない限り離婚慰謝料は請求できないとされています。
不倫によって夫婦関係が破たんする又は離婚に至ることは、不倫慰謝料を算定するときに増額事由として考慮されます。しかし、不貞行為の存在を知ってから3年が経過し、不倫慰謝料が請求できなくなったような場合において、不倫を理由として離婚に至ったという損害が生じたと主張して、離婚慰謝料を請求することは原則としてできないとするのが判例の立場です。
消滅時効の起算点である被害者が「損害及び加害者を知った時」についての裁判例
判例によれば、 民法724条の損害を知った時とは被害者が損害の発生を現実に認識した時をいい(最高裁平成14年1月29日判決)、加害者を知った時とは,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに,その可能な程度にこれを知ったときを意味するものとされています(最高裁昭和48年11月16日判決)。
不倫慰謝料の請求権については、基本的には不貞行為の事実を知った上で慰謝料を請求できる程度に加害者の氏名や住所を知った時が消滅時効の起算点であると考えられます。例えば、東京地裁平成24年6月19日判決は路上においマフラーで顔を覆った女性が夫といたことを認識した程度では、慰謝料の請求が事実上可能な状況であり、慰謝料を請求できる程度に不倫相手の氏名や住所を知ったとは言えないとして消滅時効は完成していないと判断しています。
また、裁判例においては養育費の不払いから給与を差し押さえるため等の理由から、戸籍謄本を取り寄せたことがきっかけで不倫が発覚した事案においては、戸籍謄本を取り寄せた時点が消滅時効の起算点と判断されています(東京地裁昭和56年1月28日判決、東京地裁平成19年9月28日判決)。
不倫が繰り返された事例における消滅時効
不倫が繰り返されたような事例においては、どの時点でどの不倫関係を知ったかによって不倫慰謝料の請求が認められるか、また、不倫慰謝料の請求が認められるとしてもどの期間の不倫を慰謝料の算定において考慮できるかが変わります。
例えば、東京地裁平成24年4月13日は、一度は不倫関係にあることを知り、一旦は不倫関係が解消されたと信じたものの、その後に不倫関係が継続していたことを知った事案において、過去の不倫関係については消滅時効の対象ではあるが、消滅時効にかかっていない期間の不倫関係は慰謝料算定に加えるべき事実であると判示しています。
消滅時効と婚姻関係の破たんが重なるケース
最高裁平成8年3月26日判決は、不倫の時点において既に婚姻関係が破たんしていたときは特段の事情がない限り不倫相手は不法行為責任を負わないとしています。この判例に照らすと、不倫が発覚してから婚姻関係が破たんしたようなケースにおいては、過去の不倫期間については消滅時効が完成しており、他方で婚姻関係が破たん後の不倫については損害賠償義務の対象とならないと考えられます。
例えば、東京地裁平成27年11月10日判決は、不倫当事者の同居を平成20年頃に認識しており、平成25年10月には婚姻関係が破たんした事案において、提訴された平成27年3月9日の時点から3年以上前までの不貞関係については消滅時効が完成し、婚姻関係が破たんした平成25年10月以降の不貞行為は慰謝料請求の対象とならないとして、平成24年3月から平成25年10月の1年7か月が不倫慰謝料を請求する対象となると判断しています。
なお、婚姻関係破たんの抗弁については、下記記事も参考にしてください。
離婚後に不倫を知った場合
離婚後に不倫があったことを知ったような場合、民法724条1号は「損害及び加害者を知った時」を消滅時効の起算点としているため、不倫被害者が不倫を知った時から3年間の消滅時効がスタートすることになります。
東京地裁平成25年7月16日判決は、離婚後に興信所の調査により不倫が発覚した事案において、興信所の調査報告書の日付を指摘し、調査報告書作成の時点から訴訟提起まで3年が経過していないとして消滅時効の主張を認めませんでした。裁判所は、離婚後に不倫が発覚したような場合でも、離婚時点から消滅時効の期間が進行するのではなく、不貞の事実を知った時点から消滅時効の期間が進行すると判断したものです。
もっとも、婚姻関係が破たんした後に不倫が発覚したケースや、不倫をした配偶者が死亡した後に不倫が発覚したケースにおいては、そもそも不倫慰謝料の請求が認められないとする裁判例も少なくありません(東京地裁平成22年4月20日判決、東京地裁平成24年5月8日判決)。なぜなら不倫相手が夫婦を離婚させるように働きかけたなどの特段の事情が無い限り、不倫が発覚しなければ不貞行為が夫婦関係に悪影響を与えることがないか、又は夫婦関係が破たん・離婚に至ったのは不貞行為以外の事情があったことになるため、不貞行為と夫婦関係の悪化との間に因果関係がないことになるからです。したがって、離婚後に不倫が発覚したようなケースでは、そもそも慰謝料請求が認められるか、消滅時効が成立するかなどについて不倫慰謝料に強い弁護士に早めに相談することをおすすめします。
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最高裁平成31年2月19日判決:不倫慰謝料と離婚慰謝料の消滅時効に関する判例
不倫慰謝料の実務における最高裁平成31年2月19日判決の重要性
最高裁平成31年2月19日判決は、不倫相手に対しては離婚慰謝料を請求できない旨を判示しており、一見すると不倫相手に対する慰謝料請求を認めてきた不倫慰謝料請求を巡る実務に大きな影響を与える重要な判断をしたように思えます。
しかし、最高裁平成31年2月19日判決は、あくまで消滅時効に関する判例と位置付けられるべきであり、判例が不倫相手に対する慰謝料請求を認めない立場に変更されたわけではありません。もっとも、最高裁平成31年2月19日判決の趣旨は理解が難しいため、この記事では分かりやすくどのような意義があるのかを解説します。
最高裁平成31年2月19日判決の事案及び判断の概要
本件は不倫をされた夫が、不倫をした妻の不倫相手である男性に対して慰謝料を請求した事案です。夫は、平成22年5月頃までに不倫を知ったものの、妻との間の離婚調停を先に行って平成27年2月25日に調停が成立し、その後、平成27年中に不倫相手に対して調停・訴訟により慰謝料を請求したという事案でした。
つまり、夫が不倫を知った時を基準とすれば消滅時効が完成しているものの、離婚が成立した時を基準とすれば消滅時効が完成していないことになります。そのため、原審である平成29年4月27日判決は、被害者である夫の損害は離婚が成立して初めて評価されるものであるとして、消滅時効は離婚調停が成立した平成27年2月25日から進行すると判断しました。
これに対し、最高裁平成31年2月19日判決は原審を破棄して夫の慰謝料請求を棄却するべきと判断しました。その理由において、最高裁平成31年2月19日判決は不倫相手である第三者に対しては、「夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をする」などにより夫婦が離婚するのもやむを得ないに至らせたと評価すべき特段の事情がない限り、「離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。」と判示しています。
どのように最高裁平成31年2月19日判決を理解するべきか
一見すると、判例は不倫相手に対する慰謝料請求を否定しているようにも思われます。しかし、あくまで判例が述べているのは、「離婚に伴う慰謝料」については特段の事情がない限り不倫相手に請求することはできないことです。つまり、不貞行為に対する慰謝料については、最高裁平成31年2月19日判決は言及しておらず、従前通り、不倫をした配偶者と不倫相手の両方に対して請求することができることになります。
つまり、本判決は不貞行為による慰謝料(不倫慰謝料)と離婚による慰謝料(離婚慰謝料)を明確に区別した上で、不倫相手に対しては、不倫慰謝料を原則として請求するべきであると判断しています。もっとも、不倫慰謝料の金額を算定するときには不倫によって夫婦生活が破たんしたかや離婚したかは考慮されることになり、不倫慰謝料と離婚慰謝料を区別することにあまり意味はありません。そのため、本判決によって従前の不倫慰謝料を巡る実務には大きく変更されたというわけではありません。
しかし、本判決の事案のように、不倫を知った時を基準とする不倫慰謝料の消滅時効が完成しているのに対し、離婚時点を基準とする離婚慰謝料の消滅時効が完成していないような例外的な場合には不倫慰謝料と離婚慰謝料の区別が意味を持つことになります。つまり、本判決は不倫相手に対して請求できるのは原則として不倫慰謝料であり、離婚慰謝料ではないという構成を採用し、不倫相手に対する慰謝料請求の消滅時効の起算点は不倫を知った時であると判断したものと理解することができます。
一般的には、本判決のように不貞の事実を知ってから5年が経過したにもかかわらず、離婚した時点からは3年以内であるとして離婚慰謝料のみを請求するケースは非常に稀であると思われます。そうすると、最高裁平成31年2月19日は本判決の事例に即して消滅時効について判断したものにすぎず、不倫慰謝料を巡る実務に与える影響は大きくないと言えるでしょう。
不倫慰謝料の消滅時効は裁判でも激しく争われる問題
この記事では不倫慰謝料の消滅時効は簡単に判断することができず、ときには裁判においても激しく争われる問題であることを解説しました。とくに不貞行為は反復・継続して行われるためどの時点から消滅時効がスタートするのか、被害者が損害及び加害者を知った時はいつか等は不倫慰謝料を巡る実務でも頻繁に登場する問題でありとくに抑えておくべき知識です。
また、不倫が繰り返された事例、婚姻関係の破たんが重なった事例、離婚後に不倫を知った事例等において、裁判例でどのような点が問題となり、消滅時効について裁判所はどのような判断をしているのかも紹介しています。さらに、不倫相手に対する離婚慰謝料の請求を否定した最高裁平成31年2月19日判決は、実は不倫慰謝料の実務には大きな影響を与えず、あくまで消滅時効についてのごく稀なケースに関する判例であること等を解説しています。
この記事で紹介した事例に、自分が置かれた状況が近いと感じた場合には、不倫慰謝料の消滅時効が問題となる可能性があります。最初に解説した通り、不倫慰謝料の消滅時効は簡単に判断できる問題ではありません。もし、不倫慰謝料の消滅時効について悩んだ場合には、早めに不倫慰謝料の問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
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