既に関係を清算した過去の不倫であっても慰謝料を請求されることはありますが、不倫の時効が完成していれば支払いの拒否は可能です。この記事では、不倫慰謝料の時効や請求の起算日、時効が延びてしまう条件などについて詳しく説明していきます。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
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不倫慰謝料の請求は時効が完成すればできなくなる
不倫慰謝料とは
不倫慰謝料とは、不倫によって夫婦関係が破綻したり、精神的苦痛を受けたりした場合に、その損害を金銭で償うものです。慰謝料の請求は不倫をした配偶者と浮気相手の両者に行うことができますが、不倫を知った後も婚姻関係を続ける場合などは配偶者への請求はせず、浮気相手のみに請求を行うケースも多々あります。
配偶者と浮気相手では慰謝料請求の時効の考え方が異なります。この記事では、必要に応じてそれぞれ別々に解説します。
慰謝料の二重取りはできない
ちなみに、例えば適正な不倫慰謝料の金額が100万円と認められた場合、配偶者と浮気相手のどちらかが100万円を支払った時点で、もう片方への請求は原則としてできなくなります。慰謝料は配偶者と浮気相手が共同で行ったものなので、両者合わせた金額として算出されるのです。
また、仮に配偶者が20万円を支払った場合は、浮気相手に請求されるのは残りの80万円ということになります。つまり、慰謝料の二重取りはできません。詳しくは下記記事で解説しているので参考にしてください。
(参考)不貞行為の慰謝料は二重取りされる? 不倫相手が既に慰謝料を支払ったときの対応とは。
不倫慰謝料請求の時効とは
「時効」という言葉を聞いて多くの人が思い浮かべるのは、犯罪事件の時効ではないでしょうか。犯罪事件の時効とは、その犯罪を法律で裁けるかどうかの期限を指します。同様に、不倫にも慰謝料請求についても時効があり、時効が完成すると慰謝料を請求できなくなります。
ここで注意しておきたいのが、不倫をした配偶者と浮気相手とでは、慰謝料を請求できなくなる「時効」の起算日が異なるという点です。「不倫相手の時効が完成しているから、自分も同じに違いない」と判断するのは危険です。ここからは、浮気相手が慰謝料を請求される際の起算日や時効について解説していきます。
不倫慰謝料の時効は何年間か
「不貞行為を知ったことによる精神的なダメージ」に対して浮気相手が支払う不倫慰謝料の場合、時効が完成する期間は「浮気相手や不貞行為を知った日から3年間」か「浮気相手との不貞行為があった日から20年間」の短いほうです。
不倫が3年間で時効になる場合
時効期間が3年間になるには、浮気相手の顔を知っている程度ではなく、名前や住所などを特定している必要があります。相手が加害者の素性を知らないと時効は開始しないのです。不倫の時効を定める民法724条は「損害及び加害者を知ったときから3年間」で時効が完成するとしているため、損害が生じる不貞行為があって精神的苦痛を感じること及び加害者である浮気相手の素性を知ってから時効期間がスタートします。
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
不倫が20年間で時効になる場合
ただし、素性を知らないままであれば時効は完成しないというわけではなく、不貞行為があった日から20年間が経てば時効が成立します。この20年間を以前は「除斥期間」としており、停止や中断ができない期間と定めていました。
民法の改正により除斥期間ではなく時効と同じ扱いとなりましたが、2020年3月31日までに不貞行為があった日から20年が経過している場合は、改正前の民法が適応されるため慰謝料請求はできません。
慰謝料請求のパターン別による時効の起算点
時効の起算日は慰謝料の事由によって異なる
時効がスタートする日は、以下に紹介する慰謝料を請求される3つの理由によって異なるので注意が必要です。
- 不貞行為をされたこと自体に対する精神的苦痛に対するもの
- 不貞行為が原因で離婚したことによる精神的苦痛に対するもの
「不貞行為をされたこと自体に対する精神的苦痛」が理由であれば、不貞行為及び加害者を知ったときから時効が始まります。
「不貞行為が原因で離婚したことによる精神的苦痛」が理由の場合は、離婚した日から3年間となります。不倫慰謝料の時効はケースによって異なると言えるでしょう。
浮気相手に対して離婚に対する慰謝料請求はできない
2019年2月に最高裁において、特段の事情がない場合、離婚の慰謝料は不貞行為をした浮気相手に請求できないとする判決が出されました。この判例は、少なくとも慰謝料請求の時効に関して、不貞行為に基づく慰謝料請求権を離婚慰謝料の請求権と不倫慰謝料の請求権に明確に分けて判断しています。
この事案は、裁判が行われた時点で配偶者の不倫を知ってから5年間が過ぎており、不貞行為についての慰謝料の時効は成立していました。しかし、離婚をしてからは3年間が経過しておらず、離婚時点を時効の起算点とすれば浮気相手に対しても慰謝料請求ができる事案でした。しかし、最高裁は浮気相手に対する慰謝料請求は時効が完成していると判断しました。
つまり、不貞行為があったときは、配偶者に対しては離婚時から3年間は離婚慰謝料を請求できますが、浮気相手に対しては不貞行為と加害者を知った時から3年間の不倫慰謝料しか請求できないことになります。
婚姻関係破たんや離婚後に不倫を知った場合
不倫被害者が婚姻関係破たんや離婚後に不倫を知った場合、時効の成立は別問題として、不倫相手に対する慰謝料請求は認められない可能性があります。不倫慰謝料は、不貞行為を原因として平穏な夫婦関係を侵害したことが違法であるため、不貞行為による精神的苦痛という損害を賠償しなければならないものです。
しかし、婚姻関係破たんや離婚後に不貞行為が発覚したのであれば、その時点で保護されるべき平穏な夫婦関係はありません。したがって、不貞行為が原因で平穏な夫婦関係を侵害したとは言えないため慰謝料請求が認められないという考え方があり得るのです(参考:東京地裁平成2年4月20日判決、東京地裁平成24年5月8日判決)。
時効は単純に何年間の期間が経過すれば完成するか否かが分かると思われるかもしれません。しかし、慰謝料請求の時効については、事実関係や法解釈を争って裁判で激しく争われる点です。安易に判断せずに必ず慰謝料を請求された事案に強い弁護士にご相談ください。
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慰謝料請求の時効期間は更新される
不貞行為から3年以上が経過している場合でも時効が完成していない場合があります。慰謝料を請求する意思を浮気相手に対して示すことで、時効期間の完成猶予や更新を行うことができる仕組みがあるからです。
時効の完成猶予と更新の違い
完成猶予は一時的な時効完成の先延ばし
完成猶予とは、一定の事由に基づいて時効の完成を先延ばしにすることです。
更新は時効期間のリセット
更新とは、同じく一定の事由に基づいてそれまで進行していた時効を止め、リセットすることです。
時効は、原則として起算日から3年間で完成しますが、時効期間の猶予や更新が行われている可能性があるため、3年間が経っているからといって安心はできません。
特に更新が行われている場合は、不貞行為を知ってから2年半が過ぎ、時効まで残すところ半年であっても、更新の時点で時効が振出しに戻るため残り3年となります。当初考えていた時効の期間から大きく延びてしまうのです。
不倫相手の配偶者が慰謝料請求の準備を整えるために時効を更新させる可能性があることも十分に考慮しておきましょう。ここからは、不倫慰謝料の時効が中断する事由(猶予や更新が行われる事由)について解説していきます。
裁判
訴訟提起による完成猶予
多くの場合、慰謝料の請求は直接交渉から始まります。しかし、交渉の準備をしている間に時効が成立すると請求ができなくなるため、時効を猶予、更新させる必要がでてきます。
そこで行われるのが、裁判による慰謝料請求です。裁判を起こすと時効の完成は猶予されるため、裁判の最中に時効を迎えたとしても慰謝料の請求はなんら問題なく行われます。
判決確定による更新
さらに、確定判決がくだされた後、もしくは確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定すると時効は更新されます。「裁判を起こされて大事にされたくない」と考える人は多いでしょう。しかし、時効が迫っており、慰謝料について折り合いがついていない場合は、裁判を起こされる可能性があると考えておきましょう。
強制執行など
強制執行、抵当権・担保権の実行、競売などが行われた際にも時効の完成は猶予され、事由が終了すると時効は更新されます。
内容証明郵便の送付による催告
交渉が長引いて時効が迫った場合や、裁判を起こす時間的余裕がない場合などに、不倫相手の配偶者が浮気相手に対して内容証明郵便で慰謝料請求書を送る「催告」を行う場合があります。
慰謝料請求の意思を明確に表す証拠となり、時効を6カ月間猶予することが可能です。催告は何度も行うことができますが、猶予されている期間中に催告を行ったからといって6カ月の期間が延びるわけではありません。
債務の承認
相手が債務を認めた日を起算日とできるのが「債務の承認」です。債務とは、慰謝料の支払いのことであり、債務の承認とは「不倫をしていたので慰謝料を支払います」と認めることを指します。口頭でも債務の承認は行えますが、後々トラブルにならないように公正証書を作成することが多いです。債務の承認は浮気相手が認めなければ成立しないので、確定的な証拠があったとしても慰謝料の支払いについては熟慮し、安易に書類に署名や捺印をしないようにしましょう。慰謝料の一部を支払ったり、慰謝料の減額を申し入れたりすることも債務の承認と認められます。一旦債務の承認が行われれば時効は更新されるため、注意が必要です。
仮差押え・仮処分・差押え
債務の承認が行われて公正証書が作成されたにもかかわらず、慰謝料の支払いを行わない場合、財産の仮差押え、仮処分、差押えをすることで時効の完成を猶予することができます。
協議を行う旨の書面による合意
権利についての協議を行う旨の合意が、書面か電磁的記録で行われた場合、時効の完成が猶予されます。猶予される期間は「合意があったときから1年を経過したとき」「合意において定められた協議期間(1年未満に限る)を経過したとき」「どちらかが協議の続行を拒絶する旨の書面による通知をしたときは、その通知から6カ月後を経過したとき」のうち、最も早い期間です。この事由は2020年の法改正により新設されました。
民法改正のポイント:時効の中断ができない除斥期間は更新可能な時効へ
民法改正前は、不貞行為があった日から20年間は除斥期間と解されていました。そして、除斥期間の場合は時効の中断が適用されませんでした。
しかし、民法改正により「除斥期間」は、あくまで20年間の時効期間であり客観的な時効の起算点を定めた規定だと整理されました。また、時効の「停止」と「中断」は、それぞれ時効の「完成猶予」と「更新」と変更されました。
今後は過去の不倫についても、時効の完成猶予を狙うために時効完成前に裁判を起こされることが増えるかもしれません。不倫で裁判を起こされたときは慰謝料減額に強い弁護士にご相談ください。
慰謝料を請求されたらすぐに答えを出さずに時効完成の確認を
時効完成の主張をすれば慰謝料を払わなくてすむ
不倫相手の配偶者から、慰謝料を請求される旨の連絡を受け取ったら、血の気が引くような思いをするかもしれません。「不倫が家族や職場にばれてしまうのではないか」と動揺して、冷静な判断ができなくなることもあるでしょう。しかし、時効が完成しているなら支払いを拒否することに問題はありません。特に「不貞行為が3年以上前のものである」場合は、時効が完成していることがほとんどです。
時効を考えると慰謝料請求された直後に安易に債務を承認しない
不倫相手の配偶者が不倫に気づいて浮気相手に連絡してくるまでに、さまざまなことを調べているはずです。慰謝料請求の方法を確認し、不貞行為の証拠をつかみ、場合によっては弁護士に相談を済ませているでしょう。時効完成間近であれば、時効完成の猶予や更新の手続きを行われていることもあります。これに対して浮気相手の立場では「慰謝料請求」という問題を突然突きつけられることが多いです。
特に、何年も前の過去に終わった不倫についての話であれば、寝耳に水というケースもあるでしょう。動揺して、時効が完成しているかどうかよくわかっていない状態で「慰謝料を支払います」「不倫を認めます」などとすぐに答えを出してはいけません。慰謝料の支払いを一旦認めてしまうと、後から「時効が完成しているので、慰謝料は支払いません」と主張できなくなることがあるからです。時効の完成についての判断は非常に難しく、素人では判断を誤ることもあります。不倫相手の配偶者が起算日などについて勘違いしている可能性もあるため、慎重に対応するようにしましょう。
時効が完成していた場合の対応方法
慰謝料請求の時効が完成していた場合は「時効の援用」を行います。時効の援用とは、内容証明郵便の送付や裁判などで「時効が完成しているから請求には応じられない」と主張することです。口頭での時効の援用も有効ですが、後ほどトラブルにならないためにも内容証明郵便などで証拠を残しておくとよいでしょう。時効が完成していても慰謝料を請求されるケースはあります。
また、時効が完成していても「慰謝料を支払う」と言ってしまった後でそれを取り消すことは難しいです。時効が完成しているかどうかは自分で把握し、主張しなければ認められません。時効の起算日や時効完成の猶予、更新といった複雑な条件についても確認し、よくわからない時点で安易に返事をしないようにしましょう。
過去の不倫の慰謝料請求は時効について弁護士に相談を
不倫慰謝料の請求ができる時効は、原則として3年間ですが、その起算日などは慰謝料を請求される事由や慰謝料を請求される人が誰かによって異なります。また、時効が完成していることについては、自ら主張する必要があることも覚えておきましょう。
過去の不倫で慰謝料請求をされたら、不倫の時効が完成していないか弁護士にご相談ください。
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