不倫慰謝料を払わないとどうなる?払わなくていいケースと支払拒否のリスク

不倫慰謝料を請求されたとき、「納得できない」「できれば払いたくない」「このまま払わないとどうなるのか」と不安になる方は少なくありません。請求額が高額であったり、相手の配偶者から突然内容証明が届いたりすると、すぐにでも差押えや刑事罰を受けるのではないかと感じることもあるでしょう。

もっとも、不倫慰謝料を払わない場合の結論は一つではありません。まず分けて考えるべきなのは、法的な理由があって支払義務を争う場合と、請求を無視して単に払わない場合です。前者であれば、証拠や法律関係を整理して適切に反論することで、慰謝料を払わなくてよい、又は大幅に減額できる可能性があります。後者の場合は、交渉がこじれて裁判になり、最終的に給与や預貯金などの差押えに進むリスクがあります。

この記事では、不倫慰謝料を請求された方に向けて、払わないとどうなるのか、払わなくていい可能性があるケース、支払拒否を検討する前に確認すべき点を整理します。支払義務があるか分からない段階で、あわてて支払ったり、反対に何も対応せず放置したりしないための判断材料として参考にしてください。

なお、この記事は不倫慰謝料を請求された側に向けた解説です。反対に、浮気相手・不倫相手に慰謝料を請求したものの、相手が払ってくれない場合は、浮気相手が慰謝料を払わないときの対処法を参考にしてください。

  • 不倫慰謝料を払わないだけで、通常すぐに逮捕・刑事罰となるわけではありません。
  • ただし、請求を無視し続けると、裁判・判決・強制執行に進む可能性があります。
  • 不貞行為がない、証拠が不十分、夫婦関係が破綻していた、時効が完成している場合などは、払わなくていい可能性があります。
  • 示談書・公正証書・判決・和解調書がある場合は、不払いのリスクが重くなります。
  • 「払わない」と決める前に、請求内容、証拠、金額、時効、合意の有無を確認することが重要です。

坂尾陽弁護士

払わない理由があるかどうかと、放置してよいかどうかは別問題です。まずは請求内容と証拠を整理しましょう。
(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

不倫慰謝料に詳しい坂尾陽弁護士

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不倫慰謝料を払わないとどうなる?まず結論

不倫慰謝料を払わないとどうなるかは、現在どの段階にあるかによって変わります。請求書が届いただけの段階なのか、示談書にサインした後なのか、裁判で判決が出た後なのかで、相手が取れる手段は大きく異なります。

大まかにいうと、請求書や内容証明の段階では、相手が一方的に金額を請求している状態です。この時点で、ただちに給与や預貯金を差し押さえられるわけではありません。しかし、請求を無視し続ければ、相手が訴訟を起こし、判決や和解調書などを得たうえで強制執行を申し立てることがあります。

特に注意したいのは、「いま差押えされていないから大丈夫」と考えて放置することです。慰謝料請求は、最初は任意の交渉として始まることが多いですが、途中で裁判や強制執行に進むと、対応の選択肢が狭くなります。早い段階で反論できる事情を整理しておくほど、減額交渉や支払拒否の方針を取りやすくなります。

払わないだけで通常すぐ刑事罰・逮捕になるわけではない

不倫慰謝料は、基本的には民事上の損害賠償の問題です。そのため、不倫慰謝料を払わないこと自体によって、通常すぐに警察に逮捕されたり、刑事罰を受けたりするわけではありません。

もっとも、「刑事罰がないなら放置してよい」という意味ではありません。慰謝料請求は民事上の問題であるため、相手は民事裁判を起こし、判決や和解によって支払義務を確定させようとすることがあります。刑事罰の問題になりにくいことと、民事上の責任を免れることは別です。

また、請求された側が感情的になって相手を脅す、勤務先や家族に不用意な連絡をする、証拠隠しのような行動をするなど、別の問題を起こせば、それ自体が新たなトラブルにつながる可能性があります。慰謝料を払うかどうかを判断する場面では、まず民事上の請求として冷静に整理することが重要です。

MEMO

「慰謝料を払わないと逮捕されますか」という不安は多いですが、通常問題になるのは刑事罰ではなく、裁判・判決・差押えなどの民事上のリスクです。

請求書や内容証明が届いた段階ですぐ差押えになるわけではない

相手方や弁護士から請求書、通知書、内容証明郵便が届いても、それだけで相手があなたの財産を差し押さえられるわけではありません。内容証明郵便は、いつ、どのような内容の通知を出したかを証明しやすくするための郵便であり、それ自体が判決と同じ効力を持つものではないからです。

そのため、請求額に納得できない場合や、そもそも支払義務があるか疑問がある場合は、内容を確認したうえで反論や交渉をする余地があります。もっとも、内容証明を受け取ったのに何も反応しないと、相手が「任意の交渉では解決できない」と判断し、裁判に進むきっかけになることがあります。通知書や内容証明を無視するリスクについては、不倫慰謝料の通知書・内容証明を無視するとどうなるかも参考にしてください。

内容証明が届いた段階で確認すべきなのは、請求者が誰か、請求額はいくらか、どの事実を不貞行為としているか、支払期限がいつか、証拠の提示があるか、過去に示談や謝罪文の作成をしていないかです。ここを確認せずに放置したり、反射的に謝罪や支払約束をしたりすると、後の交渉が難しくなることがあります。

無視を続けると裁判・判決・強制執行に進むことがある

請求を受けた後に一切対応しない場合、相手は慰謝料請求訴訟を起こすことがあります。訴状が届いた後も対応しないと、相手の主張に十分な反論をしないまま手続が進み、不利な判決が出るリスクがあります。

判決、裁判上の和解、和解調書などで支払義務が確定した後も払わない場合には、相手が強制執行を申し立てることがあります。強制執行では、給与、預貯金、不動産などが対象になり得ます。特に給与差押えの場合、勤務先に裁判所からの書類が届くため、職場に知られるリスクもあります。

裁判で支払義務が認められた後のリスクは重くなります。判決後の対応や差押えの流れについては、不倫慰謝料裁判で負けた場合のリスクで詳しく整理しています。

なお、裁判になったからといって必ず請求額全額が認められるわけではありません。相手の証拠、婚姻関係の状況、不貞行為の期間や回数、発覚後の対応、既払いの有無などによって、慰謝料額は変わります。だからこそ、訴状が届いた段階でも、諦めて放置するのではなく、争点を整理して対応する必要があります。

「支払義務を争うこと」と「放置して払わないこと」は違う

不倫慰謝料を払わない方針を考えるときに最も重要なのは、支払義務を争う対応と、単なる放置を区別することです。証拠が不足している、既婚者だと知らなかった、夫婦関係が破綻していた、時効が完成しているなどの事情があるなら、支払拒否や減額交渉の余地があります。

一方で、何の根拠も示さずに「払わない」とだけ伝えたり、請求書や訴状を無視したりすると、相手の態度が硬化し、裁判や強制執行に進みやすくなります。支払義務を争う場合でも、まずは請求理由、証拠、請求額、時効、過去の合意の有無を整理し、必要な反論を具体的に示すことが大切です。

  • 争う余地がある対応:請求内容を確認し、証拠・時効・夫婦関係の破綻・既婚者認識などの反論を整理したうえで回答する。
  • 危険な対応:請求書を読まずに放置する、訴状を無視する、根拠なく「払わない」とだけ返信する、感情的な文面を送る。

不倫慰謝料を払わなくていい可能性があるケース

不倫慰謝料を請求されたとしても、常に請求どおり支払わなければならないわけではありません。相手が主張する不貞行為が認められない場合や、法律上の責任を負う前提が欠ける場合には、慰謝料を払わなくていい可能性があります。

ただし、ここで重要なのは「払わなくていい可能性がある」ことと、「何もしなくても請求が消える」ことを混同しないことです。支払義務を争うには、相手の主張に対して、どの点を争うのかを具体的に整理する必要があります。支払義務がないケースの詳しい判断は、不倫慰謝料を回避できる条件もあわせて確認してください。

特に、請求された側では「自分は悪くない」「相手の夫婦関係は前から悪かった」「既婚者だとは知らなかった」という認識があっても、証拠上どこまで裏付けられるかによって結論が変わります。以下では、払わなくていい可能性がある典型例を、支払拒否の入口として整理します。

不貞行為・肉体関係が認められない場合

不倫慰謝料では、一般に、配偶者以外の人との肉体関係など、婚姻共同生活の平和を侵害する行為が問題になります。そのため、食事、メッセージのやり取り、相談、仕事上の連絡だけで、直ちに高額な不倫慰謝料が認められるとは限りません。

もっとも、肉体関係を直接示す証拠がなくても、ホテルへの出入り、宿泊、親密なメッセージ、写真、探偵報告書などから、不貞行為が推認されることがあります。「肉体関係を認めていないから絶対に払わなくてよい」と単純に考えるのではなく、相手がどのような証拠を持っているかを確認する必要があります。

また、請求書の中で「不倫」「交際」「男女関係」などの言葉が使われていても、具体的に何を指しているのかが不明確なことがあります。反論する場合は、「不貞行為はない」と抽象的に述べるだけでなく、会った日時、場所、関係性、宿泊の有無、メッセージの趣旨など、相手の主張に対応して整理することが大切です。

相手の証拠が不十分な場合

慰謝料を請求する側は、不貞行為や損害、責任原因を裏付ける証拠を示す必要があります。証拠があいまいで、単なる推測や感情的な主張にとどまる場合には、請求額どおりの支払に応じる必要がないことがあります。

ただし、請求された側から見て「証拠がない」と感じても、相手が写真、LINE、ホテル利用履歴、探偵報告書、録音、謝罪文などを持っていることもあります。支払拒否をする前に、相手がどの事実を根拠に請求しているのか、どの証拠を提示しているのかを確認しましょう。

証拠が弱い場合でも、返信の仕方には注意が必要です。勢いで「すみません」「責任を取ります」「慰謝料は払います」といった文面を送ると、後から支払義務や事実関係を争う際に不利に扱われることがあります。事実を認めるかどうか、支払意思を示すかどうかは、証拠関係を確認した後に判断しましょう。

既婚者と知らず、知らなかったことに過失もない場合

不倫相手に慰謝料責任が認められるには、相手が既婚者であることを知っていた、又は注意すれば既婚者だと分かったといえる事情が問題になります。独身だと説明されていた、結婚していることをうかがわせる事情がなかったなどの場合には、慰謝料を払わなくていい可能性があります。

一方で、指輪、子どもの話、配偶者の存在を示す会話、SNS上の表示、同居状況などから、既婚者だと気付けたはずだと判断されることもあります。「知らなかった」と言えば足りるわけではなく、なぜ知らなかったのか、知ることができなかった事情があるのかを具体的に整理することが重要です。

例えば、相手が独身であると明確に説明していたのか、職場や友人関係の中で既婚者であることを知る機会があったのか、交際中に配偶者や子どもの存在を疑わせる事情があったのかを確認します。既婚者と知らなかったことを主張する場合は、自分の認識だけでなく、その認識を裏付けるやり取りや状況も重要になります。

不倫前から夫婦関係が破綻していた場合

不倫慰謝料は、夫婦の婚姻共同生活の平和が侵害されたことを理由に請求されるものです。そのため、不貞行為の時点で夫婦関係がすでに破綻していたといえる場合には、慰謝料を払わなくていい可能性があります。

最高裁平成8年3月26日第三小法廷判決も、夫婦の婚姻関係が当時すでに破綻していたときは、特段の事情のない限り、不貞相手は他方配偶者に対して不法行為責任を負わないと判断しています。

ただし、夫婦仲が悪かった、別居の話が出ていた、喧嘩が多かったというだけで、直ちに「破綻」と評価されるわけではありません。別居の有無、離婚協議の状況、夫婦関係の修復可能性、生活実態などを踏まえて判断されます。

また、不倫相手側が「破綻していると聞いていた」と主張しても、実際には夫婦が同居を続けていた、家族として行動していた、離婚協議が具体化していなかったという事情があると、破綻の主張が通りにくいことがあります。破綻を理由に支払拒否をするなら、単なる伝聞ではなく、客観的な事情を確認する必要があります。

時効が完成している場合

不倫慰謝料には時効があります。一般に、不倫の事実と請求相手を知った時から一定期間が経過している場合や、不法行為の時から長期間が経過している場合には、時効を主張できる可能性があります。

ただし、時効の起算点は、誰に対するどの慰謝料を請求しているのか、いつ不貞行為や相手方を知ったのか、途中で請求や協議があったのかによって変わります。時効が完成している可能性がある場合でも、相手にどのように主張するかは慎重に検討する必要があります。

時効は、期間が過ぎれば自動的に相手が請求を諦めるというものではありません。請求された側が時効を主張することで初めて問題になる場面もあります。古い不倫について請求された場合は、事実を認める前に、発覚時期、相手が誰を請求相手として認識した時期、過去の交渉履歴を確認しましょう。

配偶者から十分な慰謝料を受け取っている場合

不倫慰謝料では、不倫をした配偶者と不倫相手が、同じ損害について責任を負う関係になることがあります。そのため、請求者がすでに配偶者から十分な慰謝料を受け取っている場合には、不倫相手に対してさらに同じ損害を二重に回収することは問題になります。

もっとも、配偶者から一部しか支払われていない場合や、支払の趣旨が明確でない場合、不倫相手固有の悪質性が争われる場合など、単純に「配偶者が払ったから自分は払わなくてよい」とは言い切れないこともあります。既払い金の有無、金額、示談書の内容、清算条項の有無を確認しましょう。

特に、配偶者との示談書に「不倫相手には別途請求できる」といった内容が含まれている場合や、支払額が一部の損害の清算にとどまる場合には、不倫相手への請求が続くことがあります。二重取りの問題は、支払済みの金額だけでなく、示談書の文言と支払の趣旨をあわせて見る必要があります。

自己破産すれば必ず払わなくていい、とは限らない

お金がなくて不倫慰謝料を払えない場合に、自己破産を考える方もいます。実際に、東京地裁平成28年3月11日判決では、不貞慰謝料請求権について、破産法上の非免責債権に該当しないと判断された事案があります。

しかし、この裁判例があるからといって、不倫慰謝料は自己破産すれば必ず免責される、と断定することはできません。破産手続でどのように扱われるかは、不貞行為の態様、請求の内容、悪質性、破産手続での対応などによって個別に判断されます。自己破産と不倫慰謝料の関係については、不倫慰謝料と自己破産・免責の考え方で詳しく解説しています。

また、自己破産は慰謝料だけでなく、借金、収入、財産、家族への影響、職業上の制限なども含めて検討する手続です。単に「不倫慰謝料を払いたくない」という理由だけで安易に選ぶものではありません。支払義務を争えるのか、減額や分割で解決できるのか、破産以外の選択肢があるのかを先に整理することが大切です。

注意

「払わなくていい可能性があるケース」に当てはまりそうでも、請求書や訴状を放置してよいわけではありません。反論できる事情があるほど、早い段階で証拠と主張を整理することが重要です。

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不倫慰謝料を支払拒否する前に確認すべきこと

不倫慰謝料を請求されたとき、請求額に納得できないからといって、すぐに「払いません」とだけ返してしまうのは危険です。支払拒否を検討する場合でも、先に確認すべきなのは、請求の根拠、相手の証拠、自分の反論材料、そして今後の手続リスクです。

特に、不倫慰謝料の請求では、当事者の感情が強く出やすく、短い返信や不用意な謝罪の一言が、後の交渉で不利に扱われることがあります。支払義務を争う余地がある場合ほど、感情的な返答ではなく、事実関係と法的な反論を整理したうえで対応することが大切です。

  • 請求書の金額・期限・請求理由を確認する
  • 相手がどのような証拠を持っているかを把握する
  • 自分の反論証拠を早めに整理する
  • 払わない、払えない、減額したい、のどれなのかを分ける

ここを整理しないまま支払拒否をすると、本来は争えたはずの事案でも、交渉がこじれて裁判に進むことがあります。反対に、支払義務がありそうな事案でも、証拠関係や金額の妥当性を確認すれば、減額や分割払いで現実的に解決できる場合があります。

請求書・内容証明の内容を確認する

まず確認すべきなのは、届いた請求書や内容証明の中身です。誰が請求しているのか、いつ・どのような不倫を理由にしているのか、請求額はいくらか、支払期限はいつか、支払わない場合にどのような手続を予定していると書かれているかを確認します。

内容証明郵便そのものには、給与や預貯金を差し押さえる力はありません。しかし、相手が本気で請求していること、一定の期限までに回答や支払を求めていること、後に裁判で「いつ請求したか」を示す資料になり得ることから、軽く扱うべきではありません。

請求書の中に、肉体関係の有無、期間、回数、既婚者と知っていた事情、夫婦関係への影響、探偵費用、弁護士費用などが書かれている場合には、それぞれの記載が事実と合っているかを分けて確認しましょう。すべてを一括して否定するのではなく、認める部分、争う部分、分からない部分を分けると、後の回答が整理しやすくなります。

相手が持つ証拠を確認する

不倫慰謝料を払わない、又は減額したいと考える場合、相手の証拠がどの程度強いかが重要です。不貞行為を立証できる証拠があるのか、既婚者と知っていたことを示す証拠があるのか、夫婦関係が破綻していなかったことを示す事情があるのかによって、交渉方針は変わります。

  • ホテル・宿泊・旅行の証拠:ホテルへの出入り写真、宿泊予約、領収書、クレジットカード利用履歴などがある場合、不貞行為の推認につながることがあります。
  • メッセージや通話履歴:LINE、メール、SNS、通話履歴の内容から、関係の親密さ、既婚者と知っていた事情、交際期間が争われることがあります。
  • 探偵の調査報告書:日時、場所、写真、行動経過が具体的に整理されている場合、裁判でも重要な資料として扱われることがあります。
  • 自分の発言・謝罪文:その場で書いた謝罪文やメッセージの文言が、後に不貞行為や支払義務を認めた資料として主張されることがあります。

相手が「証拠はあります」とだけ言っている段階では、証拠の中身が分からないこともあります。その場合でも、相手がどの事実を根拠に請求しているのか、証拠の提示を受けられるのか、裁判になった場合にどこが争点になりそうかを意識して対応する必要があります。

自分の反論証拠を整理する

支払拒否をするなら、自分側の反論証拠も整理します。単に「不倫ではない」「払いたくない」と言うだけでは、交渉でも裁判でも説得力が出にくいからです。反論は、感情ではなく、証拠と法律上のポイントに結び付ける必要があります。

例えば、肉体関係がないと主張するなら、当日の行動記録、第三者と一緒にいた事情、宿泊していないことを示す資料などを確認します。既婚者と知らなかったと主張するなら、相手が独身だと説明していたメッセージ、結婚指輪をしていなかった事情、婚活アプリ等の表示、周囲への説明状況などが問題になります。

夫婦関係が不倫前から破綻していたと主張する場合には、別居時期、離婚協議の有無、夫婦間のメッセージ、調停申立ての有無などが重要です。時効を主張する場合には、相手が不倫の事実と相手方を知った時期、請求や交渉の経過を確認する必要があります。どの反論も、事実の時系列を作ると整理しやすくなります。

払わない・払えない・減額交渉を混同しない

「不倫慰謝料を払わない」といっても、実際にはいくつかの意味があります。支払義務そのものを争うのか、支払義務はあるが金額が高すぎると考えているのか、支払義務は認めるが一括では払えないのかによって、取るべき対応は変わります。

  • 支払義務がないと考える場合は、法的な反論を整理する
  • 金額が高すぎる場合は、減額交渉の根拠を整理する
  • 一括で払えない場合は、分割払いや支払計画を検討する
  • 払うか争うか迷う場合は、証拠とリスクを先に確認する

資力不足が理由で支払えない場合は、支払拒否とは別の問題です。支払義務自体を争えないのに放置すると、裁判や差押えに進むリスクがあります。お金がなくて一括払いが難しい場合の考え方は、不倫慰謝料が払えないときの対処法で詳しく整理しています。

減額交渉をする場合も、単に「高いから払えません」ではなく、不貞期間、回数、婚姻関係への影響、相手夫婦の離婚の有無、既に支払われた金額、こちらの資力などを踏まえて交渉する必要があります。支払拒否と減額交渉を混同すると、相手に「責任逃れをしている」と受け取られ、交渉が硬直することがあります。

回答で支払義務を認める表現に注意する

請求に回答するときは、文言にも注意が必要です。謝罪の気持ちを伝えることと、法的な支払義務を認めることは同じではありません。しかし、書き方によっては、後から「慰謝料を支払うと認めた」「不貞行為を認めた」と主張されることがあります。

特に、「慰謝料として〇万円を支払います」「全て私が悪いです」「請求額を支払うので待ってください」などの表現は、事案によっては不貞行為や支払義務を認めたものとして扱われるリスクがあります。反対に、法的責任を争う場合には、請求内容を確認中であること、証拠の提示を求めること、支払義務を認める趣旨ではないことを明確にする必要があります。

支払拒否は「無視」ではなく「根拠ある回答」

支払義務を争う余地がある場合でも、何も返事をしないことが最善とは限りません。相手の請求を放置すると、交渉の余地を失い、裁判に進みやすくなることがあります。回答する場合は、事実関係、証拠、法的反論を整理したうえで、認める範囲を広げすぎない表現にすることが大切です。

なお、時効が問題になる場合には、債務を認めるような発言が時効の主張に影響することもあります。請求から時間が経っている、不倫発覚から長期間経過している、過去にやり取りがあるという場合は、回答前に時系列を確認しておきましょう。

不倫慰謝料を払わない・無視する場合のリスク

不倫慰謝料を払わない場合のリスクは、どの段階で払わないのかによって変わります。請求書が届いた直後に支払わないことと、裁判で判決が出た後に支払わないこと、公正証書で支払を約束した後に支払わないことは、法的な重みが大きく異なります。

大切なのは、請求された金額をすぐ全額払うことではありません。支払義務や金額を確認せずに払うのも危険です。しかし、何も対応せずに放置すると、相手が裁判や強制執行を選びやすくなり、結果として家族や職場に知られるリスク、費用や遅延損害金が増えるリスクが高まります。

交渉がこじれて裁判になることがある

請求書や内容証明を無視し続けると、相手は「話し合いでは解決できない」と判断し、訴訟を提起することがあります。裁判になれば、請求している側は証拠を提出し、こちらも答弁書や準備書面で反論する必要があります。

裁判になったからといって、必ず請求額どおりに支払うことになるわけではありません。証拠が弱い場合、金額が高すぎる場合、婚姻関係の破綻や時効などの反論がある場合には、請求が棄却されたり、慰謝料額が減額されたりすることもあります。

ただし、裁判は時間と労力がかかります。裁判所からの書類が自宅に届くこともあり、家族に知られたくない方にとっては心理的な負担も大きくなります。裁判になる前に、支払義務の有無、減額の余地、分割払いの可能性を整理して交渉できるなら、その方が負担を抑えやすい場合があります。

訴状を無視すると不利な判決が出ることがある

内容証明の段階で返事をしなかったとしても、まだ交渉の余地が残っていることはあります。しかし、裁判所から訴状や呼出状が届いた後に放置するのは特に危険です。答弁書を提出せず、期日にも出席しないと、相手の主張に十分反論しないまま手続が進むことがあります。

本来であれば、証拠不十分、金額過大、時効、婚姻関係破綻などを主張できたとしても、裁判所に適切に主張しなければ判断材料として扱われません。訴状が届いたら、支払うかどうかを決める前に、提出期限、期日、請求原因、証拠を確認する必要があります。

「裁判所からの書類を見たくない」「相手と関わりたくない」という気持ちで放置すると、後で差押えの段階になってから慌てることになりかねません。訴状が届いた段階では、少なくとも何を争うのか、争わずに和解するのかを早急に決めることが重要です。

判決・和解後に強制執行されることがある

裁判で判決が出たり、裁判上の和解が成立したりすると、その内容は強制執行の根拠になります。強制執行の根拠になる文書を、一般に債務名義といいます。債務名義があるのに支払わない場合、相手は給与や預貯金などの差押えを申し立てることができます。

ここで注意すべきなのは、請求書の段階ではすぐ差押えにならなくても、判決や和解調書などができた後は状況が変わるという点です。支払義務が確定した後に放置すると、単なる交渉上の問題ではなく、財産を差し押さえられる問題に進みます。実際に差押えを申し立てる側の手続や財産調査の詳細は、裁判で決まった慰謝料を払わない相手への強制執行・差押えで整理しています。

また、裁判上の和解で分割払いを約束した場合でも、支払を怠ると期限の利益を失い、残額を一括で請求される内容になっていることがあります。和解案に応じるときは、毎月の支払額、支払日、遅れた場合の効果、遅延損害金、清算条項を確認する必要があります。

給与・預貯金・不動産が差押えの対象になることがある

強制執行に進むと、典型的には給与、預貯金、不動産などが差押えの対象になります。給与差押えでは勤務先が関係し、預貯金差押えでは銀行口座が関係し、不動産執行では所有不動産が関係します。どの財産が対象になるかは、相手が把握している情報や回収見込みによって変わります。

  • 給与差押え:勤務先に差押命令が届き、給与の一部が支払先から直接回収される形になることがあります。
  • 預貯金差押え:銀行口座にある預金が差し押さえられ、生活費や引落しに影響が出ることがあります。
  • 不動産執行:所有不動産がある場合には、不動産に対する強制執行が問題になることもあります。直ちに自宅を失うという意味ではありませんが、非常に重いリスクです。

不倫慰謝料は、請求額が数十万円から数百万円になることもあります。支払義務が確定しているのに放置すると、相手は任意の支払を待つだけでなく、回収できる財産を探して差押えを検討することがあります。差押えを避けるには、判決や和解後に放置しないこと、支払が難しい場合には早めに支払計画を相談することが重要です。

給与差押えで職場に知られる可能性がある

給与差押えの大きなリスクは、勤務先に差押命令が届くことです。勤務先は、給与を支払う立場として手続に関与するため、少なくとも従業員に金銭トラブルや差押えがあることを把握する可能性があります。

差押えの書類だけで、勤務先が直ちに不倫の詳細を知るとは限りません。しかし、債権者の氏名、請求の経緯、本人の説明などから、不倫慰謝料の問題だと推測されるおそれはあります。職場に知られたくない方にとっては、給与差押えに至る前に対応することが非常に重要です。

裁判や給与差押えが家族・職場に知られる典型的な流れについては、裁判や給与差押えで家族・職場に知られるリスクでも解説しています。秘密に解決したい場合ほど、請求書や訴状を放置せず、連絡先や交渉窓口を整理しておく必要があります。

遅延損害金・費用が増えることがある

支払を先延ばしにすると、遅延損害金や手続費用が増えることがあります。請求額そのものに争いがある段階では、相手の言う遅延損害金がすべて認められるとは限りません。しかし、判決、和解調書、示談書、公正証書などで支払義務や支払期限が明確になっている場合には、遅れた期間に応じて負担が増えることがあります。

また、裁判になれば、弁護士に依頼する費用や裁判対応の時間も発生します。差押えに進めば、生活や勤務先への影響も無視できません。支払義務がないと争うべき事案なのか、金額を下げるべき事案なのか、支払方法を調整すべき事案なのかを早めに見極めることが、最終的な負担を抑えることにつながります。

示談書・公正証書・判決があるのに払わない場合

不倫慰謝料を請求された段階と、すでに示談書・公正証書・判決・和解調書がある段階では、対応の難しさが大きく変わります。まだ合意していない段階であれば、支払義務や金額を争う余地があります。しかし、いったん書面で支払を約束した後や、裁判所で支払義務が決まった後は、後から「やっぱり払いたくない」と言っても簡単には通りません。

もちろん、どのような合意でも必ず有効というわけではありません。強迫、錯誤、公序良俗違反、既払い金との関係、過大な違約金などが問題になることはあります。ただし、例外を主張するには、それを裏付ける事情と証拠が必要です。

示談書・合意書にサインした後は争いにくい

示談書や合意書に署名押印すると、後から支払義務を否定することは難しくなります。書面には、支払額、支払期限、分割回数、期限の利益喪失条項、接触禁止、違約金、清算条項などが入ることがあります。これらの条項を理解しないままサインすると、後で大きな負担になることがあります。

例えば、東京地裁令和2年6月16日判決では、不貞相手が毎月39万円を13回、合計507万円支払う内容の合意が認められました。この事案では、錯誤、強迫、心裡留保、公序良俗違反といった主張がされましたが、裁判所はこれらを認めず、示談金507万円の支払義務を認めています。

また、東京地裁平成28年1月29日判決では、300万円の和解契約を締結し、そのうち150万円を支払った後に残金を支払わなかった事案で、残金150万円の支払が認められました。他方で、支払わなかったこと自体が新たな不法行為になるとはいえないとして、追加の慰謝料請求は認められていません。

これらの裁判例から分かるのは、いったん支払合意をした後に不払いとなった場合、合意の有効性そのものを争うハードルは高いということです。示談書にサインする前には、不倫示談書・合意書の条項チェックを行い、支払額、支払期限、違約金、清算条項の意味を確認しておきましょう。

強迫・錯誤・公序良俗違反などは例外的に問題になる

示談書にサインした後でも、例外的に無効や取消しが問題になることはあります。例えば、暴力や強い脅しによって署名させられた場合、重要な事実について誤解していた場合、社会的に見て著しく不相当な内容である場合などです。

ただし、「相手が怖かった」「その場の雰囲気でサインした」「後から高すぎると思った」というだけでは、直ちに強迫や錯誤が認められるとは限りません。話合いの場所、録音の有無、書面の内容、金額の決まり方、支払方法、署名までの経緯、サイン後の行動などを総合的に見て判断されます。

特に、不倫発覚直後の話合いでは、請求する側も感情的になりやすく、請求された側も冷静な判断ができないことがあります。その場で書面にサインせず、持ち帰って確認する、支払額や期限の根拠を確認する、違約金や接触禁止条項の範囲を確認することが重要です。示談書の無効や取消しが問題になり得る場面については、不倫の示談書が無効になる場合で詳しく解説しています。

公正証書があると裁判を経ず強制執行され得る

不倫慰謝料の支払について公正証書を作成し、その中に強制執行認諾文言が入っている場合は、支払を怠ったときのリスクがさらに大きくなります。強制執行認諾文言とは、支払が遅れた場合には直ちに強制執行を受けてもよい、という趣旨の文言です。

この文言がある公正証書では、相手が改めて裁判を起こさなくても、強制執行に進めることがあります。つまり、通常の示談書よりも、給与や預貯金の差押えに進むまでの距離が近くなるということです。

そのため、公正証書の作成を求められた場合は、毎月の支払額、支払期限、遅れた場合の効果、強制執行認諾文言の有無を必ず確認しましょう。公正証書の意味や注意点は、不倫慰謝料の公正証書と強制執行で詳しく解説しています。

判決・和解調書があると差押えリスクが高まる

裁判で判決が出た場合や、裁判上の和解が成立して和解調書が作成された場合、その内容に従って支払う必要があります。ここで支払わないと、相手は判決や和解調書をもとに強制執行を検討できます。

判決後や和解後に「納得できないから払わない」と考えても、通常はそれだけで支払義務を止めることはできません。控訴や執行停止などの問題がある場合を除き、確定した判決や和解調書に従わないと、給与、預貯金、不動産などへの差押えリスクが現実化します。

この段階では、請求額が高いかどうかを一から交渉し直すというよりも、判決や和解の内容を前提に、支払方法、分割の再調整、差押え回避、家族や職場に知られないための対応を急ぐ必要があります。特に給与差押えに進むと勤務先に知られる可能性があるため、支払が難しい場合ほど早めの相談が重要です。

つまり、示談書、公正証書、判決、和解調書がある段階では、「払わなくていいか」だけでなく、「既に決まった支払義務をどう処理するか」という発想が必要になります。書面や裁判所の判断がある場合は、自己判断で放置せず、差押えに進む前に現実的な対応策を検討しましょう。

不倫慰謝料を払わない方針を取るときのNG対応

不倫慰謝料を払わない、又は支払義務を争う方針を取る場合は、主張の中身だけでなく、対応の仕方も重要です。たとえ払わなくていい可能性がある事案でも、連絡を無視したり、感情的な返信をしたり、その場で不利な書面にサインしたりすると、交渉や裁判で不利になりかねません。

ここでは、不倫慰謝料を請求された側が特に避けるべき対応を整理します。大切なのは、「払わない」という結論だけを先に決めるのではなく、払わない理由を法律上説明できるか、証拠で裏付けられるか、今後の手続リスクに耐えられるかを順番に確認することです。

通知書・内容証明を無視する

相手の配偶者や弁護士から通知書・内容証明が届いたときに、怖いから見ない、納得できないから返事をしない、という対応は避けるべきです。通知書や内容証明が届いただけで、直ちに差押えを受けるわけではありません。しかし、無視を続けると、相手が「話し合いでは解決できない」と判断し、裁判に進むきっかけになることがあります。

特に、通知書に回答期限が書かれている場合は、その期限までに支払うかどうかを即断できなくても、内容を確認して、回答方針を決める必要があります。反論できる事情があるなら、単に沈黙するのではなく、どの点を争うのか、資料確認に時間が必要なのか、金額や支払方法を交渉するのかを整理して対応しましょう。

感情的に返信する

不倫慰謝料の請求では、請求額が高すぎる、相手の言い分が一方的である、家族や職場に知られるのではないかと不安になるなど、感情的になりやすい場面があります。もっとも、怒りに任せたメール、LINE、電話、SNSのメッセージは、後から証拠として使われることがあります。

例えば、「絶対に払わない」「証拠を出せ」「そっちにも問題がある」などと強い言葉だけを送ってしまうと、冷静な交渉が難しくなります。相手やその家族を責める表現、勤務先に連絡することをほのめかす表現、口外をちらつかせる表現も避けるべきです。支払拒否をする場合ほど、感情ではなく、法的な根拠と証拠に基づいて回答する必要があります。

根拠なく「払わない」とだけ伝える

不倫慰謝料を支払拒否すること自体が常に悪いわけではありません。不貞行為がない、相手の証拠が不十分、既婚者と知らなかった、夫婦関係がすでに破綻していた、時効が完成している、請求額が過大であるなど、争う余地があるケースはあります。

しかし、「払いたくないから払わない」「納得できないから払わない」とだけ伝えても、相手を納得させることは通常困難です。支払義務を争うなら、何を理由に争うのかを明確にする必要があります。金額を争うのか、支払義務そのものを争うのか、支払義務は認めるが分割を求めるのかによって、回答内容も交渉方針も変わります。

また、曖昧な回答をすると、支払義務を認めたように読まれる表現や、後から反論しにくい表現が混ざることがあります。回答書やメールを出す前に、認める部分、争う部分、留保する部分を分けておくことが大切です。

相手や勤務先に不用意に連絡する

請求内容に納得できないと、相手の配偶者本人、不倫相手、家族、勤務先などに直接連絡したくなることがあります。しかし、不用意な連絡は、かえってトラブルを広げる原因になります。

特に、勤務先への連絡、家族への連絡、第三者への暴露をにおわせる連絡は慎重に避けるべきです。不倫慰謝料の問題は、当事者間の民事上の紛争であり、関係のない第三者に広げると、名誉毀損、プライバシー侵害、脅迫的言動など別の問題を招くおそれがあります。

家族や職場に知られないように解決したい場合ほど、連絡窓口、連絡方法、郵送先、電話連絡の可否を整理して、感情的な直接接触を避けることが重要です。秘密にしたい事情があるなら、早い段階で連絡管理を整える必要があります。

示談書にその場でサインする

相手から「今日サインすれば大ごとにしない」「家族や職場には言わない」「今決めないなら裁判にする」などと言われると、早く終わらせたい気持ちから、その場で示談書や合意書にサインしてしまうことがあります。しかし、内容を理解しないままサインするのは危険です。

示談書には、支払額、支払期限、分割回数、期限の利益喪失、遅延損害金、接触禁止、違約金、公正証書作成、清算条項、口外禁止など、将来の負担に直結する条項が入ることがあります。一度合意すると、後から「高すぎた」「怖くてサインした」「よく読んでいなかった」と主張しても、簡単に覆せるとは限りません。

示談書を提示されたら、その場で署名押印する前に、少なくとも金額、支払方法、違反時の効果、今後の接触禁止、家族や職場に関する条項を確認しましょう。支払えない金額や守れない条項がある場合は、サイン前に修正交渉をすることが重要です。

財産隠し・虚偽説明をする

不倫慰謝料を払いたくないからといって、財産を隠したり、収入がないと虚偽の説明をしたり、差押えを避ける目的で不自然に財産を移したりする対応は避けるべきです。正当な生活費の管理や通常の支出とは別に、相手からの回収を妨げる目的が疑われる行動は、交渉上の信頼を大きく損ないます。

支払が難しい場合は、財産を隠すのではなく、収入、支出、他の債務、支払可能額を整理したうえで、分割払い、減額交渉、支払期限の猶予などを検討する方が現実的です。どうしても支払えない場合でも、「払えない」と「払わない」は別の問題です。資力不足を理由に対応するなら、その事情を説明できる資料を準備しましょう。

注意

「払わない」と決める前に、支払義務を争うのか、減額・分割を求めるのか、資力不足を説明するのかを分けてください。理由が曖昧なまま拒否すると、裁判や差押えに進むリスクを高めることがあります。

弁護士に相談すべきタイミング

不倫慰謝料を請求されたからといって、すべてのケースで直ちに裁判になるわけではありません。また、必ず弁護士に依頼しなければならないわけでもありません。しかし、払わない方針、支払拒否、減額交渉、分割払い、秘密解決のいずれを選ぶにしても、早めに相談した方がよい場面があります。

特に、次のような事情がある場合は、自己判断で返答する前に相談を検討してください。初動を誤ると、本来争えたはずの支払義務を争いにくくなったり、減額できたはずの請求額をそのまま認めてしまったりすることがあります。

請求額が高い場合

請求額が高い場合は、金額の妥当性を確認する必要があります。不倫慰謝料の金額は、不貞行為の期間や回数、夫婦関係への影響、離婚の有無、未成年の子の有無、発覚後の対応、証拠の強さなどによって変わります。相手が高額な請求をしているからといって、その全額を支払わなければならないとは限りません。

一方で、請求額が高いほど、相手が裁判や強制執行まで見据えて強く請求してくる可能性もあります。高額請求を受けた場合は、支払義務の有無だけでなく、仮に支払義務があるとしてもどの程度の金額が相当か、分割払いが可能か、示談書の条項に無理がないかを確認しましょう。

相手から証拠を出されている場合

探偵の調査報告書、ホテルへの出入り写真、LINEやメールのやり取り、録音、謝罪文、不倫を認めるメッセージなどを出されている場合は、慎重な対応が必要です。証拠があるのに全面的に否認すると、交渉がこじれやすくなります。

もっとも、証拠が出されているからといって、請求額全額を認める必要があるとは限りません。証拠が何をどこまで示しているのか、肉体関係まで立証できるのか、既婚者と知っていたことまで分かるのか、夫婦関係の破綻や時効の反論ができるのかを分けて検討する必要があります。

払わなくていい根拠がある場合

不貞行為がない、既婚者と知らなかった、相手夫婦の関係がすでに破綻していた、時効が完成している、相手がすでに十分な慰謝料を受け取っているなど、払わなくていい可能性がある事情がある場合も、相談の価値が高い場面です。

このような事情は、言い方を誤ると単なる言い訳に見えてしまうことがあります。例えば、「夫婦関係は悪かったはず」と主張するだけでは足りず、別居、離婚協議、夫婦の生活実態、やり取りなどの具体的な事情が必要になります。法律上意味のある反論として整理できるかを確認しましょう。

内容証明や訴状が届いた場合

内容証明が届いた段階では、まだ裁判ではありません。しかし、回答期限が切られていることが多く、放置すると相手が裁判に進む可能性があります。内容証明を受け取ったら、請求額、支払期限、証拠の記載、回答先、相手代理人の有無を確認してください。

訴状が届いた場合は、さらに注意が必要です。裁判所から届いた書類には、答弁書の提出期限や期日が記載されています。これを放置すると、相手の主張を前提に不利な判決が出ることがあります。訴状が届いた段階では、支払うかどうか以前に、裁判手続への対応期限を守ることが重要です。

示談書にサインを迫られている場合

示談書や合意書にサインを迫られている場合は、サイン前の相談が重要です。合意後に内容を争うことは、合意前に条件交渉をするよりも難しくなります。支払額、分割条件、違約金、接触禁止、口外禁止、公正証書作成、清算条項などを確認せずにサインすると、想定以上の負担を負うことがあります。

特に、公正証書を作成する条項や、支払を一度でも怠ると残額を一括請求される条項が入っている場合は、将来の強制執行リスクにもつながります。サインを迫られている場合ほど、その場で決めず、内容を持ち帰って確認することが大切です。

家族・職場に知られたくない場合

不倫慰謝料の問題では、支払額だけでなく、家族や職場に知られないようにしたいという希望も重要です。相手との連絡が感情的になると、連絡先の管理が崩れたり、郵送物や電話で家族に知られたり、裁判や給与差押えによって勤務先に知られるリスクが高まったりします。

秘密に解決したい場合は、早い段階で連絡窓口、郵送先、電話連絡の可否、示談書の口外禁止条項、支払方法を整理する必要があります。給与差押えに進んでからでは、勤務先に知られるリスクを避けにくくなるため、放置せず早めに対応しましょう。

よくある質問

不倫慰謝料を払わないと逮捕されますか?

不倫慰謝料を払わないこと自体で、通常すぐに逮捕されるわけではありません。不倫慰謝料は民事上の損害賠償の問題であり、刑事罰とは区別されます。

ただし、逮捕されないからといって、放置してよいわけではありません。請求を無視し続けると、裁判を起こされ、判決や和解調書などに基づいて給与や預貯金を差し押さえられることがあります。また、相手への脅し、名誉毀損、財産隠しなど別の問題行動があれば、慰謝料不払いとは別のリスクが生じることもあります。

慰謝料を払わないと差押えされますか?

請求書や内容証明が届いただけで、直ちに差押えを受けるわけではありません。通常、相手が差押えをするには、判決、裁判上の和解、強制執行認諾文言付きの公正証書など、強制執行の根拠になる書面が必要です。

もっとも、裁判で支払を命じられた後や、公正証書で強制執行に応じる内容になっている場合に支払わないと、差押えリスクは現実的になります。差押えの対象には、給与、預貯金、不動産などが含まれます。請求段階で慌てて支払う必要はありませんが、手続が進んでから放置するほど選択肢は狭くなります。

給与を差し押さえられると職場にバレますか?

給与差押えがされる場合、勤務先は第三債務者として手続に関与するため、勤務先に差押えの事実を知られる可能性があります。勤務先に不倫の詳しい内容まで必ず伝わるとは限りませんが、少なくとも金銭債務について差押えがされていることは把握され得ます。

そのため、家族や職場に知られたくない場合は、給与差押えに進む前の対応が重要です。支払義務を争うのか、減額や分割を交渉するのか、判決後の支払方法を調整するのかを早めに検討し、勤務先を巻き込む段階まで放置しないようにしましょう。

示談書にサインした後でも払わなくていいですか?

示談書や合意書にサインした後は、原則としてその内容に従う必要があります。後から「やっぱり払いたくない」と考えても、それだけで支払義務を免れることはできません。

もちろん、強迫、錯誤、公序良俗違反、内容の不明確さなどが問題になる例外的なケースはあります。しかし、それらの主張が常に認められるわけではありません。合意後に争うよりも、サイン前に内容を確認し、支払額や分割条件、違約金、公正証書作成条項などを修正する方が重要です。

自己破産すれば不倫慰謝料は払わなくてよくなりますか?

自己破産をすれば不倫慰謝料が必ず免責される、とは断定できません。不倫慰謝料が破産手続でどのように扱われるかは、請求の内容、不貞行為の態様、悪質性、破産手続での対応などによって個別に判断されます。

借金全体の返済が難しい場合に自己破産を検討することはありますが、「不倫慰謝料だけを払いたくない」という理由で安易に選ぶ手続ではありません。まずは、支払義務を争えるのか、減額や分割で解決できるのか、他の債務も含めて破産を検討すべき状況なのかを整理しましょう。

不倫慰謝料を払わない場合は、放置せず法的根拠と手続リスクを整理しましょう

不倫慰謝料を請求された場合でも、必ず請求額どおりに支払わなければならないとは限りません。不貞行為がない、証拠が不十分、既婚者と知らなかった、夫婦関係が破綻していた、時効が完成しているなど、支払義務を争えるケースはあります。

一方で、単に払わないまま放置することは危険です。請求書段階ではすぐ差押えになるわけではありませんが、無視を続ければ裁判、判決、和解調書、公正証書、強制執行へと進む可能性があります。特に給与差押えに至ると、勤務先に知られるリスクもあります。

この記事の要点を整理すると、次のとおりです。

  • 不倫慰謝料を払わないこと自体で、通常すぐ刑事罰・逮捕になるわけではありません。
  • 請求書段階ではすぐ差押えではありませんが、判決・和解調書・公正証書があると強制執行のリスクが高まります。
  • 不貞行為なし、証拠不十分、故意過失なし、婚姻関係破綻、時効などがあれば、払わなくていい可能性があります。
  • 示談書や合意書にサインした後は、後から支払義務を争うことが難しくなることがあります。
  • お金がなくて払えない場合は、放置ではなく、減額・分割・債務整理などの選択肢を整理することが重要です。

不倫慰謝料を払わない方針を取るべきかどうかは、相手の証拠、請求額、夫婦関係の状況、時効、示談書の有無、裁判や公正証書の有無によって大きく変わります。支払義務を争える可能性がある場合ほど、通知書や訴状を放置せず、早い段階で証拠と主張を整理しましょう。

また、すでに示談書にサインしている場合や、判決・和解調書・公正証書がある場合は、単に「払わない」と考えるのではなく、差押えを避けるための現実的な対応が必要になります。家族や職場に知られたくない場合も、手続が進む前の対応が重要です。

坂尾陽弁護士

支払義務を争える可能性があっても、放置はリスクを大きくします。請求内容と証拠を早めに整理しましょう。

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不倫慰謝料を払わない、払えない、支払義務を争いたいという場合は、状況ごとに確認すべきポイントが異なります。詳しい論点は、次の記事も参考にしてください。

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