不倫慰謝料を請求されたとき、相手から提示された金額をそのまま支払う必要があるとは限りません。請求額は、相手が希望している金額であって、最終的な支払額は、相場、証拠、不倫の経緯、相手夫婦の状況、支払条件などを踏まえて調整されることがあります。
この記事では、不倫慰謝料の減額を考えるときに最初に確認すべき結論、請求直後の初動、相場と高すぎる請求の見方を整理します。後半では、減額されやすい理由、支払義務に争いがある場合の使い方、減額交渉の流れ、示談書、裁判になった場合の見通しまで順に解説します。
まず押さえておきたいポイントは、次のとおりです。
- 請求額は確定額ではなく、事情によって減額できる可能性があります。
- 無視・即サイン・感情的な返信は、減額交渉を難しくすることがあります。
- 相場だけでなく、離婚の有無、不倫期間、証拠、夫婦関係などを確認します。
- 支払義務を争う余地がある場合でも、減額交渉とは分けて慎重に整理します。
- 合意する場合は、金額だけでなく示談書の条項まで確認することが重要です。
坂尾陽弁護士
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

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不倫慰謝料は減額できる?最初に知っておきたい結論
不倫慰謝料は、事情によって減額できる可能性があります。とくに、相手の請求額が相場より大きく高い場合、不倫期間や回数が少ない場合、相手夫婦が離婚や別居に至っていない場合、発覚後に関係を解消して謝罪している場合などは、交渉で金額を見直す余地があります。
もっとも、減額できるかどうかは「不倫をしたから一律いくら」「請求されたから必ずいくら」という形では決まりません。不倫慰謝料は、相手が受けた精神的苦痛に対する損害賠償です。そのため、交渉でも裁判でも、婚姻期間、子どもの有無、不倫の期間・回数、発覚後の対応、離婚・別居の有無、証拠の強さなど、複数の事情を総合して判断されます。
ここで大切なのは、「減額」と「支払義務を争うこと」を混同しないことです。減額は、一定の支払義務があることを前提に、金額を適正な範囲へ下げる交渉です。これに対して、支払義務を争う場合は、そもそも不法行為が成立するのか、肉体関係が立証できるのか、既婚者と知っていたのか、婚姻関係が既に破綻していたのか、といった前提を争います。
支払義務を争う主張は、認められれば大きな意味がありますが、減額よりもハードルが高いことが少なくありません。たとえば「相手から夫婦関係は終わっていると聞いていた」というだけでは足りず、客観的な事情や証拠が必要になります。したがって、この記事では支払義務を争えるケースを詳しく解説するのではなく、支払義務に争いがあること自体が、示談交渉で減額材料になることがあるという位置づけで整理します。
支払義務そのものを争えるかを詳しく確認したい場合は、不倫慰謝料を払わない方法や、不倫慰謝料を回避できるケースの解説を確認してください。本記事では、主に「請求額を下げるために何を確認し、どう交渉するか」に焦点を当てます。
減額交渉では、単に「高すぎるので下げてください」と伝えるだけでは不十分です。相手が納得できる理由を示し、証拠や時系列を整理し、支払方法や示談条件まで含めて落としどころを作る必要があります。たとえば、相手夫婦が離婚していない場合、自分だけに請求されている場合、支払能力に限界がある場合には、金額だけでなく分割払い、求償権放棄、清算条項などの条件調整が問題になることもあります。
最初に目指すべきことは、相手を論破することではありません。請求の中身を冷静に確認し、自分に不利な事情と有利な事情を分け、現実的な解決案を提示できる状態を作ることです。
請求直後の初動|無視せず期限・請求内容・証拠を整理する
不倫慰謝料を減額できるかどうかは、法律上の理由だけでなく、請求直後の対応にも左右されます。請求を受けた直後に感情的な返信をしたり、怖くなって無視したり、事実と違う説明をしてしまったりすると、後の交渉で不利になることがあります。
請求直後の対応を詳しく確認したい場合は、まず不倫慰謝料を請求されたときの全体像や、慰謝料を請求されたときの初動対応を確認すると、全体像を整理しやすくなります。
内容証明・弁護士通知・LINE・訴状で初動は変わる
慰謝料請求の方法には、内容証明郵便、弁護士名義の通知書、LINEやメール、電話、訴状などがあります。どの方法で請求されているかによって、緊急度と対応方法は変わります。
内容証明郵便や弁護士通知の場合、支払期限や回答期限が書かれていることが多く、相手が正式な交渉を始めている段階です。無視すると、相手が「話し合いでは解決できない」と判断して、訴訟や調停などに進む可能性があります。内容証明への対応は、不倫慰謝料の内容証明が届いた場合の対応も参考になります。
訴状が届いた場合は、さらに注意が必要です。訴状は、単なる請求書ではなく、裁判が始まっていることを意味します。答弁書の提出期限や第1回口頭弁論期日を放置すると、相手の主張を前提に手続が進むリスクがあります。訴状への対応は、不倫慰謝料の訴状が届いた直後のToDoで詳しく整理しています。
LINEやメールだけで請求されている場合でも、軽く見てよいわけではありません。やり取りの内容が後に証拠として提出されることがあります。感情的な反論、相手への挑発、事実と違う説明、謝罪と認められる文言などは、後の交渉や裁判で不利に使われる可能性があります。
最初に確認する5項目
請求を受けたら、まずは返信内容を考える前に、請求の中身を整理します。最初に確認すべき項目は次の5つです。
- 誰から請求されているか
- 請求額はいくらか
- 支払期限・回答期限はあるか
- 不倫の事実や証拠として何が示されているか
- 金銭以外の要求があるか
誰から請求されているかは、交渉の進め方に影響します。相手本人からの請求なのか、相手の弁護士からの請求なのかによって、文面の硬さ、期限設定、今後の手続の可能性が変わります。相手弁護士が付いている場合は、こちらの不用意な返信がそのまま交渉材料として整理される可能性があるため、より慎重に対応する必要があります。
請求額も重要です。100万円、200万円、300万円、500万円など、請求額はさまざまですが、金額が大きいほど、相手がどの事情を重く見ているのかを確認する必要があります。離婚したのか、別居したのか、婚姻期間が長いのか、不倫期間が長いのか、証拠が強いのか、調査費用が上乗せされているのかを見ます。
支払期限や回答期限がある場合でも、その期限までに全額を支払わなければならないとは限りません。ただし、期限を完全に無視すると、相手の態度が硬化しやすくなります。すぐに金額の回答ができない場合でも、期限内に「内容を確認している」「代理人に相談している」「回答時期を調整したい」といった形で、無視ではないことを示す対応が必要になることがあります。
証拠やメッセージを削除しない
請求を受けると、LINE、メール、写真、SNS、通話履歴などを消したくなる人もいます。しかし、証拠やメッセージを削除すると、後で事実関係を説明しにくくなります。削除したこと自体が、相手から「都合の悪い証拠を隠した」と評価される可能性もあります。
減額交渉では、あなたに不利なやり取りだけでなく、有利な事情を示すやり取りも重要です。たとえば、相手が既婚者であることを伏せていたやり取り、夫婦関係が悪化していると説明していたやり取り、関係解消後に連絡を断っているやり取り、相手から積極的に誘われていたやり取りなどは、交渉材料になることがあります。
証拠を整理するときは、消すのではなく、時系列で保存します。スマートフォンだけに残すのではなく、スクリーンショット、バックアップ、メモなどで、いつ、誰が、どのような内容を送ったのかが分かるようにしておくと、後の交渉で説明しやすくなります。
感情的な返信・即サインを避ける
慰謝料請求を受けた直後は、謝りたい気持ち、怒り、恐怖、家族や職場に知られたくない不安が混ざりやすい状態です。そのため、勢いで返信したり、相手に言われるまま示談書にサインしたりするのは避けるべきです。
とくに注意すべき対応は、次のようなものです。
- 無視・放置する:相手が交渉不能と判断し、訴訟や追加請求に進むきっかけになり得ます。
- 感情的に反論する:「そちらの夫婦が悪い」「証拠を出せ」などの挑発的な表現は、相手の処罰感情を強めやすくなります。
- 事実と違う説明をする:後で証拠と矛盾すると、信用を失い、減額交渉が難しくなります。
- その場で全額を認める:相場や減額理由を確認しないまま合意すると、後から見直しにくくなります。
- 示談書にすぐ署名する:金額以外に、接触禁止、口外禁止、違約金、求償権放棄などの重い条項が含まれることがあります。
初動で大切なのは、すぐに強い反論をすることではなく、交渉の選択肢を残すことです。落ち着いて請求内容を確認し、相場や減額理由を整理してから、回答の方向性を決めるようにしましょう。
不倫慰謝料の相場と「高すぎる請求」の見方
不倫慰謝料の減額を考えるうえで、相場の把握は出発点になります。相場を知らないまま交渉すると、相手の請求額が高いのか、妥当なのか、逆に争いにくい金額なのかを判断できません。
不倫慰謝料の相場について詳しくは、不倫慰謝料の相場ガイドで整理しています。ここでは、減額交渉に必要な範囲に絞って、相場と高額請求の見方を説明します。
離婚しない場合・離婚した場合で相場感は変わる
不倫慰謝料は、相手夫婦が離婚したかどうかで金額の幅が変わりやすいです。一般的には、相手夫婦が離婚していない場合よりも、不倫が原因で離婚や長期別居に至った場合の方が、慰謝料額は高く評価されやすくなります。
目安としては、相手夫婦が離婚せず婚姻関係を継続している場合は100万円前後から150万円程度、離婚に至った場合は200万円から300万円程度が問題になることが多いといえます。ただし、これはあくまで一般的な目安です。実際の金額は、婚姻期間、不倫期間、回数、証拠、発覚後の対応、子どもの有無、夫婦関係の状況などによって変わります。
相手夫婦が離婚していないからといって、必ず低額になるわけではありません。発覚後も関係を続けている、長期間にわたり不倫している、相手の家庭に大きな影響が生じている、自宅や同居に近い態様がある、といった事情があれば、金額が高く評価されることがあります。
反対に、離婚に至ったと主張されている場合でも、不倫前から夫婦関係が悪化していた、不倫期間が短い、関係解消が早い、証拠上の立証が限定的であるなどの事情があれば、請求額どおりに認められるとは限りません。
300万円・500万円請求でもそのまま認められるとは限らない
慰謝料請求では、300万円や500万円といった高額な請求がされることがあります。しかし、相手が高額を請求しているからといって、その金額がそのまま裁判で認められるわけではありません。裁判では、請求額ではなく、証拠と具体的事情に基づいて相当額が判断されます。
たとえば、東京地裁平成29年2月24日判決では、500万円の請求に対し、婚姻関係が修復困難な状況にあったことや不貞行為が一時的であったことなどを考慮して、慰謝料30万円が認められました。これは、支払義務が認められても、事案によっては請求額と認容額に大きな差が生じ得ることを示す例です。
また、東京地裁平成30年12月4日判決では、500万円の請求に対し、婚姻関係の破綻は否定されつつも、夫婦関係が希薄化していた事情や、不貞関係の継続、謝罪の有無、共同不法行為者の一方だけに責任追及している事情などを踏まえて、慰謝料180万円が認められました。
これらの裁判例は、「500万円を請求されても必ず大幅に下がる」という意味ではありません。裁判例は、あくまで個別事情に基づく判断です。ただし、請求額は相手の希望額であり、裁判所がそのまま認めるとは限らないという点は、減額交渉でも重要な出発点になります。
裁判例ごとの金額や事情を確認したい場合は、不倫慰謝料の判例一覧も参考になります。ただし、判例の金額だけを抜き出して自分のケースに当てはめるのではなく、婚姻期間、不倫期間、離婚の有無、証拠関係などの違いを合わせて見る必要があります。
調査費用・弁護士費用・遅延損害金が上乗せされている場合
相手の請求書には、慰謝料だけでなく、探偵の調査費用、弁護士費用、遅延損害金などが含まれていることがあります。この場合、まずは請求額の内訳を確認します。
調査費用については、相手が探偵に支払ったからといって、当然に全額をあなたが負担するとは限りません。調査の必要性、調査内容、金額の相当性、不貞行為との関係などが問題になります。請求額に高額な調査費用が含まれている場合は、慰謝料とは別に、どの範囲まで負担すべきかを検討する必要があります。
弁護士費用についても、相手が弁護士に支払った費用全額を当然に負担するわけではありません。裁判では、慰謝料額の一部に対応する弁護士費用が損害として認められることがありますが、相手の実際の依頼費用全額がそのまま上乗せされるとは限りません。
遅延損害金については、請求日、不法行為日、訴状送達日、継続行為の終了時期などが問題になることがあります。示談交渉では、遅延損害金を含めるか、元金だけで解決するか、支払期限をどう設定するかも交渉対象になります。
慰謝料以外にどのような損害項目が問題になるかは、不貞行為で請求できる損害項目で詳しく整理しています。減額交渉では、総額だけを見るのではなく、慰謝料、調査費用、弁護士費用、遅延損害金の内訳を分けて検討することが重要です。
相場だけでなく個別事情で増減する
相場は重要ですが、相場だけで結論が決まるわけではありません。同じ「不倫慰謝料」でも、事案によって金額は大きく変わります。減額交渉では、相場の範囲と、あなたのケースに固有の事情を組み合わせて主張する必要があります。
金額を左右しやすい事情としては、次のようなものがあります。
- 相手夫婦の結果:離婚したか、別居したか、婚姻関係を継続しているかによって評価が変わります。
- 不倫の期間・回数:長期間・多数回・発覚後も継続した場合は、重く見られやすくなります。
- 婚姻期間・子どもの有無:長い婚姻生活や未成年の子への影響がある場合、相手の精神的苦痛が大きいと評価されることがあります。
- 不倫前の夫婦関係:夫婦関係が既に悪化していた場合、慰謝料額の評価に影響することがあります。
- 発覚後の対応:謝罪、関係解消、連絡を断ったことは、交渉上の材料になり得ます。
一方で、「相手夫婦が仲が悪かった」「離婚すると聞いていた」「相手から誘われた」といった事情は、主張の仕方に注意が必要です。証拠が弱いまま強く主張すると、相手の怒りを強めたり、反省していないと受け取られたりすることがあります。減額交渉では、有利な事情をただ並べるのではなく、証拠と結び付けて、相手が受け入れやすい形に整理することが大切です。
ここまで整理できると、次に検討すべきなのは、具体的にどの事情が減額理由として使えるかです。次の部分では、不倫慰謝料が減額されやすい理由を、金額評価に影響する事情、支払義務に争いがある事情、示談条件で調整できる事情に分けて整理します。
不倫慰謝料が減額されやすい10の理由
不倫慰謝料の減額理由は、「反省している」「お金がない」と伝えれば足りるものではありません。相手の請求額が高すぎる理由、裁判で金額評価に影響しやすい事情、支払義務に争いがある事情、示談条件として調整できる事情を分けて整理する必要があります。
減額交渉で使う事情は、大きく次の3つに分けると整理しやすくなります。
- 金額評価に影響する事情:離婚・別居の有無、婚姻期間、不倫期間・回数、夫婦関係、謝罪、関係解消など、慰謝料額そのものを左右しやすい事情です。
- 支払義務に争いがある事情:肉体関係がない、既婚者と知らなかった、婚姻関係が破綻していた、時効の可能性があるなど、本来は「減額」ではなく「支払義務の有無」に関わる事情です。
- 示談条件で調整できる事情:一括払い、分割払い、早期解決、求償権放棄、清算条項など、裁判上の算定要素というより、交渉上の落とし所を作るための事情です。
支払義務を争う事情は、厳密には「減額理由」と同じではありません。ただし、支払義務に争いがあること自体が、示談交渉では金額調整の材料になることがあります。
以下では、慰謝料を請求された側が確認すべき代表的な減額理由を、交渉で使うときの注意点とあわせて整理します。
請求額が相場を大きく超えている
もっとも基本的な減額理由は、相手の請求額が相場や事案の内容に照らして高すぎることです。慰謝料請求では、相手方が300万円、500万円などの高額を提示してくることがありますが、請求額はあくまで相手が求めている金額であり、裁判所が当然にそのまま認める金額ではありません。
高すぎる請求かどうかを見るときは、単に「相場より高い」と言うだけでなく、相手夫婦が離婚したのか、別居したのか、婚姻関係を継続しているのか、不倫期間や回数はどの程度か、証拠上どこまで立証されているのかを確認します。
たとえば、離婚していない事案で500万円を請求されている場合、相手が強い怒りを持っているとしても、法的にその金額が妥当かは別問題です。請求額の根拠が抽象的で、慰謝料、調査費用、弁護士費用、遅延損害金の内訳も曖昧な場合は、内訳を確認したうえで、相当額への減額を求める余地があります。
ただし、相場だけを強調しすぎると、相手から「反省していない」と受け取られることがあります。減額交渉では、相場に加えて、あなたのケースで金額が下がる具体的事情を合わせて示すことが重要です。
相手夫婦が離婚・別居していない
相手夫婦が離婚しておらず、別居にも至っていない場合は、慰謝料が比較的低めに評価される方向の事情になります。不倫慰謝料は、婚姻共同生活の平和がどの程度侵害されたかを踏まえて判断されるため、不倫が原因で離婚や長期別居に至ったケースと、婚姻関係が継続しているケースでは、一般に金額の重さが変わります。
もっとも、「離婚していないから必ず大幅に下がる」とまではいえません。発覚後も関係を続けた、長期間にわたり交際していた、相手の家庭内で大きな混乱が生じた、未成年の子どもに影響が出たなどの事情があると、離婚していなくても相応の慰謝料が問題になります。
交渉では、「離婚していない」という一言だけではなく、現在も同居を継続しているのか、別居や離婚協議がないのか、夫婦関係の修復が続いているのか、相手が主張する損害との関係でどのような事情があるのかを整理します。
婚姻期間が短い・子どもがいないなど家庭への影響が小さい
相手夫婦の婚姻期間が短い場合や、未成年の子どもがいない場合も、事案によっては減額方向の事情になります。長い婚姻生活が続き、子どもを含む家庭生活が形成されていたケースでは、不倫による精神的苦痛や生活への影響が大きいと評価されやすくなります。
反対に、婚姻期間が短い、子どもがいない、夫婦の生活実体が強く形成される前だった、家庭生活への具体的影響が限定的だったといえる場合には、高額請求に対して反論しやすくなります。
ただし、婚姻期間が短くても、結婚直後の不倫、妊娠中・出産直後の不倫、同居や将来の離婚を前提にしたような交際など、相手の精神的苦痛が大きいと評価される事情があれば、必ず低額になるわけではありません。婚姻期間や子どもの有無は、それだけで結論を決めるのではなく、他の事情と合わせて評価されます。
不倫期間が短い・回数が少ない
不倫期間が短いことや、肉体関係の回数が少ないことは、典型的な減額方向の事情です。長期間にわたる継続的な不倫や、発覚後も関係を続けた不倫と比べると、一時的な関係や短期間の関係は、婚姻共同生活に与えた影響が限定的だったと主張しやすくなります。
東京地裁平成29年2月24日判決では、婚姻関係の破綻までは認められなかったものの、夫婦関係が修復困難な状況にあったことや、不貞行為が一時的であったことなどを考慮して、500万円の請求に対し慰謝料30万円が認められました。このように、支払義務が認められる場合でも、不倫の期間・回数・継続性は金額に影響し得ます。
もっとも、「1回だけだから大丈夫」と安易に考えるのは危険です。ホテルへの出入り、宿泊、親密なメッセージ、関係継続をうかがわせる証拠などがある場合、実際には複数回・継続的な関係だったと主張されることがあります。不倫期間や回数を主張する際は、証拠上どこまで認められるのかを慎重に確認する必要があります。
不倫期間や回数と慰謝料額の関係は、不倫期間・回数で慰謝料相場はどう変わるかでも詳しく整理しています。
不倫前から夫婦関係が悪化していた
不倫前から相手夫婦の関係が悪化していた場合も、慰謝料額の評価に影響することがあります。夫婦関係が円満であったところに不倫が発覚して家庭が壊れたケースと、もともと別居、離婚協議、長期間の不和などがあったケースでは、不倫が与えた影響の大きさが異なるからです。
ここで重要なのは、「夫婦関係が悪かった」という主張と、「婚姻関係が破綻していた」という主張を分けることです。婚姻関係が破綻していたと認められれば、支払義務自体に影響する可能性がありますが、裁判で認められるハードルは高く、単なる不仲や性格の不一致だけでは足りないことが多いです。
一方で、破綻までは認められないとしても、夫婦関係が希薄化していた、修復が難しい状態だった、不倫だけが離婚や別居の原因とはいえないといった事情は、慰謝料額の調整要素になり得ます。東京地裁平成30年12月4日判決でも、婚姻関係の破綻は否定されましたが、夫婦関係が希薄化しつつあった事情などが慰謝料額の判断で考慮されています。
ただし、相手の配偶者から「夫婦関係は冷めている」「離婚するつもりだ」と聞いただけでは、客観的に夫婦関係が悪化していたことの証拠としては弱いことがあります。LINE、別居状況、離婚協議の有無、夫婦間のやり取りなど、客観的に説明できる資料と結び付けて整理する必要があります。
既婚者と知らなかった・故意過失が弱い
不倫慰謝料が発生するには、相手に配偶者がいることを知っていた、又は注意すれば知ることができたといえる事情が問題になります。そのため、既婚者だと知らなかった、独身だと説明されていた、婚姻関係があることを疑う事情がなかったといえる場合には、支払義務自体を争える可能性があります。
これは厳密には「減額理由」ではなく、支払義務の有無に関わる主張です。もっとも、裁判で最後まで争えば支払義務が認められる可能性がある場合でも、既婚者だと知っていたか、どこまで確認できたか、相手の説明をどう信じたかに争いがあるときは、示談交渉で金額調整の材料になることがあります。
注意すべきなのは、「既婚者とは知らなかった」と言うだけでは足りないことです。交際相手の年齢、生活状況、休日や夜間の連絡、家族の話、SNS、同居状況、指輪、周囲の認識などから、既婚者であることを疑うべき事情があったと評価されることがあります。
既婚者と知らなかった場合の詳しい考え方は、既婚者と知らなかったのに慰謝料請求された場合で、故意・過失の基本は不貞行為についての故意・過失で整理しています。
相手から誘われた・相手主導だった
不倫関係が相手からの誘いで始まった、相手が積極的だった、自分は関係を終わらせようとしていたといった事情も、交渉上は減額材料として主張されることがあります。特に、相手配偶者から見ると、不倫した配偶者と不倫相手のどちらが主導したのかは、怒りの向きや交渉姿勢に影響することがあります。
ただし、相手から誘われたとしても、不倫関係に応じた以上、当然に責任がなくなるわけではありません。また、裁判上も、どちらが主導したかは、不倫した配偶者と不倫相手の内部的な負担割合の問題として扱われ、被害を受けた配偶者に対する慰謝料額を大きく下げる事情としては限定的に評価されることがあります。
そのため、「相手が誘った」とだけ主張するのではなく、交際開始の経緯、断りにくかった事情、関係の継続を求めたのは誰か、発覚後に関係を続けたのは誰の意思かなどを、証拠と時系列で整理することが重要です。相手を強く非難する書き方をすると、かえって交渉がこじれることがあるため、主張の出し方には注意が必要です。
W不倫・自分だけに請求されている・一部支払いがある
W不倫の場合や、不倫をした配偶者ではなく不倫相手であるあなたにだけ請求が来ている場合も、減額交渉で確認すべき事情があります。不倫慰謝料では、不倫をした配偶者と不倫相手が共同で責任を負う関係になるため、一方だけが全額を負担すべきか、既払いがあるか、二重に回収されていないかが問題になります。
たとえば、相手配偶者がすでに自分の配偶者から慰謝料や解決金を受け取っている場合、同じ精神的損害についてさらに満額を請求できるのかが問題になります。また、不倫をした配偶者には請求せず、不倫相手にだけ高額請求している場合には、求償権や最終的な負担の調整も見据えた交渉が必要です。
東京地裁平成30年12月4日判決でも、共同不法行為者の一方だけに全面的な責任を負わせることへの調整が慰謝料額の判断で触れられています。もちろん、これだけで直ちに支払義務がなくなるわけではありませんが、「自分だけが全額を負担するのは相当ではない」という主張は、事案によって重要な交渉材料になります。
浮気相手だけに請求された場合の整理は、浮気相手だけに慰謝料を請求されたときの特徴を確認してください。また、すでに支払いがある場合の考え方は、不倫慰謝料の二重取りの問題としても整理できます。
謝罪・関係解消・社会的制裁など発覚後の事情がある
不倫発覚後の対応も、交渉上の重要な事情になります。関係を解消した、相手配偶者に謝罪した、連絡を断った、職場や家庭で一定の社会的制裁を受けた、すでに生活上の不利益が生じているといった事情は、減額交渉で考慮を求めることがあります。
ただし、謝罪をすれば当然に減額されるわけではありません。謝罪のつもりで送った文章が、言い訳、責任転嫁、相手配偶者への非難、交際相手への未練と受け取られると、かえって相手の感情を悪化させることがあります。
謝罪をするかどうか、どのような文面にするかは、請求内容や証拠関係を確認してから判断する必要があります。謝罪の考え方や注意点は、不倫の謝罪はすぐするべきかで詳しく解説しています。
社会的制裁についても、職場での処分、家族への発覚、転居、退職などがあったからといって、当然に慰謝料が大幅に下がるわけではありません。もっとも、すでに重大な不利益を受けていることは、相手に対して早期解決や現実的な金額を求める材料になることがあります。
支払能力や支払条件を現実的に調整する必要がある
最後に、支払能力や支払条件も、示談交渉では重要です。裁判上の慰謝料額は、主に不倫の態様や相手夫婦への影響によって判断されるため、「お金がない」というだけで当然に慰謝料額が大きく下がるとは限りません。
しかし、示談交渉では、実際に支払えるかどうかが解決に直結します。相手にとっても、回収できない高額請求にこだわって紛争が長期化するより、現実的な金額で早期に支払いを受け、接触禁止や清算条項を含めて解決する方がメリットになる場合があります。
支払能力を理由に交渉するときは、単に「払えません」と言うのではなく、毎月支払える金額、一括で用意できる金額、支払期限、分割払いの場合の遅延時の扱いなどを具体的に示すことが重要です。無理な金額で合意すると、後に滞納して違約金や裁判のリスクが高まることがあります。
慰謝料を一括で払えない場合や、分割払いを検討したい場合は、不倫慰謝料が払えないときの対処法も確認しておくとよいでしょう。
以上の減額理由は、単独で使うよりも、複数の事情を組み合わせて整理する方が有効です。たとえば、「相手夫婦は離婚していない」「不倫期間は短い」「発覚後は関係を解消して謝罪している」「一括払いなら一定額をすぐに用意できる」といった形で、相手が受け入れやすい落とし所を作ることが減額交渉では重要になります。
一方で、支払義務に争いがある事情や、長期・継続的な不倫など減額が難しい事情は、通常の減額理由とは分けて考える必要があります。次に、支払義務を争う場合の整理と、減額が難しいケースを確認します。
支払義務に争いがある場合は「減額」と分けて考える
不倫慰謝料を請求されたときは、「いくら減額できるか」だけでなく、「そもそも支払義務を争える事情があるか」も確認する必要があります。もっとも、支払義務を争う話は、通常の減額理由とは性質が違います。
たとえば、肉体関係がない、既婚者だと知らなかった、相手夫婦の婚姻関係が既に破綻していた、時効が完成しているといった事情は、認められれば支払義務そのものに影響します。一方で、これらの主張は証拠や具体的事情が重要であり、簡単に認められるとは限りません。
そのため、この部分では「支払わなくてよいケース」を詳しく掘り下げるのではなく、支払義務に争いがあることを、減額交渉でどのように位置づけるかを整理します。
支払義務を争う主張は減額よりハードルが高い
減額交渉は、不倫慰謝料の支払義務があることを前提に、相場や個別事情から金額を下げる交渉です。これに対し、支払義務を争う主張は、「不法行為が成立しない」「請求できる期間を過ぎている」など、請求の前提そのものを争うものです。
支払義務を争う場合には、次のような点で通常の減額交渉よりも慎重な検討が必要です。
- 証拠が重要になる:単に「聞いていない」「夫婦仲が悪いと聞いた」と述べるだけでは不十分になりやすいです。
- 相手の反発が強くなりやすい:全面的に否定する内容になるため、言い方によっては交渉が感情的にこじれることがあります。
- 裁判での判断と示談交渉の判断は同じではない:裁判では支払義務が認められる可能性があっても、争点があること自体が示談上の調整材料になることがあります。
- 主張を出す順番が大切になる:最初から強い言葉で全面否認するより、事実関係と証拠を整理したうえで、どこまで争うかを決める方が安全です。
不倫慰謝料を支払わない方向で検討すべき事情がある場合は、不倫慰謝料を払わない方法や、不倫慰謝料を回避できるケースもあわせて確認すると、減額交渉との違いを整理しやすくなります。
肉体関係なし・既婚者不知・破綻・時効は支払義務に関わる
支払義務に関わる代表的な争点は、肉体関係の有無、既婚者だと知っていたかどうか、相手夫婦の婚姻関係が破綻していたか、時効が完成しているかです。これらは、慰謝料額を少し下げる事情というより、請求が成り立つかどうかに関わる事情です。
たとえば、最高裁平成8年3月26日判決は、夫婦の婚姻関係がその当時すでに破綻していた場合には、特段の事情がない限り、第三者は不法行為責任を負わないという考え方を示しています。また、東京地裁平成23年6月30日判決でも、長期間の別居が続いていた事情などから、婚姻関係の破綻が認められ、請求が棄却されています。
もっとも、婚姻関係の破綻は簡単には認められません。夫婦仲が悪かった、別居を切り出していた、離婚したいと言っていた、というだけで当然に破綻になるわけではありません。東京地裁平成29年6月30日判決では、一方的な離婚申入れからわずか10日程度では、婚姻関係が客観的に完全に破綻したとはいえないと判断されています。
既婚者と知らなかったという主張についても同じです。相手から「独身」と聞いていた、又は「離婚している」と聞いていたとしても、交際状況、SNS、同居家族、勤務先、会える時間帯、相手の説明の不自然さなどから、既婚者であることを知り得たと評価されることがあります。詳しい判断要素は、既婚者と知らなかったのに慰謝料請求された場合で整理しています。
時効についても、完成していれば支払義務を争う重要な材料になりますが、いつから期間を数えるか、途中で請求や交渉があったかなどによって判断が変わります。時効が問題になる場合は、不倫慰謝料の時効を確認し、安易に「時効だから払わない」と断定しないことが大切です。
支払義務を争える可能性がある事情と、裁判で実際に支払義務が否定されることは同じではありません。証拠が弱いまま強く主張すると、かえって交渉が難しくなることがあります。
裁判で最後まで争うかは別として、争点があること自体が交渉材料になる
支払義務に争いがある場合でも、必ず裁判で最後まで争うべきとは限りません。裁判では支払義務が認められる可能性が残っていても、相手側にも立証の負担、時間、費用、精神的負担があります。そのため、示談交渉では、争点があること自体が金額調整の材料になることがあります。
たとえば、「婚姻関係が完全に破綻していた」とまではいえなくても、不倫前から夫婦関係が相当悪化していたことを示す資料がある場合、慰謝料額の評価には影響する可能性があります。また、「既婚者と知らなかった」とまでは認められなくても、相手の説明が不十分で、あなたの故意・過失が強いとはいえない事情があれば、交渉上は減額材料として使えることがあります。
このような場面では、主張を次のように整理すると交渉に使いやすくなります。
- 支払義務を強く争う事情:肉体関係がない、長期別居がある、既婚者と知り得ない事情が明確、時効完成の可能性が高いなど。
- 支払義務は残るが金額に影響する事情:夫婦関係の悪化、不倫期間の短さ、相手主導、発覚後の関係解消、謝罪など。
- 示談条件で調整する事情:早期支払い、分割払い、求償権放棄、接触禁止、清算条項など。
支払義務を争う余地があるケースを減額交渉に使う場合は、「払う義務は一切ない」と断定するのではなく、「この点には争いがあり、裁判になれば双方に負担が生じるため、早期解決のために現実的な金額で合意したい」という形に整理する方が、落とし所を作りやすいことがあります。
詳しい判断は支払拒否・破綻・時効のページで確認する
このページの中心は、不倫慰謝料をどのように減額するかです。そのため、支払義務を争えるケースの詳しい要件までは深掘りしません。支払義務自体を争う可能性がある場合は、通常の減額交渉とは別に、争点ごとの判断基準を確認する必要があります。
婚姻関係の破綻が問題になる場合は、婚姻関係が破綻していた場合の不倫慰謝料を確認してください。支払義務がない典型例を横断的に確認したい場合は、不倫慰謝料を請求できない・支払わなくてよい典型例も参考になります。
重要なのは、支払義務を争う主張を「減額交渉の邪魔」にしないことです。全面的に争うのか、一定の支払いを前提に減額を求めるのか、示談条件で調整するのかを早い段階で整理しておくと、相手への回答書や交渉方針がぶれにくくなります。
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減額が難しい・不利になりやすいケース
不倫慰謝料は、事情によって減額できる可能性がありますが、どのようなケースでも大幅に下がるわけではありません。むしろ、事案によっては相手の請求に一定の合理性があり、強引な減額主張をすると交渉が悪化することもあります。
減額が難しいケースでは、「大幅に下げる」ことだけを目的にするのではなく、支払時期、分割払い、求償権、接触禁止、清算条項などを含めて、現実的な解決条件を作る発想が重要です。
長期・多数回・同居・発覚後継続は重く見られやすい
不倫期間が長い、回数が多い、発覚後も関係を続けた、相手配偶者に発覚した後も同居した、といった事情がある場合は、慰謝料額が重く見られやすくなります。相手から見ると、単なる一時的な過ちではなく、婚姻生活を継続的に侵害されたと受け止められやすいからです。
東京地裁令和5年1月13日判決は、配偶者のいる相手と同居した行為について、婚姻共同生活と両立しにくい強い権利侵害として評価し、慰謝料と弁護士費用を認めています。同居や生活実態を伴う関係は、肉体関係の回数だけでは説明できない重さを持つことがあります。
東京地裁平成31年1月11日判決でも、別居後に同棲生活が続いた事情などが重く評価され、慰謝料が認められています。また、同じ日に出された別の東京地裁平成29年6月30日判決では、継続的な不貞行為や原告自宅での不貞行為などが慰謝料額の判断で考慮されています。
このような事情がある場合、「相場より高いから下げてほしい」とだけ主張しても説得力が弱くなります。関係を解消した時期、発覚後の対応、謝罪の有無、今後接触しないこと、支払条件などを組み合わせ、相手が受け入れやすい提案にする必要があります。
不倫が離婚・別居に直結している場合
不倫が原因で相手夫婦が離婚した、又は別居に至った場合は、離婚していないケースよりも慰謝料額が高く評価されやすくなります。相手配偶者にとって、婚姻生活の平和が損なわれただけでなく、生活関係そのものが大きく変わったと評価されるためです。
ただし、「離婚した」という結果があるからといって、請求額がすべて認められるわけではありません。離婚や別居に至った経緯、不倫前から夫婦関係に問題があったか、不倫がどの程度影響したか、婚姻期間や子どもの有無などを総合して判断されます。
相手夫婦の離婚・別居が不倫だけを原因とするものではないと考えられる場合は、時系列の整理が重要です。いつ夫婦関係が悪化したのか、離婚協議や別居の話がいつ出ていたのか、不倫発覚前から別の原因があったのかを、感情論ではなく資料に基づいて説明する必要があります。
長期の交際や離婚に近い事情があるケースでも、事情整理によって解決に至ることはあります。たとえば、長期不倫でも慰謝料減額となった解決事例のように、事案の不利な点を踏まえたうえで、現実的な落とし所を作ることが重要になります。
虚偽説明・挑発・無視で交渉を悪化させた場合
請求後の対応によって、減額しにくくなることもあります。事実と違う説明をする、証拠があるのに全面否認する、相手を挑発する、相手配偶者や相手弁護士からの連絡を無視する、といった対応は、交渉上かなり不利になりやすいです。
特に避けたい対応は、次のようなものです。
- 請求書や内容証明を放置する
- その場で高額な示談書にサインする
- 証拠があるのに事実を全部否認する
- 相手を責めるLINEやメールを送る
- 職場や家族を巻き込む発言をする
- 発覚後も関係を続ける
不倫慰謝料を請求された直後にやってはいけない対応は、不倫慰謝料を請求されたときのNG行動でも詳しく整理しています。減額交渉では、正しい反論をすることと同じくらい、余計な不利事情を増やさないことが大切です。
すでに不利な対応をしてしまった場合でも、すぐに交渉を諦める必要はありません。事実と違う説明を訂正する、謝罪の意向を示す、今後の接触を断つ、支払条件を具体的に提案するなど、交渉を立て直す方法を検討します。
大幅減額ではなく現実的な落とし所を作る発想が必要な場合
減額が難しい事情がある場合は、「できるだけ少なく払う」という発想だけでは交渉が進まないことがあります。相手が重視しているのが、金額だけではなく、関係を断つこと、再発を防ぐこと、家族にこれ以上影響を出さないこと、紛争を蒸し返さないことにある場合も多いからです。
そのため、不利な事情があるケースでは、次のような条件を組み合わせて交渉することが考えられます。
- 一括払い又は早期支払い:金額を一定程度下げる代わりに、早く確実に支払う提案です。
- 分割払いの具体化:毎月の支払額、支払日、遅れた場合の扱いを明確にして、履行可能な内容にします。
- 接触禁止・連絡禁止:相手が再接触を強く不安視している場合、金額以外の安心材料になります。
- 清算条項:合意後に追加請求をしないことを確認し、紛争を終わらせます。
- 求償権の扱い:自分だけに請求されている場合、求償権を放棄するかどうかが金額調整に関わることがあります。
減額が難しいケースほど、金額だけを正面から争うより、支払方法や示談条件まで含めて提案する方が解決に近づくことがあります。次に、不倫慰謝料の減額交渉をどのような手順で進めるべきかを整理します。
不倫慰謝料の減額交渉の流れ
減額理由を整理できたら、次はそれを相手にどう伝え、どの条件で合意するかを考えます。不倫慰謝料の減額交渉は、単に「高すぎるので下げてください」とお願いするだけでは進みにくいです。請求内容、証拠、事実関係、支払条件を順番に確認し、相手が受け入れやすい落とし所を示すことが重要です。
交渉の流れは、次の順番で考えると整理しやすくなります。
- 請求内容と証拠を確認する
- 時系列・減額理由・反論材料を整理する
- 回答書・返信文で主張を伝える
- 金額だけでなく支払方法・期限も調整する
- 求償権放棄などの示談条件を検討する
- 合意できたら示談書を作成する
以下では、請求を受けた側が実際に交渉を進める場面を想定して、各段階で確認すべき点を整理します。
請求内容と証拠を確認する
最初に確認すべきなのは、相手が「何を理由に」「いくら」「いつまでに」支払えと言っているのかです。請求額だけを見るのではなく、請求者がどの事実を前提にしているか、どの証拠を持っているか、慰謝料以外の費用や条件が含まれているかを分けて見ます。
特に、内容証明や弁護士名義の通知書では、請求額が大きく書かれていても、その金額が直ちに裁判で認められるとは限りません。一方で、通知書に期限が書かれている場合や、訴状が届いている場合は、放置すると交渉や裁判対応で不利になることがあります。
請求内容を確認するときは、少なくとも次の点を分けて整理します。
- 請求している人:不倫された配偶者本人なのか、弁護士なのか、代理人ではない第三者なのかを確認します。
- 請求額の内訳:慰謝料だけなのか、調査費用、弁護士費用、遅延損害金、違約金などが含まれているのかを確認します。
- 不倫の特定:いつ、どこで、どのような関係があったと主張されているのかを確認します。
- 証拠の有無:写真、LINE、ホテルの出入り、探偵報告書、録音、メールなど、相手が持っていそうな証拠を整理します。
- 支払期限・回答期限:いつまでに回答すべきか、裁判上の期限なのか任意交渉の期限なのかを確認します。
- 金銭以外の要求:接触禁止、退職、謝罪文、口外禁止、求償権放棄などが含まれていないかを確認します。
この段階で大切なのは、事実関係を確認しないまま不用意に全面的な謝罪や支払約束をしないことです。謝罪自体が必要な場面はありますが、金額や事実の範囲を確認しないまま「すべて認めます」「言われた金額を払います」と返信すると、その後の減額交渉が難しくなることがあります。
時系列・減額理由・反論材料を整理する
請求内容を確認したら、次に時系列を作ります。減額交渉では、「自分に有利な事情がある」と抽象的に伝えるより、いつ何があったのかを時系列で整理し、証拠と結び付けて説明する方が説得力を持ちます。
たとえば、次のような事実を整理します。
- 出会いから交際開始まで:いつ知り合い、どのような経緯で連絡や交際が始まったのか。
- 既婚者だと知った時期:最初から知っていたのか、途中で知ったのか、相手からどのように説明されていたのか。
- 肉体関係の有無・期間・回数:不貞行為の有無、期間、頻度、最後に会った時期を整理します。
- 相手夫婦の状況:離婚・別居の有無、夫婦関係の悪化、修復の状況、子どもの有無などを確認します。
- 発覚後の対応:関係解消、謝罪、連絡遮断、相手への配慮、再接触の有無を整理します。
- 金銭面の事情:既払いの有無、一括で用意できる金額、分割払いの可否、収入や生活状況を整理します。
時系列は、相手にそのまま提出するためだけでなく、弁護士に相談する際にも役立ちます。特に、既婚者だと知らなかった、夫婦関係が破綻していたと聞いていた、相手から強く誘われた、発覚後すぐ関係を解消したといった事情は、証拠や前後の経緯が重要です。
もっとも、相手夫婦の悪口や相手配偶者への非難を中心に書くと、かえって交渉がこじれることがあります。減額交渉では、相手を責める文章ではなく、請求額を見直すべき事情を冷静に整理することが大切です。
回答書・返信文で主張を伝える
減額交渉では、電話や口頭だけでやり取りするより、回答書やメールなど、後で内容を確認できる形で主張を伝える方が安全です。特に相手に弁護士が付いている場合は、感情的な電話をするより、事実関係、減額理由、提案額を整理した回答を送る方が、交渉の土台を作りやすくなります。
回答書に入れる内容は、長ければよいわけではありません。必要なのは、相手の請求に対してどこを認め、どこを争い、どの金額・条件で解決したいのかが分かることです。
- 請求書を受け取ったこと
- 認める事実と争う事実
- 請求額が高すぎる理由
- 減額を求める具体的な事情
- 支払可能額又は提案額
- 今後の連絡方法
たとえば、「不貞関係があったこと自体は認めるが、相手夫婦は離婚しておらず、不倫期間も短く、発覚後は関係を解消しているため、請求額は高額にすぎる」といった形で、事実と金額の主張を分けて書きます。支払義務自体に争いがある場合は、その主張が強すぎると相手の反発を招くこともあるため、どこまで書くかを慎重に判断します。
回答書の書き方や返信文の組み立て方は、不倫慰謝料の減額交渉における回答書・返信文の例文で詳しく整理しています。相手が「減額には応じない」と明言している場合でも、事実関係や証拠、裁判になった場合の見通しによっては、再交渉や和解の余地が残ることがあります。そのような場合は、不倫慰謝料の減額交渉に応じないと言われた場合の対応も確認しておくとよいでしょう。
金額だけでなく支払方法・期限も調整する
減額交渉では、最終的な支払額だけでなく、支払方法や支払期限も重要です。相手にとっては、裁判で長く争うより、一定額を早く確実に回収できる方がメリットになることがあります。そのため、「一括ならこの金額まで」「分割なら月額いくらまで」といった形で、現実的な提案をすることが交渉材料になります。
支払条件を提案するときは、単に「払えません」と言うのではなく、なぜその金額・方法でなければ履行できないのかを説明します。収入、生活費、扶養家族、借入、貯蓄状況などをすべて相手に開示する必要はありませんが、支払能力とかけ離れた合意をすると、後で滞納や再交渉が必要になり、結果的に紛争が長引くおそれがあります。
分割払いを提案する場合は、毎月の支払額、支払日、振込先、振込手数料、遅れた場合の扱いを示します。一括払いを提案する場合は、支払日を明確にして、「早期に支払う代わりに総額を下げる」という提案にすることがあります。慰謝料をすぐに用意できない場合は、不倫慰謝料が払えないときの対処法も参考になります。
求償権放棄を条件に減額を求めることがある
不倫慰謝料の減額交渉では、求償権放棄が重要な交渉材料になることがあります。求償権とは、簡単にいえば、あなたが請求者に慰謝料を支払った後、不倫の相手方である請求者の配偶者にも、本来負担すべき分の支払いを求めることが問題になる権利です。
たとえば、不倫された配偶者が、配偶者本人には請求せず、あなたにだけ慰謝料を請求しているケースがあります。この場合、あなたが慰謝料を支払った後で請求者の配偶者に求償すると、請求者側の家庭内で負担が戻ったり、紛争が再燃したりすることがあります。特に相手夫婦が離婚しない場合、請求者側にとっては、求償されないこと自体がメリットになることがあります。
そのため、実務上は「求償権を放棄する代わりに、慰謝料額を下げてほしい」と提案することがあります。これは、裁判所が慰謝料額を算定するときの典型的な減額要素というより、示談交渉で総額と条件を調整するための交換条件です。
ただし、求償権を放棄すれば必ず減額できるわけではありません。また、いったん放棄すると、後から請求者の配偶者に負担を求めることが難しくなります。放棄する範囲、放棄する相手、減額幅、支払方法とのバランスを慎重に確認する必要があります。求償権の基本は不倫慰謝料の求償権で、示談書に入れる場合の注意点は求償権放棄の示談書条項で詳しく解説しています。
合意できたら示談書を作成する
交渉で金額や条件がまとまったら、必ず示談書を作成します。口頭合意やLINEだけで終わらせると、「その金額で終わったのか」「追加請求しない合意だったのか」「接触禁止や口外禁止の範囲はどこまでか」が後で争われることがあります。
示談書は、減額できた金額を記録するだけの書面ではありません。慰謝料を支払う代わりに、どの紛争を終了させ、今後どのような請求や連絡をしないのかを明確にする書面です。特に、清算条項、求償権放棄、接触禁止、口外禁止、違約金条項は、金額以上に後のトラブルへ影響することがあります。
示談書の全体像やひな形は、不倫示談書・合意書のテンプレートで詳しく確認できます。以下では、減額交渉後の示談書で特に確認すべき条項を整理します。
示談書で確認すべき条項|減額できても条項で失敗しない
慰謝料を減額できても、示談書の条項を確認しないまま署名すると、後で大きな不利益を受けることがあります。たとえば、追加請求を禁止する条項がない、求償権放棄の範囲が広すぎる、接触禁止の範囲が不明確、違約金が重すぎるといった場合です。
示談書では、少なくとも次の条項を確認します。
- 金額・支払期限・分割払い
- 清算条項・追加請求の禁止
- 求償権放棄・求償権留保
- 接触禁止・口外禁止・SNS投稿禁止
- 違約金条項
それぞれの条項は、金額交渉と切り離して考えるのではなく、全体のバランスで確認する必要があります。
金額・支払期限・分割払い
まず、支払う慰謝料の総額、支払期限、支払方法を明確にします。分割払いの場合は、毎月の支払額、支払日、初回支払日、振込先、振込手数料の負担、遅れた場合の扱いまで確認します。
特に注意すべきなのは、分割払いで支払いが遅れた場合に、残額を一括で支払う義務が発生する条項です。このような条項自体は示談書でよく見られますが、収入状況から見て履行が難しい支払計画になっていると、結局、滞納によって紛争が再燃するおそれがあります。
一括払いの場合も、支払期限を曖昧にせず、「いつまでに、どの口座へ、いくら支払うのか」を特定します。相手に領収書を出してもらうのか、振込記録をもって支払証明にするのかも確認しておくと安心です。
清算条項・追加請求の禁止
減額交渉で重要なのは、「支払ったら本当に終わるのか」です。示談書に清算条項がないと、後から「別の損害がある」「調査費用を追加で払ってほしい」「やはり精神的苦痛が大きい」といった追加請求を受ける余地が残ることがあります。
清算条項では、今回の不倫慰謝料に関して、示談書に定めるもののほかに債権債務がないことを確認します。もっとも、条項の範囲が広すぎると、想定していない権利まで消えてしまうことがあります。逆に、範囲が狭すぎると、合意後の紛争終了として不十分になることがあります。
清算条項は、減額の見返りとして「これで終わりにする」ための中心的な条項です。金額だけでなく、清算される対象、当事者、期間、請求の種類を確認しておきましょう。
求償権放棄・求償権留保
求償権を放棄する場合は、示談書にその内容を明確に書く必要があります。単に「本件について一切請求しない」と書かれているだけでは、誰に対する、どの範囲の求償権を放棄したのかが分かりにくい場合があります。
請求を受けた側から見ると、求償権放棄は大きな譲歩です。そのため、放棄を求められるなら、その分だけ慰謝料額を下げる、分割条件を緩やかにする、接触禁止や口外禁止の範囲を合理的にするなど、全体の条件調整を検討すべきです。
反対に、求償権を放棄しない場合は、示談書に求償権を留保する趣旨を明確にすることがあります。ただし、求償権を残すと、請求者側が減額に応じにくくなることもあります。相手夫婦が離婚するのか、離婚しないのか、自分だけに請求されているのかによって、交渉上の意味が変わります。
接触禁止・口外禁止・SNS投稿禁止
不倫慰謝料の示談書では、金銭以外に、今後の接触禁止や口外禁止が問題になることがあります。請求者からすると、再び連絡を取られることや、不倫の事実が周囲に広がることを強く不安視している場合があるためです。
接触禁止条項では、誰に対して、どのような連絡を禁止するのかを明確にします。電話、メール、LINE、SNS、勤務先への連絡、第三者を通じた連絡など、禁止される行為の範囲が広すぎると、偶然の接触や業務上やむを得ない連絡まで違反とされるおそれがあります。
口外禁止条項では、誰に話してはいけないのか、弁護士や家族への相談は例外として認めるのか、SNS投稿や掲示板投稿を禁止するのかを確認します。職場や家族に知られたくない場合、口外禁止やSNS投稿禁止は重要ですが、条項が曖昧だと、後で違反の有無をめぐって争いになることがあります。
違約金条項を入れる場合の注意
接触禁止や口外禁止に違反した場合に、違約金を支払う条項が入ることがあります。違約金条項は、再発防止や約束の実効性を高める意味がありますが、金額や発生条件が不明確なまま合意すると、後で大きなトラブルになります。
たとえば、「一切接触しない」とだけ書かれ、何が接触に当たるのか不明確なまま、高額な違約金が設定されている場合は危険です。また、相手から連絡が来た場合に返信してよいのか、偶然会った場合に挨拶をしただけで違約金が発生するのかなど、実際の場面を想定して確認する必要があります。
示談書の条項が不明確な場合や、不利な条項を強く求められている場合は、署名前に見直すことが重要です。不倫の示談書が後で問題になる場面については、不倫の示談書が無効になる場合でも整理しています。
示談交渉でまとまれば、裁判を避けて早期解決できる可能性があります。一方で、交渉がまとまらない場合や、すでに訴状が届いている場合は、裁判上の和解や判決を見据えて対応する必要があります。裁判上の和解条項の注意点は、裁判上の和解条項で失敗しないためのポイントでも確認できます。
次に、裁判になった場合でも慰謝料減額の余地があるのか、どのような点が裁判で見られるのかを整理します。
裁判になっても不倫慰謝料は減額できる?
示談交渉で折り合いがつかない場合や、すでに訴状が届いている場合でも、慰謝料を減額できる余地がなくなるわけではありません。裁判では、相手が請求した金額そのものではなく、証拠により認められる事実と、婚姻期間、不倫期間、夫婦関係、離婚・別居の有無、発覚後の対応などを総合して金額が判断されます。
もっとも、裁判になった場合は、期限内の答弁、証拠整理、主張の組み立てが重要になります。無視したり、感情的な反論だけを提出したりすると、かえって不利になるおそれがあります。
裁判では請求額ではなく証拠と事情で判断される
不倫慰謝料の裁判では、請求額が高額でも、そのまま認められるとは限りません。裁判所は、請求する側の主張だけでなく、請求された側の反論、提出された証拠、夫婦関係や不倫の経緯を踏まえて金額を判断します。
- 東京地裁平成29年2月24日判決では、500万円の請求に対して30万円が認められました。婚姻関係の破綻までは認められないものの、別居後の事情や不貞行為が一時的であったことなどが考慮されています。
- 東京地裁平成30年12月4日判決では、500万円の請求に対して180万円が認められました。夫婦関係の希薄化、不貞関係の継続、謝罪の有無、一方当事者だけに全面的な責任を負わせることへの調整など、複数の事情が検討されています。
- 東京地裁令和5年1月13日判決では、330万円の請求に対して198万円が認められました。配偶者のいる相手との同居は重く評価される一方で、婚姻関係の段階的な悪化なども考慮されています。
- 東京地裁平成31年1月11日判決では、慰謝料500万円と調査費用100万円の請求に対して220万円が認められました。長期の同棲など不利な事情がある一方で、調査費用そのものは当然に全額認められるわけではありません。
これらの裁判例から分かるのは、裁判になっても、請求額、相場、証拠、個別事情を分けて検討する必要があるという点です。ただし、裁判例の金額は、その事案の具体的事情に基づく判断であり、同じ金額になるという意味ではありません。
不倫慰謝料裁判の全体像を確認したい場合は、不倫裁判の全体像も参考になります。
裁判中でも和解で終わることがある
裁判というと、最後まで判決を受けるイメージを持つ方もいます。しかし、不倫慰謝料の裁判では、途中で和解協議が行われ、金額、支払方法、接触禁止、清算条項などを定めて終わることがあります。
和解では、判決で認められる可能性のある金額だけでなく、早期解決、分割払い、追加請求をしないこと、今後の接触を避けることなど、双方の実務的な事情が考慮されます。そのため、裁判になった後も、減額理由や示談条件を整理しておく意味があります。
裁判上の和解で迷う場合は、不貞裁判の和解で迷ったときの考え方を確認しておくと、判決まで進めるか、和解で終えるかを検討しやすくなります。
答弁書・主張立証で整理すべき争点
訴状が届いた場合は、期限内に答弁書を提出する必要があります。単に「高すぎる」「払えない」と書くだけでは、裁判上の反論として不十分になりやすいです。どの事実を認め、どの事実を争い、どの事情を慰謝料額に反映してほしいのかを整理する必要があります。
主に整理すべき争点は、次のとおりです。
- 肉体関係や交際期間について争いがあるか
- 既婚者だと知っていたか、知るべきだったか
- 不倫前の夫婦関係や別居の有無
- 離婚・別居・子どもへの影響
- 不倫期間、回数、悪質性、発覚後の対応
- 既払い金、一部弁済、求償権の問題
- 調査費用、弁護士費用、遅延損害金の扱い
訴状が届いた直後の対応については、不倫慰謝料の訴状が届いた直後のToDoで詳しく整理しています。答弁書の期限を過ぎると不利になるおそれがあるため、通常の請求書や内容証明よりも慎重な対応が必要です。
裁判になると家族・職場に知られる不安への注意
裁判になった場合、訴状や裁判所からの書類が自宅に届くことがあります。また、事件の内容によっては、証拠整理や尋問の準備が必要になることもあります。そのため、家族や職場に知られたくない方は、裁判に移る前の段階から、連絡先、送達先、書類管理、相手とのやり取りの方法を確認しておくことが大切です。
秘密に解決したい場合でも、相手に対して虚偽の説明をしたり、強引に連絡を止めさせたりすると、かえって紛争が拡大することがあります。家族や職場に知られるリスクを抑えたい場合は、家族・職場に秘密で解決するためのポイントも確認し、現実的な対応を検討しましょう。
弁護士に相談した方がよいケース・費用の考え方
不倫慰謝料の減額交渉は、自分で進められる場合もあります。しかし、相手に弁護士が付いている場合、請求額が高額な場合、訴状が届いている場合、支払義務や求償権などの争点が複雑な場合は、自分だけで対応すると不利な合意をしてしまうことがあります。
弁護士に相談するかどうかは、「不安だから何となく」ではなく、争点の複雑さ、期限の有無、減額余地、費用とのバランスで判断すると整理しやすいです。
相手に弁護士が付いている場合
相手方に弁護士が付いている場合、請求書や回答期限、示談書案は、法律上の主張や交渉戦略を前提に作られていることが多いです。こちらが感情的に返信したり、十分に確認しないまま示談書に署名したりすると、後から修正しにくくなります。
相手弁護士から通知が届いた場合は、請求額、証拠、回答期限、示談書案の条項を確認し、自分の主張をどこまで出すべきかを検討します。支払義務を争う余地がある場合も、減額交渉にとどめるべき場合もあるため、見通しを立ててから回答することが重要です。
請求額が高い・支払期限が近い場合
300万円、500万円などの高額請求を受けた場合、相場より高いかどうか、離婚の有無、婚姻期間、不倫期間・回数、証拠の強さを整理する必要があります。支払期限が短く設定されていても、内容を確認しないまま合意する必要はありません。
ただし、期限を完全に無視すると、相手が訴訟準備に進む可能性があります。期限までに十分な回答ができない場合でも、確認中であること、必要資料を確認したいこと、回答時期の見込みなどを冷静に伝える方がよい場合があります。
支払義務や求償権など争点が複雑な場合
肉体関係がない、既婚者だと知らなかった、婚姻関係が破綻していた、時効が問題になるなど、支払義務そのものに関わる事情がある場合は、主張の出し方を慎重に決める必要があります。強く争うほど相手の反発も強くなりやすいため、裁判で争うのか、交渉材料として使うのかを分けて考えます。
また、自分だけに慰謝料請求されている場合、後から不倫をした配偶者に求償するか、求償権を放棄して金額を下げるかも重要な判断です。求償権の基本は、不倫慰謝料の求償権とはで、求償権放棄条項の注意点は、求償権の放棄は示談書で有効かで詳しく整理しています。
解決事例から見る減額交渉のポイント
実際の減額交渉では、裁判上の相場だけでなく、相手夫婦が離婚しているか、裁判を避けたいか、求償権放棄を受け入れるか、早期解決を優先するかといった事情を組み合わせて落とし所を作ります。
たとえば、長期不倫の事案でも、相手夫婦が離婚していないこと、求償権放棄を条件にすること、裁判になった場合の見通しを示すことなどにより、請求額から大きく減額して解決した事例があります。長期不倫の解決例については、長期不倫でも慰謝料減額に至った解決事例も参考になります。
ただし、解決事例はあくまで具体的な事案に基づくものです。同じ期間・同じ請求額であっても、証拠、発覚後の対応、夫婦関係、相手の希望によって結果は変わります。事例をそのまま当てはめるのではなく、自分の事情では何を交渉材料にできるかを整理することが大切です。
費用倒れを防ぐために確認すべきこと
弁護士に依頼する場合は、減額できる見込みだけでなく、弁護士費用とのバランスも確認しましょう。請求額が低い場合や、争点が少ない場合は、相談だけで方針を整理し、自分で回答する方が合理的なこともあります。
一方で、請求額が高額、相手に弁護士が付いている、訴状が届いている、示談書案に求償権放棄や違約金条項が入っているといった場合は、費用をかけても不利な合意を避ける意味が大きくなります。費用の見方は、不貞行為した側の弁護士費用ガイドや不倫弁護士費用で確認できます。
慰謝料減額に強い弁護士へ相談すべきか迷う場合は、慰謝料請求された側に強い弁護士へ相談のページで、相談・依頼判断のポイントを確認できます。まず無料相談で何を聞けるかを知りたい場合は、慰謝料を請求された人の無料相談も参考になります。
よくある質問
慰謝料減額交渉はどれくらいの期間がかかりますか?
相手の対応、証拠の有無、請求額、示談条件によって異なります。相手が交渉に応じ、事実関係に大きな争いがなければ比較的早くまとまることもあります。一方で、支払義務、求償権、接触禁止、違約金などの条項で対立すると長期化することがあります。
お金がない場合は分割払いにできますか?
分割払いにできるかは、相手が同意するかによります。裁判所や相手が当然に分割を認めてくれるわけではありません。ただ、毎月支払える金額、支払日、遅れた場合の扱いを具体的に提案すれば、分割払いで合意できることもあります。詳しくは、不倫慰謝料が払えないときの対処法も確認してください。
既婚者と知らなかった場合はゼロになりますか?
既婚者と知らなかったことが認められれば、支払義務に影響する可能性があります。ただし、「知らなかった」と言うだけでは足りず、既婚者だと気づけなかったことについて過失がないかも問題になります。相手の説明、SNS、勤務先、会う時間帯、生活状況などから判断されるため、慎重な整理が必要です。
相手が減額に応じない場合はどうすればよいですか?
すぐに諦める必要はありません。相手が金額にこだわっているのか、謝罪や接触禁止を重視しているのか、求償権放棄や早期解決を求めているのかを確認し、提案内容を組み替える余地があります。相手が一切応じない場合の対応は、不倫慰謝料の減額交渉に応じないと言われた場合でも整理しています。
求償権を放棄すれば必ず減額できますか?
必ず減額できるわけではありません。求償権放棄は、相手夫婦が離婚していない場合や、自分だけに請求されている場合に、示談交渉上の材料になり得るものです。もっとも、相手が求償権放棄を重視していない場合や、不倫の態様が悪質な場合は、大きな減額につながらないこともあります。
裁判になったら家族や職場に知られますか?
裁判所からの書類が自宅に届く、証拠整理の過程で家族に知られる、相手が周囲に話すなどのリスクはあります。ただし、代理人弁護士を窓口にする、送達先や連絡方法を整理する、相手との接触を避けるなど、リスクを下げる工夫はあります。完全に秘密を保証できるわけではないため、早めに現実的な対応を確認することが重要です。
まとめ|減額のための行動チェック
不倫慰謝料の減額を考えるときは、相手の請求額に驚いてすぐに支払うのではなく、相場、証拠、減額理由、支払義務の争点、示談条件を順番に確認することが重要です。
最後に、この記事の要点を整理します。
- 請求額は確定額ではなく、事情によって減額できる可能性があります。
- 無視・即サイン・感情的な返信は、減額交渉を難しくすることがあります。
- 減額理由は、相場、夫婦関係、不倫期間、証拠、支払条件に分けて整理します。
- 支払義務に争いがある場合は、詳説しすぎず交渉材料として慎重に使います。
- 示談書では、金額だけでなく清算条項、求償権、接触禁止、違約金を確認します。
減額交渉では、「いくらなら払えるか」だけでなく、「なぜその金額が妥当なのか」「相手にとっても早期解決するメリットがあるのか」を説明できる形にすることが大切です。請求額が高額な場合、相手に弁護士が付いている場合、訴状が届いた場合、求償権放棄や違約金条項が問題になる場合は、早めに対応方針を整理しましょう。
坂尾陽弁護士
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